2020年1月1日、日本と米国との協定「日米貿易協定」が発効しました。日本にとっては、日欧EPA、TPPと並ぶインパクトがある協定です。今後、単なる貿易協定からFTA(自由貿易協定)に進化をしていくでしょう。もちろん、協定の発効には、プラスとマイナス側面があり、賛否両論があります。
しかし、日米貿易協定は、2020年1月1日をもって発効しているため、よほど大きな動きが起きない限り、協定破棄の方向に持っていくのは難しいです。むしろ、反対、反対と異を唱えるだけでなく、アメリカ市場に食い込んでいく気兼ねの方が重要です。
そこで、この記事では、日米貿易協定を活用する上での基本的な知識、過去、日本が締結したEPAとの特異点などをご紹介していきます。
日米貿易協定
世界最大のアメリカ市場に自社の商品を輸出し売り上げの拡大を目指そうとしている方も多いはずです。日米貿易協定の最も大きなメリットは、日米双方の関税を削減又は減額している点にあります。関税は、相手国に輸出したときの「輸入原価」に密接に関係します。
例えば、日本の企業Aが100円の商品をアメリカに輸出したとしましょう。アメリカ政府により、100円の商品に10%の関税がかかると、輸入原価は、100×1.1=110円です。これをアメリカ側の輸入者の立場から考えると、輸入原価が上がります。これが日米貿易協定により、撤廃されます。(将来的な部分も含む)
では、実際にアメリカ側の関税又は、日本側の関税を削減するには、どのような手続きが必要なのでしょうか? その辺りをこの記事でお伝えしていきます。なお、今回の記事は、原産地規則、CTCルール、完全生産品とは何か?など、自由貿易に関する基礎知識は、できるだけ省いて記載しています。もし、この基礎部分の知識がない方は、まずは「EPA関税ゼロガイダンス」をご覧ください。
重要な特異点
まずは、日米貿易と他の協定(日欧EPA、TPP、日タイEPAなどの二国間協定)と特異点を確認していきましょう!大きく分けると、次の4つです。これ以外の基礎的な考え方(原産地規則など)は、他の協定と同じです。
- 物品のみの貿易協定である。
- 日本側の譲許範囲と米国側の譲許範囲が違う
- 原産品の申告は、輸入者のみができる。(輸出者、製造者は不可)
- 原産地証明書の作成は不要
- 包括適用がない。
1.物品のみの貿易協定である。
「日米FTAになると、介護保険がなくなる」などのうわさ話があります。しかし、日米貿易協定は「物品のみ」を定めており、2020年現在は、それ以外の部分に合意していないです。今後の交渉により、対象の分野が拡大されていくと考えています。
2.日本側の譲許範囲と米国側の譲許範囲が違う。
最も大きな違いは「関税譲許の範囲」です。譲許とは、関税を削減することです。日米貿易協定は、この関税削減範囲を非常に限定しています。ちなみに、日米貿易協定は、協定本体、付属書1(日本側)、付属書2(米側)の3部で構成されています。付属書1や2に関税の削減範囲や撤廃の条件などが記載されています。
- 本体
- 付属書1 日本側
- 付属書2 アメリカ側
この協定書によると、日米貿易協定の関税削減範囲は、日本側とアメリカ側で次の通りとされています。
- 日本側の関税削減範囲:010121.290~382370.000
- アメリカ側の関税削減範囲:06023000~96121090
何だかよくわかりませんね!この数字を「HSコード」と言います。HSコードとは、物品と6桁以上の数字を一対にしたコード表です。世界で共通の物を利用しているため、HSコードを調べるだけで各国が設定している関税率など、様々な情報を調べられます。(この辺りも基本ガイダンスで説明をしています。)
そして、日米貿易協定では…..
- アメリカ製品が日本に入ってくるときは、HSコードが01類~38類までの物しか関税を削減しない。
- 逆に日本製品がアメリカに入るときは、HSコードが06類~96類までの物しか関税を削減しない
と決めています。つまり、アメリカ側は、肉類や農林水産物の関税削減を受け入れておらず、逆に日本は、39類以降の工業製品の関税削減に応じていません。HSコードと品目の対応表は「ウェブタリフ」をご覧ください。このとき、日米双方の関税削減リストを確認するとわかりやすいです。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000527401.pdf(日本側の譲許表:ページ50~101)、アメリカ側の譲許表(ページ120~129)
3.原産品の申告は、輸入者のみができる。(輸出者、製造者は不可)
「誰が原産品であることを証明するのか?」日欧EPAでは、輸入者、製造者、輸出者の三者が原産品であることを証明することができました。しかし、日米貿易協定では、日米双方とも「輸入者側のみ」が証明できます。
4.原産地証明書の作成は不要
2番と関連して、いわゆる「原産地申告書」の作成も不要です。輸入者側が輸出者から取り寄せた原産性資料により「原産品であること」を輸入国側の税関に申告をして、特恵適用を申請する仕組みです。要は、日米貿易協定は、一次的な責任は、すべて輸入者側にあるとしています。
5.包括適用がない。
日欧EPAでは、原産性の宣誓文を作れば、最大一年間、有効とみなす「包括適用」が認められていました。しかし、日米貿易協定では、この包括適用は認められていません。
以上が日米貿易協定と他の協定との特異点です。上記4つのことを覚えておきながら、以降の記事をお読みください。
日米貿易協定を活用するまでの流れ
実際に日米貿易協定を活用するまでの流れを確認していきましょう。
- 日本→アメリカ
- アメリカ→日本
上記の内、どちらの取引なのか?を意識しながらお読みください。
- 協定を使える人
- HSコードを調べる
- 関税率を調べる
- 原産地規則を確認
- 日米貿易協定を使いたい人がするべきこと
1.協定を使える条件や使える人
日米貿易協定は、誰でも活用できるわけではありません。日本又は、アメリカで製造された産品に対して活用ができます。
- 日本が削減対象にしている産品であること→付属書1に規定されている産品
- アメリカで製造された産品であること→日本側の関税が削減される。
- アメリカが削減対象にしている産品であること→付属書2に規定されている産品
- 日本で製造された産品であること→アメリカ側の関税が削減される。
よろしいでしょうか? 大前提として両国の「原産品」であることが条件です。アメリカの関税削減は、日本産品に対して行われる。他方、日本の関税削減は、アメリカの産品に対して行われます。
例えば、中国で生産した商品を日本へ輸出。それをアメリカに輸出した場合は、日本の原産品ではないため、アメリカ側の関税は削減されません。もちろん、これ以外ルートも同様の考え方です。ただし、これは、第三国の原材料の使用を禁止しているわけではありません。日本アメリカともに、第三国から原材料を仕入れて、条件通りに加工した物は、原産品とみなします。
- 完成品(第三国)→日本(検品)→アメリカ=協定は適用不可
- 原材料(第三国)→日本(加工及び製造)→アメリカ=協定の適用OK
逆に言いますと、この原産性の条件をクリアしている限り「それを誰が扱っても」、日米貿易協定の原産品として適用されます。
例えば、日本で生産した商品を「中国企業」がアメリカに輸出しても協定の適用はできます。逆に韓国の企業がアメリカで生産された商品を日本に輸出するときも協定を適用できます。原産性は、扱っている企業や人に由来せず、日米の国内で加工・製造されているか?が問われます。
ネットショップでの購入はどうなる?
アメリカのアマゾンなどのネットショップで販売されている商品を日本に輸入するとき。又は、日本のネットショップで販売されている商品をアメリカが輸入するときにも日米貿易協定が適用されます。ただし、既述の通り、それが関税削減対象品目に属していることが前提です。
2.HSコードを調べる
次にHSコードを調べます。HSコードを調べるときは、アメリカ側か、日本側かを区別して考えます。
- 日本からアメリカに輸出するときは、アメリカのHTSコード
- アメリカから日本に輸入するときは、日本税関のHSコード
上記を区別して考えると、該当する商品に決められている関税率や原産性条件を正しく理解できます。ちなみに、HTSコードとは、アメリカ税関が使用するHSコードです。前方から6桁までは、世界共通のHSコードを採用し、残りの4桁部分に対して独自の番号を振っています。(10桁のコード)日米双方のHSコードは、次の内、いずれかの方法で調べます。
- 日本側:原産地規則ポータルやウェタリフ
- アメリカ側:ワールドタリフまたは、HTSコードサーチ
もし、ご自身で探してもわからない場合は、日米双方に「事前教示制度」にあります。また、日米ともに過去の事前教示内容を照会できるページがあるため、こちらも合わせて確認をしましょう!
- 日本側の事前教示制度、事前教示制度の回答集
- アメリカ側の事前教示制度(e-ruling)、事前教示制度の回答集(クロス)
関連知識:ワールドタリフ
3.関税率を調べる
次に関税率を調べます。この目的は「MFN税率と日米貿易協定税率の比較」にあります。そもそもMFN税率とは、WTOに加盟している国に適用される関税率のです。日本とアメリカは、WTOに加盟しているため、貿易協定がなくても「MFN税率」を適用できます。これでMFN税率で関税が撤廃されているにも関わらず、日米貿易協定を適用する無駄をなくせます。
- MFN税率>>日米貿易協定税率のとき=日米貿易協定を適用する。
- MFN税率<<日米貿易協定のとき=日米貿易協定を適用しない。
関税率を調べる方法は?
MFN税率と日米貿易協定の税率は、次のどちらかの方法で比較できます。
- ワールドタリフ
- アメリカ税関のHTSサーチ
結論から申し上げると、1と2の両方で調べられますが、より操作がしやすい「ワールドタリフ」をお勧めします。
4.原産地規則を確認
関税率を調べた結果、日米貿易協定を適用できる場合に「原産地規則」を確認します。原産地規則とは、日米貿易協定上の「原産品とする条件」のことです。この条件を調べることが「原産地規則の確認」です。原産地規則は、協定書などに記載されていますが、最も簡単なのが「原産地規則ポータル」です。
原産地規則ポータルでの調べ方
例えば、原産地規則ポータルで次の原産地規則を調べるとしましょう。ポータルサイトにある「日米貿易協定」の部分にチェックを入れた後、下の空欄にHSコードを入力します。なお、米国側と書かれているのが「日本→アメリカ」のときの条件です。
例えば、次の2つの品目の原産地規則を調べてみましょう!
- 1601.00 ソーセージ
- 4202.21 ハンドバッグ
1601.00 ソーセージの結果が下の画像です。この産品は、アメリカ側は「除外」、日本側は「CC」の条件を満たす場合、日米貿易協定を適用できます。ちなみに、CC、CTH、CTSHは、関税分類の変更レベルを示します。このあたりの解説も「関税ゼロ貿易マニュアル」に記載しています。
4202.21 ハンドバッグは、次の通りです。そもそも日本側は、38類までしか関税の削減をしていないため、調べる前から除外されていることは分かった方も多いと思います。 日米ともに「ー」が表示されているため、除外又は、関税削減の対象に入っていません。
もっと原産地規則ポータルの見方を知りたい!
原産地規則ポータルを使っても米国側の情報は、すべて英語で記載されています。ここで原産地規則×アメリカ版の見方を確認しておきましょう。
下の画像をご覧ください。赤枠は、アメリカ側のHSコードです。その下に「CTH」と書いてありますね? よって、この商品は、関税分類変更基準の内「CTH(項変更)=四桁レベルでの変更」をしている物のみが原産品です。つまり、完成品のHSコードと、完成品に使う原材料のHSコードの間に「4桁以上の変更」があることが条件です。これを満たせば原産品です。
しかし、だからといって、すべての原材料を使っても良いとは言っていません。そのポイントが右隣にある「except」です。except=除くですから、except以降に記載されている原材料からの変更は除外されています。そして、その除外対象の材料が….
「headings 7208 through 72.29 or 7301 through 7326」と記載されているため
- HSコード7208~7229
- HSコード7301~7326
完成品の中に、これらのHSコードに該当する原材料を使っている時点で、日米貿易協定(アメリカ側)の原産品とはなならないです。
5.日米貿易協定を適用したい人がするべきこと
ここまでの内容から、関税率、原産地基準などを含めて、日米貿易協定を適用する意味はあることがわかりました。では、実際に貿易協定の適用を受けるには、どうすれば良いのでしょうか? 自動的に適用してくれるのでしょうか? この点については、次の基準があります。
「輸入価格が20万円をこえるのか?」
輸入価格が20万円をこえる場合は、その貨物を輸入する人が、輸入する側の税関に、特恵適用の申告をすることで日米貿易協定税率を適用して輸入ができます。他方、20万円以下のとき(ネット通販など)は、商品の発送先、インボイス、送り状などから日米の産品であることが確認できれば、輸入申告等もすることなく、日米貿易協定の税率を適用して輸入ができます。
なお、具体的な原産申告書の作成方法などは「原産品申告書の作成の手引き」などで確認をお願いします。
その他、関連トピックス:関税率の削減日程は?
アメリカ側の関税削減日程は「協定書https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000527401.pdf」に記載されています。

画像:外務省の日米貿易協定の資料
関連トピックス:アメリカ側関税の削減とカテゴリ
アメリカ側の譲許内容とカテゴリの内容です。
カテゴリ | 意味 | 品目数 |
A | 協定発効と同時に撤廃 | 57 |
B | 発効日に3%減額。2年目に撤廃 | 100 |
C | 発効から均等に減額し、2年目に撤廃 | 7 |
D | 発効から均等に減額し、5年目に撤廃 | 4 |
E | 発効から均等に減額し、10年目に撤廃 | 2 |
F | 発効日に50%減額 | 22 |
G | 発効日に3%減額、2年目に基本の50%になる。 | 28 |
H | 発効日と2年目にぞれぞれ3%ずつ減額 | 1 |
J | 発効日から2年かけて50%まで減額される。 | 5 |
J | 発効日から3年をかけて50%まで減額される。 | 9 |
K | 発効日から5年をかけて50%まで減額される。 | 8 |
協定書:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000527401.pdf ページ118~119
まとめ
- 2020年1月1日から日米貿易協定が始動
- 日本側、アメリカ側の一部の物品について関税の削減が行われる。
- 他協定と比べて非常に限定的な内容になっている。
- 日米貿易協定を活用するときは、輸入者が輸入地の税関に対して原産品であることを申請する。
- 今後、この貿易協定が拡大して、FTA(自由貿易協定)に進化する可能性がある。


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