EPA(自由貿易)を活用するときは、どのような情報や資料が必要になるのでしょうか?
この記事では、EPAを利用するときに重要になる「原産性の考え方」と、原産性を証明するときの「各種資料」をご紹介していきます。VAルールまたはCTCルールなど、できるだけ実務で使えるように説明しています。
EPAで必要になる情報と資料
EPAで重要になる2つの情報とは?
EPAにおける必要な情報とは、その商品を相手国(締約国)に輸出したときに「何パーセントの関税がかかるのか?」と、どのような条件を満たせば「相手国において原産品として認めてもらえるのか?」を確認することにあります。
・相手国における関税率
・原産性ルール
相手国における関税率は、現地の国へ商品が輸入されるときにコスト面で大きな影響があります。もし、高い関税率を設定されている物で、EPAの活用により、大きく関税を削減できれば、EPAの活用メリットは大きいです。一方、元々、低い関税率が設定されている物、または、そもそも削減対象になっていない商品であれば、EPAを活用しない輸出も検討します。
また、原産性ルールとは、EPAを締結している国同士で決めている「原産品に扱う条件」のことです。つまり「どのような形で生産されたのか?」や「どのような加工条件」を満たせば、締約国における「原産品」として認めるのかを示した物です。いわゆる原産品の線引きの基準です。
例えば、A国とB国がEPAを結んでいるとします。今、A国からB国に向けてワインを輸出しようとしています。このとき、A国で作られたワインは、どの程度の加工を行っていれば、原産品として認められるでしょうか?
仮のお話として、第三国のC国から仕入れたワインをA国においてラベルなどを貼り、B国へ輸出したときはいかがでしょうか? または、C国からぶどうを仕入れた後、A国においてそのぶどうを使い、ワインを製造した場合は、いかがでしょうか? このようにA国の原産品といっても様々なパターンがあります。この線引きを明確にするのが「原産品ルール」です。
ちなみに、第三国のC国から仕入れたワインにラベルを貼りB国へ輸出するときは、原産品にはなりません。一方、C国からぶどうを仕入れた後、そのぶどうを使い、A国においてワインを製造したのであれば原産品になります。
- その商品を輸出すると、相手国で何パーセントの関税がかかるのか?
- 商品は、本当に原産性ルールを満たしたいるのか?
必要な資料
次に必要な資料をご紹介します。EPAで必要な資料とは、輸出または輸入する商品が「本当に原産品であるのか?」を証明する書類のことです。原産品であることを一次的に証明する書類は「特定原産地証明書」です。また、この特定原産地証明書を取得するためには、原産性を立証するための様々な二次資料が必要になります。
ここでは、一次資料と二次資料の2つがあることをしっかりと理解しましょう!
二次資料:特定原産地証明書を取得するための原産性立証資料
では、この二次資料についてもう少し詳しく確認していきましょう。二次資料とは、一次資料を取り寄せるための基礎資料のことを言います。
この二次資料を大きく分けると、利用する原産ルールによって、若干、必要な物が変わってきます。ここでいう原産性ルールには、関税分類変更基準(CTCルール)、付加価値基準(VAルール)、加工工程基準(SPルール)などがあります。それぞれを簡単に説明すると以下の通りとなります。
関税分類変更基準(CTCルール)
完成品のHSコードと、完成品に使われている原材料のHSコードを見比べて、決められた範囲で「HSコードが変更されているのか?」を基準にするルールです。詳細:CTCルールとは?
付加価値基準(VAルール)
完成品に「どれだけの付加価値」を加えているのか?を基準にするルールです。この付加価値には、日本での製造における人件費、製造コスト、利益、輸出のための諸経費、管理費などを含めます。日アセアン協定では、完成品の出荷価格から「外国産材料の合計」を引いた価格=値(しきいち)が40%以上であると、原産品としてみなされることになります。
*非原産材料とは、協定国以外で生産された材料のこと 詳しくは「VAルール」の解説記事をご覧ください。
加工工程基準(SPルール)
主に化学製品や繊維製品に指定されているルールです。具体的な加工方法を指定することによって、原産品であることを判断するルールです。上記で説明する2つの証明ルールよりも使用頻度は限られているルールです。
以上の3つがEPAにおける具体的な加工ルールとなります。EPAで必要になる書類は、どの加工ルールを使うのかによって変わってきます。ここでは、使用頻度が高いCTCルールと、VAルールで必要になる立証資料をご紹介していきます。ちなみに、重ねて申し上げますが、これより先で紹介している資料は、すべて一次資料である特定原産地証明書を取得するための二次資料です。
CTCルールで必要になる資料
CTCルールで必要になる資料は、次の4つです。この内、サプライヤー証明書と、生産委託証明書は、必要な方のみが取りそろえます。
1.対比表(原材料・部品リスト)
2.サプライヤー証明書
3.委託生産者証明書
4.製造工程フロー図
1.対比表
CTCは、完成品と原材料のHSコードが変更になっているのか?を基準にするルールです。したがって、最も大切な資料は、対比表です。対比表は、完成品に含まれている原材料をリスト化して、それぞのHSコードを特定した後、完成品のHSコードと「対比」して確認する資料です。
2.サプライヤー証明書
サプライヤー証明書は、完成品に使用する部品がHSコードの変更基準をクリアしないときに取り寄せる書類です。部材を生産している取引メーカー(サプライヤー)に頼み、サプライヤー証明書と呼ばれる書類にサインをお願いします。基本的に、CTCルールは、関税の変更が基準になっているため、原産性は「非原産(外国製)」として申請をするのがポイントです。
1.非原産で証明をする。
2.でも、HSコードの変更基準を満たせない。
3.だから、その部材を原産性にする
4.仕入れ先からサプライヤー証明書を作成してもらう。(原産品にするもの)
このような流れになります。最初から、原産品として申請すると、無駄にサプライヤー証明書が必要になります。あくまで、サプライヤー証明書は、必要最低限として、取引先の負担を少しでも軽くするようにしましょう!
3.委託生産者証明書
生産委託証明書は、製造者であっても、製造者でないときに利用する証明書です。
例えば、A社は製造メーカーとして存在している。ただし、それが登記上のことであり、実際の生産は他社に「生産委託している」ケースなどがありますね。いわゆる「OEM」です。
特定原産地証明書の取得ができるのは、商品の生産者または輸出者です。そのため、どこかの会社に委託生産しているときは、委託先の会社が生産者となり、自社が生産者になれなくなります。この問題を解決するのが「委託生産者証明」です。
委託生産者証明は、自社の監督の下、設計や製造などのすべての指揮監督権を有しているときに限り、生産を委託する側と、委託される側の両方を「生産者」とするための資料です。一昔前は、この委託生産をするための証明は、とても大変でした。しかし、改正などによって、現在では、生産委託証明書を提出するだけで、委託している会社も「みなし生産者」の立場になれます。委託生産者証明書
4.製造工程フロー図
製造工程フロー図とは、どのような流れによって、商品が製造されていくのかを証明する資料のことです。この資料は、そこまで細かいことを要求されません。下に示す項目を記載する程度で良いです。
1.原材料の受け入れ(材料の加工具合も記入)
2.検品
3.生産
4.塗装
5.完成品のチェック
6.梱包
7.出荷
などというように、原材料が入ってくるときから、完成品として出荷するまでの流れを記入します。特にポイントになるのが1番の仕入れ時の原材料の状態と、生産の部分です。つまり、貴社の工場において「どのような加工をされている原材料(無加工を含めて)を仕入れて、どこまでの加工をしているのか?」を問いています。つまり、貴社の工場において「実質的な変更が行われているのか?」を確認する所になります。
例えば、仕入れた段階で、すべての加工などが終っていて、自社の工場では、ただ単に「組み立てるだけ」のときなどが当てはまります。おもちゃでいうと、ミニ四駆の組み立てキットのようなイメージです。この場合は、商品によっては「原産品」にはならない可能性があるため十分に注意しましょう。(完成品のHSコードと材料のHSコードに変化がないため)
なお、この場合は、使用する部材を非原産から原産品にすることで対応します。つまり、材料の仕入れ先から2番のサプライヤー証明書を入手します。
以上の4つがCTCルールで証明するときに必要になる書類です。次にVAルールを利用するときの資料を確認していきましょう!
VAルール
VAルールは、完成品価格に占める「付加価値」を基準にして原産品であることを確認する物です。そのため、このルールを使用するときのポイントは、原材料価格と、原材料の原産性になります。また、VAルールには、さらに次の2つの方式があることもポイントです。「1.控除方法式(こうじょほうしき)」、「積み上げ方式(つみあげほうしき)」です。
まずは、これらのポイントを説明していきます。その後、これらのポイントをふまえて必要な資料をご紹介します。
原材料価格とは?
その商品をいくらで仕入れているのか?を証明することです。具体的には、その部材をどこかの会社から仕入れているのであれば「請求書」、自社で生産している内製品であれば、二次材料を仕入れるときの請求書と、その二次材料を加工して、完成品の部材(一次材料)にするための人件費や加工賃を計上します。
少し混乱すると思いますので、箇条書にします。
1.最も大きな括りが、完成品です。
2.その完成品をバラバラにしてできるのが材料1(一次材料)です。
3.この材料1を他者から仕入れているときは、その請求書で価格を証明します。
4.もし、材料1を自社で内製しているときは、この材料1に使っている材料2(二次材料)を仕入れたときの請求書と、材料2を加工するときの加工賃の合計を原材料価格として計上します。
原材料の原産性とは?
完成品に使用している原材料は、外国産なのか(協定国以外の物)それとも、自国産の物なのか(協定国内の物)も重要です。完成品に使っている部材の一つ一つを確認していきます。こちらは、後ほど説明する積み上げと、控除方式に関係してきます。
控除方式と積み上げ方式とは?
VAルールは、2つの方式の内、いずれかの方法により原産性を証明します。方式には、控除と積み上げの2つがあります。どちらの証明方式で証明すればいいのかは、各協定の協定書の中で指定されています。アセアン諸国の場合は、控除方式の証明と決められています。
控除方式とは、完成品の価格から非原産部分(外国産材料)の合計価格を引いた後、残りの原産部分が一定の値以上になっているときに原産品にする方式のことです。一方、積み上げ方式は、この考え方と逆です。原産品に該当する価格を積み上げていき、その合計がある一定以上の値になったときに原産品にする方式です。
つまり、控除方式で証明するときは、控除する対象の価格を証明する資料が大切になり、積み上げ方式のときは、積み上げる対象の原産部分の価格を証明する資料が大切になります。
積み上げ方式の証明・原産部分を証明する価格資料(計算書)などを揃える。
VAルール7つの資料
VAルールで証明するときのポイントは以上です。それでは、これらのポイントをふまえて、VAルールを利用するときは、どのような資料を用意すればいいのかをご紹介していきます。主な資料は、次の7つです。これらはすべて「完成品に対する付加価値(価格)」を立証するための資料です。この内、2番、3番、4番は、CTCルールのときと同じであるため説明を省きます。
- ワークシート(原材料・部品リスト)
- サプライヤー証明書
- 生産委託証明書
- 製造工程フロー図
- 各部品の価格を証明する書類(請求書など)
- 売買契約書
- 利益計算書
1.ワークシート(原材料・部品リスト)
ワークシートは、完成品と使われている原材料を一覧にした後、それぞの材料価格、生産コスト、管理費、輸出関連費用などを計算していき、原産品と認められる価格=値(しきいち)を超えていることを証明する資料です。ワークシートの中には、完成品の製造コストや利益などの数字を記入していきます。ここで記入した数字の根拠を示すシートを別で用意します。
2.3.4.サプライヤー証明書、生産委託証明書、製造工程フロー図
CTCルールと同じ説明です。
5.各部品の価格を証明する書類(請求書など)
VAルールは、完成品に占める部材の価格が重要です。「どれだけの非原産部材が使われているのか?」を示すのが控除方式です。この場合は、非原産部材の価格が重要です。一方「どれだけの原産部材が使わているのか?」を表すのが積み立て方式になります。この場合は、原産部材の価格が重要になります。
このように、どちらの方式を利用して証明するときも、必ず部材価格が重要になります。そのため、この部材価格を示す請求書などを用意します。もし、原産部材であって、自社の工場で部材を生産(内製品)しているときは、次のようにして部材の価格を証明します。
1.完成品の部材として使っている物を生産するときの部材(二次部材)の請求書などを集めます。
2.二次部材を加工するときの加工賃を含めます。
よって一時部材の価格=二次部材の購入費+加工賃となり、一次部材のまとまりが完成品となります。
部材価格の証明方法
1.仕入れ先からの請求書の価格
2.部材を内製しているときは、二次部材の購入費+相応の加工コストの合計価格
6.売買契約書(任意)
売買契約書は、商品の買い手(輸入者)、売り手(輸出者)、商社、製造者がそれぞれ違うときに使います。売買契約書の目的は、それぞれの関係性を書面によりつなげることです。
例えば、商品の買い手Aと売り手Bが「XXZ」という商品の輸出契約を結んだとします。しかし、売り手であるBは生産者ではないため、国内商社Zから商品を仕入れます。ただし、商社Zも製造しているわけではなく、製造者Cから仕入れた後に、売却しています。つまり、関係性としては、次のようになります。
1.輸入者Aと輸出者Bが売買契約
2.輸出者Bと国内商社が売買契約
3.国内商社と製造者が売買契約
このようなとき、買い手Aから、製造者までが書面上でつながるように、売買契約書などを揃えます。もちろん、立場によっては、売却金額を知られたくないこともあります。その場合は、価格部分を黒塗りにして「誰と誰の契約書なのか?」をわかるようにします。
7.利益計算書
商品を製造したときに、どれくらいの生産費用が掛かったのか? 部材は、いくらかかったのか? 投入した人材の数や生産時間などから人件費などを計算した後、その完成品を売却して、どれくらいの利益がでるのかを計算します。ここで求められる利益は「原産部分」に積み上げられるため、できるだけ正確に行うことがポイントです。
ちなみに、VAルールのワークシートの中に書き込む「利益部分」の数字と、この利益計算書の数字が同じになるようにします。ワークシートの中に記載している数字の根拠として、別に一枚の利益計算書を作成するイメージです。
以上がVAルールで証明するときに必要な資料の例示です。実は、この他にも付けた方が良い資料はあります。しかし、個々の企業によって異なるため、ここではあえて省かせていただきました。もし、弊社の「EPAコンサル」を受けていただける方は、このような資料作成についてもアドバイスをさせていただきます。
まとめ
EPAを利用するときに必要な情報は、相手国における関税率と、原産品にすることができるルールです。まずは、この2点の情報を入手して、EPAの利用を行うかを検討します。また、EPAで必要になる書類としては、一次的には「特定原産地証明書」です。この書類を輸入する側の税関へ提出することにより、関税の免除を受けられます。
ただし、この特定原産地証明書を取得するときは、輸出する商品が原産品であることを証明する必要があります。具体的には、輸出する商品に原産性があることをCTCルールやVAルールなどで証明をします。このときに利用する数字のエビデンスとして、請求書などの資料をそろえます。すなわち、これがEPAを利用するときに必要になる資料になります。