ブラジルからの輸入食品とページの目的
- ブラジルは鶏肉(サルモネラ)、ナッツ(アフラ)、コーヒー(農薬/OTA)、濃縮果汁(農薬/異物)、冷凍ピューレ(L.モノ)が主要リスク。
- 製品+環境の二層管理を実施し、推奨LOQは国内基準の1/5〜1/10を目安、濃縮品は倍率換算を必須化。
- ラベルは名称・原産国・アレルゲン・加熱/解凍指示を整合し、有機JASや機能性表示は事前審査。
- 書類はSIF番号、CAPA、温度ログ、濃縮算定表などをロットに紐付け、即応体制を構築。
- 近年の違反事例を分析し、鶏肉の温度逸脱、ナッツの乾燥不備、コーヒーの乾燥方法未記録などを防止。
日本向けでつまずきやすい“実装上の穴”を先回りで塞ぐこと。検査の設計(LOQ・採取法)と、日本語表示の落とし穴を、監査・照会対応まで見通してセット化します。
国別・固有の注視ポイント(2025)
鶏肉(冷凍・チルド)
サルモネラ菌や一部ロットでの一般生菌数が主なリスクです。屠鳥場の衛生管理(CIP、作業前点検)や、と畜・解体の記録を輸出書類に紐付けます。ドリップ(解凍時の液体)が多いロットは、微生物汚染や品質低下の可能性があるため注意が必要です。
落花生・ブラジルナッツ
アフラトキシン(総量およびB1)がリスクです。特にブラジルナッツは森林採取のため品質のばらつきが大きく、選別・乾燥・保管の管理が品質を左右します。
コーヒー(生豆・焙煎豆・挽き)
残留農薬の多成分検査と、カビ毒の一種であるオクラトキシンA(OTA)がリスクです。産地、収穫年、乾燥方法(天日乾燥か機械乾燥か)によってリスクが変わります。
オレンジ濃縮果汁
残留農薬やカビ毒、金属異物の混入が懸念されます。濃縮工程では一部成分が濃縮されるため、濃縮倍率に応じた表示や規格の根拠を整えておく必要があります。
アサイー・トロピカルフルーツ加工品
冷凍ピューレはL.モノ(リステリア菌)や温度管理が重要です。温度ロガーで温度履歴を記録し、解凍手順も明確にして運用します。
実務TIPS(輸出前〜輸入後まで)
鶏肉(冷凍・チルド)
サルモネラ菌は製品と製造環境の両方を監視します。屠鳥場はゾーン分けを行い、脱羽後からカット・包装までの環境を拭き取り検査します。検査頻度は月1回から週1回に強化します。陽性時は是正予防措置(CAPA)の記録をロットに紐付けて保管します。サンプル部位は胸・もも・ささみを混ぜて代表性を確保し、外装箱に水濡れがあれば直ちに写真で記録します。
ナッツ類(落花生・ブラジルナッツなど)
品質管理は、色彩選別→目視→ふるい→低温保管といった多段階で行います。受入検査では総アフラトキシンとB1の両方を、LC–MS/MSまたはHPLC–FLD(カラムブレイク付き)で同時分析し報告します。
コーヒー(生豆・焙煎豆・挽き)
乾燥方法の記録が重要です。特に天日乾燥はオクラトキシンA(OTA)リスクを高めます。産地区画と乾燥方式をバッチ番号に紐付け、水分値(例:12%以下)を現場で迅速に測定します。
濃縮果汁(オレンジなど)
濃縮倍率の算定表と試験根拠を準備します。原果汁→濃縮→復元までの質量収支表を作成し、残留農薬検査はMQL 0.01mg/kg級で設計します。濃縮倍率に応じた換算根拠を添付します。
冷凍ピューレ系(アサイー・トロピカルフルーツなど)
温度管理を徹底します。温度ロガーを常設し、扉開閉による温度変化(スパイク)を自動で抽出します。これらの記録は品質クレーム発生時の証拠資料として活用します。
日本語表示ラベルの注意(落とし穴と回避)
- 名称:鶏肉は「鶏もも肉(冷凍)」など一般名称を先に記載。加塩や調味されている場合は別名称も検討します。
- 原材料名:配合割合の多い順に記載し、添加物(pH調整剤、リン酸塩、酸化防止剤など)は用途名と物質名を分けて書きます。
- 原産国名:最終加工国を基準に表示。例:ブラジルで加工後、日本で小分けする場合は製造所固有記号の運用を事前確認します。
- アレルゲン:落花生やくるみは特定原材料等に該当。共通ライン使用によるコンタミ注意喚起は根拠資料を保管します。
- 解凍・加熱表示:冷凍鶏肉やピューレは加熱の有無や中心温度を明確に表示し、RTE(そのまま食べられる)とRTH(加熱が必要)の混同を避けます。
- 有機表示:ブラジル側の有機証明は有機JASと同一ではありません。国内流通時はJASロゴの有無と表示位置を事前に決定します。
比較表(品目別・推奨LOQ・サンプリング・国別実務メモ)
品目(例) | 主リスク | 推奨LOQの考え方* | サンプリング実務 | 国別実務メモ |
---|---|---|---|---|
鶏肉(冷凍) | サルモネラ、一般生菌 | 微生物:25g陰性目安、ATP/指標菌で日常監視 | 部位ミックス+表面拭取りの二系統 | 屠鳥場のプレオペ点検・CIP記録をロット紐付け |
落花生 | アフラ(総/B1) | 総0.5–1 μg/kg、B1 0.1–0.2 μg/kg | 層別×荷姿別→混合試料化 | 乾燥・保管温湿度ログを提出可に |
ブラジルナッツ | アフラ(総/B1) | アウトライヤー想定で低LOQ運用 | 採取点数多めに設定 | 森林採取のばらつきを工程で吸収 |
コーヒー(生豆/焙煎) | 残留農薬、OTA | 農薬:MQL 0.01 mg/kg級、OTAはサブμg/kg | サイロ/袋の層化+焙煎前後比較 | 乾燥方式・水分値・産地区画を一枚図で提出 |
オレンジ濃縮果汁 | 農薬、カビ毒、金属 | MQL 0.01 mg/kg級+濃縮倍率換算根拠 | タンク・ラインから時系列採取 | 濃縮倍率と表示の整合性ファイルを準備 |
冷凍アサイー/ピューレ | L.モノ、温度逸脱 | 微生物:25g陰性目安 | 製品+環境拭取り併用 | 温度ロガーで連鎖可視化、解凍SOP添付 |
* 推奨LOQは、国内基準に対し1/5〜1/10の安全側マージンをとる運用目安。最終値は試験法バリデーションで確定。
サンプリング設計(現場テンプレ)
- ロット定義:屠鳥日、製造ライン、原料ロットを明確に定義します。
- 採取方法:入数、層(上・中・下や内・外)、時間帯(始・中・終)を分けて多点・層化採取を行います。
- 試料の標準化:混合試料と留置サンプルを基準化します。
- トレーサビリティ確保:開封時の動画や封緘状態の写真を保存します。
- 試験書の情報:ロットID、製造指図番号、船名やB/L(船荷証券番号)を必ず記載します。
国別・実務メモ(ブラジル)
- SIF番号管理:食肉はSIF(連邦検査局)番号で工場特定が可能。SIF番号、屠鳥日、製造ラインを輸出書類と一元管理します。
- 抗菌剤・成長促進剤の確認:ブラジルでの使用許可と日本の規制の違いを最新情報で管理。休薬期間の証明は投薬台帳で行います。
- 港湾・内陸輸送の温度管理:赤道近くを通過するルートではコールドチェーンが途切れやすいため、コンテナ温度ログのアラート閾値を事前に合意します。
- 監査同席の準備:日本の得意先の監査に合わせ、工場側のCAPAや環境陽性履歴を英語版で即提出できる体制を整えます。
ひな形(添付すべき書類チェック)
- 原料・製品規格書(変更履歴含む)
- 微生物(サルモネラ、L.モノ)、アフラ、残留農薬のCoA(試験法、LOQ、回収率、不確かさ)
- 屠鳥場の環境モニタリング計画と結果(ゾーン図、CAPA含む)
- 温度ロガー出力(積込〜通関〜納品まで)
- 濃縮果汁の濃縮倍率算定表と残留換算根拠
- 日本語表示案(配合比、原産国判定、アレルゲン根拠、加熱/解凍指示)
近年の違反事例(参考)
鶏肉(冷凍・チルド)
2023年に一部ロットからSalmonella Heidelberg陽性が検出され、命令検査対象となった事例。原因は屠鳥後の冷却水温度の逸脱と記録不備。輸出前検査証明はあったが、環境拭取りの一部ロット未実施が指摘された。
ブラジルナッツ
2022年に総アフラトキシンが基準値(10 μg/kg)を超過(15 μg/kg)した事例。森林採取ロットで乾燥工程中の降雨によるカビ発生が原因。出荷前の再選別・再分析が行われず、そのまま輸出されたことが判明。
コーヒー生豆
2024年にオクラトキシンAが基準値(5 μg/kg)を超過した事例。天日乾燥ロットで降雨後の再乾燥不足が要因。ロット管理表に乾燥方法の記録がなく、輸入者側でのリスク評価が困難だった。
オレンジ濃縮果汁
2023年に濃縮倍率換算の誤りで、残留農薬濃度の計算値が過小評価された事例。輸出者の検査証明では基準適合とされたが、日本側換算で超過となり違反認定。
冷凍アサイーピューレ
2024年にListeria monocytogenesが検出された事例。製造工場の凍結庫ドアパッキン部に汚染源が残存。定期的な部品交換や衛生点検が行われていなかった。
【日本国外】食品の輸入通関違反事例を確認
ここでは、米国向けの食品(米国通関違反事例)と欧州向けの食品(欧州通関輸入違反事例)をご紹介します。これらの情報を知ることで、より俯瞰した形で食品の完全性を検討できます。
米国通関違反例 ブラジル食品の安全性
出典:添付CSV REFUSAL_ENTRY_2024–Jul2025.csv(ISO_CNTRY_CODE=BR 抽出)/ 食品キーワードで抽出後に品目分類。
- ブラジルの拒否件数(全品目):396件
- うち食品該当:106件(安全性関連コードを含むもの:48件)
詳細表(品目別)
品目(例) | 件数 | 主な安全性リスク・違反内容 |
---|---|---|
ナッツ類(例:CANDY BARS OR PIECES (NOT CARAMEL OR FONDANT), NUT / CASHEW NUTS / BRAZIL NUTS, WHOLE OR SHELLED) | 45 | 誤表示・有害・有毒物質・ラベル規則違反 |
乳製品(例:MILK, FLAVORED (CHOCOLATE, ETC.) / FLUID/DRY MILK & CREAM / CONDENSED MILK) | 15 | 必要証明未提出(安全性確認不備)・不衛生条件(微生物汚染) |
米(例:RICE, PLAIN (WHITE OR POLISHED) PROCESSED (PACKAGED) / PARBOILED RICE) | 15 | 不衛生条件(微生物汚染) |
香辛料(例:PEPPER, BLACK, WHOLE (SPICE) / MIXED SPICES AND SEASONING WITH SALT, N.E.C.) | 10 | 誤表示・腐敗・劣化・有害・有毒物質 |
果物(例:CANDY BAR OR PIECES (NOT CARAMEL OR FONDANT), FRUIT-FLAVORED / DRIED FRUITS, N.E.C. / GUAVA PASTE) | 6 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
野菜(例:VEGETABLE PROTEIN POWDER (VIT/MIN/PROTEIN/UNCONC.) / DRIED VEGETABLE MIXES) | 5 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
茶類(例:TRIBULUS (HERBAL & BOTANICALS, NOT TEAS) / MACA POWDER) | 4 | ラベル規則違反 |
食用油(例:EVENING PRIMROSE OIL (FATS AND LIPID SUBSTANCES, N.E.C.)) | 2 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
実務者向けコメント
ナッツ類(カシューナッツ、ブラジルナッツ等)
- 違反は有害・有毒物質(特にカビ毒)、誤表示が中心。アフラトキシンやオクラトキシンなどの汚染は健康被害リスクが高い。
- 対策:
- 出荷前にISO17025認定機関でのカビ毒検査を実施。
- ロットごとの水分活性管理と保管温湿度のモニタリング。
- 長期保管品は入替基準を設定し、輸送中も吸湿防止。
乳製品(粉乳、練乳、フレーバーミルク等)
- 主な違反は必要証明未提出と微生物汚染。特に粉乳はサルモネラやCronobacter汚染の可能性がある。
- 対策:
- 日本と米国の両方で受理される衛生証明書の事前確保。
- 乾燥製品でも低水分菌の制御(製造環境のゾーニング、エアフィルター管理)を強化。
米製品
- 不衛生条件の指摘が複数。穀物は貯蔵中のカビ毒や異物混入も懸念される。
- 対策:
- 倉庫湿度・温度の標準化管理。
- 精米後の微生物・異物検査をロットごとに実施。
香辛料(黒胡椒、混合スパイス等)
- 腐敗・劣化、有害物質、誤表示の指摘あり。サルモネラ汚染は国際的に頻発。
- 対策:
- 出荷前のサルモネラ・大腸菌群スクリーニング。
- 必要に応じて蒸気殺菌・照射処理の導入。
果物・野菜・茶類・食用油
- データ上は表示関連中心だが、果物・野菜は残留農薬やカビ毒、茶類はカフェイン・残留農薬、食用油は酸化安定性が実務上のリスク。
- 対策:輸入ロットに応じた事前試験(農薬・酸化度・カビ毒)を組み込む。
日本輸入への実装ポイント
- ブラジルからの輸入では、ナッツ類=カビ毒・水分活性、乳製品=証明書・低水分菌、米=環境衛生、香辛料=サルモネラを重点管理項目とする。
- FDA拒否データは、輸入前の自主検査計画・監査リスト作成に活用可能
欧州・ブラジル食品の輸入違反事例
件数概要
- 総違反件数:92件
- 食品カテゴリー該当:84件
- 期間:2024/7/14~2025/7/14
主なカテゴリー(件数)
- 家禽肉・家禽肉製品:44
- 果物・野菜:13
- 肉類(鶏肉以外):13
- ナッツ・種子類:7
- 乳製品:2
- 特殊用途食品(サプリ等):1
- その他混合食品:1
- 穀類・ベーカリー製品:1
- ハーブ・香辛料:1
- 動物副産物:1
主な違反理由(例)
- 残留物質:クロレート(chlorate)、クロルピリホス-エチル(chlorpyriphos-ethyl)
- 微生物:サルモネラ(Salmonella spp.)、腸管出血性大腸菌(E.coli O157:H7/STEC)
- カビ毒:アフラトキシンB1、総アフラトキシン
- 農薬:アセフェート(acephate)、メタミドホス(methamidophos)
通報国(一例)
オランダ、ベルギー、ドイツ、スペイン、ポルトガル、フランスなど
実務者向けコメント(日本向け輸入に活かす)
1) 家禽肉の微生物管理(サルモネラ・E.coli)
- 屠殺〜解体〜包装までのHACCP徹底と作業環境のゾーニング管理。
- ロットごとの微生物検査(サルモネラ、STEC)を出荷前に実施し、陰性証明を添付。
2) 残留物質(クロレート等)
- CIP洗浄水や殺菌水由来のクロレート混入を防ぐため、濃度管理とすすぎ工程の検証。
- 日本の基準値に照らし合わせた残留確認試験を実施。
3) カビ毒(アフラトキシン)
- ナッツ類・穀類では収穫後乾燥・保管条件の最適化が必須。
- ISO17025認定試験所でB1・総アフラを同時分析し、基準適合を確認。
4) 農薬(アセフェート・メタミドホス)
- 輸出用農産物は事前に残留検査を行い、日本のMRLと比較。
- 使用履歴のある農薬は輸出ロットから除外。
5) 表示・ロット管理
- 畜産物は屠殺場番号や生産ロットのトレーサビリティを明確化。
- 温度ロガー記録を添付し、輸送中のコールドチェーン維持を証明。
まとめ(要点)
- ブラジルは鶏肉(サルモネラ)、ナッツ(アフラ)、コーヒー(農薬/OTA)、濃縮果汁(農薬/異物)が基軸。製品+環境の二層管理で抜けを塞ぐ。
- 推奨LOQは国内基準の1/5〜1/10目安。濃縮品は倍率換算を忘れない。
- ラベル運用は名称・原産国・アレルゲン・加熱/解凍指示の整合を最初に設計。JAS/有機表記は事前審査。
- 書類一式(SIF番号、CAPA、温度ログ、濃縮算定表)をロットに紐づけ、照会に即応できる体制を作る。