並行輸入でも違法?
商標権侵害に関する輸入禁止の法的枠組みを解説しながら、実際の「第90号答申書」の内容に基づき、貿易事業者として学ぶべき実務のポイントを整理します。
はじめに
本第90号答申書は、2010年12月および2011年1月に税関が行った「商標権侵害貿易貨物」の認定手続の適正性をめぐる事案です。商標権を侵害する物品の輸入は、関税法第69条の11により禁止されており、商品輸入実務における重要なリスク要因です。
事案の概要
問題となったのは、国際スピード郵便により輸入された大量の衣類類貨物です。その中に、日本の商標登録者が持つ商標と同一または類似の標章が付されていることが判明したため、税関は商標権侵害物品に対する認定手続を開始しました。
輸入者は「真正な並行輸入品である」と主張しましたが、並行輸入が適法とされるには
- 外国で商標権者または許諾者が適法に商標を付した商品であること
- 日本の商標権者と外国の商標権者が同一または実質的に同一であること
- 品質管理が同一であること、
という三つの要件を満たす必要があります。
一方、商標権者は「問題貨物は真正品とは形状に明らかな違いがある」「自社または許諾先の製造品ではない」と主張し、税関はこれを認めたうえで関税法第69条の12の規定に基づき、商標権侵害物品として認定しました。
商標権侵害商品の取扱いに関する法的ポイント
関税法によれば、商標権を侵害する物品は輸入禁止とされており、税関はこれをもとに認定手続を実施します。
評価において重要なのは、「業としての行為かどうか」の判断です。本件では、200点に及ぶ大量貨物の輸入や、輸入者が古物商として継続的な販売を意図していたことから「業として」と判断されました。これは、輸入目的・数量・職業・取引内容等を総合的に勘案して決定されます。
また、商標の類似性については、見た目、呼称、観念などを踏まえ、取引実情を考慮したうえで総合的に判断されます。
並行輸入の適法性と立証責任
真正な並行輸入とは、商標権者またはその許諾を受けた者により適法に商標が付された商品であり、かつ日本の商標権者と実質的に同一の出所にあること、さらに品質管理が共通であることが要件とされます。
しかし、これを証明する責任(立証責任)は、輸入者側にあります。本件では、輸入者が第三者からの電子メールの回答をもって正規品と主張しただけであり、商標の許諾や起源を示す証拠は提出されませんでした。税関および審査会は、これを「立証が不十分」と判断し、真正商品の並行輸入であるとの主張は認められませんでした。
税関による個別判断の実務的意義
この答申が示すように、税関は個々の輸入貨物ごとに商標権侵害の有無を判断します。過去に同種貨物が通関していた実績があっても、今回の認定手続には影響を及ぼしません。
また、市場での流通量が多いことも、商標権侵害の可否とは無関係であるとされており、判断基準はあくまで貨物そのものと、その商標表示の実態です。
貿易事業者が留意すべき実務ポイント
輸入前の次の点の確認が重要です。
- 商標の登録状況と類似性の確認
- 真正商品の立証資料(供給元の契約書・許諾書等)の準備
- 税関における認定手続への対応(主張整理・証拠提示)
これらを十分に整備した上で、輸入のたびにリスク評価を実施し、コンプライアンス体制を構築しておく必要があります。
分科会の答申書から学べること
まとめ
- 商標権を侵害する物品の輸入は関税法により禁止されている
- 「業として」の輸入は商標権侵害とみなされやすく、輸入目的・数量・職業等が判断材料となる
- 並行輸入が認められるには三要件(商標の適法付与・出所の同一性・品質管理の共通性)を満たす必要がある
- 並行輸入の適法性に関する立証責任は輸入者にある
- 税関の判断は貨物単位で行われ、過去の通関実績や市場流通量は直接影響しない
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