貿易業界には、荷主がフォワーダーや通関業者などに、輸入税(関税や消費税)の立替をお願いする悪習慣があります。昔から当たり前のように行われていることであり、貿易業界にとっては至極当然のことです。
しかし、通常のビジネスの世界では、金額の大小、時間の長さに関わらず、人のお金を拘束することは、拘束料(利子)がかかることが当然です。貿易業界が異状です。
そこで、この記事では、立替金の慣習の紹介、公正取引委員会の見解を含めて、荷主として考えておきたいことを共有したいと思います。
輸入税を立て替えさせる荷主とそれに甘んじるフォワーダー
関税等の立替払いとは?
関税等の立替払いとは、貨物を輸入する際、荷主が負担するべき諸費用(関税、消費税、船社チャージ等)をフォワーダーや通関業者等が立替払いをすることです。しかも、立替金の手数料はゼロ。一方的にフォワーダーや通関業者等がリスクを負担しています。
関税等の立替が発生する流れ
- 輸入者が商品を輸送してくる。
- フォワーダー又は通関業者が輸入申告をする。
- 許可になるタイミングで、通関業者等の名義の口座から輸入税が引かれる。
- 輸入許可の時点では荷主は、税負担はなし。
- 通関業者等は、輸入許可後、指定配送先(荷主が指定する場所)に到着させて完了
- 許可後から約10日以内に荷主から通関業者等に立替払い分を支払う。
関税立替払いの問題点
輸入税の立替え払いには、次の2つの問題を含みます。
- 通関業者等のキャッシュフローを悪化させる。
- つぶれるべき企業(ゾンビ企業)の援助
1.通関業者等のキャッシュフローを悪化させる。
通常、人の資金を拘束するときは、必ず利子の支払いが求められます。貿易業界で行わている関税の立替払いは、この利子という概念が全くありません。しかも何十万、何百万円ものお金を無利子、無担保で立て替えてもらっているのです。(荷主側の視点)
一般的には、立替金は、通関業者やフォワーダーが無料で立替払いをした後(通常、輸入許可日を基準)、1週間から10日以内に支払う約束をしていることが多いです。当然、荷主によっては、約束通り支払う所もあれば、破る所もあります。これは、過去、私自身が支店長に叱られながら、立替金の回収電話をしていたことがあるため事実です。
しかも期日通りに回収できても、立替払いしている側(フォワーダーや通関業者側)には、何もメリットがないです。単にゼロに戻るだけです。であるにも関わらず、2024年現在も未だに続く不思議な仕組み、それが輸入税の立替払いです。
2.つぶれるべき企業(ゾンビ企業)の援助
日本政府が出す補助金にも似ています。補助金や助成金は、起業を応援する一方、本来、つぶれるべき企業を援助しているとも言われています。実は、立替金もこの性質に似ています。
ちなみに…関税の立替払いを要求する荷主は、次の2つに大別されます。
- 輸入税を払えるけど、あえて立て替えさせている。
- 輸入税を払えないから、立て替えてもらっている。
上記の内、1番は、戦略的にしているため、問題はないです。ゾンビ企業とは、2番目の荷主のことです。
輸入時に手持ちのキャッシュがないから、人のお金を利用して輸入します。(立替払いをさせる)輸入後、日本国内での販売が完了し、代金を受け取ってから、輸入税の立替金を支払います。
- 日本での販売代金の回収
- 日本に輸入するときの税を支払う。
この1~2を繰り返しています。当然、このような自転車操業を続けていれば、財務状況が悪化しやすいです。実際、私が通関業者にいたときも、このような「自転車操業荷主」の破産を目にすることもありました。
立替金を前提にする輸入ビジネスはリスクが高い。
他、立替金制度には、資産譲渡の問題(所有権の留保)もあり!
他、立替金払いには、資産譲渡の問題もあります。貨物の所有権があやふやです。
例えば、ある輸入者が商品を輸入したとしましょう。この時の国際輸送と立替払いをフォワーダーがしました。つまり….
- 輸入者は、商品にかかる全ての費用を支払っていない。
- フォワーダーは、商品にかかる輸入諸税などの一部を負担している。
- まだ、立替払いの回収が終わっていない。
- 輸入者は、立替金が未払い状態の所有物を勝手に売却した。
このような場合、本当に所有権移転上の問題がないのかが不明です。ちなみに、クレジットカードの場合は、カードを使い決済した金額が無事に引き落とされるまでは、クレジットカード会社が「商品の所有権を留保する」と決めらています。
となると、この考え方を立替金に当てはめると、輸入者が立替金を支払うまで、フォワーダーが貨物の所有権の一部を留保すると考えられるのではないでしょうか?
公正取引委員 関税の立替払いに関する見解
では、この件についてお上は、どのように考えているのでしょうか?
関税等の立替払い問題は、公正取引委員からも問題との見解がでています。
荷主が通関業者に対し、輸入貨物の関税・消費税の立替え払いを要請することは、独占禁止法上の優越的地位の濫用の観点から問題につながるおそれがある――。通関業者による関税・消費税の立替え払いについて、公正取引委員会の見解が明らかになった。当該荷主との取引数量や取引額の増加など立替え払いよって得られる「直接的な利益」が通関業者に明示され、それが立替え払いの負担を上回っていなければ、不当な経済上の利益の提供要請とみなされる可能性がある。
引用元:カーゴニュース
例えば、荷主の立場から、取引を続けるために「立替払いをしろ」と要求をしたり、立替払いの期間を長くしたりするなど、取引上の有利な立場を利用し、立替払いを迫る行為又は有利に仕向ける行為は、独占禁止法違反に該当する可能性が高いです。
ここからは、上記を踏まえて荷主側とフォワーダー側で考えるべきことをご紹介していきます。
荷主側で考えるべきこと
荷主側は、そもそも立替金に頼らない経営を目指すべきだと思います。貿易業界の当たり前は、完全に異状です。輸入税は、本来、荷主が直接、支払うべき税金です。その支払いを少しでも引き延ばしキャッシュフローを改善するのはやめましょう。
正直、立替金を求める荷主は嫌われます。基本は、リアルタイム口座を用意して、自社の口座からすぐに引き落とされるよう準備するのが賢明です。なお、リアルタイム口座は、個人でも簡単に開けます。個人だと開けないとのデマがありますが…..
キャッシュフローを改善する場合の4つの方法
とはいえ、少しでもキャッシュフローを改善したい場合は、次の方法を試しましょう!
- 延納サービスを利用する
- 関税の立替払いサービスを利用する。
- 輸入許可前引き取り承認
- 保税倉庫保管、適宜、輸入
例えば、1番の延納サービスは、税関に担保を預けることで、一定の期間、関税等の納付を猶予してもらえます。もし、延納制度を避けたい場合は、次の関税立替サービスを検討します。
関税立て替えサービス
関税立て替えサービスは、輸入者と通関業者の間に第三の会社(佐川フィナンシャルなど)が入り、通関業者に対して関税などの立替払いをします。
具体的には、輸入者と佐川フィナンシャルは、月末締め、翌月27日の取引を結びます。
例えば、10月1日、15日、20日の三回分の輸入が行われたとすると、輸入者は、その間の関税や消費税をまとめて11月27日に支払います。
他方、通関業業者は、輸入者との取引金額を佐川フィナンシャルに申請することで、諸掛り、関税や消費税などを含めて、佐川フィナンシャルから資金を受けとります。関税立て替えサービスは、輸入者、通関業者、佐川フィナンシャルがうまくやり取りをして、関税支払い時のリスクを小さくしつつ、迅速な通関取引を実現するサービスです。
フォワーダーや通関業者側で考えるべきこと
本質的に立替問題を解決するには、業界全体で立替金払いを中止することです。ですが、昔からある慣習の為、やめることは難しい現実があると思います。その中でできることと言えば、少しずつリアルタイム口座に切り替えてもらうくらいだと思います。
「関税の立替払いをやめる」と伝えたら、じゃあ、他の業者に行くから~と言われるのがこわい気持ちもわかります。ですが、やはり、関税の立替払いは、少しずつ縮小した方が良いと思います。
万が一、関税の立替払いについて荷主側から理不尽な要求をされた場合は、取引を打ち切る覚悟を持って、業界の正常化のために、公正取引委員会に相談して頂きたいです。
- 優越的地位の濫用に関する証拠を保全(メール、音声など)
- 社内会議
- 公正取引員会に相談
まとめ
- 立替金制度は、非常に問題点が多い。
- 立替金をやめても利益がとれるビジネスをするべき
- 立替金の本質的な問題点を理解するべき。
- その上で、立替をするのか?しないのかを判断するべき
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