クリスマス商戦が国際物流に与える影響
さぁ、いよいよ9月。北米向けのクリスマス商戦に向けての準備が始まる時期です。
北米市場では、ブラックフライデーとクリスマスが年間における最大の消費イベントです。この時期に商品を確実に店頭へ届けるためには、国際物流の戦略が重要です
小売業は「在庫切れ」を避けるため、早期に在庫を確保する戦略を取ります。実際にKingfisher社は、前倒しで在庫を確保したことでクリスマス商戦を成功に導いたと報じられています[Reuters]。
当然、この事例は、日本や中国から北米向けに輸出する企業にとっても重要です。そこで、この記事では、クリスマス商戦に勝つための物流戦略をご紹介していきます。
年間サイクルとピークシーズンの構造
国際物流には年間を通じて繁忙期と閑散期があります。
- 北米航路=7月後半から10月が海上輸送のピーク
- 11月以降は航空輸送やeコマース需要に対応するシーズンへ[Silq]
- ピーク時にはフレートの高騰、スペース不足、ピークシーズンサーチャージ(PSS)の発動が頻発
データで見る9月の輸入動向
上記は、データでみても「9月は特別な月」だといえます。Descartes Datamyneの統計によると、2023年9月の北米輸入量は8月比で+0.3%、2024年9月には前年比+14.4%と大幅に増加し、中国からの輸入は989,425 TEUに達しました[Descartes]。

例年9月〜10月はアジア発北米向け出荷のピーク期であり、「秋口に輸入が鈍化する」というよりも、「むしろ増加が顕著」という傾向が正しい理解です。
日本発と中国発の違いとは?
日本発の北米、中国発の北米では、どのような違いがあるのでしょか?
日本発の船便
本数が少ない。計画的な出荷が求められますが、混雑は比較的安定
中国発の船便
中国発は国慶節による工場休暇や港湾混雑が重なり、北米向け貨物が集中するため、港での滞留や米国税関(CBP)による検査の影響を受けやすい特徴があります[FT, Descartes]。

これらの違いを理解して戦略を組み立てるようにしましょう!
毎年、10月以降に生じるリスク
10月を過ぎると、貨物が遅延するリスクが一気に高まります。
All-Forwardによると、9月を過ぎると港湾滞留が3〜7日長くなる傾向が見られます。さらに船便が確保できず、やむを得ず航空便に切り替えるケースも増えることが多いです。
航空便のコストは、船便の5〜10倍以上になるため、利益率が大きく下がります。また、FTによると、北米小売業者がスポット便を早期に確保する動きが運賃高騰を招いていることを報じています。これは中小輸出者にとって大きなリスクと言えるでしょう。
実務対応と戦略
上記のリスク対策として、Kingfisher社は在庫を早期に積み増すことで混乱を回避しています。[Reuters]。中小企業もこの戦略を応用できるでしょう。Flat World Global Solutionsは、少なくとも6〜8か月前から需要予測と在庫計画を作成することを推奨しています。
フォワーダーとの契約においては、長期契約やアロケーション枠を活用し、安定的にスペースを確保することがお勧めです。また、納期に遅れが見込まれる場合は、一部を航空便、残りを海上便とする分割輸送を柔軟に活用することも有効です。加えて、代替港(バンクーバー、タコマ、ヒューストンなど)を利用して混雑回避を図る戦略も近年注目されています。
実務小技:現場で役立つTips
- コンテナ確保のコツ:ピーク期は2〜3週間前倒しでブッキング。重要貨物だけ「Guaranteed Space」を利用し、コストと確実性を両立すること。
- 書類対応:ISF(米国向け)やAMSを早めに提出し、通関遅延と罰金リスクを回避。
- ハイブリッド輸送:サンプルや販促品は航空、本体は海上で分割し、納期とコストを両立
- 保険の工夫:Cargo Insuranceを自社で契約し、温度逸脱条項を追加することで交渉力強化
- 為替・決済の工夫:円安・元安リスクに備え、USD建て以外の契約やL/C+TT前払いのハイブリッドを検討。
- サステナビリティ:顧客や取引先にCO₂排出量を提示することで、選ばれる調達先として信頼性を高める。

「Guaranteed Space(保証付きスペース)」とは、船会社やフォワーダーが提供する有料オプションで、追加料金を支払うことで必ず船に積み込める権利を確保するサービスです。通常のブッキングではピーク時にキャンセルや積み残しが発生することがありますが、Guaranteed Spaceを利用すればそのリスクを避けられます。コストは上がりますが、納期が厳しい貨物やクリスマス商戦のような繁忙期に有効です。
為替戦略:向こう3か月の円高リスクへの備え
ご存じの通り、2025年は、トランプ政権による突然の関税政策がスタートしました。各種サイトによると、日本円は、2025年の年末にかけて円高に進む可能性が高いと言われています。この状況を踏まえ、向こう3か月間の主な為替戦略をご紹介します。
為替条項の短期導入
契約期間を3か月に限定し、基準レートから±5円以上の変動時に価格を調整。
複数レート見積の提示
例えば「1ドル=145円以上の場合はA価格、140〜145円ならB価格」と帯域ごとに設定。
為替予約(Forward)の活用
主要銀行で3か月先のレートを固定し、クリスマス商戦分の売上を守る。
小口・短納期供給の訴求
価格競争力が削がれる場合でも、納期の速さや小ロット対応を強調して付加価値を提示。
これらの短期施策により、円高局面での利益減少を最小限に抑えることが可能です。
関税の影響とクリスマス商戦の物量予測
2025年のクリスマス商戦は、トランプ政権による関税措置が物量に大きく影響しています。中国製品は年初の前倒し出荷により一時的に輸送量が急増しましたが、高関税(最大125〜145%)の本格適用後は、例年と比べて10〜20%程度の減少が予測されています[Reuters]。
一方、日本製品は自動車関連で25%から15%に緩和されたものの、輸出全体は前年同月比‑2.6%と減少傾向が見られ、北米向け出荷も例年並みには回復しないと見られます。そのため、クリスマス商戦期の物流は「一時的な前倒し増→その後の鈍化」という二段階の動きを示す可能性が高いと考えられます。
北米市場特有の納期要件
北米小売業者は、ディストリビューションセンター(DC)への搬入期限を11月初旬に設定するケースがあります。そのため、11月出荷ではブラックフライデーに間に合わないリスクが高いです。さらに、eコマース需要が急増する11月〜12月は航空輸送への依存が高まり、スペース確保が難しくなります[Silq]。
為替(円安・人民元安)やインフレ要因も輸出コストや利益率に影響を与えるため、価格戦略の見直しが不可欠です。また、欧州ETSやIMO規制に基づく炭素排出コストは、今後北米向け輸送にも波及し、追加コストの要因となることがあります。
まとめ:9月を制する者がクリスマスを制す
データと事例から明らかなように、9月出荷はクリスマス商戦に向けて欠かせないです。日本発は安定性、中国発は混雑リスクという特徴を理解し、前倒しが求められます。
緊急時には航空便や代替港を柔軟に活用し、労働争議や為替・規制のリスクを考慮した多角的な戦略を構築することが重要です。加えて、短期的な円高リスクにも対応する価格設定戦略を組み合わせることで、利益を守りつつ販売機会を確保できます。結論として、9月を制する者がクリスマスを制すのです。
引用元リスト
- All-Forward, Shipping Month-by-Month (Part 3)
Navigating Global Shipping: A Month-by-Month Breakdown of Trade Trends (Part 3)Understanding Seasonal Demand, Rate Fluctuations and Supply Chain Strategy - Descartes Datamyne, September 2023 U.S. Container Import Volumes
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