基本的に海外への輸出は自由に行えます。しかし、ある特定の貨物を輸出するときは「輸出許可」や「輸出承認」と呼ばれる特別な手続きが必要です。なお、ここで説明する「輸出許可」とは、税関が認める輸出許可とは違います。
この記事では、輸出許可と輸出承認の違いについてご紹介していきます。この記事を読めば、輸出する貨物について「特別な規制」がされているかを判断できます。
輸出が規制されている輸出許可と輸出承認
ある特定の物を輸出するときは、税関とは別に経済産業省の許可や承認がいります。この場合、税関の許可を受けるには「経済産業省の許可を受けていること」が前提です。つまり、税関の許可+経済産業省の許可=輸出可能
経済産業省の許可と承認
経済産業省の許可と承認は、どのような違いがあるのでしょうか?
許可
許可とは、基本的に禁止されている物を個別に「許す=認める」ことです。これは、運転免許と同じです。日本で暮らす、すべての人は車の運転が「禁止」されています。しかし、運転免許を取った人には、その禁止を解除して「許可」しています。輸出許可が必要な貨物とは、禁止されている貨物を「個別に認める」ということです。
輸出承認
輸出承認は、基本的に「規制されている物」を条件次第で解除することです。こちらに指定されている物の方が、一般的な物が多いです。例:しいたけの菌、うなぎの稚魚など。
輸出貿易管理令とは?
税関の許可とは別に、一部の貨物を輸出するときは、経済産業大臣の許可や承認が必要です。法律上は、これらをまとめて「輸出貿易管理令」と呼びます。この中には「輸出許可」「輸出承認」「キャッチオール規制」の三つがルールとしてあります。それぞれの意味は以下の通りです。
輸出許可 | 武器、原子力、ミサイル関連の開発につながるもの | 輸出貿易管理令別表1 |
輸出承認 | 需給調整品、禁制品、国際協定品(ワシントン)など | 輸出貿易管理令別表2 |
キャッチーオール規制 | 大量破壊兵器につながる物 | 経済産業省のガイドライン→自己判断 |
1.輸出許可が必要な貨物
経済産業省の輸出許可が必要な物は、大量破壊兵器や武器の開発につながるものです。武器開発に”つながる物”のには、ポンプ系製品や軸受、光センサーなど機械製品全般があります。このように、一見、何も関係がなさそうな物でも「武器開発につながる物」として規制の対象になります。
海外へ機械系製品を輸出する場合は、輸出許可の対象貨物かを確認しましょう!
輸出許可が必要な物は「輸出貿易管理令別表1」に掲載されています。別表1は、1~15の項目が設けられており、主に工業系、機械系製品が、禁止物品としてリスト表示されています。この中にある16項の部分は、下で説明する「キャッチオール規制」によって、より細かく示されています。
次に輸出「承認」が必要な貨物を確認してみましょう。
2.輸出承認が必要な貨物
輸出承認が必要な貨物は、輸出貿易管理令別表2に掲載されています。ここで指定されている貨物は、国内産業や国内需要との兼ね合いや、国際的に決められているルールに沿って規制している物です。
例えば、国内産業保護の観点であれば「しいたけ菌」があります。日本では、しいたけ菌が高度なレベルで開発されています。仮に、この菌を外国に持ち出して栽培した場合、通常のしいたけ菌を使う場合より、収量が増える可能性があります。すると、当然、外国で栽培した物を日本へ輸出しようと考えます。外国で日本と同じ椎茸菌を使い、さらに圧倒的に安い人件費で生産するとなれば、国内のしいたけ農家が大打撃を受ける可能性が高いですね。
では、もう一つのワシントン条約を考えてみましょう。ワシントン条約とは、絶滅しそうな動物などを保護するためのルールです。具体的には、ワシントン条約で絶滅指定されている動物の革やその他の部位を使った製品のやり取りを禁止しています。(例:革バッグ、革ベルトなどが該当します。)日本は、ワシントン条約に関係する物も「輸出承認貨物」として指定しています。この場合は、外国における協定を根拠にして規制をしていますね。
この他、以下のような貨物が「輸出承認」を必要とします。
ダイヤモンド原石
安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律第2条第1項に規定する血液製剤(原則輸出禁止)
核燃料物質、核原料物質
放射性廃棄物
放射性同位元素
麻薬、向精神薬原材料等
漁船
引用元:経済産業省
3.キャッチオール規制
何かについて禁止することを決めるとします。一般的であれば、それら禁止事項を一覧にまとめることが有効です。いわゆる「リスト」にまとめておくことです。しかし、リスト規制は完璧に機能するかというと、そうではありません。禁止事項をリストに表示することは、逆にリストに表示されていないものは「禁止されていない」と解釈できるためです。これがリスト規制の構造的な欠陥です。
先ほど、輸出貿易管理令別表1には1~15項目に禁止品がリスト表示されています。この1~15以外の物を広く規制するのが16項のキャッチオール規制です。
キャッチオール規制の目的は「武器や大量破壊兵器の開発」につながる物を規制することです。輸出貿易管理令別表1のリスト表示されていない物を規制しています。指定されている物は「キャッチオール規制対象品」に掲載されています。対象品は、下の表に掲げる要件によって適用されたり、されなかったりします。
対象地域(どこへ輸出?) | 用途要件(何の目的?) | 需要者要件(誰に輸出?) | |
大量破壊兵器キャッチオール規制 | ホワイト国以外 | 〇 | 〇 |
通常兵器キャッチオール規制 | 国連武器禁輸国 | 〇 | ー |
ホワイト国以外(国連武器禁輸国以外) | ー | ー |
キャッチオール規制を考える3つのポイント
キャッチオール規制の対象になっているかを考えるときは、次の3つの観点があります。
- どこへ輸出するの?
- 何の目的で輸出する?
- 誰に輸出する?
ポイント1.どこへ輸出する?
輸出する先が問題になります。この地域は、主に3つの区分があります。
- ホワイト国
- 国連武器禁輸国
- 1と2以外のすべての国」です。
キャッチオール規制は、これらの違いによって、後ほど説明する「用途要件」や「需要者要件」の適用が変わってきます。
大量破壊兵器キャッチオール規制の対象イメージ図
通常兵器キャッチオール規制
ポイント2.何の目的で輸出する?
大量破壊兵器や通常兵器の開発のために輸出するのではないか?という目的部分から、輸出商品を規制しています。具体的には、以下に掲げる目的でないのかを確認しています。
①大量破壊兵器等(※1)の開発等(※2)若しくは
②別表に掲げる行為(※3)に用いられるか 又は
③仕向地が別表第3の2に掲げる国・地域(※4)であって、 通常兵器(※5)の開発、製造又は使用のために用いられるか核燃料物質又は核原料物質の開発等
・核融合に関する研究
・原子炉(発電用軽水炉を除く)又はその部分品若しくは附属装置の開発等
・重水の製造
・核燃料物質の加工
・核燃料物質の再処理。引用元:経済産業省
ポイント3.誰に輸出する?
大量破壊兵器などの開発が疑われている外国のユーザーに輸出しようとしていないか?の部分から規制しています。規制の対象を国単位だけではなく、さらに細かく特定の「民間企業」等を名指しで指定しています。
輸出許可と承認の違いのまとめ
輸出貿易管理令は、ある特定の貨物を外国へ輸出するときに、経済産業大臣に許可をもらわなければならないルールです。輸出貿易管理令では、「許可」「承認」「キャッチオール規制」の3つがあります。このうち、許可と承認については、対象の貨物を表示する「リスト規制」が行われています。このリストを補完する目的として、キャッチオール規制があります。
輸出貿易管理令で規定されている商品は、武器の開発につながる物やその他の協定など禁止されている物、または国内産業保護の観点から規制が望ましい物です。特に工業製品を輸出しようとする場合は「輸出許可」や「承認」が必要になる可能性があるため、十分、ご注意ください。



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