「その商品の原産国はどこになる?」 EPA(経済的な約束)は、対象の産品の原産国がどこであるのかが重要です。ここでいう原産品とは、協定国において取れた物(野菜や鉱物、水産資源)、または最終的に加工・製造された物などをいいます。では、次のような商品は、原産品となるのでしょうか?
1.中国で製造した商品を日本へ一旦輸入してベトナムへ輸出する場合
2.ロシアから原料を調達して、ロシアの鉱物をそのままベトナムへ輸出する場合
上記の場合、ともに日本の原産品にはなりません。なぜ、そう言えるのか? それが「原産地規則」にあります。そこで、この記事では「原産地規則」についてご紹介していきます。原産地規則を知ることで、次のステップで重要になる「原産品判定依頼」ができます。
EPAで輸出する貨物は、原産性が大切
EPAは二国間の製品にかかる関税をなくして「両国間の経済活動を活発化」が目的です。そのため、EPA締約国以外の貨物には、関税的な恩恵を与えていません。EPAで最も重要になる考え方は「商品の原産性」です。
例えば、先ほどの1番や2番の事例を考えてみます。これらの物は、確かに日本を経由してベトナムへ輸出されています。しかし、輸出されている商品自体を考えると、要は中国製品やロシア製品をそのままベトナムへ流しています。もし、この形を原産品として認めてしまうと、EPAの意味がなくなります。そこで「商品の原産性」が重要です。
商品の原産性とは「この商品であれば、協定国(EPAを結んでいる国)の商品として認める」という基準です。具体的には、各協定で決められている「品目別規則」の条件を満たすことです。ただ、この原産性の概念は、とても勘違いしやすい部分でもあるため、注意が必要です。
例えば、以下のケースは、原産性を満たす条件とはならないため注意しましょう!
- 「商品を日本の工場で生産しているから原産性がある」
- 「日本のラベルを貼っているから原産性がある」
- 「日本の委託している工場で生産しているから原産性がある」
しかし、これらの条件だけでは「日本の原産性条件」をクリアしません。EPAにおける原産性とは、協定ごとに決められている「品目別規則または一般規則を満たしている物」です。逆に言うと、本当に日本の工場で製造されていても、品目別規則を満たさない物は「日本の原産品」ではありません。大切なことであるため、もう一度、申し上げます。
2019年現在、日本は17のEPAを交わしています。これら一つ一つのEPAに品目別規則が存在します。EPA貿易をするときは、品目別規則を見ながら「相手国が定める原産地基準に満たした貨物なのか?」を確認します。もし、この基準を満たさないと、日本製品であるとは認められません。つまり、輸出先の国で関税の恩恵を受けられなくなります。
原産地規則は、どのように調べるの?
原産性の基準は、各協定に決められている品目別規則や一般規則に書かれています。では、これらの規則は、どのように調べればいいのでしょうか? 最も簡単な方法が「原産地規則ポータル」です。このサイトを使えば、各協定の品目別規則を簡単に検索できます。
関連重要記事:EPA/FTA 原産地規則とHSコードの関係
そもそも商品の原産性とは何か?
EPAによる有利な貿易をするときは、輸出する貨物が日本の原産品であることを証明します。この基準が「原産地規則」です。ただし、この原産性は、完成品に求めている物であり、完成品に使う原材料には求めていないことを覚えておきましょう!
- 原産性が求められるのは完成品。
- 完成品に使われてている原材料は、原産品でなくてもよい。
例えば、あるテレビを製造したとします。この場合の部品構成は、以下の通りです。テレビが完成品です。EPAでは、この完成品に原産性があるのが条件です。しかし、テレビに使っている部品(原材料)は、日本産である必要はないです。以下の図のように、外国産のものを使っても問題ないです。
完成品 | 部品 | 部品の原産国 |
テレビ | モニター | マレーシア |
配線 | アメリカ | |
スピーカー | カナダ |
原産品と認められる3つのパターン
EPA貿易は、一にも二にも「協定の原産品であるのか」が重要です。先に述べた通り、原産品とは「品目別規則を満たすもの」です。この品目別を大きく分けると、次の3つに分類されます。あなたの輸出する商品が下記の内、いずれかのパターンに当てはまるときは、日本の原産品とみなされます。
- その国で取れた完全な生産品なのか?
- 自国(EPA締約国内)の材料のみを使用した物なのか(原産材料のみ)
- 他国の材料をもとにして加工した物なのか(非原産材料)
パターン1.完全に生産された産品とは?
ここでいう完全に生産された物とは、自然的な意味合いの産品です。製造というより「生産」や「採取」という言葉の方がしっくりきます。
例えば、日本国内の牧場で飼っている牛や馬の「肉」、そこからとれる「ミルク」、山からとれる鉱物資源、海で獲れる「魚」などを指します。生産されている物というより、どちらかというと「自然から得られる物」です。これ以外にも完全生産品には、次の物があてはまります。いずれも日本国内であることが絶対条件です。
■植物性の産品
果実、花、野菜、海藻
■生きている動物そのもの
牛、馬、羊、鶏など
■動物から得ることができるもの
ミルク、骨の加工品など
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■山や海底にあるもの
鉱物、油、岩塩など
■副次的な産物
採掘・農業・建設、プラスチックなどで生じる「クズ」など
上記の品目に該当する物であれば、日本の原産品としての扱いを受けられます。
関連記事:完全生産品って何?
パターン2.自国(EPA締約国内)の材料のみを使用した物なのか(原産材料のみ)
EPA締約国内の材料(原産材料)のみを使用して作られた物があてはまります。この場合は、次の2つのパターンが考えられます。
- すべて日本の原産材料を使って作られた製品
- 日本の原材料と外国の原材料(非原産材料)を合わせて作られた製品
なお、ここで言う「原産材料」とは、日本とEPA相手国で生産された物、「非原産材料」とは、それ以外の国で生産された材料です。
2-1.すべて日本の原産材料を使って作られた製品
この場合は、特に注意することはありません。日本の原産品のみ使って作られているため、文面通り、原産品としての扱いを受けられます。
2-2.日本の原産材料と外国の原産材料を合わせて作られた製品
問題なのはこちらです。先ほども述べた通り、日本の原産材料のみで作られることが条件です。しかし、外国の原材料が混じっていても原産品扱いを受けられるとなると、そこには大きな矛盾があります。一体、どのようなことを言っているのでしょうか。
これを理解するためには、完成品である商品を材料レベルに分解する必要があります。今回は、ベトナムへ輸出するために「カップラーメン」の製造を考えてみます。カップラーメンには、日本産の「麺」「野菜」などが入っています。野菜は日本の野菜であり、完全な「原産品」です。一方、麺に注目すると、日本で製造しているけれど、小麦はロシアから輸入しています。
このとき、カップラーメン自体を「最終完成品」と言います。そして、この最終完成品を作るために直接、使った原料を「一次材料」といいます。この場合であれば「麺」や「野菜」のことを指します。麺については、大元をたどると「外国産の小麦(ロシア)」です。では、この場合は、どのような取扱いになるのでしょうか?
最終完成品 | 一次材料 | 二次材料 |
カップラーメン | 野菜/日本産 | |
麺/日本産 | 小麦粉/ロシア産 |
結論から申し上げると、大元が外国産の材料(麺の材料である小麦粉がロシア産)であったとしても、一次材料(小麦粉から麺に変化したとき)で日本産に変化していれば、問題ないとされています。よって、この最終完成品(カップラーメン)は、「日本の原産品」の扱いを受けられます。ポイントは、完成品に使用する直前の材料(一次材料)が日本産であることです。
パターン3.他国の材料をもとにして加工した物なのか(非原産材料)
三つ目の基準として、他国の原料(非原産材料)などを使用して、日本国内で製造した物です。一般的な工業製品をつくるときに最も当てはまるパターンです。日本は加工貿易が一般的であるため、このルール3に当てはまる物として証明することが最も多いです。ルール3の中には、さらに次の3つがあります。
- CTCルール(関税分類変更基準)
- VAルール(付加価値基準)
- SPルール(加工工程基準)
3-1.CTCルール(関税分類変更基準)
CTCルールは、他国産の材料を使って製品を作った場合に「原材料と完成品の間に大きな変化が起きたのか?」を基準として、日本の原産品に扱うのかを決めることです。この変化を知る上で重要になるのが「HSコード」です。完成品の中に含まれる原材料のHSコードを全て書き出し、それら材料と完成した製品のHSコードとの差で判断するのです。
例えば、オレンジジュースがあります。ジュースの元になるオレンジを他国から輸入して日本国内で「オレンジジュース」を作ると想定します。
この場合、オレンジのHSコードが0805.10です。これをジュースにすると、HSコードは、2009.11です。材料と完成品との間に「HSコードの変更」があるため、日本の原産品の扱いを受けられます。詳しくは「関税分類変更基準(CTCルール)」で解説しています。
3-2.VAルール(付加価値基準)
「VAルール」とは、他国産の原料を使っていても、最終的に製造した商品の価値(国内産原料と外国産原料)のうち、自国産部分が40%(閾値)を上回ると、日本の原産品です。
例えば、一つ100円のオレンジジュースをアメリカから輸入したとします。このオレンジジュースには、日本産の太らない砂糖50円分と魔法のフレーバー100円分を使うとします。
アメリカ産のオレンジ 100円
日本産の砂糖 50円
日本産の魔法のフレーバー 100円
原料全体は、250円。この250円のうち、日本産の原料が占める割合は、60%の150円です。VAルールの40%を上回るため、日本の原産品扱いです。VAルールの詳細については「付加価値基準(VAルール)」に書かれています。
これまでに説明をしたCTCルールと、VAルールの二つの基準にいずれかによって、加工した物の原産地を証明するようになっています。一般的に多くの工業製品は、CTCルール(関税分類変更基準)を利用して証明作業を行います。理由は、最初のHSコードの特定作業は困難であれど、汎用性が高いためです。
一方、VAルールは、原材料の価格などを常に計算しておく必要があります。なぜなら原材料価格の変動によって閾値(40%など*協定ごとに違う)を割ってしまうと、原産品ルールを満たさなくなってしまうからです。
最後にもう一つ余談をお伝えします。実は、証明ルールは、CTCルール、VAルールの他にもう一つあります。それが「SPルール」です。別名、加工工程基準といいます。定められた加工方法に従っている場合に適用できる原産品ルールのことです。繊維業界や化学業界など、ある一定の業界内でしか利用しないため、参考程度にお伝えをします。
まとめ
- EPAを利用するためには、貨物が「EPA締約国の原産性があるのか?」が重要です。
- 原産性を求められるのは、商品の完成品だけです。商品の原材料(部品)は、外国産でもいいです。
- どのような貨物を原産品としてみなすのかは「原産地規則」に書かれています。
- 原産品として扱われる物は全部で三パターンあります。
- 外国産の原材料を使っていたとしても、定められたルールを適用すれば日本の原産品として扱われます。
ステップ5-2.原産品判定 CTCるーるとVAるーる、どちらをつかえばいい?と
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