この記事では、はちみつの関税と輸入規制、手続きについて説明をします。
ニュージーランド産のマヌカハニーに代表される「はちみつ」の輸入を検討されていますか? 国産のはちみつは、一キロあたり3000円~5000円が相場です。正直、少し高いですね! そこで、海外からハチミツを輸入できないかと考えます。
そこで、この記事では、はちみつを個人輸入するための手続きをご紹介していきます! なお、最初に結論を申し上げます。
はちみつの輸入は、日本側の関税を削減するためにも、特別特恵受益国/LDC、CPTPP、イギリス、ヨーロッパ、アメリカなどのEPAを利用して輸入を検討すると良いです。(無税)
はちみつ輸入の現状と食品検疫の知識
この記事は、はちみつを輸入し、国内販売する方を想定しています。
はちみつを商売目的で輸入する場合は、次の2つのポイントがあります。
- 天然ハチミツと人造はちみつの定義
- 輸入の価格は、20万円を超える?

ご自身で楽しむために輸入する場合(個人使用目的)は、対象外です。
1.天然・人造はちみつとは?
関税法上、はちみつとは、次の内、いずれかです。
- 天然はちみつ
- 人造はちみつ
当然、天然はちみつの定義から外れる物は、全て「人造はちみつ」です。
- 天然ハチミツ=必要書類が多い。関税率は有利
- 人造はちみつ=費用書類が少ない。関税率は不利
2.輸入の価格は、20万円を超える?
一回の輸入額が20万円以下の場合は、簡易的な税率を適用しても良いです。また、あわせて、後述する必要書類の提出も免除されます。(特定原産地証明書など不要)
天然はちみつと人造はちみつのHSコードと関税率
天然はちみつ
HSコード
0409.00.000
関税率
- 基本税率で30%、
- WTO税率で25.5%
- 特別特恵、CPTPP、イギリス、ヨーロッパ、アメリカ=無税
- ベトナム、モンゴル、オーストラリアは、数量内で優遇税率あり。
人造はちみつ
HSコード
1702.90.290
関税率
- 50%又は25円/㎏のいずれか高い方
- 特別特恵=無税
- CPTPP、イギリス、ヨーロッパ、アメリカ=優遇税率
はちみつの関税を削減する方法
はちみつの関税は、平均20%~30%ほどです。通常の特恵も優遇されないです。そこで2つの仕組みをしっかりと活用します。
- 特別特恵関税
- EPA(経済連携協定)
特別特恵関税とは、世界の国々の内、特に恵まれていない国に対して与えている特別関税率です。多くは無税が設定されています。ハチミツの場合も特別特恵国なら無税です。特別特恵国は、主に50前後の国が指定されています。この中に入っているハチミツであれば、原則、無税で輸入できます。
EPAもお勧めします。EPAとは、日本との間で特別な経済協定を結んでいる国々を指します。これらの国からはちみつを探せば、他の国の物よりも有利な関税率を適用して輸入ができます。特にCPTPP、オーストラリア、ベトナム、ヨーロッパ、アメリカ産品が優遇されています。
はちみつを輸入する場合に必要な書類
- インボイス(輸出者が作成)
- パッキングリスト(輸出者が作成)
- 製造工程表
- 原材料表
- 成分分析証明書(主に天然はちみつで輸出国政府発行のもの)
- 原産地証明書(特恵関税適用のため、必要に応じてFORM A等)
- 特定原産地証明書(EPA利用時に必要)
- 航空運送状(Air Waybill)または海上運送状(Sea Waybill)
- 到着通知書(ARRIVAL NOTICE、海上輸送の場合)
- 輸入元の検査機関発行の品質証明書(残留農薬検査など)

太字は、食品届関係で必要になる書類です。最も簡単に商売目的ではちみつを輸入したい場合は、一回の輸入金額を20万円以下にします。
輸入手順
実際の輸入手続きは、EMS等を使った簡易的な方法と通関業者を使った本格的な方法の2つがあります。いずれの場合も税関の他、食品検疫所が関係します。
- 税関=関税法上の観点で審査
- 食品検疫所=食品の安全性の観点で審査
ざっと説明すると、食品検疫に必要な書類を揃えて、食品検疫所に申請。審査完了後、食品届出済み証が発行されます。その後、税関から輸入許可が出る仕組みです。つまり、食品検疫の合格が前提となり、税関の輸入許可がおります。
ここからは、はちみつの食品検疫に関する詳細を説明していきます。
はちみつの食品検疫制度
はちみつは天然食品として人気ですが、国際取引では抗生物質の残留や加糖偽装などの不正が問題になります。日本の食品衛生法では、残留基準のある薬剤や添加物の混入は厳格に規制されており、輸入時には分析証明や原産地証明の提示が求められるケースも多くあります。
はちみつの輸入リスクと違反傾向
以下のトラブルがあるので気を付けましょう!
- 抗生物質・農薬残留:クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン系、グリホサートなどの違反事例あり。
- 加糖偽装:コーンシロップや砂糖の混入による偽装。カーボン同位体比分析(C4糖検出)で判定。
- 異物混入・発酵:ろ過不十分や温度管理不足による発酵、異臭、異物(蜂片、植物片など)。
過去3年の違反国例:
過去、3年では、以下の国のハチミツで違反が見つかっています。
- 中国:クロラムフェニコール、ストレプトマイシン残留、加糖偽装
- ベトナム:抗生物質残留、加糖偽装
- アルゼンチン:グリホサート残留
- インド:加糖偽装、異物混入
- ウクライナ:抗生物質残留(テトラサイクリン系)
食品検疫所に提出する書類は次の3つ
- 原材料表
- 製造工程表
- 成分分析証明書(天然のみ)
原材料表や製造工程書は、どちらも輸出者(製造者)に作成をお願いします。テンプレートなどはなく、任意のフォーマットでも受け付けてくれます。但し、レターヘッドには、記載するべき事項などがあります。詳しくは、初めての食品輸入の記事をご覧ください。
上記3つの書類を用意した上で、各地の食品検疫所に事前相談をします。
例えば、EMS等の小包で輸入をする場合は、東京方面の食品検疫所に事前相談をして、到着日の七日前の時点から、輸入食品届の申請書を提出します。(トラッキング番号等も合わせて伝える)
EMSでの輸入時は、外装部分に「商売目的で輸入」と大きく表示し、重量は、20キロ程度がオススメです。10キロ以下の場合は、個人使用のハチミツとして、通関されてしまい、そのまま荷物が到着する可能性が高いためです。なお、個人使用で届いたはちみつは、販売が不可です
はちみつ輸入の安全を確保するには?
はちみつの輸入で安全を確保する場合は次の点に気を付けましょう!
1. 抗生物質・農薬残留対策
- 使用薬剤の記録・不使用証明の取得
- 出荷前の第三者検査(ISO17025認定ラボ)で残留分析
- 過去違反の多い薬剤は必ずモニタリングに組み込む
2. 加糖偽装防止
- カーボン同位体比分析(C4糖検出)でコーンシロップ混入を確認
- 原料ロットのトレーサビリティ確立(採蜜日・採取地・養蜂者情報)
- 長期取引先は年1回の現地監査を実施

加糖偽装とは、本来100%天然であるはずの蜂蜜や果汁などに、安価な糖液(砂糖水・コーンシロップ・転化糖液など)をこっそり混ぜて量を増やす行為です。
異物混入・発酵を防ぐための管理
- フィルターやボトリング機器を清潔に保つ
ろ過用フィルターが汚れていたり、詰める機械が不衛生だと、ゴミや異物が混入する可能性があります。 - 保存温度は15〜20℃を維持
高温になると発酵しやすく、品質が劣化します。 - 湿気の多い時期の輸送は注意
輸送中に湿気を吸うと発酵やカビの原因になるため、乾燥剤を入れたり密閉容器を使います。
表示や規格の確認
- 原産国と配合割合を正しく表示
複数産地のはちみつを混ぜた場合は、その割合も表示が必要です。 - 加熱処理や糖類混入の有無を明示
「加熱していない」や「はちみつ以外の糖は使っていない」などをしっかり表示します。 - 有機表示は証明書が必須
有機認証マークを付ける場合は、認証機関が発行した証明書を添付します。
検査命令対象になった場合の効率化
- 事前に分析証明を取る
定期的に輸入するロットは、出荷前に成分分析証明を準備すると、到着後の検査待ちを短縮できます。 - 高リスク産地は出荷前サンプル確認
違反が多い国のはちみつは、輸送前に必ずサンプルを確認し、問題がないかチェックします。
はちみつ輸入で役立つ実務TIPS
- 契約内容を明確にする。
輸入契約書に「抗生物質を使っていない」「加糖していない」ことをしっかり書きます。もし違反があった場合は、損害賠償を求められる条件もあらかじめ決めておきます。 - コンテナの指定
海上輸送の際は、他の荷物の匂いが移らないように、必ず食品専用コンテナを使います。 - HSコードの注意
税関で使うHSコードは、「純粋はちみつ」か「混合品」かで変わります。この違いで税率や検査内容が変わるため、正しい分類が必要です。 - 違反時の対応手順
問題が発生したら、次の順で対応します。- 検疫所に連絡
- 輸出者に通知
- 廃棄・返送・再加工のいずれかを判断
- 社内に報告
- 事前検査の仕組み
輸出国のISO17025認定ラボで出荷前に検査をしてもらい、その証明書を商品に添付します。 - 輸送中の品質管理
季節に合わせて冷蔵または常温コンテナを選びます。40フィートコンテナの場合は、乾燥剤を10〜15kg入れるのが目安です。 - 検査の費用と日数
抗生物質と加糖偽装の検査で、1ロットあたり約5〜7日、費用は6〜9万円ほどかかります。 - ロットの追跡管理
採蜜日やロット番号、検査証明などをQRコードにまとめ、ひとつのシステムで管理します。 - 厚労省データの活用
国別・薬剤別の違反傾向データを毎年チェックし、それに応じて検査回数や監査の重点を調整します。
はちみつ輸入で多い違反国と原因(厚労省データ)
- 中国:クロラムフェニコール、ストレプトマイシン残留、加糖偽装
- ベトナム:抗生物質残留、加糖偽装
- アルゼンチン:農薬(グリホサート)残留
- インド:加糖偽装、異物混入
- ウクライナ:抗生物質残留(テトラサイクリン系)
はちみつ輸入監視の要点まとめ
はちみつの輸入では、抗生物質・農薬残留、加糖偽装、異物混入の3点を徹底管理することが不可欠です。厚労省の違反事例を参照しつつ、現地監査・事前検査・契約条件の三位一体で輸入品質を守りましょう。
- はちみつは抗生物質残留、加糖偽装、異物混入のリスクが高い
- 事前検査と現地監査で品質と安全性を担保
- 厚労省データを活用し、原産国ごとの対策を立案
2025年2月現在 | |
発効済(利用できる国) | シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEP(韓国+中国+アセアン+オーストラリアなど) |
交渉中 | トルコ、コロンビア、GCC、日中韓 |
その他(交渉中断等) | カナダ、韓国 |

■結論
はちみつは、特別特恵が適用できる国(LDC)か、EPAを適用できる国から探すのがオススメ
まとめ
- 関税対策の第一手は、特別特恵(LDC)や各種EPA/CPTPPの活用。対象国なら天然はちみつは実質無税での輸入が可能。
- まず分類を確定:
- 天然はちみつ=HS 0409.00(基本30%/WTO25.5%、ただしEPA等で無税可、要書類多め)
- 人造はちみつ=HS 1702.90.290(50% or 25円/kg高い方、特恵・EPAで軽減、書類は少なめ)
- 20万円以下/1輸入なら簡易税率・一部書類(特定原産地証明など)免除の運用あり。
- 商業輸入の前提で、食品検疫→税関の順。検疫で必要な原材料表・製造工程表・成分分析証明(天然)を事前に準備し、検疫所へ事前相談。
- リスク管理の要点:
- 抗生物質・農薬残留(例:クロラムフェニコール等)
- 加糖偽装(C4糖同位体試験で確認)
- 異物・発酵(衛生・温度管理) → ISO17025認定ラボの出荷前検査+ロットのトレーサビリティで対策。
- 表示の落とし穴回避:原産国/混合割合、加熱有無・糖類混入の禁止/有無、有機JASは証明必須。
- 物流品質:15〜20℃帯の保管、季節で冷蔵/常温を使い分け、乾燥剤(40ftで10〜15kg目安)と温度ログを常備。
- 契約実務:「抗生物質不使用・加糖なし」条項+違反時の賠償条項を明記。
- 想定リードタイム/費用:抗生物質+加糖偽装の分析で5〜7日、6〜9万円/ロット。
- トレーサビリティ強化:採蜜情報・ロット・検査証明をQRで一元管理。
- 監視情報の活用:厚労省の違反データを年次で確認し、産地別に検査頻度を調整。
- 結論:コスト・通関リスクを最小化するには、LDC/EPA対象国からの天然はちみつ+事前検査+正確表示の三点セットが最適解