輸出貿易管理令に指定されている貨物を誰かと取引するときは、その取引相手が「海外消費前提(輸出)であるのか? 国内消費前提であるのか?」を確かめなければなりません。それによって、経済産業大臣の許可がいるのかが変わるからです。そのため、特定の貨物や情報を取引するときは「取引相手としてふさわしいのか?」を審査しなければなりません。これを「取引審査(とりひきしんさ」と言います。
この取引審査は、黒光りしている勢力とつながりがないかを確認して、自社の商品が間接的に「武器開発につながらないのか」を確かめることです。これを行わずに販売(国内販売・輸出含む)などをすると、場合によっては外為法違反にあたります。そこでこの記事では、取引審査の概要、目的など、取引相手を見極める上での確認するべきポイントなどをお伝えしていきます。
どんな企業でも関係する可能性有!取引審査とは?
取引審査とは、特定の貨物を国内や海外に販売するときに、その販売相手が「取引相手としてふさわしいのか?」を自社内で審査することを言います。これによって、本当に販売するべき相手かどうかを見極めて、自社が外為法違反に加担しないようにしています。
特定の貨物とは、輸出貿易管理令の別表1~15に示されている貨物と、16項のキャッチオール規制の要件に当てはまる貨物のことを言います。この中には、明らかに武器や兵器に関係すると分かる物がある一方、決して軍事目的とは言えない物が指定されているときもあります。このように軍事と民生の両方で使える貨物のことを「デュアルユース」と言います。一般企業が該当しやすいのは、このデュアルユースの方です。
取引審査を行うべき対象は、主に海外取引です。
海外へ武器開発につながる物を規制するのが輸出貿易管理令です。これに違反しないために、各企業が取引相手を調べ上げることが「取引審査」です。具体的に取引審査とは、相手の素性チェックと、用途のチェックの2つを行うことです。また、取引審査をするべき対象は、海外との取引がメインになります。これは、そもそもの目的として、取引審査は輸出貿易管理令で問題になりそうな相手との取引を防止することにあるからです。
しかし、自社の商品が国内の相手に販売した後、その企業が「国外」へ持ち出すことも考えられます。そのため、販売する相手が国内取引であったとしても「その相手が国外に持ち出す可能性はないのか?」「海外と黒いつながりがある相手ではないのか?」を確認することが必要になります。つまり、国内販売をするとしても海外に輸出される可能性があることを想定しておく必要があります。
取引審査で行う2つのチェックポイント
取引審査をするときに考えるべき2つのポイントは「相手の素性」と「使用用途」です。また使用用途のチェックの中には、相手が国内で使用するのか? 海外へ輸出するのか?を確認することも含まれます。
相手の素性チェックとは、何らかの圧力を加える団体に属していないのか?を確認することです。また、あわせて海外とのコネクションがあり、輸出しやすい環境をもっているのかを確かめます。
使用用途のチェックとは、取引相手が「どのような目的で製品を購入するのか?」を確かめることです。このとき、注意したいことは、販売する相手の使用用途が必ずしも規制の対象になるわけではない点です。この場合の使用用途とは、輸出する貨物の「最終需要者」の使い方のことを言っています。
例えば、あなた(A社)は、国内にあるB社に車のパーツを販売します。B社は海外にあるC社に対して輸出します。海外のC社はさらにD社に販売をします。D社は自社工場で「軍事的な車の生産」をしたとします。この場合、A社のパーツの最終需要者は、D社となり、間接的にD社へ供給したA社の部品は、輸出貿易管理法の規制対象になります。つまり、A社は最終需要者であるD社の使用用途を確認した上で、B社に対して「輸出貿易管理令の対象品であること」を伝えなければなりません。
使用用途チェックの補足 国内で使用されるのか? 海外へ輸出される予定なのか?が重要です。
販売相手が国内で使うのか、輸出する予定なのかを確認します。国内で使うときは、取引審査上の問題はありません。一方、海外へ輸出するときは、自社の貨物が「輸出貿易管理令で問題がないのか」を確認します。これを「該非判定(がいひはんてい)」と言います。該非判定の結果、輸出規制の対象であることがわかったら、取引相手に「リスト規制の対象になっている旨」を伝えます。(経済産業省の許可を受けない限り輸出できないこと)
取引審査は、販売する相手に何かしらの問題がないのかを調べたり、輸出しないかを調べたりすることです。また、この取引審査と合わせて該非判定などを行うこともあります。では、仮に相手が輸出する前提で、商品を購入する場合は、メーカーとしては、どのようなポイントを考えればいいのでしょうか?
もし、相手が海外へ輸出するときは、どうしたらいい?
自社(メーカー)の販売相手が海外に輸出する前提で商品を購入するときは、自社商品について「輸出貿易管理上、規制されていないのか?」を調べる必要があります。もし、該当する場合は、その旨を販売相手に伝えるようにします。そこから先の手続きは、輸出しようとする人(販売先の相手)が行うため、メーカーとし行うべきことは「該非判定書(がいひはんていしょ)」を販売者に提出するくらいです。
では、それよりも前の段階であるメーカーが行う「輸出貿易管理上、規制されていないのか?」は、どのように行えばいいのでしょうか? これを行うときは、次の2つの観点から確かめるようにします。「1.リスト規制に該当する?」「2.キャッチール規制に該当する?」 この2つの観点のうち、どちらかでも該当する場合は「経済産業大臣の許可が必要であること」を販売先に伝えるようにします。
ちなみにキャッチール規制とリスト規制が何かわからない方は「キャッチオール規制とリスト規制のまとめ」をご覧ください。
キャッチオール規制とリスト規制は、どのように判定をすればいいのかをお伝えしていきます。これら2つの規制は別々のものです。最初にリスト規制で該当してないのかを調べた後、キャッチール規制に該当しないのかを調べるようにします。
1.リスト規制に該当するか調べる手順
輸出する貨物のスペックなどを基準にして、輸出貿易管理令のリストと照合していきます。このリストとは、下の表中に掲載されている貨物のことをいいます。この表と販売する予定の貨物を照らし合わせると、次の3種類に分類されます。「1.該当」「2.非該当」「3.対象外」です。
該当とは、リスト規制されている表の中に貨物が含まれることを言います。この場合は経済産業大臣の輸出許可が必要です。
非該当は、リストに規制されているけれど、スペックなどにより、基準以下である場合の貨物のことです。また、対象外とは、そもそもリストによって規制されていないことを示しています。この場合、どちらも輸出貿易管理令の規制外になります。ただし、リスト規制で対象外であっても、この後のキャッチール規制に該当するのかを確かめる必要があります。
輸出貿易管理令別表 | 規制品名 | 代表例 |
1項 | 武器やその部分品 | 銃、爆発物、火薬、防弾製品など |
2項 | 原子力関係 | 核燃料物質、原子炉関連品、分離装置、周波数変換器、フライス盤、回転軸、ロボット |
3項 | 化学兵器関係 | 化学兵器の材料になるすべての関連物質 |
3-2項 | 生物兵器関係 | 医療用ワクチン、各種ウィルス、培養容器、遠心分離機 |
4項 | ミサイル関係 | 無人航空機、ロケット、民間航空機、複合エンジン、バイオ燃料、ファイバープレイスメント装置、レーダー、飛行制御装置 |
5項 | 先端材料 | ラミネート、ニッケル合金、チアン合金、耐火セラミック |
6項 | 材料加工 | 軸受、工作機械、フライス削り、コーティング装置、歯車製造機、測定装置 |
7項 | エレクトロニクス | 集積回路、マイクロ波測定器、音響光学効果を利用する信号処理装置、超電導材料、半導体基板など |
8項 | コンピューター | 電子計算機、 |
9項 | 通信関連 | 電子式交換装置、通信用の光ファイバー、フェーズドアレーアンテナ、無線通信傍受、盗聴の検知機能がある通信ケーブル |
10項 | センサー、レーザーなど | 音波を利用した水中探知装置、光検出器、フォーカルブレーンアレー、センサー用の光ファイバ、高速撮影ができる装置、反射鏡、磁力計、レーザー光関係 |
11項 | 航法関連 | 加速度計、ジャイロスコープ、ジャイロ天測航法装置、水中ソナー |
12項 | 海洋関連 | 潜水艦、船舶の部分品、水中から物体を回収する装置、水中用の照明装置、浮力材 |
13項 | 推進装置 | ガスタービンエンジン、人工衛星、無人機など |
14項 | その他 | アルミニウムの粉、火薬の主成分、電気制動シャッター、催涙剤、 |
15項 | 機微品目 | 電波の吸収材又は導電性高分子、水中探知機、ラムジェットエンジン |
16項 | キャッチオール規制 |
2.キャッチオール規制に該当するか調べる手順
キャッチール規制は、リストで規制されていない、その他の貨物を一括で規制する物です。キャッチオール規制に当てはまるかどうかは「1.インフォーム要件」「2.用途・使用要件」「3.不審取引」などがあるのかどうかによって変わってきます。それぞれの詳しい内容については「リスト規制とキャッチオール規制のまとめ」をご覧下さい。
2-1.キャッチオール規制に該当するのかを調べる具体的なステップ
自社が販売する商品がキャッチオール規制の対象であるのかを調べるときは、次の手順で行います。最初に何かしらの引き合いがあったら1から順番に検討していきます。もちろん、すべての項目について検討する必要はありません。1番のステップで「許可は不要」に該当すれば、それで判定は終了です。
1や2の判定の結果、自社の商品が輸出貿易管理令に該当する物であるときは、そのことを販売先へ伝えます。よって、取引審査と、該非判定は、全く別物ではありますが、あわせて行う場合が多い仕組みともいえます。
まとめ
取引審査は、自社の商品を販売しても良い相手であるのかを「使用目的」や「相手の素性」などから確かめることを言います。この目的は、輸出のときに規制される外為法(輸出貿易管理令や外為令)に自社が違反することを防ぐこです。
輸出貿易管理例に違反すると「刑事的、行政的、社会的に大きな罰」を受けることになります。そのため、自社の商品がどのような目的で購入されるのか? 相手は「黒い取引をしている企業ではないのか?」ということを調べる「取引審査」が重要になります。

