関税評価の見落としで重加算税に
輸入取引の現場では、契約変更やキャンセル、再契約といった事態は珍しくありません。ところが、こうした一連の取引に伴う金銭の扱いを誤ると、思いがけず重加算税をかされることがあります。
この記事では、関税等不服審査会の答申第104号をもとに、輸入キャンセル料の扱いを巡って争われた実例から、貿易実務者が学ぶべきリスクと対応を整理していきます。
答申の背景と事案の概要
本件は、日本の輸入事業者が外国の輸出者との間で締結した売買契約を一部キャンセルし、その際に支払ったキャンセル料(違約金)を関税の課税価格に含めず申告していたことが問題となりました。税関の調査によりこの事実が判明し、申告価格の過少を理由に重加算税の賦課処分が行われました。
輸入者は、税関調査後に修正申告を行いましたが、調査後の申告であったため、加算税の免除要件は満たされず、異議申立ても棄却されています。
この審査請求は、課税処分の妥当性、修正申告の適法性、異議申立ての手続きなど、さまざまな論点を含んでいましたが、結果的に税関の処分の大部分が適法と認められました。
課税価格とは?基本と加算要素の確認
関税評価の基本は「CIF価格」、すなわち貨物の価格(本体価格)に加え、輸送費(運賃)および保険料を含めた価格をもとに関税が計算されます。さらに、関税法第4条・第8条では、以下のような項目が課税価格に加算される可能性があるとされています。
- 貨物の売買に関して支払われるロイヤリティやライセンス料
- 輸出者に直接支払われる別払い金(例:契約違反によるキャンセル料)
- 輸入者が無償で供与した金型、設計図、原材料等
形式的に「本体価格」だけで評価するのではなく、取引実態に応じて関連するすべての費用を精査し、必要に応じて加算する必要があります。
キャンセル料は課税価格に含めるべきか?
関税評価において、輸入価格に加算されるべき費用には、売買契約に基づいて実際に支払われた代金の他、貨物に関連する別払い金も含まれます。本件では、輸入契約を一度キャンセルし、再契約を結んだ際に支払われたキャンセル料が、実質的に新契約の価格調整に関与していたと判断されました。
つまり、形式的には一度の契約キャンセルと再契約のように見えても、実態としては価格調整の一環とみなされたため、キャンセル料も課税価格に含まれるべきと結論付けられたのです。

このような「別払い金」は見落とされやすいポイントであり、関税評価に精通していないと申告価格の過少と見なされるリスクが高まります。
税関調査後の修正申告は原則加算税の対象
税関調査が始まってからの修正申告は、税務調査が進行し、更正処分が避けられないと納税者が認識していた場合、たとえ修正申告をしても加算税が免除されることはありません。これは関税法第12条に規定されており、「更正があるべきことを予知してされた修正申告」は、加算税免除の対象にはならないとされています。
今回のケースでも、調査段階で税関職員に取引関連のメールや会計書類を開示したこと、税関からの指摘に基づいて修正申告を行ったことから、「更正があるべきことを予知してされた」申告と判断され、過少申告加算税が適法に課されました。

自発的な修正申告によってリスクを回避したいと考える場合、税関からの調査が入る前に申告を行うことが重要です。
異議申立てと審査請求の対象範囲
本件では、輸入者は異議申立てや審査請求において、「税関の解釈は一面的であり、節税意図はあっても仮装や隠蔽に該当するものではない」と反論しました。
しかし、審査会は明確に「すでに取消された処分」や「異議申立ての決定」については審査請求の対象にならないと判断しています。これは、行政不服審査法において「審査請求できる処分」が限定されているためです。

すでに存在しない処分や単なる手続結果(異議却下など)は、「不服申立ての対象とならない」とされるため、仮に違法・不当と感じても争うことができない点には注意が必要です。
実務上の教訓と社内対策のポイント
本件から得られる教訓は、「形式ではなく実態」で関税評価は判断されることです。契約のキャンセルや再締結、追加費用の支払いといった事象について、書面や会計処理上の整理だけでは不十分で、実質的な取引関係を基に税関が評価することを念頭に置く必要があります。
また、税関調査が入った後の修正申告では加算税が免除されない点、異議申立て・審査請求における訴訟戦略と法的利益の理解など、事後対応よりも事前のリスク予防が何よりも重要です。
社内体制整備においては、以下に留意しましょう。
- 売買契約書、変更契約書
- インボイス、支払明細、送金記録
- メールの送受信履歴、特に価格や契約条件変更に関するやりとり
- キャンセル料や補填金の支払い記録とその説明資料

これらを取引ごとに保存・管理し、必要に応じて税関に開示できる体制を構築しておきます。
判例や法令の理解も実務力の一部
答申書では、最高裁昭和58年10月27日判決(民集37巻8号1196頁)が引用され、重加算税と過少申告加算税の一体的処理に関する法的解釈が紹介されています。
また、関税法第8条(課税価格の構成)、第12条の2(過少申告加算税)、第12条の4(重加算税)、および国税通則法第65条(修正申告と加算税の関係)など、実務上押さえておくべき法令が多数存在します。

関税評価は単なる価格計算ではなく、法的根拠と実務判断のバランスが求められる分野であることを理解しておく必要があります。
分科会の答申書から学べること
まとめ
- 課税価格とは「CIF価格+加算要素」であり、キャンセル料なども含まれる可能性がある
- 税関調査後の修正申告では、加算税の免除が認められないのが原則(関税法第12条の2第4項)
- 異議申立てや審査請求には、対象となる処分の範囲に制限がある
- 書類・メール記録などの証拠保全が調査対応のカギとなる
- 判例や条文の理解が、適切な関税評価とリスク回避につながる
メイン記事
関連記事
◆スポンサード広告