コンテナ(輸送用の大型の入れ物)で輸入されてくる商品は、何らかの原因でダメージを負っていることがあります。考えられる原因としては、輸出者側のコンテナ詰め作業(バンニング)のさいに、不注意よって貨物にダメージを与えてしまっていることなどがあります。
もし、輸出者側の行動に問題がないようであれば、コンテナ輸送中に発生したダメージの可能性が高いです。特に「水濡れ」などのダメージが発生している場合は、「コンテナ自体の破損」の可能性が非常に高いです。
この記事では、コンテナ輸送されてくる商品がずぶ濡れになっている場合に必要になる「EIR」の知識と対処方法をお伝えします。
コンテナ自体のダメージチェック
目次
外国から商品を輸入するときは、コンテナと呼ばれる専用容器の中に詰めて運びます。この輸送方法を「コンテナ輸送」と言います。一昔前に主流であった在来船による輸送方法よりも船積みまでの日数が大幅に短い特徴があるため、2017年現在では最も一般的な輸送方法になります。コンテナ輸送で使われるコンテナは、実は輸入者や輸出者のものではありません。よほど大きな会社でない限り、船会社のコンテナを借りて輸送する場合が多いです。
例えば、MOL JAPANさんに船の予約をしたとします。この場合、貨物を輸送するときに使うコンテナは、MOL JAPANさんから借りることになります。決して輸出者や輸入者が所有しているコンテナを使うわけではありません。
コンテナは、船会社から借りて使用します。
コンテナ自体にダメージが発生する可能性があります。
輸出者は、貿易で利用するコンテナを船会社から借りた上で、その中に商品を詰めて輸出します。輸入地に到着したコンテナは、輸入者によって商品が出された後に、船会社へ返却されます。貿易で利用されるコンテナは、この一連の流れを繰り返し行っています。
ところで、コンテナを海上輸送するさいに、コンテナ内部の気温はどれくらいあるのかご存知でしょうか。様々なデータがありますが、およそ60度~70度にも達します。海上輸送中のコンテナは、思っているよりも劣悪な状況におかれていることがわかりますね。この事実を考えると、コンテナに穴が開いてしまい、そこから大量の海水が入ってしまう可能性があることもうなづけます。
コンテナの中身が悲惨になっていることは、輸入許可を受けて、コンテナを開けた際に初めて知ることになります。そのため、輸入者は、使い物にならなくなった荷物を前にして、唖然とすることも多いです。しかし、唖然としているだけでは、大損になってしまいます。このような場合の現実的な対処方法は、海上保険による補償を受けることになります。ただし、その補償を受けるにあたり「EIR」と呼ばれる書類を確認する必要があります。
EIRとは?
「コンテナにどのようなダメージがあるのか」を記録する書類が「EIR」です。この記録は、専門の作業員(チェッカー)によって行われます。チェッカーは、コンテナの外装を「目視」によって検査して、その内容を書類に記録していきます。この検査により「元々、コンテナ自体に損傷があったのか」を確かめることができます。これが船会社と輸出者の責任を明確にすることにもつながります。
EIRは、コンテナが港から搬出されるときや、搬入されるときに港にて発行されます。それぞれのタイミングでEIRが発行されているため、ある程度の範囲において、どこでダメージが発生したのかを知ることができます。もし、あなたが輸入者である場合は、このEIRを取り寄せることによって、コンテナのダメージ、つまり、あなたの商品に対するダメージが、どこのタイミング・責任で発生したのかを特定することができます。
EIRは完璧な存在ではありません。
輸入時にダメージが発生した場合は、EIRによって「ある程度」知ることができます。しかし、先ほども述べたとおり、EIRは検査人の目視によるチェックを基本としています。そのため、検査をしていたとしても「見逃している可能性」を否定することはできません。この事実を考えると「EIRに目立った外傷はない」と書かれていたとしても、それをそのまま鵜呑みにすることはできません。
実際に貨物を目の前にして、現実的に被害が発生しているので、これを写真や証拠品によって立証していくようにします。では、実際に輸入した貨物がダメージを受けていた場合「保険求償」と「関税の負担」について、どのような行動を起こしていけばいいのを説明します。
保険求償に対する行動
輸入貨物にダメージが発生している場合は、EIRの請求とは別に、すぐに海上保険会社に連絡をします。また、できるだけ現状のままにしておき、証拠写真をあらゆる角度から撮影するようにしてください。特にコンテナ自体に穴などが開いている場合は、その関係性を示す写真などを撮影しておきます。ダメージがなお進行中で、貨物を移動しなければ、さらに多くの商品が被害を受けると考えられる場合は、保険会社に連絡をして指示を待つようにします。
保険求償に関わる重要なことであるため、保険会社の指示によらない作業は厳禁です。勝手な自己判断をすると、保険の支払いが行われなくなる可能性があるため十分ご注意ください。一通りの準備ができたら船会社に対して「クレームノーティス」を出して、輸送事故が発生したことを宣言します。これら一連の流れについては、すべて利用している海上保険会社と相談するようにしてください。
関税の払い戻しに関する行動
輸入許可を受けて関税の支払いをしている物で、貨物の損傷などにより使えなくなってしまった物については、関税の払い戻し制度があります。損傷した貨物が「どこにあるのか」によって、適用できる戻し税制度が異なります。
輸入許可後、保税地域から貨物を引き取っている場合は、関税定率法20条の「違約品等の再輸出又は廃棄の場合の戻し税等」規定により、輸入時に納めた関税は戻される場合があります。
輸入許可後、保税地域に貨物がある場合は、関税率定率法10条の「変質、損傷等の場合の減税又は戻し税等」を利用できる可能性があります。いずれにしろ、ダメージ貨物の分の関税を取り戻せるかも知れません。貴社が取引をしている通関業者へ調べてもらうようにしましょう。
まとめ
輸入したときに、水漏れなどのダメージがある場合は、EIRによって「コンテナ自体が損傷していないのか」を調べるようにします。EIRは、コンテナの外傷を証明するための重要な書類です。輸入者は、このEIRに書かれているコンテナ自体のダメージ情報と、コンテナの中身に対するダメージを見比べるようにします。もし、EIRにダメージがないと書かれていたとしても、目視による検査であることからダメージを見逃している可能性もあります。
このような理由からEIRは、船会社の責任を立証するというより、保険金請求のための準備的な位置づけであると考えてください。