輸入食品違反時の実務対応マニュアル
はじめに
- 輸入食品は、品質管理を徹底していても、輸送・保管・販売後の検査で違反が見つかることがあります。
- 違反が確認されると、通関遅延、廃棄・積戻し、ブランド価値の低下、行政処分、取引先の信頼喪失など、広い範囲に深刻な影響が出ます。場合によっては契約解除や取引関係の悪化につながります。
- このマニュアルは、輸入時(通関前)と輸入後(流通後)の両方で、現場担当者が法令や行政運用に即して、迅速かつ正確な対応をとれるように作られています。
- そのために、例外条件、補足基準、運用上の留意事項を網羅的にまとめています。
現場で迷ったときに、まずこのマニュアルを見れば必要な対応が分かる構成です。
リスク評価フロー(全フェーズ共通)
違反発覚
→ ただちに食品安全責任者と品質保証部門へ報告。
健康被害の有無を確認
- 消費者からの苦情やクレーム
- 検査結果
- 医療機関からの情報
リスク評価チームで事前協議
- メンバー:品質保証、法務、営業
- 厚労省ガイドラインに準拠したクラス分類判定基準を使って評価。
評価結果に基づく対応決定
- 行政への報告
- 回収方針の決定
- 社内外への通知
必要に応じた第三者機関への依頼
- 検査機関
- 法律事務所
- リスクコンサルタント
クラス分類(厚労省ガイドライン準拠の例)
クラス | 健康被害の可能性 | 例示 |
---|---|---|
I | 高い | 有毒物質混入、重篤症例報告あり、広範囲な汚染 |
II | 中程度 | 一部ロットで基準超過、軽症例、地域限定の汚染 |
III | 低い | 表示ミス、外観不良、健康影響がほぼない事例 |
ポイント:
- クラスIは最も深刻で、直ちに回収や行政報告が必要。
- クラスIIは限定的なリスクだが、適切な対応と監視が求められる。
- クラスIIIは健康影響がほぼないが、信頼維持のため是正が必要。
輸入時の対応(通関前・検査段階)
違反通知を受けた瞬間の初動(0〜2時間以内)
1. 通知の確認と情報整理
- 検疫所や税関から違反通知を受け取ったら、すぐに内容をよく確認します。
- 該当するロット番号、仕入先、生産国、輸送経路をすぐに照合します。
2. 社内報告と記録
- 食品安全責任者、品質保証部門、経営層に即時報告します。
- 時刻、通知内容、担当者、判断の経緯を詳細に記録(電子・紙の両方)します。
3. 行政への連絡
行政窓口(検疫所食品監視課)にすぐ連絡し、再検査や用途外使用が可能か事前に相談します。
初期判断と対応の選択肢
1.再検査
再検査可否は個別判断(検体保全状況・法令・通知)に左右されるため、所管検疫所へ相談をしましょう!
2.廃棄
- 国内処理の費用・日数・証明取得方法を確認します。
- 社内承認ルートと費用概算を決定します。
3.積戻し
- 検疫所への申請と承認が必要です。
- 輸出国が受け入れるか、輸送条件や相手国の規制を確認します。
- 費用試算は年1回以上の見直しが必要です。
4.用途変更
- 食品以外(飼料・肥料等)への転用は可能です。
- ただし、化粧品原料・添加物などの場合は化審法や薬機法、場合によっては廃棄物処理法の規制も確認します。
廃棄・積戻し費用
破棄、積戻し費用は、品目、為替や燃料費変動に大きく左右されるため、通関業者やフォワーダーへ見積もりを依頼してください。
輸入後の対応(販売後・流通段階)
違反発覚時の即時対応
1. 販売停止の指示
社内および取引先に、販売停止をメール・電話・専用通知システムで連絡します。
2. 該当ロットの特定とリスト作成
- ERP/WMSシステムで流通済み・在庫品の該当ロットを特定します。
- 出荷先別のリストを作成し、対応を明確にします。
3. 該当品の隔離保管
該当商品は封印し、専用保管庫に隔離します。
4. 行政への連絡
- 販売地管轄の保健所または都道府県食品衛生主管部局に連絡します。
- 事業所所在地と販売先所在地が異なる場合は、主たる事務所又は回収担当部門を所管する都道府県等に1か所に行います。
5. 消費者への告知準備
広報部と連携し、消費者向けの告知文とQ&Aを作成します。
海外当局から違反情報が届いた場合
現地行政機関からの通知受領後
輸入経路と対象ロットを特定します。
検疫所・保健所へすぐに報告
検疫所または販売地管轄保健所に連絡します。
国際通知の取り扱い
- 関連する海外アラート(EU RASFFやFDA Import Alert)を把握した場合は、検疫所(輸入時)や所管保健所(流通時)に早期に相談します。
- 協議記録は、商品特性・リスクに応じて保存年限を規程化します(形式は社内ルールに従い、検索できる形で保管)。
第三国経由取引の記録確認
関連国へ情報共有が必要な場合は速やかに対応します。
リコール対応(初心者向け解説)
法令に沿った届出
食品衛生法第58条第1項に基づき、遅滞なく都道府県知事等へ届出。
回収率の定義を明確に
- 回収数÷販売数量(社内定義を手順書に明記)
- 分母に未出荷在庫を含めるか除外するか、事前に定義して運用します。
告知の優先順位と掲出期間
- 公式ウェブサイト(トップページに掲載)
- 店頭告知(該当販売店舗)
- マスメディア配信
- 必要に応じてSNS・メール配信等のデジタルチャネルも併用します。
両フェーズ共通の重要ポイント
1) HSコード・規格基準の事前確認と定期更新
HSコードは品目を特定し、必要書類や検査の対象を決める“土台”。レシピ変更や原産国・仕入先の変更があれば、規格基準と合わせて必ず見直し・更新すること。

事前教示制度を使いHSコードを確定させることもできます。
2) 参照先を明記(違反パターンごと)
手順書やチェックリストに、基準値・検査方法の参照先を必ず書く:JECFA、食品基準一覧、厚労省告示番号等。誰が見てもどこを参照すれば正解かが分かる状態に。
3) 海外違反情報の“担当者”と“頻度”を決める
例:品質保証部・輸入管理課長を情報の受け皿に指名。受信から社内共有までの流れとモニタリング頻度をあらかじめ設定。
4) 保険請求手順(数字は厳守)
- 必要書類:検査成績書、廃棄証明、行政通知コピーを揃える。
- 通知は、保険約款に定める通知期限に従います。大型連休や年末年始の取り扱いも、契約どおりに社内ルールへ明記。
- ロットIDと書類をひも付け、いつでも提示できるよう保管。
5) 行政報告と社内報告の優先順位
原則同時報告。誰が・どこへ・どの順で連絡するかをフローチャート化し、迷いをなくす。
重要:本文中の用語・数字(例:HSコード、JECFA、食品基準一覧、厚労省告示番号、品
報告書・届出の提出先・様式一覧(例)
書類名 | 提出先 | 提出期限 |
自主回収届出書 | 所管自治体保健所 | 発覚後、遅滞なく |
回収計画書 | 所管自治体保健所 | 回収開始前 |
回収結果報告書 | 所管自治体保健所 |
|
積戻し申請書 | 検疫所 | 積戻し前 |
廃棄報告書 | 検疫所 | 廃棄後速やかに |

用紙名は、若干、異なります!
消費者告知文テンプレ(自主回収)
弊社が輸入販売した「〇〇(商品名)」の一部ロットにおいて、〇〇(違反内容)が検出されました。健康被害の報告はありませんが、安全確保のため自主回収を行います。該当商品をお持ちのお客様は、下記窓口までご連絡ください。
まとめ
初動2時間以内:違反が分かった直後の2時間で、関係者への連絡と判断を一気に進めます。ここが遅れると損害が拡大しやすくなります。
24時間以内の封じ込め:販売停止・在庫隔離・行政連絡・出荷先把握・告知準備を完了して、影響範囲を確実に抑えます。
輸入時(通関前)の判断:行政相談と並行して、廃棄・積戻し・用途変更のどれが最適かを早期に決めます(費用・日数・証明取得も同時に確認)。
輸入後(流通後)の対応:回収・告知・信頼回復策を徹底します。告知は公式サイト、店頭、メディア、SNS等を組み合わせ、回収実績と問い合わせ対応を継続します。
仕組み面の整備:日頃から例外条件、クラス分類基準、提出様式リンク、費用見直しルール、国際対応の詳細を準備しておくと、現場の実務精度とスピードが上がり、法的リスクを下げられます。