関税ゼロ貿易(EPA)に関係する「ロールアップ」の仕組みをご紹介します。
ロールアップ
EPAを活用するときは、輸出商品の原産性の証明をします。輸出者は、原産性の証明をして、特定原産地証明書を取得。これを輸入者へ送付します。輸入者は、日本で発行された特定原産地証明書を現地の税関に提出して、関税の免除や減免を受けます。これが大まかな流れです。そして、今回、ご紹介するロールアップは、輸出者が原産性を証明するときに使います。
- 輸出者→ 特定原産地証明を取得
- 輸入者→ 特定原産地証明書を税関に提出&関税の免除を受ける
ロールアップの定義
ロールアップとは、原産性を証明するルールの内、付加価値基準で使います。一言で説明すると…….
完成品に含まれる原材料(部品)の内、その原材料の中に非原産材料が使われているときは、ロールアップを使うことにより、その非原産部分を含めて原産部品にできる。よって、完成品全体が原産品として証明ができる ルールです。
うーん、正直、自身で書いていても、とても分かりずらいですね….汗 この説明をかみ砕いていきます。まず、ロールアップを理解するためには、次の2つを知る必要があります。
- 付加価値基準
- 原産資格割合
1.付加価値基準とは?
付加価値基準とは、輸出する完成品の中に、日本で加える部分(材料や人件費、利益など)がある一定の割合以上であると、原産品にできるルールです。この割合は、協定によっても異なりますが、平均的な数字で申し上げると、およそ40%に設定されていることが多いです。
例えば、一つ100円のおにぎりを輸出するとしましょう。このおにぎりの価格の内訳は…..
- ごはん 中国産 60円
- のり 韓国産 10円
- こんぶ 日本産 10円
- 利益 20円
です。この場合、日本産の部分は、こんぶの10円と利益の20円の合計30円です。これを「原産資格割合」といいます。そして、この原産部分が商品全体の価格に対して、何パーセント含まれているのかを計算すると、30/100=30%です。よって、この100円のおにぎりは、日本産の部分が30%であるため、日本の原産品ではないと判断ができます。(40%の場合)
このように、日本で加えている付加価値を基準に原産性を判断する方法が「付加価値基準」です。
2.原産資格割合とは
原産資格割合とは、その協定の原産品であるのかを判断するための基準です。この基準は、利用するEPAごと、さらに商品ごとに細かく決まっています。多くの場合は、40%に設定されています。自動車や一部の機械製品には、50%前後が設定されていることが多いです。日本で加える付加価値部分が、これらの数値を超えれば、日本原産品です。
ちなみに、協定ごと、輸出する商品ごとの原産資格割合は「原産地規則ポータル」で調べられます。また、この原産資格割合のことを「閾値(しきいち)」とも言い、この部分をRVCやQVCとも言います。経済産業省や日本商工会議所などの資料には、これらの用語で解説されているため、あわせて覚えられることをお勧めします。
ロールアップで証明するときのポイント
ロールアップで証明するときのポイントは、完成品を完成品全体と、その完成品に使われている原材料(部品)とに分けて考えることです。つまり….
- 完成品全体の原産資格割合
- 完成品に使われている原材料の原産資格割合
この2つに注目します。ロールアップは、完成品に使われている原材料が原産性を満たせば(=原産資格割合を超えるとき)その中に、非原産材料を使っていても、その部分を含めて原産部品にできる仕組みです…..
と説明してもまだ理解しずらいと思いますので、図と数字で説明していきます。
ロールアップの実例(図解)
今回は、日本で生産されたテレビをマレーシアに輸出するとします。完成品の原産資格割合、そして、完成品に使われている原材料(部品)の原産資格割合は、それぞれ40%です。なお、図中で説明する協定名、原産資格割合(閾値)等は、すべて仮です。その点は、十分にご注意ください。
テレビの価格(=完成品)と、そこに使われている部品との関係性です。今回は、完成品をテレビ、その中に、中国産の部品と「台湾の原材料を使っている日本の部品」の2つだけが含まれていると仮定します。この場合、ロールアップを使うときと使わないときとでは、どのような違いが出るのかに注目します。
まず、完成品に使われている「非原産材料」部分に注目です。完成品に使われているのは、中国産の部品と「日本産の部品(台湾の原材料を使用)」です。この場合、中国産の部品と、台湾の原材料が日マレーシアEPA上の「非原産材料」です。300$と50$の部分ですね。
では、この使用状況の中、ロールアップを使用しないときを考えてみましょう!完成品全体が500$、その内、中国産の材料300と台湾産の原材料50$が含まれるため、日本原産部分=原産資格割合は30%です。今回のテレビの完成品の原産資格割合は40%であるため(仮)、このままでは、このテレビは、日本原産の商品にはできません。そこで、ロールアップを適用します。
ロールアップを適用するときは、まずは「台湾の原材料を使っている日本部品の原産資格割合」を検討します。部品は、200ドル、その内、台湾の原材料が50$であるため、原産資格割合は、75%です。この部品の原産資格割合も40%であるため、75%>40%となり、この部品は、日本の原産品にできます。そして….
ロールアップを適用すると、日本の原産部品の中に非原産材料(台湾産の部材)が含まれていて、すべてを原産品にできます。したがって、完成品の価格500$の中に含まれる非原産部品は、中国産の300ドルのみとなり、原産資格割合は、40%です。よって、この商品は、日本原産品としての資格を満たせます。これがロールアップの仕組みです。
ロールアップで証明するには何が必要なの?
ロールアップで証明するときは、各部品の価格を証明する書類を用意します。
例えば、自身で中国などから部品を仕入れているなら、中国から輸入したときのインボイスが価格を証明する資料です。日本の商社などを経由して購入しているのであれば、商社で発行される請求書で証明します。
まとめ
- ロールアップは、付加価値基準で使います。
- ロールアップのポイントは、完成品と部品を分けて考えることです。
- 完成品と部品の原産資格割合を意識します。
- 価格の証明は、インボイスまたは請求書で行います。

