国際貿易における主要な輸入規制手段である関税割り当て(タリフクォータ)と輸入割り当て(輸入クォータ)。両者は一見似ているようで性質が大きく異なります。関税割り当ては一定量までは低関税、それを超えると高関税が課される二重関税制度である一方、輸入割り当ては輸入量に直接的な上限を設定する数量規制です。本稿では、これら2つの貿易政策手段の仕組みと特徴、そして各国の経済にもたらす影響について解説します。
- 関税割当は、国内産業を保護する目的がある。
- 関税割当は、一次と二次の税率がある。それぞれは、日本全国で「枠」として設定されている。
- 枠の量は、輸入品目等で細かく規定されている。
- 関税割当の管轄は農林水産省及び経済産業省
- 関税割当の枠で輸入を希望する業者は、毎年3月頃に発行される「枠」を確認する。
- 各社は、自社で輸入ができるように枠を申請する。
- 関税割当は、EPAの中にも存在する。
関税割当とは?
「関税を割り当てる?」この表現に疑問を持たれる方も多いはずです。関税とは、日本へ商品を輸入するときに、商品ごとに決められている所定の税金です。輸入者は、この税金を日本税関へ納めることによって、輸入が許可されます。では、この関税を割り当てるとは、どのような意味なのでしょうか?
関税割当を正確に表現すると「関税を安く輸入できる数量枠を皆さんに割り当てますよ」という意味です。安く輸入できる枠と聞いても、なかなかピンときませんね。すでに説明している通り、革製品には、一般的な商品よりも高い関税がかかります。
例えば、革製品の中で最も一般的な物は「革靴」です。これを日本に輸入するときは「30%または一足4300円のどちらか高い方」の関税がかかります。一般的な商品の関税が5%など、数パーセントであることを考えると、どれだけ革靴の関税が高いのかがわかります。
どのような理由であれ「国内産業の保護」には変わりません。しかし、この国内保護だけを考えて、高い関税をかけてしまうと、今度は日本の国内需要を満たすことができなくなり、製品価格が上昇します。
- 国内産業の保護
- 国内物価を安定させる
上記を料率させることが関税割当の役割でもあります。国内産業を保護する目的で関税を高くすれば、産業は保護できるかもしれませんが、国内の物価があがってしまいます。一方、関税を下げれば、国内の物価は下がりますが、国内産業へのダメージが大きいです。そこで、このどちらの目的も満たせるように「関税割り当て制度」を導入しています。
関税割り当ては、ある一定の数量に対して低率な関税を設定。一定数量を超える部分は、通常の高額な関税を適用する仕組みです。これによって、ある一定の数量まで国内へ流通させられるのと同時に、国内産業の保護もできます。関税割り当て制度とは、「低率な関税で輸入できる枠」を経済産業省や農林水産省から割り当ててもらうことです。
例えば、今年の低率な関税で輸入できる数量は、全国で400万足とします。これを関税割り当ての申請にきた業者に、実績に応じて割り当てます。A社には、10万足、B社には1万足、C社には50万足などです。割り当てられる数量は、長年の実績者かどうか、新規であるのかによって、異なります。
補足事項:低い関税率で輸入できる部分を「一次税率」、数量以上の高い関税率が適用される部分を「二次税率」と言います。
参考情報:輸入割当と関税割り当ての違い
輸入割当は、基本的に禁止されている品目の輸入を一定数量以下に限り許可する仕組みです。一方、関税割当は、一定の数量以下の品目について低率の関税をかし、それ以上の物には通常の関税をかける仕組みです。どちらも一定の数量というのが基準になっていることがわかります。
これらの決定的な違いは、一定の数量以上になっても輸入できるか、できないか?です。
- 関税割当は、一定の数量以上は、高税率になるだけで数量の規制はない。
- 輸入割当は、そもそも輸入禁止。それを割り当てがある人のみ輸入を許可する仕組み
「割り当て」の言葉で混同しがちですが、中身は全く違うため十分に注意しましょう
関連記事:輸入できないときのリスクを考えていますか?積戻しと滅却処分
関税割り当ての三つの枠とは?
毎年、日本全体で一定の数量まで低率で輸入できる仕組みが「関税割り当て」です。そして、この数量の部分が具体的になったものが「割当枠」です。実は、この割当枠は、次の三つがあります。
- 年度枠
- 保留枠
- 再割当枠
毎年、三月あたりになると、経済産業省などから以下のような「●●年度の割当枠」が公開されます。年度枠の右側をご覧ください。「割当枠の送料に100分の98を乗じた数量」と記載されています。つまり、すでに説明した割り当て枠(例:214千平方メートルなど)のおよそ98%が、この年度枠で配られます。
1.年度枠
年度枠は、毎年四月上旬に申し込みを受け付けている最も大きな割り当てです。この年度枠で全体の割り当て枠の98%ほど割り当てられます。つまり、年間が10000の数値であれば、この年度枠だけで9800が割り当てられます。ほぼ全部ですね。ちなみに、この年度枠は毎年異なるためご注意ください。
平成29年度においては、年度枠の申し込みは、4月5日と6日の二日間だけでした。(実績者は4日が申請日です。)これ以外の日付は、一切申し込みを受け付けてくれないためご注意ください。この時点で残数は、年間10000-9800を引かれた200です。
2.保留枠
毎年、6月と10月に募集される枠です。上記の年度枠の残り200を二回で等分します。つまり、6月で100、10月で100を割り当てます。この時点で年間の割当枠はすべて消化されます。(机上の計算では)ただし、保留枠で募集したとしても、実際は申請数が少なくて、残ることもあります。また、年度枠の残りがある可能性もあります。これらの残った物を再度、割り当てるのが「再割当枠」です。
平成29年度の場合は、6/13日と10/10日に募集されます。
3.再割当枠
割当枠を募集したけれど、申し込みが少なくて枠が余った、割当を受けた人が年度内に返納したなど、なんらかの理由で数量が余った場合に募集される枠です。そのため、残りがなければ、募集の日付が設定されていても再割当枠の募集はされないです。
再割当枠=年間の割当枠ー(年度枠消化数-保留枠消化数+返納数+無効数など)
関税割り当ての対象品目(種類)
関税割り当てが設定されている代表例は、以下の物です。
- 牛馬革(染色したもの)
- 牛馬革(その他の物)
- 羊革・やぎ革(染着色したもの)
- 革靴、生糸、繭
- ナチュラルチーズ
- 麦芽、糖蜜、無糖ココア
- とうもろこし、トマトピューレ&トマトペースト
- パイナップル、その他の乳製品
- 脱脂粉乳、バター、雑豆
- でん粉、イヌリン、落花生、コンニャクイモ、食用油、ホエイ
関税割り当ての利用手順
ここから先は、どのようにして関税割り当てを利用できるのか説明していきます。関税割り当て制度を利用する全体的な流れは次の通りです。
関税割り当てを利用するまでの流れ
- 経済産業省か農林水産省に関税割り当ての申請
- 審査を受けて合格すると「関税割り当て証明書」が発行される。
- 税関への輸入申告のときに、関税割り当て証明書を提出する
この1~3のステップです。
1.関税割り当てを申請する。
関税割り当てを申請します。申請する先は、革系製品の場合、経済産業省へ。農林産品の場合は、農林水産省へ申請します。先ほども述べた通り、関税割り当てが設定されている品目は限られています。経済産業省や農林水産省の説明ページを確認して「そもそも関税割り当ての対象品目なのか?」を確認してください。
2.審査に合格すると関税割り当て証明書を受け取れる。
経済産業省や農林水産省への関税割り当て申請が合格すると「関税割り当て証明書」が発行されます。この証明書を輸入申告のときに税関へ提出します。
もし、通関業者などを利用して輸入申告している場合は、その通関業者へ関税割り当て証明書を送付すればいいです。通関業者に関税割り当てを使って輸入申告をしてもらいたいときは、その旨を伝えるようにしましょう。
3.税関に関税割り当て証明書を提出
関税割り当て証明書は、対象の品を輸入申告するときに、税関へ提出します。税関は、関税割り当て証明書に記載されている数量以下の申告分まで、低率の関税での輸入を認めます。
例えば、関税割り当てが革靴1000足分の証明書だとして、今回の輸入申告では、500足分しかされない場合は、どうなるのでしょうか。この場合、税関は、関税割り当て証明書の裏部分に500足分輸入したことを記載します。これを「裏落とし」などと言います。輸入申告が終ると、この裏落としされた関税証書が返却されてきます。これを繰り返していき、関税割り当てによって割り当てられた数量をゼロまで消化していく仕組みです。
関税割当を新しく取得するときの6つのポイント
- 書類の記載ミスに注意
- 郵送不可!経済産業省へ出向く必要がある。
- 必要な書類は、すべてダウンロードできる。
- 関税割当申請の記入方法
- 関税割り当ての申請日を確認
- 関税割り当てを申請する条件
1.書類の記載ミスには注意
関税割当は、経済産業省や農林水産省に申請することで認められます。輸入をしているからといって、誰でも自由に利用できるわけではないため、ご注意ください。
経済産業省や農林水産省には「関税割当申請書」に必要事項を記入した上で、身分証明書ととも申請します。このとき、提出する書類には、一文字一句たりとも「誤字、脱字、記載内容の不備」があってはいけません。他の民間機関のように「ここを修正してください!」などと言ってはくれません。
2.郵送不可!経済産業省などへ出向く必要有り。
経済産業省などへ関税割り当て申請書を提出するときは、郵送などの方法を用いることはできません。どれだけ遠くの企業であっても、各主要都市にある経済産業省の機関へ「出向いて提出」する必要があります。後から説明しますが、申請できる日もかなり限定的であるため、あらかじめ出向く人の予定を調整しておきます。
3.関税割り当てに必要な書類・記載例はすべてダウンロード
関税割り当てに必要な書類は、すべてサイト上からダウンロード→必要事項を記入→提出という流れです。制度の概要から申し込みの注意点、申込書のテンプレート、記載例など、あらゆる書類をダウンロードします。
経済産業省:書類のダウンロード先 農林水産省:書類のダウンロード先
4.関税割り当て申請書の記入方法
関税割り当て申請書をダウロードすると、エクセルファイルになっています。この中の情報を編集した後、印刷して提出します。入力するシートは、以下の赤枠部分です。青枠、紫枠は連動して入力されるため、入力は不要です。
基本的に背景が黄色の部分をすべて入力します。途中、個人事業主のみと書かれている場合は、その指示に従ってください。すべての入力が終ったら、印刷用シートから書類を印刷します。印刷した書類に捺印などを忘れないようします。何度もチェックして記載内容に誤りがないようにしてください。
5.関税割り当ての申請日と時間を確認
関税割り当ては、必要な書類を記載した後、各地の庁舎へ提出します。しかし、この提出できる日と、提出できる時間も細かく決められています。提出できる日は、毎年3月くらいに公表されており、年度枠、保留枠、再割当枠などによっても提出日が違います。また、提出できる時間もかなり限定的です。
午前10時~11:45分
午後2時~4時まで
6.関税割り当てを申請できる人の条件
関税割り当ては、誰でも自由に申請できるわけではありません。以下の2つの条件を満たします。
- 革関連事業を六か月以上前から行っていること
- 申請日前一年間の間に、少なくても2通関以上を自ら輸入したことがある者
関税割り当てと消化率の件
皮革製品の関税割当消化率
まずは皮革製品の計算をします。割当枠でいうと、以下の赤枠部分を言います。本当は、個々に計算をした方がいいですが、時間的な都合により、三つをまとめて計算しました。三つの割当枠の合計は、1466+214+1070=2750です。よって合計で2750000㎡の割当枠があります。
以下が財務省統計局の2016年4月~翌年3月までの輸入データです。
一番左のHSコードとは、各貨物を数字で表した物です。詳しくはHSコードとは?の記事をご覧ください。㎡は、実際に輸入された数量を表しています。一番右にあるのは、その商品を輸入元の国を表します。空欄になっている部分は、日本へ輸入されていないことを表しています。
ここで表示されている「㎡」の合計数を全体の割当枠数(2750000)で割れば、消化率を計算できます。
HSコード | ㎡ | 主な輸入国 |
4107.91-211 | 543545 | アルゼンチン イタリア 韓国 |
4107.92-211 | 309202 | イタリア ブラジル 英国 |
4107.12-211 | 86805 | イタリア インドネシア ベトナム |
4113.10-211 | 50972 | イタリア パキスタン |
他…続きあり(省略) | 他…続きあり(省略) | |
合計 | 1241106 |
上記の表の「㎡」部分をすべて合計すると、12241106㎡。この数値を先ほどの全体数量(割当枠)2750000で割ると…
12241106/2750000=44.5%です。
この数値だけを考えると、皮革製品の割当枠は「未消化」になっている可能性が高いです。ただ、この計算は、三つを合計して計算をしています。そのため、三つをそれぞれ分解して計算をすると、輸入枠を超えている物もあるかもしれません。あくまで目安としてとらえるようにしてください。
革靴の関税割当消化率
次に革靴の関税割り当ての消化率を計算します。下の表でいうと、以下の赤枠部分です。一年間、日本全体で「12019000足分」が一次税率での輸入が認めれています。
先ほどと同じく以下の表が財務省統計局のデータです。今回は、足の部分を上から下まですべて合計します。同じく空欄のところは、輸入実績がありません。
HSコード | 足 | 輸入国 |
6403.99-013 | 2277914 | 中国 イタリア スペイン |
6403.99-012 | 1763297 | 中国 イタリア ベトナム |
6403.99-022 | 1572291 | 中国 ベトナム スペイン |
6403.91-012 | 873163 | 中国 イタリア ポルトガル |
他続き……あり。 | 他続き……あり。 | |
合計 | 7979785 |
2016年4月~翌年3月までの関税割当を使った革靴の輸入は「7979785足」です。これを割当枠(12019000足)で割ると….
7979785/12019000=66.3%です。こちらもザックリとした計算にはなりますが、革靴の場合も割当枠を消化していない可能性が高いです。
EPAの中にも関税割当が存在
、EPAには関税割当が設定されている物があります。考え方は一般的な関税割当と変わりませんが、EPAの場合は、主に農産品に関税割当が設定されていることが多いです。では、実際にどのように関税割当が設定されているのかを確認してみます。「実行関税率表」もしくは「ウェブタリフ」を使います。
EPAの関税割当を確認する方法
今回は、ウェブタリフで関税割当を確認してみます。1番が品目、二番が協定名(この場合:日メキシコEPA)、三番が「日メキシコEPAで設定されている関税割当」になります。下の画像の例でいうと、品目はトマトピューレやトマトペースト×メキシコ産である場合、日メキシコEPAを使うと、3番の関税割当が適用されることを示しています。
3番の記載内容をご覧ください。「付属書1第2節注釈12に定める….」と書かれていますね。これは、日メキシコEPAの付属書を確認して下さいというこです。では、この付属書を見てみましょう。公開されている場所は、外務省や経済産業省など様々です。ただ、見やすさの観点でいうと「経済産業省のサイト」をお勧めします。
経済産業省のサイトを開いて、確認するEPAを選びます。
今回は、日メキシコの部分をクリックします。すると、この画面が出てきますので、一番上にある「本文」をクリックします。
協定書の本文が表示されます。この本文は、上から一節、二節と説明がされています。先ほどのメキシコ産の物は「付属書1第2節注釈12に定める….」と書かれています。まずは一気に第二節まで読み飛ばしてください。その後、番号が「一、二」と順番に振られているため、この部分を追っていき注釈12まで確認します。それが以下の画像です。ページ数でいうと224ページ目です。(緑丸部分)
割り当て数は、一年間当たり「千メートルトン=1000トン」です。よって、メキシコ産のトマトケチャップは、日本に年間1000トンまで無税で輸入ができることになります。トマトケチャップについては、WTO税率で16%の関税がかかるところ、メキシコ産であれば1000トンまで無税で輸入が認められるのです。
関税割り当ての貸し借りは違法
関税割り当ての貸し借りはすべて違法行為です。この点については、経済産業省の公式サイトで明確に説明されています。とても難しく表現していますが、ようは「自分以外は一切使用できない」ということを伝えています。
1 本関税割当公表において、「割当物品を自己の営業のために「自ら輸入」しようとする者」が関 税割当ての申請者の要件となっている。 2 事実上自己の営業以外のために関税割当ての全部又は一部を使用する、又は、他人に関税割当て を使用させることは、その形式の如何を問わず「自ら輸入」する行為とはみなされない。また、 保税地域における貨物の譲受、委託して行う輸入等に係る証明書の使用も、「自ら輸入」する行 為とはみなされない。
引用元:経済産業省配布資料
関税枠(TQ)を買い取るメールに注意
経済産業省のサイトには、全国の輸入者から「あなたの関税を買い取るという不審なメールが届いている」との報告が入っているそうです。しかも、これらのメールには「貴社の実績として使用する」等のことまで記載されているため、一見すると最もらしく感じます。しかし、このような行為は、すべて違法であるため十分に注意しましょう!
関税割当の枠を貸し借りするのは違法。ただ….
関税割り当ての数量枠等を貸し借りするのには違法行為です。しかし、輸入許可後の取り扱いに指定されていません。ということは、関税割り当て部分の枠を第三者の業者に貸さなかったとしても、通常の「商取引の中」で、やり取りはできます。つまり、関税割当を持っている業者に輸入をしてもらい、それを日本国内で「国内取引」として引き取るわけです。これにより、関税割当の名義貸し等の危ない橋を渡る必要はなくなります。
まとめ
関税割り当て制度のポイントは次の3つです。「1.国内産業の保護と国内物価の安定の2つを実現する制度」「2.関税割り当てを利用できる品目は限られていること」「3.申請できる人は限られている」です。
高い関税を設定すれば、他国からの商品が流通しずらくなり、国内産業の保護につながります。しかし、これは表裏一体の関係で国内物価の上昇につながります。この両方のメリットをうまく取り入れているのが関税割り当て制度です。また、関税割り当てが設定されている品目は限られています。そして、この制度を利用できる人もある一定の条件を満たした人と決められています。色々と細かいルールがあるため、経済産業省と農林水産省の説明ページを熟読することをお勧めします。
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