中国の輸出が伸びた要因の一つに「人民元の価値」が低く固定されていたことがあります。人民元を低く固定することで「安い価格」で輸出できるからです。なぜ、人民元の価値が低い(安い)と、外国に対して安く輸出できるのでしょうか?
この記事では、人民元の概要、切り上げ、中国貿易への影響などをご紹介していきます。
人民元の価値 切り上げと切り下げとは?
外国通貨に対して人民元の価値が低くなっていると、中国は輸出競争上、大きなメリットがあります。なぜ、人民元の価値が低いことが輸出競争上、有利になるのでしょうか。この辺りを順番に説明していきます。
人民元の決まり方
「1ドルは100円」などのニュースを聞かれたことはありますね? これは、日本円が外国通貨に対して、どれだけの価値を持っているのかを示す基準です。円は、世界各国で自由に取引されているため、円と外国通貨との需要の関係から、交換レートが市場により決まります。これを「変動相場制」と言います。
一方、中国のお金である人民元は、自由な取引で、交換レートが決まるわけではありません。中国人民銀行(日本で言う日銀)が交換レートを発表して、その基準に基づき、上下2%の範囲で通貨の交換が行われます。つまり、人民元の価値は、中国政府によりコントロールされています。これを「管理相場制」といいます。

人民元は、自由取引で価格が決まるわけではなく、100%中国政府の意向に沿って交換レートが決まります。
人民元の切り上げとは?
人民元の交換レートは、中国政府によりコントロールされます。人民元のニュースでは「人民元の切り上げ」という言葉を聞くことが多いです。
人民元の切り上げとは、1元=10円だったものを20円にすることを言います。一方、人民元の切り下げとは、1元=10円だったものを5円などにすることです。中国政府は、この人民元の切り上げと、切り下げを柔軟に行い、国際的な商取引で有利になるように為替を調整しています。

- 人民元の切り上げは、一元=10円を20円にすること
- 人民元の切り下げは、一元=10円を5円にすること
では、なぜ、中国政府は、人民元の切り上げや切り下げを行うのでしょうか? その答えは、人民元の切り上げや切り下げによる日本への影響を知るとわかりやすいです。
人民元の日本への影響
中国との貿易取引をしている日本の会社Aがあるとします。中国政府が人民元の切り上げや切り下げを行うと、このAには、どのような影響があるのかを説明していきます。中国から輸入する場合と、中国へ輸出する場合で異なるため、それぞれをケース分けして説明します。
中国から輸入している企業への影響
まずは、中国から日本へ商品を輸入するときの人民元の切り上げによる影響です。左側が中国の工場、右側が日本のショップを表しています。各アイコン下にある価格は、販売価格や輸送コストを示しています(仮)中国から輸入するのであれば、できるだけ安い商品を仕入れたいですね。
商品を安く仕入れる上で、人民元の切り上げは、どのように影響するのでしょうか?
仮のお話として1元=10円のときに商品を仕入れたとすると、日本での販売価格は、次のようになります。
上記のスキームで輸入をしているときに、中国政府により人民元の切り上げ(一元=10円から20円などにかわること)が行われると…..下の図の通り、中国から輸入するときの価格が上昇します。しがたって、中国から商品を輸入している企業にとっては、人民元の切り上げは、大きな痛手になります。もちろん、これは、輸出を促進したい中国政府としても痛手です。
次に、中国へ輸出している企業への影響を考えてみます。
中国へ輸出している企業への影響
中国へ輸出している場合は、次のような流れになります。一番左側が日本の工場、右側が中国国内での販売店を示します。商品自体の価格、輸送費、販売費などは、それぞれ仮定とします。
仮に一人民元=10円のときに輸出する場合、中国における販売価格は、次のようになります。
一方、同じ商品を中国に輸出しているときに、人民元が切り上げられる(10円→20円)と、人民元の切り上げ前より、安い価格で中国に輸出できます。(下の図)
例:1000円を得ようとするときに、1ドル=100円の価値があれば、10ドルを設定します。一方、一ドル=200円であれば、販売価格を5ドルにできます。つまり、同じお金を回収するときに、より少ない元を回収すればいいことになるため、現地国で販売するときの価格競争を優位に行えます。
まとめ
これまでのことをまとめると、中国は自国の商品をたくさん輸出したいため、人民元の切り下げを積極的に行ってきました。人民元の切り下げは、自国商品の輸出を後押しすると共に、外国商品が中国国内の市場に価格面から参入しずらい状況を作りだす効果があるからです。まさに、一挙両独です。
このような理由から、国際社会は、中国に対して「人民元の切り上げ」を強く求める一方、中国はかたくなに「切り上げ」を避けようとします。もし、中国国内の潮流が変わり、中国人民元に切り上げをするようになってきたら、日本企業は、中国市場への輸出を積極的に行う必要があります。それと共に、中国国内での安価品の輸入は、終了すると考えた方がいいです。

