外国に商品を輸出するのは、誰でも自由にできます。しかし、すべての商品を自由に輸出できるかというと、そうではありません。「武器の開発につながる製品」を輸出するときは、税関とは別に経済産業省に「輸出貿易管理令の許可」を受けなけばなりません。もし、法律を破り無視すると….
懲役10年以内又は、罰金10億円のどちらか。又はその両方。もちろん、この輸出行為に規模の大小は無関係。誰でも当てはまります。
今回は、初心者向けに輸出貿易管理令の概要と重要なポイントをご紹介していきます。
武器開発を防ぐこと、すなわち世界平和の安定をはかる
関連記事:【輸入貿易管理令】IQ品目など複雑な仕組みを解説!
輸出貿易管理令のポイント
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輸出管理とは?
輸出管理は、世界平和を維持するために、大量破壊兵器や武器など、武器開発につながる様々な機器や原料を規制する法律です。具体的には、輸出者又は輸出産品を製造するメーカが「輸出する貨物が輸出規制の対象ではないのか?」を様々な資料から検討し、輸出産品を管理・運用することです。
武器開発とは?
武器開発の武器とは、武器その物の他、武器を作るための電子機器、工作機械、又は、それらを製造するための技術情報(媒体問わず)などを指します。
例えば、測定装置、遠心分離機、モーター、バルブなどです。これらは、一般的な使い方であれば、特に問題はないです。しかし、軍事開発目的に使うと、武器開発につながる恐れがあります。そこで、民間用途と軍事用途のどちらも使用可能な物を「デュアルユース品」として定めて、個別案件ごとに輸出可否を判断しています。
また、この規制は、商品だけではなく、役務、情報の部分も規制になるのが特徴です。
例えば、○○を製造する図面を提供する。外国の軍事研究者を日本に招き技術指導をする。又は、自社の社員を他国の工場へ派遣して技術指導をするなどです。ハード面とソフト面の両方で広く規制されているため十分、注意が必要です。
規制対象の産品を輸出する人(メーカー)は、自社の商品がこの輸出貿易管理令の対象でないことを確認した後、輸出することが義務付けられています。これは、規模の大小、輸出方法に関わらず、すべての方が対象になるので注意しましょう。
例えば、海外向けのネットショップを運営。海外に向けて小包などで配送をするときも輸出貿易管理令の対象です。もちろん、法令の有無、理解していかなどは関係ないです。ご自身の「行動の結果」として処罰があります。後述しますが、書類送検や一発逮捕等、さらには多額の罰金を課せられる可能性があります。
では、この輸出管理の目的(世界平和の構築)をもう少し一人一人の輸出者レベルで考えてみましょう!
輸出者が輸出管理を徹底する2つの理由
輸出管理を輸出者レベルのお話で考えると「世界の平和?」と聞いても、ピンとこない方が多いはず。では、輸出者にとっての輸出管理とは、どのような意味合いがあるのでしょうか? 大きく分けると、次の2つです。
- きつい罰則を受けたくない!
- 社会的制裁を受けたなくない
1.きつい罰則を受けたくない!
輸出管理の法律で規制されている貨物を無許可で輸出すると「不正輸出扱い」です。罪としては、懲役刑(ちょうえきけい)や罰金刑(ばっきんけい)を受けます。懲役であれば「5年以下や10年以下~」、罰金刑であれば、最高10億円です。輸出者は、このようなきつい罰則を避けるためにも輸出貿易管理令を遵守します。
2.社会的な制裁を受けたくない!
輸出規制されている商品を無許可で輸出すると、罰則の他、社会的な制裁を受けます。代表的なのが「行政処分(ぎょうせいしょぶん)」です。実は、経済産業省のサイトには「輸出貿易管理令に違反した者」を公開するページがあります。経済産業省の公式ホームページでさらし者になるため社会的なイメージがガタ落ちです。
輸出貿易管理令は、世界平和の安定を目的としています。しかし、輸出者一人一人のレベルで考えると、平和というより、輸出管理がされていないことによる罰則や、社会的な制裁の方が怖いとの理由によることが大きいです。
関連記事:どのようなことで輸出管理の法律に違反するのか?よくある三つのケース
外為法と輸出管理の関係
日本は、武器開発につながる技術や製品の流出を防ぐため「外国為替及び外国貿易法」を定めています。この法律を短縮した物が「外為法」です。輸出管理は、この外為法の下にある「政令」として定められています。
- 48条:輸出貿易管理令
- 25条:外為令
それぞれの関係性は、以下の通りです。輸出貿易管理令は、貨物を規制の対象にしています。一方、外為令は、サービスや役務の規制です。なお、この場合の役務とは、技術供与や設計書・仕様書の譲渡や売却、無償移転などが当てはまります。
外為法の条文 | 適用する物 | |
外為法 | 48条・輸出貿易管理令 | 貨物に関する規制 |
25条・外為令 | 役務・サービスや技術提供に関する規制 |
一般企業と管理令の関係
輸出貿易管理と聞いても、次のように考えてしまう方は、意外に多いです。
- 武器の開発につながる物だから、うちには関係ない!
- うちは税関の許可をしっかりとって輸出しているから問題ない!
武器開発につながるのか?は、リスト規制とキャッチオール規制、輸出先など、総合的に判断されます。勝手な「予想」により、輸出貿易管理令に関係ないと考えると、思わぬトラブルにつながります。ちなみに、輸出貿易管理令の許可とは、経済産業省の許可です。税関の許可とは違うため、この部分にも気を付けます。
また、輸出貿易管理令は、輸出企業のみが守る法律ではございません。その製品のメーカーも輸出貿易管理令の規制対象です。具体的には、メーカー等は、輸出企業からオファーがあった場合は、該非判定などをして、自らの製品が輸出貿易管理令上の問題がないかを調べる義務があります。調査の結果「非該当証明書」などを作成し、問題がないことを証明します。
違反ケース・原因と違反時の罰則
輸出貿易管理令に関係する物を輸出するときは、メーカーと輸出者は連帯した責任を負います。
では、どのようなケースにおいて違反になることが多いのでしょうか? 経済産業省関連のサイトでは、過去の「外為法違反事例」としてウェブ上で公開をしています。このサイトを確認することにより、輸出管理の大切さとリスクなどがわかるはずです。
輸出貿易管理令の違反事例
- 2015年5月 中国への炭素繊維(無許可輸出)→逮捕
- 2015年12月 中国 半導体製造装置の部品→ 書類送検
- 2018年 韓国 噴霧乾燥機→逮捕
外為法の違反原因
経済産業省の資料によると、外為法に違反する原因は、次のケースが多いようです。ポイントは、法律を理解していたかどうかではなく、事実が違反要件に該当するのか?で判断することです。つまり「私は知りませんでした~」は、通じないです!
- 法令知識の欠如(該非判定の未実施)
- 社内連携ミス
- 法令・運用の解釈ミス
- 故意・重過失
該非判定とは、自社の商品が「輸出貿易管理令に該当するか?」を調べることです。該非判定の項番間違いは、リストにある商品と、自社の商品を誤った所で判定することにつながります。許可条件とは、許可を受けるに当たり設定されている条件を破ることです。この1~3だけで全体の80%以上の違反が集約されています。
この中で最も大切なことは「輸出貿易管理令は、法律を知っていた、知らなかった」は、一切通じないことです。事実(結果)だけから、違反しているかどうかを判断されます。特に機械系の製品を製造したり、輸出したりする所は、確実に理解しておく必要があります。
外為法の罰則
では、仮のお話として、輸出貿易管理令に違反して輸出した場合は、どのような罰則が待っているのでしょうか?
- 懲役十年
- 罰金:10億円
- 又は、この両方
が課せられます。また、経済産業省の公式サイトにて「違反企業」「違反個人」として掲載されます。もれなく「有名人」になるため、十分に気を付けましょう!
輸出貿易の具体的な規制方法
輸出管理の対象は「貨物」と「その貨物の製造に関する技術や情報」です。貨物を規制する方法は、次の2つです。
- リスト規制
- キャッチオール規制
リスト規制は、規制する貨物を一つ一つリストして規制する方法です。輸出者は、輸出する商品とリストを見比べて該当するのかを検討していきます。しかし、リストになるため、そのリストから外れる物があります。その外れる物をまとめて規制するのが「キャッチオール規制」です。
輸出する貨物がキャッチオール規制の対象なのかは「輸出先の国が日本と同じように、厳格な輸出管理をしているのか?」で変わります。厳格に管理している国のことを「ホワイト国」といいます。もし、あなたが輸出する先がホワイト国であれば、キャッチオール規制の対象にはなりません。
関連疑問:輸出貿易管理令別表第1の16項(キャッチオール規制の対象品目例)
対象品目のHSコードを特定し、下記のコードに該当する場合は、キャッチオール規制の対象です。ソース:経済産業省 もし、輸出HSコードがわからない等の場合は、税関の事前教示制度や経済産業省の相談窓口に問い合わせをしましょう!
- 25~40類
- 54~59、63類
- 68~93、95類
別表とは? リスト規制とキャッチオール規制のまとめ
役務サービス(製造に関する技術情報)とは?
キャッチール規制とは?
別表を素早く確認するためのマトリックスとは?
規制対象の貨物を輸出する方法
輸出する人は、輸出管理で規制されている貨物を輸出するときは、経済産業大臣の許可を受けなければなりません。この許可を受けている前提で、税関から輸出許可がでます。ただし、この許可を受けるには、最初にメーカーが「該非判定」をします。該非判定によって、貨物が次のうち、いずれの貨物にあたるのかを判断します。
- 規制→ 経済産業大臣の許可が必要
- 規制外→規制基準以下の物
- 対象外→規制リストに入っていない物(非該当証明書が必要)
該非判定と非該当証明書とは?
該非判定は、輸出者又は製造者のどちらも可能ですが、通常は、製造者がするのが一般的です。該非判定の結果、輸出貿易管理令の対象外貨物と判断できた場合に「非該当証明書」を作成し、通関時等に提出をします。
該非判定の具体的な方法
該非判定は、CISTECが公開する「項目別対比表やパラメーターシート」を使い確認します。項目別対比表は、法令で規制されている貨物と技術の確認ができます。パラメーターは、品目別にチェック項目をまとめているシートです。基本は、項目別対比表で該非判定をすすめていきます。
輸出先も重要な判断材料
輸出管理は「輸出先国はどこか? 誰に送るのか?」なども重要です。
- 輸出先がグループA(旧ホワイト国)=キャッチオール規制の対象外
- グループA以外は、審査や許可が必要など
特に武器開発が盛んな国への輸出(迂回輸出)を厳しく管理しています。この相手先のチェックで深く関連するのが「外国ユーザーリスト」と「居住者と非居住者」の概念です。
居住者と非居住者とは、基本的には日本人(居住者)と外国人(非居住者)のことです。しかし、この居住者と非居住者の定義には、他にもいくつかの条件があります。この条件に当てはまるなら、日本人でも非居住者となり、反対に外国人が居住者になることもあります。居住者や非居住者の「定義」に当てはまるかがポイントです。
グループAに含まれる国
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
輸出貿易管理の具体的な手順
それでは、上記の内容をふまえて具体的な手順を確認していきましょう。
ここでは、あなたは輸出者。ある機械製品を海外に輸出するとしましょう。
- 輸出したい製品が見つかる。
- メーカーに問い合わせをする。このとき、輸出貿易管理への対応について聞く。
このとき、メーカーにより、2つのケースがあります。
- すでに輸出経験がある
- 全く輸出経験がない。
1番の場合は、輸出したいと伝えれば、該非判定や非該当証明書の発行など、必要な手続きがすべてできるはずです。
問題は、二番のケースです。この場合は、まずは輸出自身でHSコードなどを特定し、リストとの照合や経済産業省の相談窓口でヒアリングをします。この結果、やはり輸出貿易管理令に該当する可能性が高いと判断した場合は、メーカーに次のように伝えます。
「経済産業省のサイトを参考にして該非判定の実施をお願いします!」
商品の売買契約書を結ぶときに、この輸出貿易管理に対応することを条件にするとスムーズにことが運ぶと思います。メーカーは、自社製品のHSコードを特定した後、リスト規制やキャッチオール規制などと照合して、自社商品が輸出貿易管理令に適合しているかを判断します。
- 輸出貿易管理令に該当→経済産業大臣の許可
- 輸出貿易管理令に非該当→非該当証明書の発行
その後、無事に輸出貿易管理令上の問題が解決したら、税関に輸出申告をして、輸出許可を受けます。
申請方法と保存書類
輸出貿易管理令に関する書類の保存期間は、おおむね7年間です。
- 形に残る書類
- 形に残らない書類
形に残る書類とは、インボイスや船荷証券などの貿易書類です。一方、形に残らない書類は、何かについて口頭によって確認した内容を記録した物です。どちらの書類も事後的に問題が発生したときに、弁明するために重要です。
その他、アメリカ産の貨物を再輸出するときの注意点
原産国がアメリカである貨物を輸出するときは、日本の経済産業省とは別にアメリカ政府に手続きが必要です。アメリカの輸出管理は、アメリカ国外であっても適用される「域外適用」のルールがあります。つまり、日本にあるアメリカ製品も、アメリカの輸出貿易管理の規制対象です。
まとめ
輸出貿易管理令は、武器の開発につながる物の輸出を規制する法律です。具体的には、輸出貿易管理令と外為令の2つによって規制しています。輸出貿易管理令は、主に貨物に関する規制をするものです。一方、外為令は貨物そのものではなく、サービスや役務などの提供を規制する法律です。海外へ商品を輸出する人や商品を製造する人は、輸出貿易管理令の基準と合わせて、輸出する商品が規制対象になっていないのかを確認しておく必要があります。


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