EPA(関税削減の仕組み)は、関税、人の移動、投資分野を自由化し、お互いの国の経済発展を目指す仕組みです。輸出入をする方であれば、輸入時の関税削減が最も関係します。
この記事は、EPAの基礎的な知識、輸出入の活用、特定原産地証明書の取得方法までを説明していきます。
- EPA(自由貿易)の始め方と活用方法
- よくある疑問
- 相談できる窓口は?
- Q.特定原産地証明書の所要日数は?
- Q.特定原産地証明書の取得には、お金はかかりますか?
- Q.企業登録をするときの書類は?
- Q.本当は日本の原産品でないのに、偽って申請することはできますか。
- Q.特定原産地証明書の送付方法は?
- Q.資料の保管期間は?
- Q.保管する資料の例
- Q.保管義務を怠ると、どうなるの?
- Q.遡及発給とは?
- Q.EPAの全体図は?
- Q.「救済」する2つのルールとは?
- Q.EPAとFTA、WTO、TPPとの違い。WTOとの関係は?
- Q.追徴課税、罰則は?
- Q.EPAで原産性が認められない加工とは?
- Q.EPAを活用しないどうなる?
- Q.関税が下がるタイミングを調べるには?
- Q.本当にEPAは必要なの?現状を教えてください。
- Q.EPAと社内体制の構築
- Q.EPAの活用モデル10選は?
EPA(自由貿易)の始め方と活用方法
EPA(FTA)とは?
EPAとは、人、物、投資の国境を低くし、締約国間の経済成長や交流を活発化させる仕組みです。
- 人の移動の自由=ビザ発給の要件緩和、看護師やコック等の職業従事者の受け入れ
- 投資の自由=投資活動を活発化させるための規制等の撤廃
- 物の自由=関税等を撤廃し、物品のやり取りを活発にする。
2024年4月現在 | |
発効済(利用できる国) | シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEP(韓国+中国+アセアン+オーストラリアなど) |
交渉中 | トルコ、コロンビア、GCC、日中韓 |
その他(交渉中断等) | カナダ、韓国 |
EPAを輸入で活用?輸出で活用する?
EPAは、決められたルールに従わないと、物品の関税を削減できません。ルールから逸脱すると、相当のペナルティがあります。
EPAを輸入で活用? 輸出で活用するのか?
この違いにより、EPA活用の難易度が変わります。輸入での活用は、簡単である一方、輸出での活用は大変です。理由は、特定原産地証明書(輸入国側の税関に提出して免税措置を受けるための書類)の取得です。
- 輸入活用=海外の相手が特定原産地証明書を取得し、あなたに送付
- 輸出活用=あなたが特定原産地証明書を取得し、相手に送付
EPAの利用 4つのポイント
最初にEPAの全般的なポイントをご紹介した後、輸入活用と輸出活用(特定原産地証明書の取得)の順に説明をしていきます。EPAは、次の4つのポイントを覚えましょう!
- EPAを利用する2つの条件
- 商品の原産性を証明する必要があり!
- 輸入・輸出効果例
- 個人通販でも活用できる。
1.EPA利用 2つの条件
- 貿易相手(取引相手)がEPAの締約国であること
- 関税が免除される対象品目であるこ
関税が免除される品目
関税の削減は、以下3パターンございます。
- 即時関税ゼロ
- 数年後関税ゼロ
- 例外品目(適用除外)
即時撤廃品目は、協定の発効と同時に関税が撤廃されるものです。
数年後の関税撤廃は、毎年4月1日(日本側)に数パーセントずつ削減されていき、一定期間後(5年、10年、15年など)関税が撤廃されます。
例外品目とは、撤廃や減税の対象外の品目です。関税撤廃の予定は「譲許表(じょうきょひょう)」で確認します。譲許表には、関税の削減日程が記載されています。そして、表は、日本側と相手国側のそれぞれにそんざいします。
- 日本側の関税削減=日本側の譲許表を確認
- 相手側の関税削減=相手側の譲許表を確認
詳細は、以下2つの記事もご覧ください。
- 輸入×EPA活用:「ウェブタリフ」
- 輸出×EPA活用:「ワールドタリフ」 ワールドタリフの使い方
2.商品の原産性を証明する必要があり!
EPA貿易は、商品の原産性の証明が重要です。この原産性を特定原産地証明書を用いて行います。
証明をすることで初めて関税が削減されます。
3.EPAの輸入と輸出効果例
EPA活用×タイ→日本と日本→タイの関税削減例は、次の通りです。
4.海外通販にもEPAの活用は可能!
EPAは、個人輸入(海外通販)でも活用ができます。
例えば、アマゾンアメリカで購入した商品でも、原産国がアメリカであれば、日米貿易協定により関税の減額又は免除を受けられます。また、通常、関税の免除で必要な証明書も20万円以下の場合は、提出不要です。つまり、税関又は、各配送会社の通関が「自動的」に適用してくれます。
EPA活用のメリットとデメリット
EPAのメリットとデメリットは、EPAのメリット・デメリットをご覧ください。
輸入活用と原産地証明書
輸入でEPAを活用する場合(例:海外通販×EMS、DHL、UPSなど)は、輸入の価格が20万円以下であれば、書類や特別な手続き等も不要で、自動的にEPA税率を適用して輸入ができます。
*重要:20万円までは、原産地証明書は不要!
20万円をこえる物を輸入する場合は、輸出者に依頼をして、現地で特定原産地証明書を取得。これを日本に発送してもらいます。その後、日本税関に証明書を提出することで関税が免除されます。
EPAを輸入で活用する場合は、基本的には「日本側のHSコード」を伝えるだけで、あとの作業はすべて輸出者側が行うのが特徴です。それでは、それぞれを詳しく確認していきましょう!
- 適用できる国を確認する
- 産品のHSコードを特定する。
- 関税削減の効果を計算する。
- 特定原産地証明書の発行を依頼する
- 税関に申告する。
1.適用できる国の確認
まずは、輸出元の国が日本とEPAを締結しているかを確認します。EPAを適用した場合の関税率は「ウエブタリフ」で確認ができます。
2.商品のHSコードを特定する。
日本側の輸入HSコードを特定し、それを輸出者に伝えます。HSコードを確認する方法は、次の3つです。
- ウェブタリフ
- 取引がある通関業者に依頼
- 税関の事前教示制度を使う。
この内、最もオススメするのは、日本税関から回答を得る「事前教示制度」です。この仕組みを使えば、輸入時のHSコードと関税率等を確定できるためお勧めです。
一方、輸出者は、輸入者から聞いたHSコードを基準にして、現地当局から特定原産地証明書を取得。その後、日本の輸入者に証明書を送付します。
3.関税削減の効果を計算する
特定原産地証明書の取得は、輸出者にとって、手間がかかります。さらに、関税の削減効果は「輸入者側」にあるため、さらにやる気が出ません。輸入者は、この事実を考えた上で、何が何でもEPAを適用するのではなく、削減効果を計算した上で検討する必要があります。
例えば、EPAを適用しても、たった「一万円程度」の効果であるなら、わざわざ輸出者側に依頼しなくても良いと判断するのも一つの方法です。
かける時間と得られるリターン(この場合削減額)を計算して判断する。
4.特定原産地証明書の発行依頼
輸出者が特定原産地証明書を取得すると、貨物とは別便で重要書類として届けられます。
5.税関への申告
原産地証明書は、貨物が日本に届き、税関の輸入申告を行うときに必要です。関税額、消費税などを計算し、添付書類として特定原産地証明書の原本を提出します。税関審査において、HSコードなど、EPAを締結している国の貨物であることが確認できたら、EPA税率による輸入が許可されます。
輸出活用と原産地証明書の取得(特定原産地証明書)
次にEPAを輸出で活用する方法を説明します。つまり、ここでは、特定原産地証明書の取得方法を説明していきます。輸出活用は、原産性の根拠を用意した後、日本商工会議所に依頼をして「特定原産地証明書」を取得します。取得した書類を輸入者に送付します。これだけです。
しかし、一見、単純に見える、この流れが非常に複雑で様々な知識が必要です。
- 原産性の根拠書類を用意する。
- 根拠書類を基にして、特定原産地証明書を取得する。
- 輸入者に証明書を送付する。
- 輸出先が日本とのEPA締結しているかを確認
- 商品のHSコードを特定
- 相手国のMFN税率とEPA税率を調べる
- 輸出商品(完成品)の原産性を確認
- 原産品判定で必要な書類を用意する。
- 特定原産地証明書の発給申請をする。
1+2.EPAの締結国、商品のHSコードを特定する。
輸出先の国が日本とEPAを締結しているかを確認しよう!次に輸出する産品のHSコードを特定します。確認方法は、次の2つです。
- 輸出者を通じで現地税関に確認
- 輸出統計品目表からの特定
1.大原則!現地の税関に問い合わせる
EPAでは、相手国の税関の見解が優先される大原則があります。そのため、輸出する商品のHSコードも日本側の税関の見解ではなく、相手国税関の見解が基準です。輸出相手を通して、現地税関にHSコードを問い合わせをしましょう。その際、できれば、現地税関の「事前教示制度」を利用します。
2.輸出統計品目表から特定する。
大原則として完成品のHSコードは、現地の税関に尋ねます。ただし、何らかの理由により、この確認が難しいときもあります。この場合は、税関の「輸出統計品目表」を利用します。
ただし、一点だけ注意が必要です。輸出統計品目表には、HSコードの新しさがあります。EPAで利用するHSコードは、各協定が締結されたときに使っていたHSコードを利用します。
- HS2017=日欧EPA
- HS2012=オーストラリア、モンゴル、TPP11
- HS2007=スイス、ベトナム、インド、ペルー
- HS2002=タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ブルネイ、アセアン、メキシコ
3.相手国のMFN税率とEPAを調べる。
WTOに加盟する国は、WTO税率(MFN税率)が適用されます。もし、輸出相手国がWTOにも加盟し、日本とEPAを結んでいる場合は、MFN税率とEPA税率を比較し、有利な方を適用します。
品 | 一般税率 | MFN税率 | EPA税率 |
りんご | 30% | 20% | 0% |
相手国のEPA税率は「ワールドタリフ」で調べられます。通常、このサービスは、有料です。しかし、ジェトロさんを経由して登録することで無料で利用ができます。日本在住の方は、ぜひワールドタリフを使いましょう!関連:ワールドタリフの使い方で説明しています。
上記の作業により、輸出先国でのHSコード、関税率を調べます。次にHSコードを使い、輸出商品に定められている「原産性」を確認し、輸出商品は、条件を満たすのか?を確認します。
4.輸出商品(完成品)の原産性を確認する。
「輸出商品には、原産性があるのか?」 この判断をする基準が「原産地規則」です。もし、原産性規則の条件を満たさない物は、EPAを適用して輸出することは難しいです。
例えば、以下の作業をしても、原産地規則を満たさないため注意しましょう!
- 「日本の工場で生産しているから原産性がある」
- 「日本のラベルを貼っているから原産性がある」
- 「日本の委託している工場で生産しているから原産性がある」
しかし、原材料までに原産性を求めているわけではない!
EPAを適用して輸出するには、協定で定められている原産性が必要です。しかし、この原産性については、完成品のみに適用されて、原材料には、適用されないです。
例えば、あるテレビを製造したとします。この場合の部品構成は、以下の通りです。テレビが完成品です。EPAでは、この完成品に原産性があるのが条件です。しかし、テレビに使っている部品(原材料)は、日本産である必要はないです。以下の図のように、外国産のものを使っても問題ないです。
完成品(原産性が必要) | 部品(原産部品でなくてもよい) | 部品の原産国 |
テレビ | モニター | マレーシア |
配線 | アメリカ | |
スピーカー | カナダ |
なぜ、原材料が原産品でなくても、完成品が「原産品」として扱われるのでしょうか? その答えは、原産品としてみなす基準にあります。
原産品とみなす3つの基準
輸出商品が次のいずれかに該当すると「完成品に原産性がある」と判断されます。
- 協定国で取れた完全生産品
- 自国(EPA締約国内)の材料のみを使用した商品(原産材料のみ)
- 外国の材料を使い「決められた加工」をした商品(非原産材料)
例:完全生産品(カテゴリA)
完全生産品は、自然的に採取できる品、一カ国で生産などが完結しているものです。代表的な産品は、次の通りです。
- 鉱物
- 生きている牛
- 牛からとれる「牛乳」
- 野菜や果実
- 海産物
- 鉄、プラスチックのスクラップなど
何かの原材料を利用して生産や加工をするより、獲れた物がそのまま商品になる物です。注目すべき点は、プラスチックや鉄のスクラップを集めた再利用品も日本の完全生産品に該当することです。この完全生産品の条件を満たせば「日本の原産品」です。
例:原産材料から生産した商品(カテゴリB)
原産材料のみから生産した商品とは、完成品に使う材料が「日本または相手国の原産品のみ」で製造した物です。
- 日本の木を利用して「杖」を作る。
- 日本の卵、砂糖とタイの小麦粉を使って「ケーキ」を作るなど
ポイントは、日本又は協定相手国の原産材料のみを使用して、商品を生産することです。しかし、この原材料部分には、一次材料と二次材料の考え方があるため注意が必要です。
- 一次材料=生産に直接使用する材料
- 二次材料=生産に間接的に使用する材料
例:外国の原材料を使い決められた加工をした物とは?
協定上の原産品とは、「完成品」のことであり、完成品に含まれる原材料(部材)等に、原産性を求めているわけではないです。
- 完成品の原産性
- 完成品を構成する部材の原産性
この2つをしっかりと分けて考えます。そして、完成品を構成する部材が「協定国外」つまり、外国産材料の場合は、次の三つの内、いずれかのルールを満たせば、構成部材が外国産材料でも、完成品は「原産性がある」と判断されます。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
CTCとVAルールの検討手順は?
基本的に、CTCを優先とし、VAは、CTCを適用できない場合に検討しましょう!検討手順は、次の通りです。
- 品目別規則を確認して、原産性ルールを確認
- CTCルールで検討を検討。変更レベルを満たせる→CTCルールで証明
- CTCルールの変更レベルを満たせない!→原産品にならないかを検討
- 原産品にもできない→CTCルールの変更レベルを満たせない!→デミニマス・累積を検討
- CTCルールを使えない→VAルールを検討
- VAルール:積み上げ方式か控除方式かを調べる。
- ワークシートを作成して閾値を超えてないかを確認
- 閾値を超えていない→原産品を積み上げる。
- 閾値クリア→VAルールによる証明完了
- VAルール(付加価値基準)の混乱を解決!内製品とは?
- メーカー(製造者)が特定原産地証明書を取得する方法(VAルール使用)
- 原産品の判断は、CTCルール→VAルールの順に検討する
- CTCルールは、原材料をすべて「非原産品」として申請する
- VAルールは、閾値を超えないときに、必要最低限の範囲で、原材料を「原産品」とする。
- CTCルールは、関税分類の変更を基準とする。
- VAルールは、商品価格が基準です。
5.原産品判定で必要な書類を用意する。
「対象の商品を原産性があるあると主張するなら、その根拠を示せ!」
この根拠となる書類が「特定原産地証明書」です。すでに何度も述べている通り、特定原産地証明書は、輸出者が輸出国側で発行を受けて、それを輸入者に送付して使います。そして、この特定原産地証明書は、次の手順で取得していきます。
- 原産性があることを証明する根拠書類の用意
- 日本商工会議所に原産品判定依頼をする。
- 1の根拠書類を提出&審査を受ける。
- 判定される。合格であれば、特定原産地証明書を入手できる。
必要な根拠書類は、適用する原産ルール(CTCやVA等)によって異なります!
1.CTCルールで必要な書類
CTCルールとは、完成品のHSコードと原材料のHSコードに変化があるときに原産品とする仕組みです。そのため、CTCルールの重要な書類は、関税の変更がなされているのか?を示す対比表と、その加工手順を示す製造工程フロー図です。
- 対比表(原材料・部品リスト)
- 製造工程フロー図
- サプライヤー証明書
- 価格の根拠を示す書類
- 委託生産者証明書
1.対比表
下の図が対比表です。左側に完成品のHSコード、右側に材料のHSコードを一覧にまとめます。その後、左右を「対比」して、HSコードの変化を確認します。
例えば、商品の完成品が「1450.01」。この商品に使われている原材料(部品)のHSコードが「1203.05」、「1301.00」だとします。この場合、原材料と完成品との間にHSコードが変更しているため、原産品として認められます。この変化を書面にしたものが対比表です。(対比表のテンプレートは、こちらからダウンロードできます。)
2.製造工程フロー図
製造工程フロー図とは、工場に納入される部材が、どのような加工を得て「完成品に至るのか?」を示す書類です。一例をあげると….
- 客先と打ち合わせ
- 部材納入
- 部材チェック
- 部材の内、Aを旋盤加工、Bを○○加工
- 部材AとBを組み付け加工
- 完成品の傷チェック
- 最終検査&梱包
など、第三者が資料を見ただけで、原料の投入から、完成品の製造までわかる資料にします。また、製造工程フロー図の重要なポイントは、EPAで認めらていない加工をしていないのか?にあります。
実は、EPAには「加工とはみなされない加工」が決められています。もし、輸出する商品の加工作業が、この作業に該当すると、日本の工場で生産しても、協定上の原産品にはなりません。日本商工会議所は、製造工程フロー図を通して、この加工部分を重点的にチェックします。
製造工程フロー図は、輸出者、製造者、どちらが作成してもいいです。製造工程フロー図のテンプレートを加工して、貴社の工場の実体に合わせて資料に追記していきます。
3.サプライヤー証明書
は、原材料を「原産材料」として申請するときに使う書類です。基本的に、CTCルールは、原材料をすべて「非原産」とするのが一般的です。非原産として証明を試みた結果、関税分類変更基準を満たせないときに、非原産材料→原産材料上で、サプライヤー証明書を使います。
4.価格の根拠を示す書類
基本的に価格の根拠を示す書類も不要です。ただし、CTCルールを使う上で、変更基準を満たせないときは、次の2つの方法の内、いずれかの救済措置を取ります。
- 非原産材料→原産材料にする(サプライヤー証明書を使う)
- HSコードの変更基準を満たせないものにデミニマスルールの適用を考える
デミニマスは、完成品に含まれる原材料が僅かであれば、関税変更を無視できる仕組みです。デミニマス適用の基準は、価格または重量など、証明する品目により異なります。どちらを基準にするにしても、それを示す根拠資料が必要です。
仮に価格を基準にするのでれば、その部材を仕入れたときの請求書をエビデンスにします。もちろん、このデミニマスを使わない限り、こちらの価格根拠資料も不要です。
5.委託生産者証明書
は、製造者であっても、製造者でないときに利用する証明書です。
例えば、A社は製造メーカーとして存在している。ただし、それが登記上のことであり、実際の生産は他社に「生産委託している」ケースなどがありますね。いわゆる「OEM」です。
特定原産地証明書の取得ができるのは、商品の生産者または輸出者です。そのため、どこかの会社に委託生産しているときは、委託先の会社が生産者となり、自社が生産者になれなくなります。この問題を解決するのが「委託生産者証明」です。
2.VAルールで必要な書類例
は、完成品の価格の中に「日本で加えた価値が何パーセント以上であるのか?」を基準にする仕組みです。おおむね40%前後を基準としていることが多いです。つまり、日本の工場において、最終完成品価格の内、40%以上を付加していれば、協定上の原産品です。
必要な書類例は、次の通りです。
- ワークシート
- 製造工程フロー図
- 価格の根拠を示す書類
- 利益計算書(人件費や製造経費などの計算)
- サプライヤー証明書等
- 売買契約書(任意)
1.ワークシート
は、商品の価格全体と、その価格を構成する内容を記載します。
例えば、外国産材料は●●円、製造に要する人件費、販売管理費などは●●円など、商品を生産するために必要となる原材料費や生産費・人件費等がどれくらい占めているのかを計算します。つまり、こららの「原産部分が一定以上であるのか?」を証明します。
2.製造工程フロー図
製造工程フロー図とは、先ほどのCTCルールと同じです。EPAで認められていない加工作業だけをしていないのか?をチェックするために作成します。原料の投入から、完成品の作成までの流れが第三者でもわかるように作成します。
3.価格の根拠を示す書類
VAルールは、完成品に占める部材の価格が重要です。VAには、控除方式と積み立て方式の2つがあります。どちらを適用するのかは、協定書に記載されています。いずれの方式を使っても、完成品に含まれる原材料価格を証明する書類を用意することがポイントです。
- 仕入れ先からの請求書の価格
- 部材を内製のときは、二次部材の購入費+相応の加工コストの合計価格
4.利益計算書など(任意)
商品を製造したときに、どれくらいの生産費用が掛かったのか? 部材は、いくらかかったのか? 投入した人材の数や生産時間などから人件費などを計算した後、その完成品を売却して、どれくらいの利益がでるのかを計算します。ここで求められる利益は「原産部分」に積み上げられるため、できるだけ正確に行うことがポイントです。
ちなみに、VAルールのワークシートの中に書き込む「利益部分」の数字と、この利益計算書の数字が同じになるようにします。ワークシートの中に記載している数字の根拠として、別に一枚の利益計算書を作成するイメージです。
VAルールは、工場での経費、人件費、利益などを積み上げられます。もし、この部分を積み上げたいときは、利益計算書や製造経費計算書などを別に用意します。
5.サプライヤー証明書(ケースによる)
ワークシートの中に「原産品」として申請する物は、その材料が原産品であることを証明する「サプライヤー証明書」が必要です。サプライヤー証明書は、各材料を供給する業者に頼んで、原産品であることを証明してもらう資料です。そのため、メーカーにとって負担になるため、できるだけ「頼まないようする」のが望ましいです。
では、どのようにすればいいのでしょうか? この答えは「原産性」にあります。実は、サプライヤー証明書は、商品に使っている部材が日本原産品であることを証明する資料です。つまり「日本原産品でなければ…….」、資料は不要です。
本当は、日本の原産部材であっても、あえて「非原産として申請すること」も可能です。これによって、原産部材の証明で必要とされるサプライヤー証明書が不要となります。
6.売買契約書等(任意)
売買契約書は、商品の買い手(輸入者)、売り手(輸出者)、商社、製造者がそれぞれ違うときに使います。売買契約書の目的は、それぞれの関係性を書面によりつなげることです。
例えば、商品の買い手Aと売り手Bが「XXZ」という商品の輸出契約を結んだとします。しかし、売り手であるBは生産者ではないため、国内商社Zから商品を仕入れます。ただし、商社Zも製造しているわけではなく、製造者Cから仕入れた後に、売却しています。つまり、関係性としては、次のようになります。
1.輸入者Aと輸出者Bが売買契約
2.輸出者Bと国内商社が売買契約
3.国内商社と製造者が売買契約
このようなとき、買い手Aから、製造者までが書面上でつながるように、売買契約書などを揃えます。もちろん、立場によっては、売却金額を知られたくないこともあります。その場合は、価格部分を黒塗りにして「誰と誰の契約書なのか?」をわかるようにします。
6.特定原産地証明書の取得方法
「根拠資料の作成も終わった。日本商工会議所には、どのように申請をすればいいのか?」
ここでは、原産性資料の作成後のプロセスを詳しく説明していきます。なお、日本において特定原産地証明書の発行は、次の2つの方法があります。
- 第三者証明制度(第一種原産地証明書)
- 自己証明制度(第二種原産地証明書)
1.第三者証明制度によるEPA取得手順
特定原産地証明書を取得するまでの流れは、以下の1~5のステップです。
- 日本商工会議所に企業情報を登録
- 原産品判定を依頼
- 特定原産地証明書の取得
- 輸入者(貿易相手)へ送付
- 輸入者が現地の税関に提出
2.自己証明制度による方法
2020年現在、日本は、日欧EPA、日豪EPA、日米貿易協定を結んでいます。これらの協定は、これまでの第三者発給制度による原産地証明書の入手ではなく、自己証明制度の仕組みが取り入れられています。「自己証明」との名の通り、ご自身により「これは原産性があります!」と証明をします。
例えば、日欧EPAの場合は、次の手順で自己証明により原産性がある商品だと宣言します。
- 輸出者が輸入国側のHSコードから原産地規則を調べる。
- 根拠書類を作成する。
- 輸出インボイスに「原産性の申告文を追記」する。
- インボイスの原本を輸入者に送付する。
- 輸入者は、輸出者の宣誓文入りのインボイスを税関に提出する。
- 5によりEU側の関税が免税又は減税される
- 日本側で2の根拠書類を5年間保管しておく。
上記の通り、第三者が全く仲介せず原産性を証明する仕組みです。
EPAと用語集
用語 | 主な意味 |
CTCルール | 関税分類変更基準のこと=完成品と原材料のHSコードの差を見て、原産性を判断するルールです。関連するキーワード:CC、CTH、CTSH、対比表、変更レベル |
VAルール | 付加価値基準のこと=完成品の中に、日本の工場で与えた「付加価値の割合」で判断するルールです。付加価値には、原産材料の他、工場の人件費、利益などがあります。 関連するキーワード:内製品、サプライヤー証明書、ワークシート、閾値 |
SPルール | 加工工程基準の略。こちらも原産性を判断するルールの一つ。いくつかの品目は、協定書の中に、具体的な加工方法が指示されている。この加工方法を守ることで原産性があると判断します。 |
PSR | 品目別規則の略です。品目ごとに設定されている原産地規則の総称です。 |
WO | 原産地証明書の中に記載される記号の一つ。WO=完全生産品を示す。 |
対比表 | CTCルールで証明するときに用意する根拠資料の一つ。輸出者は、この資料を日本商工会議所に提出して審査を受ける。多くの場合、この資料が雑に作られていることで審査が長引くことが多い。=プロに任せた方がいいです。→対比表の作成支援 |
総部品表 | 上記と同じくCTCルールで証明するときの根拠書類の一つです。完成品に使われているすべての部材(原材料のリスト)と考えればいいです。少なければ、対比表と合わせても良いです。 |
遡及発給 | 輸出後に原産地証明書の発行を依頼することです。基本は、船積み前に発行を受ける。しかし、何らかの理由で船積みに間に合わない場合は、一年間は事後発給が認められている。 遡及発給が多い国:ベトナム、インドネシア、タイ、アセアン |
譲許表 | 協定の付属書の一種。ここに「発効から○○年で関税を何パーセントにする」という予定が決められている。ただし、実務上は、ワールドタリフ等を利用して確認することが多いです。 |
ロールアップ | 完成品に使う部材の内「非原産にあたる部分」を含めて原産とする特別ルール |
完全累積 | 日アセアン、TPPなど、多国間のEPAの場合、加盟国内の部材や作業を「累積」できるる。つまり、この累積によって、原産地の基準を超えるなら、完成品は、協定上の「原産品」と判断するルール。EPA 累積の意味 外国産の原材料を国産扱いにできる! |
HSコード | 全ての品目を6桁の数字で表したもの。世界各国で共通の物を採用しているため、これを利用して関税率や原産地規則を設定しています。EPAを利用するときは、関税率の調査等で非常に関係するため、必ず覚えておきたいことです。 |
ファブレスメーカー | EPAの生産者とは、次の2つです。
ファブレスメーカーとは、登記上は、製造業であるのに、生産設備がない会社です。もちろん、生産設備がないわけですから、それをどこかの会社に委託して生産する必要がありますね。つまり、ファブレスとは、工場(ファブ)がない(レス)状態で、対外的に、製造会社をうたい、実際の製造は、生産設備がある会社に委託して、製品を供給する会社のことです。 EPAでいう生産者には、このファブレスメーカーが含まれるとされています。しかし、すべてのケースで生産者扱いになるのかというと、そうではありません。EPAでいう生産者の定義に含まれるには、次の3つの条件をすべて満たさなければなりません。
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よくある疑問
相談できる窓口は?
EPAの相談は、次の5つの機関でできます。
- EPA相談デスク
- 日本商工会議所
- ジェトロ
- 税関
- HUNADEのEPAサービス
相談機関 | 利用用途 |
1.EPA相談デスク | EPA相談デスクは、経済産業省から委託を受けている東京共同会計事務所が行っている「無料EPA相談デスク」です。EPAの相談のためだけに設けられている、日本で唯一のEPA専門相談機関です。EPA相談デスクは、電話相談、メール、対面など、あらゆる方法により、EPAの相談を受け付けてくれます。 EPAの全体的なことを聞きたいときは、EPA相談デスクが便利です。 |
2.日本商工会議所 | 日本商工会議所は、日本で唯一の特定原産地証明書の指定発給機関です。要は、証明書を発行できる所です。商品を輸出するときに必要になる特定原産地証明書は、この日本商工会議所が発行します。日本商工会議所でもEPAの相談はできますが、基本的には、実際に証明書を取得するときの疑問点への回答がメインだと考えた方がいいです。 「まだ証明書を取得する予定もない、まずは全体的なことを知りたい」等であれば、1番のEPA相談デスクの方が適しています。
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3.ジェトロ | 日本の輸出取引の支援をしているジェトロもEPAに関する相談やセミナーなどを開催しています。
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4.税関 | 税関は、意外にEPAに関するサービスは少ない印象です。→原産地規則ポータルなどのツールも提供しています。 |
5.HUNADE | 最後に弊社でもEPAの相談サービスを提供しています。日本商工会議所やEPA相談デスクでは、受けられない細かい相談ができます。また、相談だけではなく、EPAの申請で必要になる「対比表の作成代行」の承っています。 |
Q.特定原産地証明書の所要日数は?
最初の企業登録から、特定原産地証明書の取得までには、およそ3週間~4週間かかります。
Q.特定原産地証明書の取得には、お金はかかりますか?
申請料金が必要です。基本料金の2,000円に加えて、アイテム数に応じて加算されています。
Q.企業登録をするときの書類は?
法人 登録申請書、履歴事項全部証明書
個人 登録申請書 戸籍抄本または住民票 印鑑証明書
Q.本当は日本の原産品でないのに、偽って申請することはできますか。
可能かどうかというと、仕組み上は可能です。ただし、特定原産地証明書は、過去にさかのぼって調査されます。数年前のことであっても、偽り行為が判明した場合は、重大なペナルティが課せられます。
他の日本の輸出者に迷惑をかけるだけでなく、国と国の国際問題にもなりかねない重大な違反行為に当たります。聞くところによると、過去に免税を受けた総額の5倍ほどのペナルティを課せられたケースもあるそうです。
Q.特定原産地証明書の送付方法は?
一般輸出場合
コンテナ(FCL)やコンテナ未満(LCL)を使って輸出するときは、特定原産地証明書の原本をEMS(国際郵便)などを使って貨物とは別口で送付します。一般的な輸出場合、EMSなどを使って、一部の貿易書類(B/Lなど)を送付する方もいらっしゃるはずです。あれらの書類と同じように、貨物とは別に書類のみを送ります。書類を送るときは、必ず特定原産地証明のコピーをした上で、表題をつけて送付します。
国際郵便等の場合
国際小包などに入れて輸出するときは、税関告知書(いわゆる送付状)などを保管する透明な袋の中に「特定原産地証明書の原本」を入れておきます
Q.資料の保管期間は?
特定原産地証明書を取得するときは、日本商工会議所に対して、ワークシート(VAルールの場合)、または対比表(CTCルールの場合)を提出します。また、これとは別に、作成はするけれど、日本商工会議所へ提出しない資料があります。
例えば、原材料リストや生産工程フロー図、サプライヤー証明書などがそれにあたります。原材料リストとは、その完成品に使われているすべての部材(原材料)を一つずつリスト化した物です。
生産工程フロー図とは、どのような工程を経て商品が完成したのかをまとめた資料です。これらの資料は、作成する必要がありますが、日本商工会議所へ提出する必要はありません。ただし、これらの資料は、次の期間、貿易書類と合わせて保管する必要があります。
- 5年間の保管義務=メキシコ、オーストラリア、モンゴル、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、フィリピン、インド、ペルー、TPP、日欧EPA、日米貿易(不明)
- 3年間の保管義務=ブルネイ、アセアン、スイス、ベトナム
Q.保管する資料の例
特定原産地証明書を取得したときの全ての関連資料は、5年、または3年間保管します。具体的には、次の書類を一式にして保管しておくことが望ましいです。
- 一般輸出=インボイス、パッキングリスト、B/L、ワークシート又は対比表、原材料リスト、生産工程フロー図。その他、ワークシートなどの根拠を示す書類
- 小包による輸出= インボイス。パッキングリスト、EMS送付状、ワークシート又は対比表、原材料リスト、生産工程フロー図、その他、ワークシートなどの根拠を示す書類
Q.保管義務を怠ると、どうなるの?
特定原産地証明書は、取得から数年後に相手国から「事後的な確認」が行われることがあります。輸出者は、そのときに説明できるように資料を保管します。もし、明確に答えられないときは、これまで認めてきた関税削減の取り消しや、何らかのペナルティが課せられる可能性があります。
相手国が関税の免除を与えているのは「相手国の関税収入を自ら捨てていること」と同じです。関税の収入を自ら捨てているのだから、本当に「関税を捨てのるに値する貨物であるのか」を厳しくチェックしています。当然、様々な部分で厳しく監視されていると理解しておきます。甘い考えで特定原産地証明書を不正に取得して関税の減免を受けることは「相手国にケンカを売る」と同じです。
Q.遡及発給とは?
EPAを利用するときの特定原産地証明書は、貨物を船積みするまでに取得します。しかし、中には、船積み間際になって、バイヤーから「特定原産地証明書が欲しい」と言われることがあります。一般的に特定原産地証明書を取得するには、新規取得でおよそ3週間ほど、二回目以降の取得で3~5営業日ほどかかります。取得には、以外に日数がかかります。
そこで便利な制度が「特定原産地証明書の遡及発給とは?)」です。遡及発給とは、貨物の船積み後、具体的には、B/L上の出港日を過ぎている貨物に対して、特定原産地証明書を発行することです。この遡及発給の仕組みを利用すれば、とりあえず貨物は先行して輸送、書類は、後追いで提出できます。すでに日本から離れており、貨物が到着するまでに時間がかかるときに有効です。
Q.EPAの全体図は?
ここから先は、EPAをさらに深く確認していきます。全体像は、次の通りです。
原産地証明とは、協定上の原産品であることを証明する行為です。輸出者は、特定原産地証明書を取得。これを輸入者に送付します。
一方、輸入者は、輸出者が取得した証明書を輸入国側の税関に提出して関税の免除を受けます。したがって、以下の内容は、あなたが「輸出者」の立場のときに、特に覚えておくべきことです。
Q.「救済」する2つのルールとは?
既述の通り、非原産材料を使い商品を製造する場合は、上記3つのいずれかのルールを適用し、原産性を立証します。このとき、適用するルールとして、関税分類変更基準又は付加価値基準を使う場合は「ほんの些細な基準差」で原産性を判断できないケースがあります。
例えば、関税分類変更基準は、原材料と完成品との間に必要なHSコードの変化があることが条件です。仮に10個の原材料があり、その内の1つがHSコードの変更ルールを満たせないと、その時点で完成品は、日本の原産品にはできませんね! たとえ、その原材料が仮に完成品の重量が1キロの内の5gであったとしてもです。
このような「ささいな違い」による原産性を取得できない商品には、ある一定の基準以下に収めることを条件として「救済ルール」があります。代表的なのが次の2つです。
- デミニマスルール
- 累積規定
Q.EPAとFTA、WTO、TPPとの違い。WTOとの関係は?
ニュースをなどを見ていると、EPAと同時に「FTA」の言葉を聞くことが多いです。一体、これらの違いは何でしょうか? 主な違いは、次の通りです。
- FTA=Free Trade Agreement=自由貿易協定
- EPA=Economic Partnership Agreement=経済連携協定
- 上記の違いは、自由化分野の範囲。FTAは、関税中心。EPAは、関税、投資、人的交流など
- ただし、昨今は、EPA=FTAと考えてもよい。
Q.追徴課税、罰則は?
EPAは、輸入国側の関税を削減する仕組みであるため、不正利用には大きなペナルティがあります。
例えば、本当は、中国で作られた製品なのに、日本産と偽り輸出をし、本来の関税をごまかすなどの行為です。基本的に、EPAの不正使用は、非常に厳しい罰則があります。タイのケースでは、これまで免除した関税額の5倍の返還命令が出たとの話も聞きます。EPAは、輸入国側の税収に直結することであるため、不正行為は非常に厳しいことを覚えておいた方がいいです。
Q.EPAで原産性が認められない加工とは?
EPAでは、非原産材料を使って製造した物でも「実質的な加工」をすれば、原産品にできます。この実質的な加工には、次の作業を含まないです。
- 改装及び仕分け
- 産品や包装にマークやラベルをつけること
- 組み立てた物を分解
- 瓶、ケースや箱に詰めるだけの作業
- 単なる切断
- 混合
- 完成品にするための単なる部品の組立
- 物品を単純にセット品にしただけ
- 上記で示す二以上の作業の組み合わせ
- 輸送用に良好な状態に保存するための作業(乾燥、冷凍、塩水漬けなど)
Q.EPAを活用しないどうなる?
- 輸出→価格競争力が落ちる
- 輸入→仕入れ原価が上がる。
Q.関税が下がるタイミングを調べるには?
関税が下がるタイミングは、ワールドタリフで調べられます。ワールドタリフにログインをすると、以下の画面が表示されます。品名のHSコード(品名を六桁の数字で表すもの)を知っているときは「HSコード検索」を押します。知らないときは「apple」などのキーワードから検索する「テキスト検索」を押しましょう!
Q.本当にEPAは必要なの?現状を教えてください。
日本とインドは「日インドEPA」を結んでいます。これは、ある輸出者さんの実際のお話です。実は、この輸出者さんは、EPAの存在を知っていました。しかし、自分には、関係ないと考えて、なかなか真剣に取り組まなかったそうです。いつものように鋼材の船積みを終えると、バイヤーから連絡が….「〇〇さん(輸出者)、EPAってのを聞いたんだよね~それを使いたい。特定原産地証明書を用意してもらえますか?」とのことです。
いきなりすぎる要求で輸出者さんは、びっくりです。それもそのはずです。EPAを利用するための「特定原産地証明書」は、初回の発行になると、早くて4週間ほどかかるからです。そのときは、このことを丁寧に伝えたら、なんとか納得してもらえたそうです。しかし、こんなこともあわせて言われました。「次回の輸出時は、絶対用意してもらうからね。用意できなければ、関税負担分を値引いてもらうからよろしく!」と、です。
インドのバイヤーの主張としては次の通りです。「特定原産地証明書は、日本側が発行する物。これをインド側税関で提出すれば、納税額を減らすことができる。でも、何らかの理由により、特定原産地証明書を発行できないのであれば、それは日本側が責任を取るべきだ」です。これが「関税負担分を値引いてもらうからよろしく」の一言が意味することです。
Q.EPAと社内体制の構築
EPAの社内体制の構築は、各部署間の調整を横断的に行いやすい人が行うのが望ましいです。その上で、次の4つの部門を調整します。EPAの機関的な部門として、新たに「EPA管理部門」を置きます。その部署が中心となり、生産部門、購買部門、営業部門をコントロールします。
- EPA管理部門
- 生産部門
- 購買部門
- 営業部門
1.EPA管理部門
EPAを管理するときの中心的な役割を果たします。各部門から必要な資料を取り寄せた上で、特定原産地証明書で必要とする資料を作成していきます。資料を作成した後、発給申請システムなどから申請を行い、自社の商品が原産品であることを証明する作業などを行います。また、常にEPA・FTAなどに関する最新の情報をフォローするようにします。
- 特定原産地証明書の取得で必要な生産資料の取り寄せ
- 生産資料から、証明書を取得するときの資料を作成
- 日本商工会議所への申請とやり取り
- 特定原産地証明書を取得したときの基礎資料の管理
- EPAに関する各種セミナーの受講
- 世界の通商政策の把握
- 最適なFTAの選定など
- 原材料や為替レートの変動により閾値(しきいち)の監視
2.生産部門
生産部門は、商品を生産するときに必要になる人件費、資材費、原材料費などの製造コストを算出していきます。また、あわせて完成品に使われている部材資料などを作成していきます。具体的には、完成品に含まれる原材料や部品リスト、製造工程フロー図などがあります
生産に関する資料の作成
3.購買部門
社内の完成品に使う部材や原材料の調達に関する資料を取りそろえます。「どこのサプライヤーから買い付けている部材なのか?」を明らかにするために、請求書などを整理していきます。
社外などから購入している「原材料や資材」に関する証明書(請求書など)を集めていきます。また、必要であれば、サプライヤー(部品の供給者)に対して「サプライヤー証明書」や「委託生産者証明」の請求をします。
4.営業部門
営業部門は、輸入者などとの調整などを行います。
例えば、輸入者側から「商品〇〇の特定原産地証明書が欲しい」などの依頼が来たら、それをEPA管理部門などに伝えます。EPA部門に伝えた結果、何日くらいに特定原産地証明書が手に入るなどの回答を輸入者に行います。輸入者→営業→EPA管理部門→各部門などの流れで、特定原産地証明書の発行対応を行っていきます。
最近は、輸入者側からも「特定原産地証明書の発行」が当たり前に求められるようになっています。もし、このとき、発行できなければ「輸出者の責任」として、現地税関で負担する関税分を輸出者側で支払うように要求してくることが多いです。そのため、営業部門は、特定原産地証明書の発行状況を考えながら、輸入者側と価格交渉をすることもあります。
関連記事:EPAを利用しないことによる弊害
輸入者側とのやり取りを行います。具体的には、輸入者側に対して「輸入国側の商品のHSコード」を確かめてもらったり、EPA管理部門と協調しながら、先方へ特定原産地証明書を発送できる時期を伝えたりします。また、他社から生産者同意通知があれば、それをEPA管理部門などに伝えます。
Q.EPAの活用モデル10選は?
当サイトでは、次の10モデルを考えています。
1.他国の部材を取り寄せて日本で生産
まずは、EPA締約国の部材などを取り寄せて、日本で生産するモデルです。完成品の価格を引き下げて、日本国内市場へ供給できます。多国間EPA(日アセアン)であれば「完全累積」を活用して、日アセアンEPA締約国の部材+日本の部材で生産した物をEPA締約国へ販売もできます。部材の調達から完成品の販売まで域内で完結しているため、関税等はかかりません。
2.日本の部材を他国へ送り、他国で生産
完成品の中でも重要なパーツを日本で生産して、その他の部分をEPA締約国で生産するモデルです。このモデルの場合、送った相手国が締結しているEPAにも注目する必要があります。
例えば、タイであれば、日本以外にも中国とEPA協定を結んでいます。したがって、まずは日本から「日タイEPA」を使って部材を輸出します。タイの工場で完成品にしたものを「タイと中国のEPA」を活用して中国へ輸出するモデルなどが考えられます。これであれば、日本からタイへの部材供給時、タイから中国への完成品の輸出時ともに関税削減の恩恵を受けられます。
3.EPA域内で生産した完成品を日本へ輸入
これは、かなり単純なモデルです。いわゆる日本とEPAを締結している国で生産された完成品をEPA輸入することを指します。特に日本では、商品によって高額な関税率が設定されている物ががあります。あえてそれらの高関税品を狙って、EPA輸入すると、何かしらの扉が開けるかもしれません。
4.部材をEPA域内にある別の国へ輸出して、そこからEPA輸出
これから結ばれるであろう多国間EPAのときに実現しそうなモデルです。いわゆる国をまたぐ「OEM(製造業でありながら、製造設備をもっていない会社が、他社に製造を委託して生産する方法)」のことを言います。
例えば、日本は、A国、B国、C国、D国と多国間EPAを結んでいるとします。この場合、日本を含めて、A国~B国は「域内」という概念になります。これらの国では、基本的に関税等はかかりません。そのため、それぞれの国の強みを生かして、一つの製品を完成させられます。
日本は高度な先端部材の開発を得意としています。しかし、人件費が高く、世界市場の供給する上で、価格競争で負けてしまいます。そこで、人件費が安いC国の工場に部材を送り、その工場で完成品を生産します。次に、この商品を購入してくれそうな国がどこなのか?を考えます。様々な国がありますが、域内でいうと、国民所得が高いB国が有力になりそうです。そこで日本の会社は、C国からB国へ輸出して販売しています。
5.EPA域内の外国から生産を受託
日本には、中小を含めて様々な企業があります。それぞれの企業は独自の加工技術を持っていますが、それらがうまく活用されていない現実があります。単なる大企業の下請けだけではもったいない企業は、たくさんあるはずです。そこでこれらの余剰生産能力を活用して「EPA域内にある海外企業から生産を受託するモデル」が考えられます。本当は、このように加工したいけれど、精度が求められるから日本で生産したい! そんな外国企業がターゲットです。
当サイトでは、このビジネスモデルのことを「国際OEM受託モデル」と呼んでいます。
6.他国の農産品を輸入して、日本市場へ流します。
まずは、最も単純な輸入モデルです。EPA域内で生産された農産品であり、日持ちして、関税削減効果が高い物を輸入します。国内産の物の価格が高い物がねらい目です。
7.日本の農産品を輸出して、海外市場へ流します。
こちらも単純な輸出モデルです。現状、日本から盛んに農産品を輸出している先の国は、台湾と香港です。理由は、農産品に対する検疫制度です。また、理由は不明ですが、オマーンにも日本の農産品が輸出されています。一つ一つがかなり高額で輸出されているため、気になる方はお調べください。
現状のEPAの域内で考えると、農業強国ばかりであり、あまりEPA輸出モデルを考えることはできないです。現実的には、このモデルは厳しいと思います。
8.グローバルファーマー生産モデル(海外向け)
EPA域内にある国で土地を借りて農産物を生産するモデルです。日本の農業技術を使い、他国の安価な労働力を活用して、高品質な農産物を安く生産します。生産した農産物は、日本を含めて、同じEPA域内へ輸出できます。日本の閉鎖的な農業環境を考えれば、これからは、このようなモデルが十分考えられます。
9.グローバルファーマー生産モデル(他国の国内向け)
先ほどのケース8と同じですが、主な販売先のターゲットを進出した先の国内市場に向けています。このモデルの場合、やはりある一定のレベルで国内市場が成熟している必要があります。また、現地で販売されていない農産物、かつ需要がある物を見極めた上で、生産する力が求められています。特に世界的に問題となっているのは「塩害」です。塩害により、農産物の生産に適していない土地なども考えられるため、十分に検討する必要があります。
10.グローバルファーマー共同事業モデル
おそらく農業分野でEPAを活用するときの最高の形だと思います。EPA域内にある他国の農業事業者と手を組み、市場情報、資材調達、技術情報の共有を行います。
例えば、日本市場で「●●が高値傾向にある」という情報を共有して、提携している農家から農産物を調達して、日本市場へ流すなども考えられます。単なる農家ではなく、農産品取引も兼ねて行うグローバルファーマーの概念です。その他、農業で必要な資材の共同購入、技術情報の共有などを行うことによりEPA域内にあるグローバルファーマー同士が高度に連携する姿が考えられます。必要であれば、農業技術のコンサルなどを行い、コンサル契約を結ぶこともできます。
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