この記事では、はちみつの関税と輸入規制、手続きについて説明をします。
ニュージーランド産のマヌカハニーに代表される「はちみつ」の輸入を検討されていますか? 国産のはちみつは、一キロあたり3000円~5000円が相場です。正直、少し高いですね! そこで、海外からハチミツを輸入できないかと考えます。
そこで、この記事では、はちみつを個人輸入するための手続きをご紹介していきます! なお、最初に結論を申し上げます。
はちみつの輸入は、日本側の関税を削減するためにも、特別特恵受益国/LDC(発展途上国の中でもさらに恵まれていない国)やEPAを利用して輸入を検討すると良いです。
はちみつの輸入方法
この記事は、はちみつを輸入し、国内販売する方を想定しています。ご自身で楽しむために輸入する場合(個人使用目的)は、以下の解説部分は、関係ないです。誰でも自由に輸入はできます。
はちみつを商売目的で輸入する場合は、次の2つのポイントがあります。
- 天然ハチミツとは何か?人造はちみつとは何か?
- 輸入の価格は、20万円を超えるのか?
1.天然・人造はちみつとは?
関税法上、はちみつとは、次の2つの区分けがあります。
- 天然はちみつ
- 人造はちみつ
天然
はちみつの定義は、次の通りです。
天然はちみつとは、しょ糖分の含有量が全重量の5%以下、果糖の含有量が全重量の 30%
以上のものであって、かつ、全糖分中に占める果糖の割合が 50%以上のものをいう。引用元:税関資料
つまり、上記の定義を満たす物のみが「天然はちみつ」。外れる物が「人造はちみつ」です。まずは、この違いを覚えておきましょう。
2.輸入の価格は、20万円を超えるのか?
次に輸入の総額です。一回の輸入額が20万円以下の場合は、簡易的な税率を適用しても良いです。また、あわせて、後述する必要書類の提出も免除されます。
例えば、EPA税率を適用するための特定原産地証明書、天然ハチミツであることを証明する成分分析書の提出は、20万円以下の場合は、提出が免除されます。
まずは、輸入する額を小さくして、できるだけ簡単に輸入しましょう。したがって、最初の輸入は、あえて20万円以下に抑えるのがオススメです。
天然と人造はちみつの決定的な違いと輸入のしやすさは?
天然はちみつと人造はちみつの決定的な違いは、必要書類と関税率にあります。
- 天然ハチミツ=必要書類が多い。関税率は有利
- 人造はちみつ=費用書類が少ない。関税率は不利
天然はちみつと人造はちみつのHSコードと関税率は?
HSコード | 関税率(2021年現在) | |
天然ハチミツ | 0409.00.000 | 基本税率で30%、WTO税率で25.5% |
人造はちみつ | 1702.90.290 | 50%又は25円/㎏のいずれか高い方 |
*この関税を安くする方法は、後ほど、説明します。
はちみつを輸入する場合に必要な書類は?
20万以下×天然&人造 | 20万円超×天然 | 20万円越え×人造 | 提出先 | |
インボイス | ● | ● | ● | 税関 |
パッキングリスト | ● | ● | ● | 税関 |
B/L | ● | ● | 税関 | |
アライバル(AWB) | ● | ● | ● | 税関 |
製品の写真等 | ● | ● | 税関&食品検疫所 | |
特定原産地証明書 | ● | ● | 税関 | |
天然ハチミツの成分分析書(輸出国政府が発行) | ● | 税関 | ||
食品申請書 | ● | ● | ● | 食品検疫所 |
製造工程表 | ● | ● | ● | 食品検疫所 |
原材料表 | ● | ● | ● | 食品検疫所 |
特に、ニュージーランド産の天然ハチミツは、ニュージーランドの農林省が発行した証明書が必要になるため注意しましょう!
最も簡単にはちみつを輸入したい場合は、20万円以下の簡易に輸入にしましょう!必要となる書類も最小限になります。
結局、天然はちみつと人造はちみつは、どちらがお得なの?
輸入時に天然ハチミツにこだわる理由は、関税率にあります。天然ハチミツの方が税率は低いからです。もう一度、人造と天然ハチミツの関税率を見てみましょう。
- 天然ハチミツ=25.5%(WTO)
- 人造ハチミツ=50%又は25円/KGのいずれか高い方
上記2つのお得度を比較するために、財務省の貿易統計を使います。人造ハチミツのHSコード1702.90.290でデーターを抽出した所、2020年度の結果は、次の通りです。
- 一年間の輸入総額:43,471,000円
- 一年間の輸入量:41433kg
そして、輸入額の50%相当は、21,735,500円、数量ベースの金額(25円/kg)は、1,035,825円です。両方を比較すると、明らかに従価税(50%)の方が高いです。よって、人造ハチミツの輸入は、ほとんど50%の税率が適用されると考えられます。
天然ハチミツと、人造ハチミツのお得度は、天然ハチミツの方が高いです。また、この関税率の違いの他、天然ハチミツと人造ハチミツは、EPAの適用範囲にも違いがあります。
天然はちみつに適用されるEPA例
天然
ハチミツの場合は、特別特恵の無税枠の他、次のようなEPA輸入枠が設定されています。
- メキシコ(関税割当で無税)
- ベトナム(関税割当で12.8%)
- オーストラリア(関税割当で7%)
- TPP(関税割当で12.7%)
- EU(関税割当で12.8%)
- 英国(関税割当で12.8%)
人造はちみつに適用されるEPA例
一方、人造ハチミツの場合は、同じく特別特恵の他、次のEPA輸入枠があります。
- TPP(31%又は、15.91円のいずれか高い方)
- EU(31%又は、15.91円のいずれか高い方)
- 英国(31%又は、15.91円のいずれか高い方)
人造ハチミツと天然ハチミツを比較した場合は、明らかに天然ハチミツの方が関税上、有利です。
具体的な輸入手順
ここまでの説明で人造と天然のメリットとデメリットがお分かりいただけたかと思います。実際の輸入手続きは、EMS等を使った簡易的な方法と通関業者を使った本格的な方法の2つがあります。
- 簡易的な方法
- 本格的な方法
1.簡易的な方法
関税上の違いはありますが、まずは輸入実績を作るために、EMS等で小さく輸入した方が良いです。
ハチミツを輸入する際は、税関と食品検疫所の2つの機関が関係します。
- 税関は、関税等の徴収の側面から審査
- 食品検疫所は、はちみつの安全性を審査
それぞれは別の観点で審査をしているため、相談等も別々に行う必要があります。ちなみに、税関と食品検疫所の関係は、食品検疫所の審査が完了→税関が輸入許可を出す。この通りです。
食品検疫所に提出する書類は次の3つ
- 原材料表
- 製造工程表
- 成分分析証明書(天然のみ)
原材料表や製造工程書は、どちらも輸出者(製造者)に作成をお願いします。テンプレートなどはなく、任意のフォーマットでも受け付けてくれます。但し、レターヘッドには、記載するべき事項などがあります。詳しくは、初めての食品輸入の記事をご覧ください。
上記3つの書類を用意した上で、各地の食品検疫所に事前相談をします。
例えば、EMS等の小包で輸入をする場合は、東京方面の食品検疫所に事前相談をして、到着日の七日前の時点から、輸入食品届の申請書を提出します。(トラッキング番号等も合わせて伝える)
EMSでの輸入時は、外装部分に「商売目的で輸入」と大きく表示し、重量は、20キロ程度がオススメです。10キロ以下の場合は、個人使用のハチミツとして、通関されてしまい、そのまま荷物が到着する可能性が高いためです。なお、個人使用で届いたはちみつは、販売が不可です
2.本格的な方法
一回の輸入が20万円を超える場合は、本格的な輸入手続きをします。この場合、自分で通関をする「自社通関」と通関業者に依頼をする方法があります。一般的には、手間等を考えて、通関業者に依頼する方が多いです。
基本的にEMSでも、自社通関でも、はちみつの輸入手続きに差はありません。必要となる書類も同じです。ただし、通関業者に依頼をすると、食品届や税関手続き及び国内配送まで代行してもらえるため、とても楽です。
以上がはちみつを輸入する方法です。ここから先は、はちみつの関税の削減方法について説明をしていきます。
はちみつの関税を削減するには?
すでに説明をしている通り、はちみつの関税は非常に高いです。平均20%~30%ほどの関税がかかると考えても良いでしょう。他の食品は、無税、又は一桁台の関税しかかからない事をふまえると、いかに、はちみつの関税が高いかがわかります。
どのようにすれば、はちみつの関税を削減できるのでしょうか?
その答えは、特別特恵関税とEPAにあります。
はちみつの関税は、特別特恵とEPAで削減すべし!
とは、後発発展途上国の産品に適用される優遇税率です。ほとんどすべての産品の関税はゼロに設定されています。もちろん、天然ハチミツ、人造はちみつの関税率のゼロです。
例えば、アジア地域において特別特恵関税を適用できるのは、バングラデッシュ、ミャンマー、ラオス、カンボジアなどです。これらの国のはちみつなら、無条件に無税です。
関連リンク:外務省のLDC一覧
また、EPAもお勧めします。EPAとは、日本との間で特別な経済協定を結んでいる国々を指します。これらの国からはちみつを探せば、他の国の物よりも有利な関税率を適用して輸入ができます。
2024年4月現在 | |
発効済(利用できる国) | シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEP(韓国+中国+アセアン+オーストラリアなど) |
交渉中 | トルコ、コロンビア、GCC、日中韓 |
その他(交渉中断等) | カナダ、韓国 |
■結論
はちみつは、特別特恵が適用できる国(LDC)か、EPAを適用できる国から探すのがオススメ
参考情報1:天然はちみつの輸入状況は?
下のグラフは、天然はちみつの輸入状況です。輸入申告価格がベースです。グラフをみると、ベトナム、バングラデッシュ、ミャンマーの1キロあたり200円が底値です。そこからカナダ産へ向けて値段がぐんぐんと上昇しています。
ベトナムは「日ベトナムEPA」で輸入、バングラデッシュ、ミャンマーは「特別特恵を利用して無税」で輸入ができます。次に輸入数量を確認します。
以下のグラフは、日本へ輸入している天然はちみつの原産国を「輸入数量順」に並べたものです。断トツで中国産が多いことがわかります。金額のグラフで出てきたベトナムやバングラデッシュなどは、輸入数量でいうと圏外です。
グラフから導き出される推測
先ほどの二つのグラフから輸入価格の安さでは、ベトナム、バングラデッシュ、ミャンマーなどがランクインしました。しかし、輸入数量でいうと、圧倒的に中国産が多いことがわかります。
もう一度、中国産の輸入価格を確認してみます。中国産は、1キロ当たり約300円です。この価格は、日本の市場に並ぶと、どのように変化するのでしょうか。
以下の画像は「中国産 はちみつ」と検索して出てきた商品の一例です。*1キロあたり300円と、以下の画像の商品の価格に何らの関係はございません。
この数字によると、1キロ当たり700円~1000円前後で一般市場で販売されていることがわかります。中国産のはちみつには、25.5%の関税がかかりますので、輸入する際には、1キロ当たり380円ほどになっています。この価格を基準にして、2~3倍ほどの価格が一般市場で流通している値段です。
先ほど中国産の輸入する量が最も多いことがわかりました。これを逆にいうと、この価格が実質的な「日本国内における外国産はちみつの相場」になっていることがわかります。
参考情報2:TPP11ではちみつの関税はどうなる?
ここからが本題です。TPP11では、天然はちみつ、人造はちみつの関税は、削減されるのでしょうか? TPP11の譲許表(関税を削減する予定を示した表)によると、天然はちみつの関税は、2025年4月1日づけで完全撤廃される見込みです。また、天然はちみつに、砂糖や香料などを添加した「人造はちみつ」は、2028年4月1日付で関税が撤廃されます。
TPP11の加盟国の中には、ニュージーランドがあります。ニュージーランドといえば、マヌカハニーが有名です。もしかすると、2025年ごろになると、今よりもかなりお値打ちなマヌカハニーを購入できるかもしれませんね。そういえば、私のクライアントさんにジョージア産の天然はちみつを扱っている方がいます。よろしければ、ご検討ください。
まとめ
国産の天然はちみつは1キロ当たり3000円~5000円が相場です。これは輸入はちみつの10倍ほどの価格となります。このような価格差が生まれる理由として、輸入品に対して高関税を設定していることが考えられます。
しかし、これには例外があります。特別特恵受益国の産品に対しては他の品目と同様に「無税」を設定しています。したがって、もし天然はちみつを輸入するビジネスを行うのであれば、特別特恵を適用できる国から商品を探すべきだといえます。
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