これからの輸入ビジネスは「EPAを戦略的に使う」ことが大切です。大手企業においては「EPA対策専門部署」まで存在するほど、その重要性が高まっています。日本政府は、2017年現在、15のEPAを結んでいます。今後、日欧EPAや新TPP(アメリカ抜きのTPP)などの大型EPAも控え、この流れは、ますます加速していくことでしょう。
EPAを活用して輸入するときは、入念な下調べが必要です。その中の一つとして「関税を削減できる幅」と手間とのバランスがあります。EPAを利用するときは、輸出者側にある一定の負担がかかります。そのため、輸入者は、この手間とEPAによる関税削減額のバランスを考えるようにします。削減できる額によっては、あえてEPA輸入しないことも一つの戦略として有効です。
そこで今回は、この関税削減額と取得するときの手間とのバランスについて詳しく説明していきます。
EPAによって、どれだけの関税削減効果があるのかを考えます。
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EPAを利用するには、輸出国で発行される「適切な特定原産地証明書」が必要です。輸入者は、この書類を日本の税関へ提出することで、免税が受けられます。EPA輸入は、特定原産地証明書を作成するにあたり、輸入者と輸出者の間で、正しい情報の共有が欠かせません。なぜなら、日本側の情報を使って、現地機関で特定原産地証明書を発行してもらうためです。
特定原産地証明書の取得は、輸出者にとって、手間と時間がかかる作業になります。輸出者の本音としては、できるだけ特定原産地証明書の取得を求められたくありません。これが本音な部分だといえるでしょう。しかし、輸出者と輸入者が逆の立場になれば、同じ作業が必要になるため「お互い様」とも言えます。
このようなことを考えるとEPA輸入のために、特定原産地証明書を依頼するときは「発行の手間」と「削減できる関税額」を考えることが重要だとわかります。仮にEPAを使ったときの削減額が「1万円程度」にしかならないのであれば、あえてEPAを適用することなく、有税で輸入することも「一つの輸入ビジネスの戦略」として有効です。
要はかける時間と得られるリターン(この場合削減額)をしっかりと意識することが大切です。やみくもにEPAを適用しようとすると、手間だけが増えることになります。さて、ここまでが前提のお話です。ここから先は、EPAで利用する特定原産地証明書は、輸出国側で手間が発生することを頭に入れて読み進めるようにしてください。
EPAを利用するメリットを考えてみます。
EPAを活用する最も大きなメリットは、本来かかるべき関税を「無税または低率」にできる点にあります。つまり「関税が下がらなければ意味なし」と言えます。そこで、EPA制度を利用するときは、以下の三つの注意点に気を遣うようにします。
1.そもそも関税がかかる貨物なのか?
2.特別特恵国ではないのか?
3.関税が無税や低率になることにより、大きな削減を見込めるのか
1.そもそも関税かからない商品とは?
日本は貿易立国といわれるほど「市場が開かれている国」です。工業製品は、元々無税や低率の場合が多いため、輸入する商品の「元々の関税」を確認するようにします。そもそも関税が無税であるのに、手間をかけて、EPAを適用する理由は全くありません。
2.特別特恵国ではないのか?
日本の関税は6種類存在します。その中の一つの税の仕組みに「特別特恵税率(とくべつとっけいざいりつ)」があります。通称、LDC(後発発展途上国)の経済を発展させるために、これらの国で生産されたほとんどの商品には、関税がかからないです。実は、EPAを適用できる国の中にも、この特別特恵税率を適用できる国があります。この税率を適用するときは、インボイスやB/Lなどで判断するため、特別な書類を用意する必要はありません。
3.EPAを適用することにより、大きな関税の削減額を見込めるのか
上記の1と2の条件を考えても、なお「EPAを適用したほうが良い」と考える場合は、最後にEPA適用による「削減できる額」を検討します。もし、削減できる関税額が少ないのであれば、無理にEPAを使わず一般的な輸入(特恵制度やWTO税率など)を検討してみましょう。
この1~3の順番に検討していき、EPAを使うメリットがあるのかを検討します。
EPAによる関税の削減額を検討する方法
では、実際の貨物を例にして、上記の1~3の検討を行っていきます。今回は、下記の条件で商品の輸入を「検討」しています。これを輸入する場合「どの関税制度を適用して輸入するのが良いのか」を考えてみます。
商品:オリーブ 原産国:タイ 輸入額:100万円
ウェブタリフを使ってオリーブに関する関税を調べると、以下の画像の通りとなります。緑枠部分が適用される関税率になります。
この緑枠部分をまとめると以下のグラフの通りとなります。
品名 | 基本 | WTO | 特恵 | 特別特恵 | EPA |
オリーブ(0711.20) | 15% | 9% | 4.5% | 無税 | 無税 |
たくさんの種類の関税が表示されていますね。輸入申告を行うさいは、この中で最も適切な関税率を一つだけ選ぶことになります。基本税率、WTO、特恵など、それぞれの関税制度の詳細については「輸入するときに支払う関税・6種類の違い」で確認をしてください。
今回の輸入条件は、商品:オリーブ、原産国:タイ、輸入額100万円となります。この条件を基準にして、どの関税率を適用すればいいのかを考えてみます。
1.WTO税率は?
まずタイはWTOに加盟している国であるため、WTO税率(協定税率・MFN税率)を適用できます。この税率を適用すると、100万円の9%で9万円を関税として支払うことになります。(*実際はもっと複雑な計算が必要です。細かいことは考えずに大枠で考えてください。)
2.特別関税は?
タイは「日タイEPA」と「アセアンEPA」の両方を適用できる国です。したがって一般特恵を適用できる品目は制限されています。この表の中にある、オリーブの「0711.20」は含まれていないため、一般特恵を適用できません。
3.特別特恵は?
タイは、LDCに含まれていないため、特別特恵を適用することはできません。2017年現在、LDC(特別特恵受益国)に指定されているのは、47カ国となります。
4.EPA(経済連携協定)はどうなるのか?
2016年現在、タイと日本は「日タイEPA」と「日アセアンEPA」を結んでいます。EPAを適用すれば無税で輸入ができます。
タイからオリーブを輸入するときはEPAがお得なの?
ここまでの説明でWTO協定税率、特恵関税、特別特恵、EPAをそれぞれ順に検討してきました。タイからオリーブオイルを輸入するときは、特恵制度と特別特恵は適用不可のため、検討する関税としては「WTO協定税率」か「EPA」のどちらかになります。
今回、輸入する額は100万円ですから、WTO協定税率を適用して輸入すると、9%で9万円の関税がかかります。一方、EPAを適用すればこの9万が無税になります。9万円も削減幅が見込まれるのであれば、EPAを適用して輸入することを考えるべきです。もし、削減幅があまりにも少額であれば、EPAを適用することなくWTO税率で輸入することも戦略としては有りです。
具体的にいくらであればEPAを適用したほうが良いなどは、明確な答えはありません。適用できる「削減額」と、EPAで必要になる原産地証明書発行のための「手間」のバランスを考えて輸入しましょう!
まとめ
ステップ4のポイントは、EPAによる削減できる関税額を計算して、EPA輸入の検討をすることです。EPAを適用するのは、本来収めるべき関税を「国が認めた制度」により合法的に削減することです。したがって、それには満たさなければならない条件がいくつか存在します。それらの条件を満たすためには、輸出者との密な連携が欠かせません。もちろん、そこには輸出者と輸入者、それぞれの立場において「手間」が発生します。
この手間とEPAによる「関税の削減額」を比べた時に十分なメリットがあるのであれば、EPAを適用するべきです。なければ、そのほかの関税制度を適用して輸入することを考えなければいけません。それが限られた「リソース(資源)」を最大限に活用する戦略となります。
- EPAで利用する特定原産地証明書を取得するには手間がかかります。
- EPAを適用して輸入した方が良いのかを「関税の削減額」で考えます。
- かかる手間と削減できる関税額でEPAを利用するかを最終判断します。