TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が正式に「発効」されると、世界で一番巨大な経済圏が出来上がります。経済圏と聞くとあまりしっくりときませんが、これは貴社の商品やサービスを提供できる範囲が一気に広がる反面、他のEPA加盟国の企業が日本市場に乗り込んでくることを意味します。
TPPを含めて、国と国との経済的な結びつきを強くすることを「EPA(経済連携協定)」と言います。EPAが発効されると、各国の自治は維持されつつ、経済的な分野ではあらゆる部分で「障壁」なるものが撤廃されることになります。
例えば、その中の一つとして「関税」があります。関税は、外国に商品を輸出するときに「相手国側の税関」でかけられる税金のことを言います。
仮に貴社が輸出者の立場あるなら、この関税を負担するのは相手国の「輸入者」の方となり、貴社が負担するべき税金ではありません。一方、貴社が輸入者の立場であれば、日本へ商品を入れる際に「商品ごとに決められた関税」を支払うことになります。このように関税は外国の商品を国内に入れるときに支払う税金になります。
輸出者であっても輸入者であってもできれば、関税を支払うことなく貿易取引をしたいと思うのが普通です。そこで、このような相互にかけあう関税を撤廃してしまい、お互いの企業がより自由に輸出入ができるようにしたのがEPAとなります。このEPAは、先に述べた関税の撤廃の他、人的交流、サービス分野、知的財産、他の分野の協力など、あらゆる部分での自由化を推し進める物です。
しかし、残念ながらこのEPAをしっかりと活用していないどころか「EPAの概要」すら理解されていない会社が多いのが現実です。そこで、この記事ではEPAを活用することによる「スケールメリット」「価格競争力の向上」「輸入価格の引き下げ」の三つの観点から説明をします。
貴社がEPAを活用しなければならない理由
目次
これからの企業活動においてEPAを活用しないことは「会社の弱体化」を意味します。2016年現在、日本はすでに16の国と地域との間で「EPA」を結んでいます。この16の国のうち、半数近くを占めるのが「東南アジア」の国々です。昨今では「ベトナム産のビール」や「インドネシア産衣服」などが普通に見られるようになり、改めてEPAによる「自由化の流れをヒシヒシ」と感じます。
現在、貿易取引をしている、していないに関わらず、この先10年もしないうちに、経済の自由化がより一層進みます。EPAによる経済自由化の波に対応できない企業は淘汰されていきます。逆にこの波を「好機」ととらえられる企業は、成長していきます。
中小零細企業でも逆転のチャンス到来
貴社がどのような会社であるのかはわかりません。しかし、EPAはあらゆる分野の会社がメリットを受け取れる制度となっています。
例えば、某大手自動車メーカーの下請けをしている会社だとします。下請けの立場であるため、発注元の大手からの「品質基準要求や値下げ圧力」などの影響を受けやすいです。そのため、なるべく大手企業を頼らない独自の販売網を築きあげる必要があります。
このようなとき、EPAを活用して「輸出販売」を検討するようにします。
EPAは、国と国の経済的な国境をなくす制度です。そのため、下請けとして運営している部品供給メーカーであっても世界中の工場へ輸出をする「グローバルサプライヤー」へと転身することができます。なぜなら、EPA加盟国の中であれば、どこの国で作った商品であっても、域内(EPA締約国内)であれば「関税無税」で輸出ができるからです。これで、大手企業だけを頼った不安定な経営から少しずつ脱却することができるようになります。
上記では、自動車メーカーに納品する企業を事例に取り上げてみましたが、これ以外の業種の会社であっても似たような状況に立たされている会社はたくさんあるはずです。EPAは、誰にも平等に与えられている「戦略的な貿易」を行うためのツールです。では、EPAの重要さが少しわかってきたところで、さらに詳しい部分を紹介します。
EPAによるスケールメリットは大きいです。
EPAを結ぶと国の自治を残したまま「経済的な分野の交流」が自由に活発に行われることになります。これを別の視点から考えると、それだけ市場が広がると言えます。なぜなら、EPAを締結している国の中であれば、相手国で関税をかけられることなく、商品を輸出できるからです。
2016年現在、日本がEPAを締結している国は、以下のと国になります。これらの国の人口をトータルすると約20億人となります。2016年現在、日本の総人口は1億2千万人ほどになりますから約20倍の市場と「経済分野での協力」を行っていることになります。仮に貴社の取り扱っている商品を求めている人が人口の1%だとします。
もし、日本だけを考えて商売をしていれば、1億2千万人の1%が見込み客になります。他方、以下のEPAを締結している国の市場に目を向ければ、20億の1%が見込み客になります。もちろん、実際の消費マーケットの大きさは定かではありません。しかし20億人の市場と1億人の市場を比べた場合、20億人の方が市場が大きいことは確かです。EPAを活用すれば、このような大きな市場に挑戦をしていくことが可能となります。
2016年現在のEPA締約国一覧
シンガポール | メキシコ | マレーシア | チリ |
タイ | インドネシア | ブルネイ | アセアン |
フィリピン | スイス | ベトナム | インド |
ペルー | オーストラリア | モンゴル |
外国市場における価格競争力の維持
外国の市場に商品を輸出する場合、必ず自国以外の「外国の価格設定」を把握する必要があります。
例えば、ベトナムのデパートに対して「ベビー用品」を輸出するとします。このとき、ライバルとなるべき会社はベトナム国内の会社の他、ベトナムに向けて輸出をしている「外国の会社」になります。つまり、少なくても二つのライバルとの間で価格競争力を維持しなければなりません。
ベトナム国内の企業であれば、関税等の負担は元々存在しませんので、最初から一定の競争力があります。それよりもここで注目すべきところは「ベトナムに向けて輸出をしている他の外国企業」です。この企業との間に価格競争力を保つさいのポイントは「関税負担の有無」です。これをもう少しわかりやすくするために、以下のように「仮定」をして、EPAの有無と関税の関係性を説明します。
仮定条件:ベトナムと日本はEPAを結んでいない。ベトナムとロシアは、EPAを結んでいる。ベトナムのベビー用品に対する関税は10%かかる。輸送費、相手国での商品利益などをすべて無視をします。また、商品自体の価格は100円で統一します。
以下の画像をご覧いただくと、EPA締結をしているロシアと締結していない日本の「ベトナムでの価格差」がわかります。この価格差の原因である一つが、ベトナムへ輸入するさいに課せられる「関税」です。ロシアの商品は、EPAによる無税扱い、日本の商品には、EPAを適用しない10%の関税がかかることにより、このような違いとなって表れることになります。
上で述べた事実から二つのポイントがわかります。それが「日本が輸出先の国とEPAを締結しているかどうか」という点と、自分の商品とライバル関係にある国(上の例でいうとロシア)がベトナムとEPAを結んでいるかです。
輸出しようとしている国が日本とEPAを結んでいなければ、そもそもEPAの仕組みを利用することはできません。そのため、2016年現在、16の国と地域以外の国へ輸出を考えている方は、EPA制度を利用して輸出することはできないと考えてください。商品を出す相手国との間にEPAが締結されているかがポイントです。
「ライバル関係にある外国がEPAを締結しているのか」も重要です。日本政府が輸出先の国とEPAを締結していないとします。この場合であっても、他の外国との間にEPAを締結している可能性が十分にあります。
この場合、EPAを適用された商品と争うことになり、価格競争が不利になることは間違いありません。この事実を考えると、実際に市場に商品を投入する前に輸出先の国が「どこの国とFTA(EPA)を結んでいるのか」を調べる必要があります。これについての詳しい内容は「ワールドタリフ(WorldTariff)の使い方 外国の関税を調べる方法」をご覧ください。
輸入原価を下げる力
EPAは決して輸出企業だけに恩恵があるわけではありません。外国から商品を輸入して販売をしたり、輸入した原料を加工して他の製品に変えて販売をしたりする企業にも「負担するべき関税を削減できる」メリットがあります。
外国の商品が日本へ輸入するさいは、日本の税関が商品ごとに決められた関税を徴収します。しかし、EPAの締約国(16の国と地域)から輸入される商品については、関税を無税にしたり、低率にしたりするなどして特別な恩恵を与えています。これは、輸入原価の中から関税部分を省くことができることを意味します。これによって、輸入仕入れ価格の原価が下がり、より有利な価格で外国の商品を輸入できます。
すでに様々な企業でEPA制度を利用して輸入を行っています。逆に言うと、このEPAを活用しない輸入は、それだけで競争上、不利に立たされていることは間違いありません。長年、貿易を行っている人は、このEPAを「特恵関税」と誤解する方がいます。しかし、EPAと特恵関税は全く別物であると認識をする必要があります。
特恵関税は、日本より発展が遅れている国に対して関税を削減するなどして、経済的な発展を促す目的があります。これはどちらかというと、日本の「情け」から設定されている消極的な経済政策だと考えてください。
一方、EPAは「経済連携協定」という名前の通り、お互いの国の経済が相互に発展することを目的としている協定です。そのため、特恵関税のような限定的な関税削減ではなく、原則的にすべての品目を関税ゼロにすることを目指している制度になります。
まとめ
これからは、国の自治機能を維持しながら、経済的な国境をなくす動きがさらに加速していきます。今まで行ってきた既存の枠組みの中で商売をしていくと、いつの間にか「どん底」に突き落とされている可能性が十分にあります。
EPAは諸刃の剣の側面を持ち合わせていると言えます。お互いの関税をゼロにすることにより、外国の市場へ輸出をしやすい環境が整ったといえる一方、外国の商品が日本市場へ流通しやすくなったとも言えます。
今まで市場占有率など、いわゆる業界のシェアという物は、日本の市場をべースに考えていました。しかし、これからはEPA域内における市場の占有率に考えを変えていかなければなりません。日本市場でナンバーワンであっても、域内の市場占有率では10番であることも十分に考えられます。まさに、EPAを活用しない=グローバルな戦いから完全に脱落をすることになります。
だからといって、これまでのように国内市場だけで悠々と商売することはできません。力をつけた外国企業が新しい商品を次々と投入をして、日本市場を「常識」を覆すようなことになるでしょう。実際にそれに気づいた頃には「僅かながらに残されるおこぼれのパイ」を奪い合う熾烈な競争が待ち受けているのです。
このようなことを考えると、今からEPAを熟知して、活用する方向に社内を改革しなければなりません。それがこの先も会社として成長できる唯一の選択となります。
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