FAO・英国IIH・厚労省データの使い分け
なぜ今、輸入リスク情報が重要か
食品の国際取引は各国ごとに規制や検査基準が異なり、しかもその内容は頻繁に改正されます。輸入時の拒否やリコールを防ぎ、ビジネス上の損失を最小限にするためには、複数の信頼できる情報源を横断的に参照することが重要です。
この記事では、FAO GLOBEFISH「輸入通知データ」、英国「Imports Intelligence Hub(IIH)」、日本の厚生労働省食品検疫情報の特徴を詳しく説明していきます。
FAO GLOBEFISH「輸入通知データ」
概要とアクセス方法
FAO GLOBEFISHは、水産物や食品に関する国際的な市場情報や輸入通知データを提供する国際機関です。日本、米国、中国、ベトナムなどの主要国が対象に含まれ、水産物を中心に国別・品目別の違反事例を調べられます。
また、特定の化学物質や微生物、カビ毒など、リスクの種類ごとに詳しくデータが整理されています。そのため、違反傾向を分析するのにとても役立ちます。これにより、世界各国で発生している輸入拒否・リコールの傾向を把握できます。
- アクセス先:FAO GLOBEFISH 輸入通知データ
- 更新頻度:年1回の総まとめ+随時速報
日本の食品輸入実務者はこう活用する!
1. HSコードで違反事例を照合
FAOのデータから、日本で輸入予定の品目と同じHSコードを持つ違反事例を探します。違反理由(農薬残留、添加物、微生物など)ごとに分類し、日本での自主検査や検査命令品の設定に活かします。
2. 国別リスクマップの作成
過去12〜24か月分の違反件数を国別に集計し、特定の国や地域からの輸入品に事前のリスク評価を行います。
3. 季節・時期ごとの違反傾向分析
違反が増える時期(例:夏の高温期に微生物リスク増加)を把握し、その時期の輸入検査を増やします。
4. 緊急対応事例の学習
積み戻し、廃棄、販売禁止になった事例を分析し、自社の危機管理マニュアルに反映します。
5. 海外拠点・取引先との情報共有
他国で発生した違反事例を共有し、輸出元の段階で品質改善や仕様の見直しを促します。
6. 他国規制との比較による予防策
FAOデータを使って、EUや米国などで強化された規制を把握し、日本の制度改正前に先回りして対応します。
最近の違反事例例(2024年)
- インド産冷凍エビ:抗菌剤の残留が基準値(0.05 mg/kg)を超え、日本の港で通関拒否されました。
- トルコ産乾燥イチジク:アフラトキシンB1の基準値を超過し、EU市場で回収命令が出されました。
英国「Imports Intelligence Hub(IIH)」と Early Warning System(EWS)
概要とアクセス方法
英国食品基準庁(FSA)が運営するIIHでは、食品や農産物の輸入に関する統計、高リスク品目、国別の違反傾向などを幅広く提供しています。
特にEWS(早期警告システム)では、有害物質が見つかった場合や加工工程での違反など、急なリスク情報をリアルタイムで知らせてくれます。これにより、輸入者は事前に対応策をとることができます。
- アクセス先:Imports Intelligence Hub(IIH)
- 更新頻度:EWSは月次または隔月更新、統計情報は随時更新
日本の食品輸入実務者はこう活用する!
1. 英国の高リスク品目とHSコードを照合
IIHの国別・品目別高リスク情報を抽出し、日本で輸入予定のHSコードと照らし合わせます。英国で高リスクに指定されている品目は、「過去に問題が多かった」というサインなので、日本でも重点的に監視します。
2. EWS警告を理由ごとに分析
農薬残留の超過、サルモネラ検出、ラベルの不備など、EWSの警告理由を分類します。その結果を、日本での検査指示や自主検査計画に反映します。
3. 輸出国・仕入先の警告傾向チェック
EWSで特定の輸出国や輸出者に繰り返し警告が出ていないか確認します。この情報は、日本での取引先評価に活用します。
4. 規制改定の先読み
EWSやIIHの統計から、規制が強化されている品目(例:残留基準値の引き下げ)を見つけ、日本の制度改正前に先回りして対策を取ります。
5. リアルタイム情報の社内共有
EWSから警告を受け取ったら、すぐに購買部門や品質管理部門に共有します。発注中や輸送中のロットのリスクを早急に評価します。
最近の違反事例(2024年)
- モロッコ産イチゴ:農薬クロルピリホスが残留し、英国到着時に廃棄されました。
- ベトナム産香辛料:サルモネラ陽性が検出され、EWSで警告が出されました。
厚生労働省の食品検疫情報
概要とアクセス方法
厚生労働省は、日本国内に輸入される食品等について、輸入食品監視指導計画、検査命令品目リスト、違反速報などを公表しています。これは日本市場向け輸入の実務判断に直結する一次情報源です。
- アクセス先:厚生労働省 食品監視・検査情報
- 更新頻度:年1回の計画+随時違反速報
日本の食品輸入実務者はこう活用する!
1. 検査命令品目の確認
検査命令リストをHSコードで照合し、該当する品目があれば輸入前や自主検査を強化します。
2. 違反速報の即時対応
違反速報を受け取ったら、すぐに該当品目の輸入ロットや在庫を確認し、販売できるかどうかを判断します。
3. 違反理由ごとの傾向分析
農薬残留、添加物、微生物などの違反理由を分類し、必要に応じて検査基準を見直したり、輸出者に仕様変更を依頼します。
4. 仕入先評価への活用
過去に違反が繰り返された仕入先や産地を特定し、取引条件の見直しや改善要求を行います。
5. 再発防止とマニュアル改訂
違反事例を参考に、社内の検査や管理マニュアルを更新し、同じリスクが再発しないよう徹底します。
6. 規制改正への即応
監視指導計画の改訂を確認し、新たな規制や検査強化があれば、すぐに輸入条件や検査体制を調整します。
最近の違反事例(2024年)
- 中国産冷凍ホウレンソウ:残留農薬クロルピリホスが基準値を0.02 mg/kg超えて検出。
- 米国産ナッツ:アフラトキシン総量が基準値を超過し、販売禁止措置が取られました。
オーストラリア「Imported Food Inspection Scheme」
概要
IFISは、オーストラリアに輸入される販売用食品を対象に、見た目のチェックやラベルの確認を行い、必要に応じて成分分析などの検査も行う制度です。ニュージーランドからの食品は、両国共通のFSANZ基準があるため、多くが国境での検査を免除されます。
輸入食品は以下の3カテゴリーに分類されます。
- リスク食品
健康への中〜高リスクがある食品で、すべてのロットが検査対象。過去の法令遵守状況により検査率は100%、25%、5%に変わります。 - 監視食品
リスク食品やコンプライアンス合意食品以外の食品で、5%がランダムに検査されます。不合格になると、その後は100%検査に引き上げられます。 - コンプライアンス合意食品
輸入者が食品安全管理システムで管理しており、通常のIFIS検査を免除されます。
さらに、一部の国は食品安全認証協定により、オーストラリアと同等の安全管理体制と認められれば検査率が下がります。また、自発的政府証明制度を使えば、リスク食品でも輸出国の安全保証に基づき輸入が認められることがあります。
検査に不合格となった食品は、再ラベル・再輸出・廃棄のいずれかが必要で、輸入者には不合格通知(IFIA)が発行されます。IFISは食品の種類、生産者、産地、HSコードごとに法令遵守履歴を記録し、検査頻度の調整に活用します。
日本の食品輸入実務者はこう活用する!
1. リスク食品・監視食品の照合
オーストラリアのリスク食品・監視食品リストをHSコードごとに抽出し、日本で輸入予定の品目と照らし合わせます。
2. 違反理由の分類
残留農薬、微生物、ラベル不備などの違反理由を分け、日本での検査計画に反映します。
3. 仕入先評価への活用
産地や輸出者ごとの違反履歴を調べ、仕入先の評価に活用します。
4. 監視食品の重点検査
監視食品に指定されている品目は、日本でも重点的に検査対象にします。
5. 不合格事例からの予防
オーストラリアで発行された不合格通知(IFIA)の事例を分析し、同じリスクがある品目には事前に改善を促します。
6. リスク軽減策の導入
食品安全認証協定や自発的政府証明制度の対象品情報を、日本での検査リスクを減らすための施策に取り入れます。
ニュージーランドの高リスク食品輸入管理プロセス
概要
ニュージーランドでは、食品を Low(低)、Increased(中)、High(高) の3つに分類しています。中や高に分類された食品は、輸入の際に公的証明書の提出や検査が必要です。輸入者は政府への登録、記録の保管、模擬リコールの実施なども求められます。また、業界団体が作成するリスクマネジメントプランに沿って、認定監査機関が監査を行います。違反の発生状況や食品安全の情報によって、カテゴリーや検査率は見直され、リスクに応じた監視が続けられます。
この制度の中心となるのが FSANZ(食品基準オーストラリア・ニュージーランド委員会) です。FSANZは25年以上にわたり、オーストラリアとニュージーランドで販売される食品の安全基準を作り、管理してきました。この基準は輸入食品にも国内流通食品にも適用され、消費者の信頼を守っています。
FSANZの規制は、生物安全、ラベル表示、添加物、残留農薬など幅広い分野をカバーし、輸入食品の安全管理に直接影響します。公式ウェブサイトでは、最新の規制情報やガイドラインが公開されており、輸入実務者が基準を守るために必要な情報を得られます。また、オーストラリアとニュージーランドの規制をまとめて管理することで、輸出入の規制調整や認証手続きの効率化にも役立っています。
日本の食品輸入実務者はこう活用する!
1. 高リスク食品の確認
High・Increasedリスクに分類された食品リストをHSコードと照合し、日本に輸入する前に検査を強化すべき品目を特定します。
2. 緊急対応訓練への活用
模擬リコールの義務がある品目の事例を参考に、日本での緊急対応訓練計画に取り入れます。
3. 公的証明書の準備
公的証明書が必要な品目を把握し、日本で輸入するときにも同様の書類を必ず用意します。
4. 基準の違いを確認
FSANZ基準と日本の基準(添加物、残留農薬など)の違いを調べ、必要があれば輸出者に事前に仕様変更を依頼します。
5. 仕入先評価に活用
ニュージーランドの監査報告や違反履歴を調べ、過去に違反があったか、その改善状況も確認します。
6. 検査計画への反映
検査カテゴリーの変更情報を常に追いかけ、日本での輸入検査計画にすぐ反映します。
FDA(米国)の輸入食品監視戦略(FSMA含む)
概要
米国FDAは、データ分析に基づくリスクベース監視を採用し、輸入者責任を強化しています。食品安全強化法(FSMA)に基づき、事前承認、監査、継続的なリスク管理が義務化され、違反発生前に予防措置を講じることが求められます。また、学術機関や規制当局との連携によって、監視の精度と早期警戒能力を向上させています。
リンク先:FDA
米国FDAデータの活用方法
1. 違反品目・理由の分析
FDAの「輸入拒否リスト」から、日本で輸入予定の品目やHSコードに当たる事例を探します。農薬の残留、微生物の汚染、ラベルの不備など、理由ごとに整理し、日本での検査計画や仕入先監査に活かします。
2. FSMA対象品の事前チェック
輸入予定の商品が、米国の食品安全強化法(FSMA)の輸入者検証プログラム対象かを確認します。米国で基準が厳しくなっている品目は、日本に輸入するときも同じレベルの自主検査や仕様変更を事前に行います。
3. 輸出者・生産者の過去違反歴の確認
FDAのデータベースや警告書から、同じ仕入先や生産者の違反歴を調べます。違反があった場合は、改善の証拠や再発防止策を提出してもらいます。
4. 規制改正の先読み
FDAの規制改正予定(残留基準の変更や表示義務の追加など)を追跡します。同じリスクが日本の制度にも広がる可能性を考え、先に対応策を準備します。
5. データ分析の実務活用
FDAが使うリスク評価項目(輸入履歴、産地、違反傾向)を参考に、日本向け輸入食品のリスクスコアを作成します。そのスコアをもとに、検査頻度や仕入先の選定に反映します。
三者+主要国制度の使い分けポイント
項目 | 日本 厚労省 | FAO GLOBEFISH | 英国 IIH / EWS | 豪州 IFIS | NZ 高リスク制度 | 米国 FDA/FSMA |
---|---|---|---|---|---|---|
対象 | 日本市場 | 世界主要国 | 英国市場 | 豪州市場 | NZ市場 | 米国市場 |
更新 | 年1回+速報 | 年1回+速報 | 月次/隔月+随時 | 随時 | 随時 | 随時 |
主な用途 | 基準遵守 | 国際比較 | 市場監視 | 検査頻度最適化 | 高リスク管理 | リスクベース監視 |
実務効果 | 許可取得・検査対応 | 輸出戦略・仕入先評価 | 仕様変更・迅速対応 | 品質維持・検査軽減 | 緊急対応力向上 | 輸入者責任徹底 |
三者の使い分けポイント
項目 | 厚労省(日本) | FAO GLOBEFISH | 英国 IIH / EWS |
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対象 | 日本市場 | 世界主要国 | 英国市場 |
更新 | 年1回+速報 | 年1回+速報 | 月次/隔月+随時 |
主な用途 | 日本向け基準遵守 | 国際比較・他国違反傾向 | 英国市場監視・早期警告 |
実務効果 | 許可取得・検査対応 | 輸出戦略・仕入先評価 | 仕様変更・迅速対応 |
EU・米国規制改正の最新動向(2025年注目)をわかりやすく解説
EUの動き:2025年1月から、一部の農薬の最大残留基準値(MRL)が引き下げられます。特に香辛料や果物への影響が心配されます。
米国の動き:米国FDAは、食品安全強化法(FSMA)に基づき、輸入者検証プログラム(FSVP)の監査対象品目を増やす予定です。
サプライチェーン管理と外部連携
- 食品安全マネジメント統合:ISO 22000やFSSC 22000などと連動し、検査証明書や違反速報の情報をすぐに反映します。
- ロット追跡の強化:GS1バーコードやロット管理システムと連携し、違反があったロットをすぐ隔離・回収できます。
- 国際的なリコール通知活用:RAPEXやRASFFなどと組み合わせ、多方面から情報を取得します。
- 現地監査と検査機関の連携:海外現地監査や第三者検査機関と協力して、輸出入時の不適合リスクを減らします。
まとめ
FAO、英国IIH、厚労省、さらにオーストラリア、ニュージーランド、米国FDAの情報を組み合わせれば、グローバル視点での輸入食品リスクマップが構築可能です。市場ごとの制度特性を理解し、自社の輸入戦略や安全管理計画に落とし込むことで、違反リスク低減とビジネスの安定化が実現します。