EPA(関税等の障壁をなくすこと)を使用すると、外国の商品を輸入するときにかかる税金(関税)が不要になります。もし、貴社が輸出者であって、EPA制度を利用して外国へ商品を届けるときは、輸出先の相手が税関に対して関税を支払う必要がなくなることになります。ここで一つの問題があります。
今、申し上げた通りEPAの恩恵は、輸入時における関税を支払う必要がなくなることです。そのため、貴社が輸出者である場合は、EPAの恩恵を直接受けることができません。このような場合、輸出者と輸入者は、どのようにEPAによる恩恵を分かち合えばいいのでしょうか。この記事では、EPA制度よる受益者とその恩恵を分かち合う方法について説明をします。
EPAの手続きをする方と、メリットを受け取る側の違い
この記事では、貴社が輸出者としての立場であり、EPA制度を活用して外国へ商品を輸出することを想定しています。
EPAの手続きは、複雑な仕組みの理解や関係省庁への書類の提出などにより、意外に多くの手間がかかります。しかし、手間をかけたとしても、実際にメリットを受けることができるのは「輸入者」側になります。つまり、複雑な手続きを行う人と、受益者が異なることになります。
普通に考えると「汗をかいた人が恩恵を受ける」のが当然です。しかし、EPAではあくまで輸入者側が関税撤廃のメリットを受けるのです。この事実を踏まえると、輸出者としてEPAを活用しなくても良いのではないかと考えてしまいがちです。しかし、これは少し短絡的に考え方であり、各部門ごとのメリットしか見ていない「小さな視点」であります。
例えば、貴社が輸出も輸入も同じ相手から行っているとすれば「お互いさま」となります。この場合、特に何か別のことを考える必要はありません。お互いの貿易においてメリットが受けられるように協力し合うだけとなります。しかし、中には一方向(輸出するだけ)ということもあります。この場合は、何らかの方法で輸入者とEPAによる利益を分かち合うことも可能です。
EPAによるメリットを分かち合う一例
ある部分に注目すると損をしているけれど、全体で考えるとプラスになっていることはよくあります。
例えば、商品が気に入らなかったら全額返金するという「返金制度」を設けているところがあります。普通に考えると、すべて返金手続きされてしまうリスクがあるため、できれば設けたくない仕組みです。
しかし、返金を受けると大々的に宣伝をしたとしても、実際に返金を要求してくるのは、購入者の内、数パーセントだといわれています。むしろ、この返金保証を付けることにより、売り上げは増すといわれています。ある部分のマイナスをうけることにより、全体としてプラスになる事例です。
さて、これを貿易で考えてみます。確かにEPAの複雑な手続きは、自社にとって利益になりにくく、人件費の分だけ損をしてると考えがちです。しかし、たとえ、一方的にEPAを活用(輸出者として)するとしても、現地での価格競争力がつき、結果として輸出が増えることも十分に考えられます。また、これと別のアプローチとして「関税の減税分を分かち合う」こともできます。
例えば、EPAを活用しなければ、輸入者は100,000円の関税を支払わなければならないとします。EPAを利用すれば、これを削減できるとするなら、あらかじめこの部分を折半しておき、本来の商品価格に、関税の削減部分(折半部分)をプラスしたインボイス(仕入れ書)を作成することもできます。
実際にこれを行うためには、ワールドタリフなどを用いて、相手国の本来の関税(MFN税率)と、EPAを適用した場合の税率(譲許表)を把握する必要があります。
上記で述べた方法以外でもEPAによるメリットを分かち合う仕組みはいくつか存在します。要は輸入者と輸出者がしっかりと協力をして、話し合った上でお互いのメリットが最大になるように調整をすればいいだけです。
まとめ
EPAを使用しても直接的な利益がないと短絡的な判断をするべきではありません。EPAによるメリットは、輸入者との協議によって、いくらでも分かち合うことができます。最も簡単な方法としては、本来の価格に減税分をオンしてインボイスを作成することです。これであれば、輸出者側では売上を増やすことでき、輸入者側ではEPAによる免税輸入ができることになります。