フロリダ半島の先端、プエルトリコ、バミューダ諸島を結ぶ「バミューダトライアングル」では、昔から航空機や船舶が沈没したり、行方不明になったりすることで有名です。日本近海であれば、2014年4月に発生した韓国のセウォル号の沈没が記憶に新しいです。このことから、船舶事故は、現代においても発生することがわかります。
貿易をする者にとって、海上輸送は大量の貨物を運ぶための唯一の手段です。コストと運べる量のバランスを考えると、航空輸送のみでは厳しいです。
しかし、海上輸送には、必ず船が沈没する可能性があります。
貿易では、船の沈没に関して特別な考え方があります。それが「共同海損(きょうどうかいそん)」です。一言で言うと「誰かの”イタミ”をみんなで分担する」という考え方です。昔から存在する仕組みではありますが、よく考えられていると感心します。
そこで、この記事では、共同海損の概要、事例などを説明していきます。
共同海損制度の概要
誰かが痛みを受けるとき、その痛みを皆で分けるのが「共同海損」の考え方です。
共同海損の意味
共同海損とは、万が一、貨物船が沈没又は、沈没するかもしれない状況又は、予測できない事態に対処した(海賊に遭遇、戦争勃発)ときに、一部の荷主の貨物を海に捨てたり、事態に対処するために費用を支払ったりしたら、それを全員で負担することです。
気象条件の悪化により船が沈没しそう
例えば、貴社の商品がコンテナ船で輸送中であるとします。日本を出てベトナムまでは順調に航海。
しかし、シンガポールにおいて大型の台風に遭遇。台風は、予想以上に強く、大波により今にも船が沈没しそうです。この状況の中、唯一助かる方法が船の重量を小さくすることです。このとき、船会社は「船全体が被害を受けないように、一部の荷主に犠牲になってもらおう」と考えます。
この犠牲とは、海に貨物を投げ捨てられることです。つまり、一部の荷主の貨物を海上へ捨てることにより、コンテナ船全体の沈没を避けることです。投げ捨てられる貨物は、どの荷主の物かはわかりません。すべて現場の状況により判断されます。もしかすると、あなたの貨物が投げ捨てられるかもしれませせん。
そして、共同海損とは、貨物を投げ捨てられた荷主の損害額を「投げ捨てられなかった荷主が分担して負担する仕組み」です。
例えば、Aさん、Bさん、Cさんがいるとします。共同海損が宣言されたことにより、100万円の価値があるAさんの貨物が投げ捨てられました。この場合、Aさんの被害額100万円を同乗のBさん、Cさんで分担します。
ソマリア沖で海賊につかまる
共同海損は、沈没だけではないです。
例えば、ソマリア沖で海賊につかまった。これに対処するための費用を共同海損として扱うこともあります。海運輸送上、予測できない事態が発生した際、共同海損として幅広く適用される可能性があります。
共同海損が行われるかどうかは、どのように決められるのでしょうか?
共同海損の宣言
例えば、船舶に重大な危険が発生し積荷を捨てるしかない場合は、船会社から「共同海損の宣言」が出されます。宣言が出された場合、各荷主は、自分の貨物が投げ捨てられる可能性を含めて準備をします。
運がよく貨物が投げ捨てられなくても「投げ捨てられた貨物の損害額」をすべての荷主が負担します。誰かが得することはないです。全ての人が平等に損害を受け入れる義務があります。具体的には、船会社が「共同海損の宣言」をすると、各荷主に対して共同海損による供託金やLG(銀行の信用状)の提出を求めます。その後、この供託金は、貨物を投げ捨てられた荷主へと支払われます。
共同海損が成立する要件
共同海損の考え方は「ヨーク・アントワープ規則」がもとになっています。このアントワープ規制の中では、共同海損の成立要件を以下の4つとしています。危険が目の前に迫っており、これを解決するために他に適当な手段がない場合に限り行うとしています。
共同の危険が現実に生じていること
共同の安全のための行為であること
故意かつ合理的な行為であること
犠牲および費用は異常なものであること引用元:ウィキペディア
共同海損に至る事例
共同海損に至る事例をいくつか確認してみましょう!
2021年、マルタ船籍への海賊事件
2021年3月には、ベナンのコトヌー沖212海里で、マルタ船籍の化学タンカーが襲撃され、乗組員15人が誘拐される。これを解決するための復旧費用として共同海損が宣言された。
2021年、エバーギブン号(Ever Given)事件
エバーギブン号がスエズ運河で座礁し、運河全体を約6日間にわたり封鎖。座礁を解除するための費用や運河管理会社への損害賠償の支払いに関して、共同海損が宣言され、船主と貨物所有者が損失を分担することになる。
2023年以降、リチウムイオン電池による火災事故
コンテナ船でリチウムイオン電池を含む貨物の火災事故が発生。これに対する共同海損が宣言されました。
事例1.挫傷したときに、救助船を使用
挫傷とは、船が浅瀬に乗り上げることです。船が浅瀬に乗り上げると、身動きを取れなくなるため、専用の救助船を依頼します。このときにかかる費用もみんなで負担します。これについては、なんとなく理不尽です。そもそも挫傷というのは、船会社の航海上のミスで起きるのではないのかと疑問に感じます。
事例2.挫傷したときに、積荷の一部を捨てる
一部の貨物が犠牲になり、その損失額を他のみんなで分担することです。
事例3.船舶上での火災時に注水して消火にあたった
船舶上で火災が発生して注水などによって消火したとします。このとき、水浸しになってしまい商品価値が大きく減少することがあります。このような場合も損害額を皆で負担します。
事例4.船舶上での火災時に、消火のために浅瀬に乗り上げたなど
致命的なトラブルを解決するための「イタミ」を皆で分担します。
- 悪天候や高波による船舶の揺れによるコンテナの損失
- 船上での火災や爆発
- 船舶の衝突によるコンテナ損傷や海洋汚染
- 船舶の座礁や沈没
共同海損の負担分は海上保険でカバー
共同海損が宣言されると、該当の船に積んでいる全ての荷主は、共同海損による犠牲になった貨物の損害額を分担します。もし、海上保険に入っている場合は「損害額の分担金」についても支払いの対象です。
保険の例:Free of Particular Average
必ず海上保険には加入しましょう!
関連記事:海上保険とは?
まとめ
海上輸送中、何らかの理由により目の前に「大きな危険」が発生しました。これを回避するために「共同海損を宣言」して、一部の荷主の積荷を海に捨てる必要があります。このとき、荷物を捨てられた荷主であれば、貨物を全て失ったことにより、大きな損失になります。しかし、ご安心ください。
共同海損では、犠牲になった貨物の損失額を「その犠牲によってメリットを受けた他の荷主」が分担して支払うことになっています。少し特殊ではありますが、貿易業界では一般的な考え方になります。
この記事をお気に入りに登録