Backhaul(逆回送)の基本:なぜ安くなる?
Backhaulとは、船の戻り便を活用して運送費を安くする方法です。
例:アジア→北米は貨物が多く運賃が高い。逆の北米→アジアは空きスペースが多いため運賃が安い。船会社は空で戻るより、安くても荷物を積みたいので割安料金を設定します。品質が劣るわけではなく、ルートや日数が異なるだけです。
向いている案件・避けたい案件
向いている案件
Backhaulが向くのは、納期に1〜2週間の余裕がある案件、価格を第一に考える案件、在庫を厚めに持てる定番商品、販促用の大ロットなどです。初回出荷で“到着日の幅”が広めに許容されるときも相性が良いです。
- 納期に1〜2週間余裕がある
- コスト重視
- 在庫を多く持てる定番商品
- 大量発注品
避けたい案件
発売日が決まった新商品、短期間で売り切る季節物、温度管理が厳しいチルド・フローズンは注意が必要です。
- 発売日が決まった新商品
- 季節商品(短期間で売り切る必要がある)
- 冷蔵・冷凍品(温度管理が厳しい)

理由:途中寄港が多いと日数のずれや温度管理リスクが高まるため。使う場合は事前に監視体制と代替案を準備しましょう!
フォワーダーへの依頼方法:条件を明確に伝える
「安い便はありませんか?」という漠然とした依頼よりも、具体的な成約条件を最初に提示する方が迅速で正確な回答を得られます。
伝えるべき条件
- 運賃の上限額
- 希望する輸送日数
- 遅延時の代替ルート
- 内陸輸送の最大距離
- コンテナ種類(20GP、40HCなど)
運送会社選びで見積もり時に確認すべきポイント
海上輸送の見積もりを比較する際、価格だけに注目してしまいがちですが、実際の運送サービスの良し悪しは価格以外の要素で決まることも多いものです。
まず重要なのは、搬入締切の柔軟性です。予定よりも貨物の準備が遅れた場合に、どの程度の融通が利くのかを確認しておきましょう。また、空コンテナの返却手続きについても、手間がかからず効率的に行えるかどうかは重要な判断材料となります。
到着地でのサービス内容も見逃せません。無料で保管してもらえる期間の長さや、貨物の引取に必要な書類がどのくらいの時間で発行されるかといった点は、後の作業スケジュールに大きく影響します。
さらに、利用予定のターミナルがどの程度混雑しているか、支線船との接続があるかといった運航条件についても事前に把握しておくことが大切です。これらは、到着後の作業効率や追加コストの発生に直接関わってくるため、価格比較と同じくらい重要な検討材料となります。

見積もりを依頼する際は、これらの条件について具体的に質問し、書面で回答をもらうようにすることで、後々のトラブルを避けることができるでしょう。
見積もり比較のポイント:価格以外も重要
価格だけでなく、以下の条件も比較します。
- 搬入締切の柔軟性
- 到着地での無料保管期間
- 書類発行の所要時間
- ターミナルの混雑状況
- 乗り継ぎの有無
Backhaulは寄港地や乗り継ぎが多くなる傾向があるため、これらの条件を丁寧に比較するほど総コストを正確に把握できるようになります。見積書には価格と併せて各条件の違いを文章で記録し、今後の社内資料として蓄積することで、継続的な改善につなげられます。
スケジュール変動に対応できる輸送体制の構築
Backhaul(復路輸送)は価格面で大きなメリットがありますが、スケジュールが不安定になりやすいという課題があります。このため、スケジュールの変動に耐えられる仕組みを事前に構築しておくことが重要です。
まず、発注書や個別の契約書において、納期条項に適度な許容幅を設けることが必要です。遅延が発生した場合の対応方法についても、あらかじめ明文化しておくことで、トラブル発生時の混乱を最小限に抑えることができます。
顧客への対応においては、通常の輸送ルートとBackhaulルートの二つの到着予定日を提示し、事前に承認をもらっておくことが大切です。この透明性のあるアプローチにより、顧客の理解と協力を得やすくなります。
社内の管理体制としては、計画との日数差異、遅延の発生率、到着地での費用変動幅といった指標を継続的に監視することが効果的です。これらの数値をKPI(重要業績評価指標)として設定し、月次のレビュー会議で可視化することで、経験や勘に頼らずにデータに基づいた判断を行うことができるようになります。
このような仕組みを整えることで、「どのタイミングでBackhaulを使うと最も効果的か」を客観的に判断できるようになり、リスクを最小限に抑えながらコスト削減の効果を最大化することが可能になります。
温度管理・高付加価値貨物での使い方
温度管理品や高価格の精密機器でBackhaulを活用する場合は、十分な準備が欠かせません。温度ロガーの設置を必須とし、寄港地や乗り継ぎ地の前後で温度データを確認する手順を定めておきます。
温度逸脱や遅延が発生した際に備えて、貨物の積み替え基準と連絡体制、代替輸送手段の意思決定権限を事前に文書化することが大切です。また保険の約款や補償範囲も併せて確認し、万一の場合の求償に必要な記録システムを運用に組み込んでおきます。これらの対策を講じることで、Backhaulを使用してもリスクを最小限に抑えることができます。
- 温度ロガー設置を必須化
- 寄港・乗り継ぎ前後の温度データ確認手順を設定
- 温度逸脱・遅延時の対応フローを文書化
- 代替輸送の意思決定権限を明確化
- 保険内容とカバー範囲を確認
- 求償用の記録システムを組み込む
これらの準備により、Backhaulでも品質リスクを最小限に抑えられます。
インコタームズとセットで効く交渉術
Backhaulは取引条件と組み合わせることで効果が高まります。売り手の立場であればFOB条件で買い手に輸送の選択権を与え、買い手の立場であればCIFやDAPなど自社が輸送をコントロールできる条件を選ぶことで、輸送ルートを柔軟に切り替えられるようになります。
契約書には輸送手段の変更権、代替港の利用権、遅延時の責任分担、追加費用の上限と事前通知義務などを盛り込んでおくと、実際にBackhaulへ切り替える際のトラブルを避けられます。
よくある誤解の整理
「Backhaulは必ず遅い」という思い込みは正しくありません。条件が合えば通常の輸送と同じ日程で到着することもあります。
しかし「安ければ何でも良い」という考え方も危険です。書類準備や梱包で遅れが生じると、戻り便では通常便より選択肢が限られるため挽回が困難になることがあります。
安全に活用するには、前工程を早めに完了させ、トラブル時の切り替え手順を事前に準備しておくことが重要です。また現場の感覚だけに頼るのではなく、便ごとの条件を記録として残し、蓄積したデータを次回の判断材料に活用する姿勢が継続的な改善につながります。
記録を残して改善を続けることで、Backhaulを安全かつ効果的に活用できます。
価格だけに頼らない”総合最適”の考え方
本当に守るべきもの
最終的に守るべきは利益と信頼です。Backhaulは運送費を安くできる一方で、輸送日数のばらつきや到着地での追加費用によって、結果的に損をしてしまうこともあります。
正しい判断基準
そのため価格だけで決めるのではなく、全体のコスト、輸送時間、納期約束の守りやすさをまとめて比較することが大切です。顧客と事前に納期の幅について共有しておくと、Backhaulで削減したコストをそのまま競争力向上に活用できるようになります。
持続的な成功のために
短期的な価格優位だけを追うのではなく、継続して使える仕組みづくりを重視し、経験を蓄積しながら改善を続ける姿勢が重要です。この総合的なアプローチこそが、持続的な利益拡大につながります。
海上貨物と航空貨物のBackhaulとの比較:スピードと価格の差の出方
価格の差の出方
海上と比べて、航空のBackhaulは価格の下がり方が異なります。基本運賃は戻り方向で安くなりますが、燃油代や保安料金、戦争リスク料などは重量に応じて加算されるため、総額での割引効果は基本運賃分だけに限られがちです。
また運送状ごとの最低課金や容積重量での計算が適用されるため、軽くてかさばる荷物はBackhaulでもあまり安くなりません。一方で重くて密度の高い荷物は、戻り便の基本運賃割引の恩恵を受けやすくなります。
スケジュールの特徴
航空のBackhaulは遅延許容型や混載便として提供されることが多く、乗り継ぎや地上での待機時間が増える傾向があります。通常の直行便に比べて1〜3日程度到着が遅れますが、海上輸送の数週間単位の差と比べれば十分短く、製品特性と納期に余裕があれば有効な節約手段となります。
品質管理の注意点
温度管理品や精密機器では特に注意が必要です。地上での取り扱い回数と時間が増えることで、温度変化や衝撃のリスクが高まります。保冷材や予備電源、再梱包資材の準備、到着地での優先受取枠の確保など、事前の対策設計が効果的です。一般貨物でも混雑空港の夜間締切時間や保税倉庫の受付時間がボトルネックになりやすいため、運用時間の事前確認が重要です。
実務での活用方法
フォワーダーには戻り便の基本運賃と各種料金の内訳、容積重量の計算係数、混載便の締切時間と標準輸送日数、遅延・欠航時の対応をセットで提示してもらうと比較が容易になります。
小口の定期出荷ではブロックスペースの軽量枠や曜日限定便が効果的で、月間合計重量での契約も相性が良好です。試作品やサンプル、補充在庫など「急ぎだが最速でなくてもよい」案件では、航空Backhaulを選択肢に加えることで総コストと在庫効率のバランスを取りやすくなります。
世界の主なBackhaulレーンと特徴(海上)
以下は、一般的に「戻り方向(Backhaul)」として扱われやすい主要レーンと、その実務上の特徴です。各社の配船や市場局面で変わることがありますが、判断の起点として使えます。
レーン(方向) | Backhaul側 | 価格・需給の傾向 | 季節性・イベント | 実務上の注意 |
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アジア⇄北米(太平洋) | 北米→アジア | ベースレートは相対的に低め。空コン再配置の影響で上下。 | 穀物シーズン(9〜1月)で北米→アジアが上振れ。春節前後は配船変更が出やすい。 | USWC/USECの港混雑やレール遅延、シャーシ不足の波及。ロール時の振替に時間。 |
アジア⇄欧州(スエズ) | 欧州→アジア | 欧州景気と小売シーズンで変動。Headhaulの逼迫がBackhaulへ波及。 | スエズ混乱や喜望峰迂回時は所要が一律に延伸。 | 北欧/地中海で状況差。フィーダー接続とターミナルスロットの事前確認が有効。 |
欧州⇄北米(大西洋) | 米→欧(概ね) | 東行きは相対的に弱め。航空との競合も影響。 | 祝祭日や港湾ストで短期的な跳ね。 | USEC港の混雑、LSFOサーチャージの変動。書類・ISF等の前工程遅れに注意。 |
アジア⇄豪州・NZ | 豪/NZ→アジア(ドライ) | アジア→豪州がヘッド。逆方向は割安。 | 畜産・乳製品等のリーファー北上は繁忙期にタイト。 | バイオセキュリティ検査、港の受入時間、内陸ドレー距離の管理。 |
アジア⇄中東(湾岸) | 中東→アジア(ドライ) | アジア→湾岸がヘッド。石化・バルクは別ダイナミクス。 | ラマダン/イード時にオペが変則。 | フリータイム短め、港ごとの通関手順差。危険品は事前承認が要ることが多い。 |
アジア⇄南アジア(インド等) | 南アジア→アジア(ドライ) | アジア→インドがヘッド。ローカルチャージ厚め。 | ディワリ前や財年度末に波動。モンスーン期は遅延傾向。 | フィーダー港の本船接続、CFS混載の締切、ICD経由の所要管理。 |
アジア⇄アフリカ | アフリカ→アジア(ドライ) | アジア→アフリカがヘッド。北向きの果物等は季節で逼迫。 | 収穫期にリーファーがタイト。 | 港湾インフラ差が大きい。転送港での滞留・書類要件に要注意。 |
欧州⇄アフリカ | アフリカ→欧州(ドライ) | 欧州→アフリカがヘッド。 | 果物北上のピークでリーファー優先。 | 原産地証明や衛生証明の確認。短いフリータイムの前提設計。 |
北米⇄中南米 | 地域/品目で可変 | 南向きドライ(US→LATAM)はヘッド、北向きリーファーはヘッドになりやすい。 | 収穫・ホリデーに合わせて短期の跳ね。 | カリブのトランシップ頻度、ローカルチャージ、港のゲート運用。 |
アジア⇄中南米(WCSA/ECSA) | WCSA/ECSA→アジア | アジア→南米がヘッド。Backhaulは割安だが所要長め。 | パナマ/スエズの状況でダイヤ一斉遅延。 | コネクション前提。水位・迂回の影響を事前に織り込む。 |
欧州⇄中東 | 中東→欧州(ドライ) | 欧州→中東がヘッド。 | イスラム暦のイベントで通関・配送に変則。 | 曜日運用やセキュリティ検査の差異を確認。 |
イントラアジア | 地域ごとに変動 | 週次で潮目が変わりやすく、固定的なBackhaulは少ない。 | 祝祭日・工場カレンダーに敏感。 | CFS最小ロット、ローカル休日、フリータイムの短さに注意。 |
事例で確認:ニトリの北海道米対中輸出とBackhaul活用の実像
国産米の海外販路開拓に関する議論の中で、「ニトリが中国に米を輸出している=継続的にBackhaulで運んでいる」と受け止められる場面があります。ここでは、公開情報と同社の説明に基づき、事実関係を整理します。
まず前提として、北海道産「ななつぼし」を中国向けに試験輸出した事実はあります。報道では小樽港からおよそ55トン規模が出荷され、家具・生活雑貨の中国→日本向け輸送で発生する空きコンテナ(Backhaul)を活用したとされています。目的は現地での嗜好調査や販路検証で、実証的な位置づけでした。
一方で、同社はその後の継続的な米の輸出は行っていないと説明しています。試験輸出は農林水産省が推進する「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」の枠組みを活用したもので、特定の販路に対する商用定常輸送ではなく、港湾利用の実証の性格が強かったという位置づけです。現在、同社グループが中国向けに取り扱う北海道産品は、酒類や加工食品が中心です。
Backhaulの典型的な“使い所”と“限界”
実務の観点では、これはBackhaulの典型的な“使い所”と“限界”を同時に示しています。帰り便の空きスペースは確かに原価を抑える機会になります。ですが、継続運用には現地の恒常的な需要、品質規制適合、定温・湿度管理、衛生検査(CIQ等)への対応、現地流通での棚確保など、多数の条件がそろう必要があります。米のように品質管理や表示要件が厳格で、価格弾力性が小さい商材は、Backhaulだからといって自動的に成立するわけではありません。
中小の荷主が教訓として持ち帰れるポイントは三つあります。
- Backhaulは“割安な船腹”という資源であって、需要創出や規制対応を代替するものではないこと。
- 実証段階で得た知見(保冷・除湿、検疫・残留基準、現地表示、関税・通関)を次のロット計画に反映できる体制がなければ、単発で終わりやすいこと。
- Backhaulで成立しやすいのは、賞味期限が長く、温度感受性が低く、価格競争力に余力のある商材(例:酒類、調味料、乾物、嗜好品)であることです。
Backhaul運賃はスポットとタームの差が大きい。
Backhaul運賃はスポットとタームの差が大きく、需要低迷期なら目線が下がる一方、リポジション都合で急に締まることもあります。
供給側(船社・NVOCC)と四半期ごとに見積を取り直し、CY・CFSの混載可否とVGM、デバン場所の合意を書面化しておくと、現場の手戻りが減ります。また、中国港は規制・混雑の変動が大きいため、審査負荷の低い港(例:煙台、青島、厦門など)を含めた複数航路の逃げを設計しておくとリスク分散につながります。
日本ファクトチェックセンターによる取材記事(同社の「2022年1月に1度のみ」「現在は米の輸出なし」との回答を掲載)
ニトリグループ(ニトリパブリック)による北海道産品の中国向け輸出支援に関する案内(現行の主力は酒類・加工食品)
まとめ(要点)
- Backhaulは戻り方向の需給差を使って運賃を下げる実務手段です。
- 適用は「納期に余裕」「価格重視」「地理的に戻りが成立」の案件に絞ると効果が出ます。
- 見積もりは価格と同時に条件(所要、ロール時対応、フリータイム、CYカット等)を文章で比較します。
- 温度管理や高付加価値品で使う場合は監視と代替手順、保険の確認を先に整えます。
- 社内テンプレートと月次レビューでナレッジ化し、営業・購買・物流の三者で運用します。

