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フレキシバッグ(液体バルク)輸送の実務解説
フレキシバッグは、液体バルクを低コストで輸送する方法です。
一方で、取り扱いを誤ると破裂や漏えいが発生し、港湾や船会社を巻き込む大きな事故につながります。コストの安さだけで判断すると、清掃費・設備損傷・遅延などで、結果的に大きな損失を生むことがあるため、十分に留意が必要です。
この記事では、フレキシバッグの国際輸送に必要なポイントを「構造」「適否判定」「積付け・充填基準」「書類」「船会社・フォワーダー選定」「輸入側の排出と廃棄」で整理します。
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フレキシバッグの構造と仕組み
フレキシバッグは、20フィートコンテナ内部に設置する大容量の液体用の袋です。一般的な容量は16,000〜24,000L程度で、多層フィルムでできています。上部から充填し、下部から排出する構造が多く、バルブ部分が唯一の開口部です。
コンテナとの間には、ライナーシートや補強材を挟み、走行中の揺れや荷重の偏りからバッグを守ります。貨物が液体であるため、特に「比重」と「粘度」が安全性と実務運用に大きく影響します。比重は1.0前後が目安で、1.1を超えるとバッグとコンテナ床への負荷が急激に大きくなります。その場合は容量を減らす、別の輸送手段に切り替えるなどの判断が必要です。
適した貨物と不適切な貨物
フレキシバッグに適した貨物は、常温で安定した液体、かつ比重が極端に高くないものです。たとえば、以下のような品目です。
- 食用油(植物油、食用脂など)
- ワインや果汁
- 液糖や甘味料
- グリセリンなどの非危険液体
一方、以下のような貨物は不適切、または慎重な検討が必要です。
- 高温充填が前提の液体(充填温度が高すぎるとフィルムが劣化するため)
- 発泡しやすい液体(発泡により内部圧力が上昇するため)
- 強酸性・強アルカリ性など、フィルムを侵す可能性のある液体
- 粘度が非常に高く、排出に時間がかかりすぎる液体
また、船会社によっては、特定の品目や比重の液体について、フレキシバッグでの輸送自体を受け付けないケースもあります。
コンテナ積付けの実務ポイント
フレキシバッグ輸送では、コンテナの状態と補強方法が事故防止の中心です。ここが曖昧だと、走行中のバッグ破裂や扉の押し出し事故につながります。
コンテナ状態の確認
- 床板の割れ、腐食、へこみがない?
- 側壁の大きなへこみや歪みがない?
- 内側のネジ・ボルト等が突出していない?
補強材(バルクヘッド/リテイナー)の設置
- コンテナ扉側には、専用の補強ボードや鋼製フレームを設置します。 これは、CTU Code(貨物の詰め方に関する国際的な基準)の考え方とも一致しており、走行中に液体が前方へ偏っても扉に直接荷重がかからないようにするためのものです。
- フレキシバッグメーカーや業界団体(例:Flexitank関連の業界ガイドライン)が提示する仕様に従い、推奨される厚みや固定方法を守る必要があります。
バッグの固定とライナー
- バッグは、コンテナのフックや専用金具にストラップで確実に固定します。
- ライナーシートは、コンテナ内面を覆うように敷き、鋭利な部分との接触を避けます。
- 補強材とライナーが不足していると、走行中の揺れで一部に力が集中し、破裂リスクが高くなります。
積込時の注意点
充填作業は、フレキシバッグ輸送で最も事故が多い工程です。注意すべきポイントを具体的に整理します。
充填速度
- 液体を一気に流し込むと、バッグが急激に膨らみ、内部で波打つような動きが発生
- この「液面の揺れ」が側面に大きな力をかけるため、メーカーの推奨流量を守り、急激な増減を避けます。
充填量の計算
- 充填量は「比重 × 容量」で計算します。
- 比重が1.0を超える場合は、その分だけコンテナ床やバッグへの負荷が増えるため、メーカーが指定する最大許容重量内に収まるよう、容量自体を下げる必要があります。
充填温度と粘度
- フレキシバッグごとに、許容される充填温度の範囲が決まっています。
- 温度が高すぎるとフィルムが柔らかくなり、走行中に変形しやすくなります。
- 粘度が高い貨物は、輸入側での排出に時間がかかり、場合によってはヒーターマットなどの加温設備が必要になるため、事前に輸入側の設備状況も確認しておくべきです。
エア抜きと最終確認
- 充填後は、内部に余分な空気が残っていないか確認し、エア抜きを行います。
- バッグの位置が偏っていないか、バルブ周りに異常がないか、扉側補強材が確実に固定されているかを確認してからコンテナをシールします。
書類作成と情報共有(P/L以外の重要書類)
フレキシバッグ輸送では、インボイスとパッキングリストに加え、以下の書類・情報が実務上重要になります。
P/L・インボイスの記載
- 1バッグ=1ユニットとして扱うのが基本です。
- パッキングリストには、容量(リットル)、比重、フレキシバッグの型番、充填温度の目安、補強材の有無などを記載すると、船会社・保険・輸入側が状況を把握しやすいです
MSDS/SDS(製品安全データシート)
- 危険物でなくても、フレキシバッグ輸送では、船会社が貨物の性状を確認するためにMSDS/SDSの提出を求めることが多いです。
- 比重、粘度、引火点、化学的安定性などの項目は、受け入れ可否や積付け条件の判断に使われます。
LOI(Letter of Indemnity:補償状)
- 一部の船会社は、液漏れや設備損傷が発生した場合の損害を、荷主側が負担することを約束するLOIの提出を求める場合があります。
- LOIの内容によってはリスクが大きくなるため、社内での決裁や保険会社との確認を行ったうえで署名する必要があります。
船会社・フォワーダー選定の判断基準
フレキシバッグ輸送は、どの船会社でも同じ条件で受けてくれるわけではありません。実務上は「どの船会社/どのフォワーダーを選ぶか?」が重要です。
船会社・航路の制限
- 一部の船会社は、フレキシバッグ自体を受け入れない、あるいは扱えるバッグメーカーを限定している場合があります。
- 鉄道輸送を含む長距離内陸輸送では、揺れや衝撃のリスクが高くなるため、フレキシバッグを禁止しているケースもあります。
フレキシバッグに慣れたフォワーダーの重要性
- フレキシバッグの経験があるフォワーダーは、現地の充填・排出業者、検数会社、倉庫とのネットワークを持っています。
- 事故発生時の初動対応、船会社との交渉、保険会社との連携もスムーズになるため、料金だけで選ばず、「このルートでフレキシバッグ案件をどの程度扱っているか」を確認することが重要です。
よくある事故と原因
走行中のバッグ破裂は典型的な事故で、原因の多くは充填量過多やコンテナ状態の不備です。また、フォークリフト衝撃による損傷、バルブ破損による漏えい、高温充填によるフィルム劣化なども度々発生します。バッグは大容量であるため、ひとたび漏れれば輸送全体に影響が広がります。原因を一つ一つ排除することが事故防止につながります。
保険の扱いと確認ポイント
液漏れ事故は、保険会社が特に慎重に見る分野です。契約内容によっては、次のようなケースが補償対象外になることがあります。
- 充填時の作業ミス(ホース抜け、バルブ閉め忘れなど)
- タンクローリーへの積替え時の事故
- バッグやバルブの構造上の欠陥と判断されるもの
そのため、貨物保険の手配時には、
- フレキシバッグ輸送であること
- 充填/排出をどの事業者が行うか
- どの区間までを補償範囲とするか(倉庫〜港・港〜港・港〜納品先など)
を明確にし、保険会社から文書で条件を受け取ることをおすすめします。
実務フローの整理
フレキシバッグ輸送の流れを、実務担当者の視点で時系列に整理すると次のようになります。
- 貨物の性状確認(比重・粘度・充填温度・危険性の有無)
- フレキシバッグの仕様選定(容量・フィルム構造・バルブ形状)
- 船会社・フォワーダーとの事前打合せ(受け入れ可否・条件・必要書類)
- コンテナ手配と事前検査(床・壁・扉・天井)
- 補強材・ライナーの準備と設置
- 充填作業(流量管理・温度管理・エア抜き・最終確認)
- コンテナシール、書類作成(P/L・インボイス・MSDS・必要に応じてLOI)
- 船積み
- 輸入側での排出(設備確認・温度条件・排出手順)
- 空バッグの処理(廃棄・回収・リサイクル)
それぞれの工程で「誰が責任者か」「何を確認するか」を決めておくことで、抜け漏れを防ぐことができます。
輸入側で起きるトラブルと空バッグ処理
輸入側では、排出設備や環境条件に起因するトラブルが多く発生します。
排出設備・ホース規格の不一致
- 受入側タンクの口径とフレキシバッグのバルブが合わない場合、アダプターの準備が必要です。
- 事前に写真や仕様書を交換し、接続方法を確認しておくとトラブルを減らせます。
寒冷地での固化
- 低温で粘度が上がる貨物は、冬季の排出に時間がかかります。
- 必要に応じて加温設備(ヒーターマットや温水循環など)を用意し、排出時間も余裕を持って見積もるべきです。
税関サンプリング
- 液体の性状確認が必要な場合、税関や検査機関がサンプル採取を行います。
- サンプリングの方法によっては、排出工程が一時中断するため、スケジュールに一定の余裕を見ておく必要があります。
空バッグの処理(廃棄・リサイクル)
- 排出後のフレキシバッグは、大量のプラスチックと残留液を含む産業廃棄物として扱われることがあります。
- 輸入国ごとの環境規制により、処理費用が想定以上に高額になる場合があります。
- 一部のメーカーは、空バッグを回収
- リサイクルする仕組みを持っているため、事前に利用可否を確認しておくと、コストと環境負荷の両面でメリットがあります。
まとめ
フレキシバッグ輸送は、うまく使えばコストを抑えつつ大量の液体バルクを運べる手段です。しかし、安全に運用するためには、次のような点を押さえておく必要があります。
- 貨物の性状(比重・粘度・充填温度)を出発点として、適否を判断すること
- コンテナ状態の確認と補強材の適切な設置が、事故防止の基盤になること
- メーカー推奨の充填量・充填速度・温度条件を守ること
- MSDS/SDSやLOIなど、フレキシバッグ特有の書類や船会社条件を事前に整理すること
- フレキシバッグに慣れたフォワーダーと組み、船会社・港湾・現場作業者との間で情報を共有すること
- 輸入側の排出設備と空バッグ処理(廃棄・リサイクル)まで含めて、全体コストとリスクを見積もること
これらを一つ一つ押さえることで、単なる「安い輸送方法」ではなく、「事故を防ぎつつコストを最適化できる選択肢」として、フレキシバッグ輸送を活用できるようになります。

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