関税の仕組みとEPA活用
このレッスンで学べること
- 関税とは何か?どのようにして決まるのか、基本的な仕組みを理解できます
- 「CIF価格」に基づいた関税の計算方法と、具体的な算出例を学べます
- EPA(経済連携協定)を使って関税を削減するしくみと、その背景を解説します
- 実際にEPAを使って輸出する場合の手順や注意点、リスクへの備えも把握できます
- 日本が締結している主なEPAと、対象となる国や商品についても整理して学べます
関税とは?輸入時に課される「国境税」の正体
関税とは、海外からの貨物が国内に持ち込まれる際に課せられる税金です。原則として輸入者が支払うものであり、日本国内に輸入された商品の価格(CIF価格)に基づき課税されます。
この関税制度は、単に財源確保という役割だけでなく、国内の農業や製造業などの産業を守るためにも機能しています。
たとえば、安価な外国産農産物に高い関税をかけることで、国内の生産者が価格競争で不利にならないよう調整されています。
輸出については、日本から出ていく物品には通常関税は課せられませんが、輸出先の国で「輸入関税」が課せられる点を念頭に置いておく必要があります。
課税価格の計算:CIF価格が基準となる理由
関税は、商品の価格(インボイス価格)のみを基準に課税されるわけではありません。
国際物流では、保険や輸送に関わる費用も含めた「CIF価格(Cost + Insurance + Freight)」を基に関税額が計算されるのが一般的です。
関税は、以下の公式で求めます。
計算式:関税額(円)= CIF価格(円)× 関税率(%)
計算例
- 商品本体価格:100ドル
- 保険料:10ドル
- 運賃:20ドル
合計でCIF価格は130ドル。この130ドルに、たとえば10%の関税率が適用されれば、関税額は13ドルです。
関税額を加えた課税標準(CIF価格+関税額)に対して、日本では輸入消費税(現行10%)が課税されます。これもCIF価格+関税の合計額に対してかかります。
- (A:商品の代金+送料+保険代金)×関税率=関税額
- (A+関税額)×0.1=消費税額
- 納税合計額=関税額+消費税額
関税の種類:最恵国税率・一般税率・特恵税率の違い
関税には「最恵国税率」「一般税率」「特恵税率」など、いくつかの種類があります。どの税率が使われるかによって、支払う関税の金額が変わります。
同じ商品でも、どの国から輸入するか、どの協定を使うかによって、適用される税率が変わることがあります。逆に、国が違っても同じ協定なら同じ税率が適用される場合もあります。
種類 | 内容 | 適用例 |
---|---|---|
一般税率 | 日本が経済協定を結んでいない国に対して適用される基本税率 | 協定外の国からの輸入(例:一部アフリカ諸国) |
最恵国税率 | WTO加盟国などに適用される標準的な税率 | 米国、EU、中国、韓国など主要な貿易相手国 |
特恵税率 | 開発途上国などを対象に税率を軽減または無税にする制度 | ネパール、バングラデシュなど |

これらに加え、EPAやFTA(自由貿易協定)によって、さらに関税が低減・撤廃される場合もあります。
EPAとは?関税が安くなる貿易のルール
EPA(経済連携協定)は、日本と他の国が結ぶ協定で、関税をゼロまたは引き下げる仕組みです。これにより、日本の商品が海外で売れやすくなります。輸出のコストを下げ、他国とのビジネスをしやすくするためのルールです。
たとえば、日本とEUが結んでいるEPAにより、多くの工業製品や食品などで関税がゼロになります。通常10%程度の関税がかかる品目でも、EPAを利用すれば免除され、買い手側にとって大きなメリットになります。
主なEPA締約国
2025年2月現在 | |
発効済(利用できる国) | シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEP(韓国+中国+アセアン+オーストラリアなど) |
交渉中 | トルコ、コロンビア、GCC、日中韓 |
その他(交渉中断等) | カナダ、韓国 |
EPAを使うための条件と流れ
どうすれば、EPAを活用できるのでしょうか? EPAで関税を安くするには、次の3つの条件があります。
- 輸出先がEPAの対象国であること
- 輸出する商品がEPAの対象品目であること
- 商品が「日本製」と認められること(原産地要件)
EPAを利用するまでの流れ(カンタン解説)
EPAを輸出で活用する流れは次の通りです。
- 商品のHSコードを調べる
- 日本製と認められる条件(加工内容や材料)を満たしているか確認
- 商工会議所などで「原産地証明書」を発行してもらう
- 相手国の税関にその証明書を提出する
注意点
- 証明書の書き間違いや記載ミスで、関税がゼロにならないこともあります
- 書類は後から確認されることがあるので、しっかり保管しましょう
- 一部のEPAでは「認定輸出者制度」に登録すれば、証明書の提出が不要になる場合も有り
EPAの注意点とリスク
しかし、EPAの利用には、以下の落とし穴もあります。
- 相手国の税関で証明書が受け入れられず、関税が安くならない
- 関係者がEPAのルールを理解しておらず、正しく使えない
- 原産地の条件が複雑で、自社の商品が条件を満たしていないことがある
さらに、関税がゼロになっても、現地で消費税(VAT)や環境税などがかかることがあります。どちらが負担するか、事前にきちんと話し合っておきましょう。

EPAを利用する際は、取引契約時に買主側と「EPA利用条件(原産地証明書の提出、輸入側での税務確認など)」を明確に取り決め、書面で残すことが重要です。
補足情報
EPAとFTAの違い
EPAとFTAはどちらも関税を下げるための国同士の約束です。
- FTA:主に「モノのやりとり(貿易)」を自由にする協定
- EPA:FTAに加えて「投資・サービス・人の移動」なども含む広い協定
HSコードとは?
HSコードは、商品を分類するための世界共通の番号です。これで関税の金額やEPAの対象かどうかが決まります。輸出入するときは、このコードを正しく調べて書類に書くことが必要です。
EPAの事後確認と認定輸出者制度
EPAを使って輸出したあとでも、相手国の税関が内容をチェックすることがあります。「認定輸出者」になると、毎回の証明書が不要で、自己申告だけでOKになる場合があります。これにより、書類作業が減り、手続きが早くなります。
EPAでコスト削減できる例
例えば、100万円の商品に通常10%(=10万円)の関税がかかるとします。でもEPAを使えば、この10万円がゼロになることも。関税が減ることで、利益が増えたり、値段を下げて売りやすくなったりします。
関税・EPA活用に関するスタートアップのよくある疑問と回答
Q1. 関税はいつ、誰が支払うのですか?
A. 通常、関税は輸入者(買主)が輸入通関時に納付します。日本では、通関時にCIF価格を基準に計算され、関税・消費税をまとめて支払います。輸出者が負担するわけではありません。
Q2. 関税はすべてCIF価格が基準になるのですか?
A. はい、多くの国では関税はCIF価格(商品価格+保険+運賃)を基に計算します。FOB価格をベースにしない点に注意が必要です。
Q3. 最恵国税率とEPAの税率、どちらが優先されますか?
A. EPA(またはFTA)の関税率が最優先されます。EPA対象品目で、原産地証明書を提出すれば、通常の最恵国税率より優遇された税率(ゼロまたは低率)が適用されます。
Q4. EPAを使えばすべての関税がゼロになるのですか?
A. いいえ。EPAは対象品目に限り、関税をゼロまたは低減できる制度です。対象外品目には適用できません。また、原産地規則を満たす必要があります。
Q5. 原産地証明書は誰が、どこで発行するのですか?
A. 通常、商工会議所や特定登録制度を通じて輸出者が取得します。一部のEPAでは「認定輸出者制度」に登録すれば、自社で簡易に発行できる場合もあります。
Q6. EPAを使ったのに現地税関で関税が取られたのはなぜ?
A. 証明書の不備、相手国税関での制度理解不足、または申告ミスが原因で適用拒否された可能性があります。輸出前に証明書の記載を再確認し、取引先と事前に制度理解の共有をしておくことが重要です。
Q7. EPAを使ってもVATや環境税は免除されますか?
A. いいえ。EPAは関税のみに適用されます。相手国の付加価値税(VAT)や環境税、その他の税金は通常通り課税されます。必ず相手国税制も確認し、税負担の取り決めを契約書に明記しましょう。
Q8. EPAを使った取引でも、契約書にEPAのことを書くべき?
A. 必ず書くべきです。EPA利用を前提にする場合は、取引契約に「EPA適用条件」「原産地証明書提出」「税金の取り扱い」を明確に記載しておくことで、通関トラブルや誤解を防げます。
まとめ
- 関税は輸入時に課されるものであり、CIF価格を基準に計算される
- EPAを使えば、関税を削減またはゼロにでき、バイヤーにとっても大きな利点になる
- ただし、制度を正確に理解し、必要な書類や証明手続きを怠らないことが成功の鍵
- 輸出者・輸入者双方がEPAの仕組みを理解していなければ、制度を活かせない
次の記事>>「第4回:輸出に必要な書類とは?主要5種類と作成方法」
基幹記事
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