落花生(ピーナッツ)監視リスク
- 落花生は総アフラトキシン10µg/kg、B1 5µg/kgが国内基準で、推奨LOQは総AF0.5〜1.0、B1 0.2〜0.5µg/kg、殻内結露や乾燥不足で汚染リスク高。
- 高リスク国:南アフリカ(結露高値)、タンザニア(雨季乾燥不足)、中国(焙煎後ホットスポット)で全ロット検査・水分6.5%以下管理必須。
- サンプリングは上中下15点で10kg採取→縮分5kg、袋口や外側のみ採取禁止、ISO 16050原則に準拠。
- 輸送・保管は乾燥剤併用、RH0.65以下、水分活性0.65以下維持、焙煎後は混合前検査で高濃度ロット隔離。
- 違反防止は輸送ルート・除湿材見直し、焙煎後迅速検査、上下層均等採取法のマニュアル化。
品目の固有リスク
落花生は硬い殻に覆われていますが、この殻は透湿性が低いため、収穫後に内部に残った水分や呼吸熱がこもりやすく、温度と湿度が上がると殻内で結露が発生することがあります。特に水分含量が高い状態での保管は、Aspergillus flavus や Aspergillus parasiticus などのカビが繁殖し、アフラトキシン(AF)生成条件を満たしやすくなります。
殻に亀裂や虫害の痕がある場合、そこから胞子が侵入し汚染が加速することも確認されています。さらに、粉砕後や焙煎後もロット内でAF濃度の「ホットスポット」が残りやすく、均一化は理論上可能でも実務的には困難です。これはAFが熱で完全に分解されにくい性質によります(例:160℃で数十分の加熱でも顕著な残存が観察されるケースあり)。
近年の違反傾向
- 南アフリカ産:港湾での長期滞留や高温多湿条件下での輸送により、結露→AF基準値超過が散発。
- タンザニア産:雨季に収穫されたロットで乾燥不足が目立ち、輸出時にAF陽性事例が続く。
- 中国産:焙煎済みであってもAFが局所的に高濃度で残存し、外観・風味では判別困難。
これらは単に産地の気候だけでなく、乾燥工程の管理、保管中の温湿度制御、輸送方法が直接影響していることが、各種検査データから確認できます。
推奨管理基準と測定目標値
法令における日本国内の基準は総AF 10 μg/kg以下、B1は5 μg/kg以下です。しかし、リスク低減のため実務者が設定すべき管理目安として、以下のような低めの検出下限値(LOQ)を推奨します(分析法はLC–MS/MSやHPLC蛍光検出を前提)。
- 総AF:0.5–1.0 μg/kg
- AFB1:0.2–0.5 μg/kg
※これらは法定基準ではなく、「早期検知・予防対応のための内部管理値」です。Codex規格やEU基準(総AF 4 μg/kg、B1は2 μg/kg)とも比較し、より厳格な値を設定しています。
サンプリングと分析の方法
1つのロットから試料を採取する際は、コンテナやパレットの上・中・下の位置から最低15点を集めます。集めた試料は合計で10kg以上になるようにし、それを均等に縮分して最終的に5kgの検体を作ります。この縮分には「四分法」または「二分法」を使います。
採取は袋の口や外側だけから行うことは禁止です。中身を割ってよく混ぜてから再度縮分します。測定はISO 16050で推奨されているサンプリング原則に従います。
輸送・保管時の管理ポイント
- 輸送前処理:水分含量は6.0〜7.0%にし、推奨値は6.5%以下とします。水分活性(aw)は0.65以下が目安です。これらの基準は、アフラトキシン(AF)発生を抑えるための値で、FAOやUSDAのガイドラインに準拠しています。
- 輸送中:乾燥剤と温湿度ロガーを併用し、15〜30分ごとに温度・湿度を記録します。外気温と貨物温度の差で結露が発生しないように、積み込みや荷下ろしの際の環境変化にも注意します。
- 焙煎後:ロットを混合する前に迅速検査を行い、高濃度の汚染が確認されたロットは混ぜずに隔離・廃棄します。汚染を薄めるための希釈混合は、リスク管理上認められません。
よくある失敗事例と改善策
輸送中の結露+港湾長期停留で基準超過
改善策:輸送ルート見直し、除湿材増量、輸送前の水分・温湿度確認強化。
焙煎後加工品でホットスポット検出
改善策:焙煎後すぐの混合を避け、粒ごとの迅速検査を追加。
不十分なサンプリングで代表性欠如
改善策:採取点数増加、上下層と中央層を均等に含む採取法をマニュアル化。
日本語表示ラベル注意点
- 名称:「落花生」または「ピーナッツ」。加工品は「煎り落花生」など具体的に記載。
- 原材料名に植物油や食塩の有無を明記。
- アレルゲン「落花生」を必ず表示。
- 原産国表示は原料原産国と最終加工国を区別。
- ミックスナッツの配合比や産地表示は任意情報だが、裏付け資料を保存。
比較表
国・地域 | 近年の違反傾向 | 推奨LOQ(総AF/B1) | 推奨サンプリング | 実務メモ |
---|---|---|---|---|
南アフリカ | 高温多湿由来の結露でAF高値 | 0.5/0.2 | 上中下15点→10kg→5kg縮分 | 出荷前の除湿・乾燥剤封入を徹底 |
タンザニア | 雨季収穫ロットでAF検出 | 0.5/0.2 | 同左 | 雨期ロットは乾燥工程と保管場所を重点確認 |
中国 | 焙煎後でもAFホットスポット | 0.5/0.2 | 同左 | 焙煎後粒ごとの濃度差に注意し混合前検査必須 |
入荷時のチェックポイント
- COAの確認:分析項目、LOQ(定量下限)、分析日をチェックし、ロットIDが一致していることを必ず確認します。
- 水分測定:規定値以下であることを確認します。
- 温湿度ロガー記録:輸送中の記録に異常がないか確認します。
- 外観確認:カビ、変色、虫食い跡がないかを確認します。
- 表示確認:名称、原産国、加工内容、アレルゲン情報が正しいか確認します。
- 違反履歴への対応:過去3か月以内に違反歴がある産地からの品は検査頻度を増やします。
まとめ
落花生のカビ毒リスク管理で最も重要なのは、収穫後の水分管理と輸送環境のコントロールです。特に「殻内の結露」「乾燥不足」「輸送中の温湿度変動」はリスク要因となります。これらを最小限に抑えるには、収穫後から加工前まで一貫した管理が欠かせません。基準値に適合しているか確認するだけでなく、内部基準による早期検知や予防的な廃棄判断が、製品の安全性確保に直結します。