この記事は、インコタームズの所有権移転に関する誤解を説明しています。
貿易の条件を定義している「インコタームズ」には、危険負担と費用負担の二つがあります。これに関連して貨物の「所有権が移転」と拡大解釈をしている情報が見受けられますが、それは間違いです。インコタームズには、貨物の所有権の移転等は、一切明記されていません。
インコタームズが定義している内容のおさらい
インコタームズに関する基本的な知識は「【図解!インコタームズ入門】どんな条件で貿易をするのか?」をご覧下さい。もう一度、おさらいの意味でインコタームズに定義されている情報と役割について簡単に説明していきます。
インコタームズの役割
住んでいる国、文化、慣習、通貨の違う人たち同士が貿易を行う場合、どうしてもちょっとした「認識の違い」がうまれやすいです。
例えば、輸出品をしっかりと積んだにも関わらず、船が挫傷してしまったとします。このとき「どちらの責任になるのか?」という問題があります。お金を支払うタイミングと実際に物を受け取るタイミングが異なるため、どうしても輸出者と輸入者の責任範囲があやふやになりやすいです。これは、貿易取引上、問題です。そこで、インコタームズを規定しました。
インコタームズにより、輸出者と輸入者は、自分たちに最も適する条件を当てはめて契約していくだけで、責任範囲を明確にしながら取引ができます。
インコタームズに定義されている情報
インコタームズは国際商業会議所が定義している貿易条件であるため、ここに「法的拘束力」はありません。しかし、世界中の貿易会社がインコタームズに沿って取引をしているため、実務上は法的拘束力に近いものがあると考えても良いです。インコタームズには、次の2つの情報が定義されています。
- 費用負担に関する情報
- 危険負担に関する情報
1.費用負担に関する情報
費用負担とは、輸出者と輸入者がそれぞれのポジションで支払うべき費用のことです。
例えば、FOB契約である場合、輸出者は輸出港に停泊している本船に貨物を載せるまでのすべての費用を負担します。一方、輸入者は輸出者によって船積みされた状態から先のすべての費用(例:海上運賃、輸入港での通関代金等)を負担します。
もう一つの例を出します。EXWという条件もあります。これは輸出国の工場で貨物を引き渡す取引のことです。したがって、この場合、輸出者は自社の工場において輸出用に梱包するまでの費用を負担します。一方、買い手である輸入者は、輸出者の工場から引き取ってから先のすべての費用(輸出国の運送費、輸出通関費用、海上運賃など)を負担する必要があります。
インコタームズによる費用負担は、輸出者と輸入者がそれぞれ負担するべき費用の範囲を定義
2.危険負担に関する情報
危険負担とは、輸送する貨物に起こりうる様々なリスクに対して「どちらの負担で対処するのか」を定めた範囲のことです。
例えば、海上輸送中に大しけの影響で貨物の中身がずぶ濡れになったとします。このケースの場合、輸出者や輸入者のどちらが対処するべきなのでしょうか? この場合、EXW、FOB、CIFは、輸入者が責任を負います。
一方、DDPは、輸出者が責任を負います。FOBやDDPなど、インコタームズの条件によって、危険負担を行うべき人が決められています。ただし、何度も申し上げる通り「所有権の定義」は有りません。
所有権の移転はB/L(船荷証券)の移動が唯一の根拠
インコタームズには、所有権の移転は定義されていません。では、所有権の移転は何と関係があるのでしょうか。その答えは「B/L(船荷証券)」です。輸出国において船積みを行うと「貨物を確かに受け取った」という証明書としてB/Lを発行します。これが「有価証券」としての側面を持ちます。つまり、このB/Lの移動を持って唯一の所有権移転が行われます。
海外の取引先と安全な決済を行う方法として「L/C」があります。これは、輸出者と輸入者の間に二つの銀行を設けて、貿易に関する支払いの安全性を高める仕組みです。このときに重要な役割を果たすのが上記で説明をした「B/L」です。この書類を銀行が買ったり、売ったりすることにより、最終的に商品を買った人から、商品を売った人へお金が支払われます。
このように所有権の移転は、B/Lをもって行い、またあわせて契約書において別途記載することが普通です。少なくてもインコタームズによって所有権の移転がなされるというのは、誤った情報です。
その他のインコタームズのよくある勘違い5つ
- コンテナ輸送に「FOB」を使う。
- インコタームズの意味を理解していない。
- 使用するバージョンを確認していない。
- 細かい点があいまい。
- 保険のカバー範囲(リスクレベル)を知らない。
1.コンテナ輸送に「FOB」を使う。
の間違いトップオブトップは、コンテナ輸送に「FOB」を使うことです。FOBとは、本船甲板渡しの名前の通り、売り手が本船に積み込むまでの責任を負う取引です。非常に有名で多くの方が取り入れています。
しかし、FOBはコンテナ取引には不適切です。理由は「売り手のリスク範囲」です。ご存じの通り、コンテナは、コンテナオぺーレーターに渡した後、ヤードで保管されてから本船に積み込みます。
では、仮のお話として、コンテナを搬入後、大震災等が発生。ヤードに保管中にコンテナがなくなってしまった。又は、貨物ダメージが発生したら、誰の責任になるのでしょうか? 売り手ですか? それとも買い手ですか?
答えは「売り手」です。なぜなら、FOBの場合は、本船に貨物を積み込んだ後に、買い手との危険負担が切り替わるからです。つまり、コンテナ輸送でFOBを採用すると、運送人に貨物を引き渡した後から本船に積み込むまでのリスクを売り手が負担しなくてはならなくなります。
本来、FOBとは、バルク貨物などの輸送を想定した物です。コンテナ輸送には、不適切であるため、利用するのはやめましょう。コンテナ輸送には「FCA」又は「CIP」が適切です。
2.インコタームズの意味を理解していない。
売り手と買い手は、必ずしもインコタームズを理解していないです。この場合の理解とは、採用するインコータムズの責任範囲と危険負担の違いです。
例えば、輸送の手配経験が全くないのに「FCA」で取引するなどです。FCAの場合、買い手が国際輸送部分をコントロールできる一方、この手配自体がある種の負担やスキルが求められます。
一方、売り手×DDPで取引する場合は、あなたが輸入国の任意地点までの全ての費用と危険負担をします。このように、採用するインコタームズによって、売り手と買い手の「するべきこと」がかわります。もし、不適切なインコタームズを採用すれば、それが大きなトラブルにつながります。
3.使用するバージョンを確認していない。
インコタームズには「バージョン(新しさ)」があります。2021年現在は、インコタームズ2020を採用しています。もし、貿易交渉をする場合は、必ずインコタームズのバージョンを確認します。
確認したインコタームズは、契約書やインボイス等に「Incoterms 2020」と記載しよう!
4.細かい点があいまいであることを理解していない。
インコタームズは、売り手と買い手のすべきことの「大枠」を決めるルールです。細かい部分は、別に契約書等で決めることになっています。特にインコタームズであいまいになりやすいのが「場所」です。
例えば、EXWの場合、売り手は、工場又は倉庫で商品を渡すだけです。このときは「具体的な倉庫名、工場名等」を記載します。また、DAP取引をするとしましょう。
例えば「DAP TOKYO」の場合は、東京都であれば、どこでもいいと解釈できます。この場合もインコタームズの記載不足が発生していると言えます。
インコタームズのあいまいな部分は、別に契約書に盛り込もう!
5.保険のカバー範囲(リスクレベル)を知らない。
例えば、CIPやCIF(海上専門)などは、売り手が海上保険(航空保険)を付保する義務があります。そのため、買い手としてCIPなどで取引をすれば、ひとまずは、海上保険の部分は安心です。しかし、問題は、海上保険の負担レベルです。
例えば、自動車保険にも様々な物があります。人に対して補償される物。対物保険が無制限の物。弁護士費用を負担してくれるものなです。「自動車保険」といっても、その中身は様々です。
では、話を戻し海上保険の場合は、いかがでしょうか?
「海上保険」であれば、何でもOKなのでしょうか? 輸出者(売り手側)が付保する海上保険の補償範囲は、あなたが求めている内容と同じですか? この点を確認しておきましょう!
まとめ
インコタームズによって定義されている情報は、費用負担と危険負担の二つの情報です。所有権移転に関する情報は定義されていないことにご注意ください。貿易の貨物の所有権は、B/L(船荷証券)がその役割を担っています。この書類を船会社へ提出したり、銀行に提出したりすることにより、貨物を受け取ったり、貿易代金を受け取ることができるようになっています。
この記事をお気に入りに登録
輸出入と国際輸送の手引き
タグ一覧
新着記事の一覧
記事を検索する
種別 | 積み地 | 揚げ地 | 品目 | 輸送モード |
個人 | リマ | 羽田 | 生鮮食品 | 航空輸送 |
個人 | シンガポール | 東京 | ワイン | 相談希望 |
法人 | 惠州市 | 六甲 | 機械 | FCL |
個人 | リマ | 羽田 | 生鮮食品 | 航空輸送 |
個人 | シンガポール | 東京 | ワイン | 相談希望 |
法人 | 惠州市 | 六甲 | 機械 | FCL |