フィリピンからの輸入食品とページの目的
- フィリピン産主要リスク:果実(残留農薬、SO₂)、魚介(ヒスタミン)、ココナッツ製品(酸化、カビ毒)。
- 推奨LOQは国内基準の1/5〜1/10目安、試験法バリデーションで確定。
- バナナ農薬記録・SO₂処理条件・温度記録などをロット単位で管理し証明書添付。
- 有機表示はJAS認証必須、海外認証のみ不可。
- 必須書類:農薬使用記録、加工条件、温度記録、CoA、濃縮倍率表、有機JAS証明。
フィリピンからの輸入食品は、果実と魚介が主要品目であり、残留農薬、SO₂(漂白剤)、ヒスタミンなどの違反リスクが集中します。本ページでは、これらリスクへの実務対応(検査、表示、物流管理)を現場ですぐに活用できる形で提供します。
フィリピン固有のポイント(2025年版)
バナナ(生鮮)
- リスク:残留農薬(殺虫剤、殺菌剤、成長調整剤)
- 法令根拠:「食品、添加物等の規格基準」により一律基準は0.01 mg/kg。
- 管理:ポストハーベスト処理の有無や農薬使用記録を必ず添付する。
ドライマンゴー
- リスク:二酸化硫黄(SO₂、基準:乾燥果実0.05 g/kg以下)、着色料、糖度調整用添加物。
- 注意点:SO₂残留量は加工条件や乾燥条件によって大きく変動する。
パイナップル加工品(缶詰・ジュース)
- リスク:残留農薬、缶詰の内面塗膜からの成分溶出(スズ、BPA)。
- 注意点:濃縮果汁は濃縮倍率に応じて規格値を換算する必要がある。
魚介類(マグロ・カツオ・サバ)
- リスク:ヒスタミン(基準200 mg/kg以下)、微生物、メチル水銀。
- 注意点:解凍から加工、冷凍までの温度管理を徹底。大型マグロ類では特に水銀含有量に注意する。
ココナッツ製品(乾燥、ミルク、オイル)
- リスク:酸化度(POV/AV)、微生物、アフラトキシンB1(基準0.01 mg/kg)。
- 注意点:有機JAS認証への適合性を必ず確認する。
実務TIPS(輸出前〜輸入後まで)
バナナの農薬管理
- 使用した農薬の種類、使用日、収穫日をセットで記録する。
- 残留農薬の検査は基準値の約1/5〜1/10(例:0.002〜0.005 mg/kg)を目安とし、検査方法のバリデーションを行う。
- 輸送時に行われたエチレン処理の有無を記録する。
ドライマンゴーのSO₂(二酸化硫黄)管理
- 基準は0.05 g/kg以下(食品衛生法)。
- 加工条件(温度・時間)、漂白処理の有無、残留SO₂量をロットごとに管理する。
- 長期保存品については再測定を推奨する。
缶詰・濃縮品の換算管理
- 濃縮倍率や固形分%の算定表を作成する。
- 残留農薬や金属溶出の規格換算を、根拠とともに明示する。
魚介類のヒスタミン・水銀対策
- 加工工程での滞留時間を短縮し、中心温度を記録する。
- ヒスタミンは迅速検査キットと公定法による二段階確認を行う。
- 大型魚種はリスクに応じてメチル水銀検査を実施する。
ココナッツ製品の酸化・カビ毒管理
- POV(過酸化物価)、AV(酸価)を輸出時と通関前の2回測定する。
- アフラトキシンB1は出荷前および長期保管ロットで検査する。
- 有機JAS証明を添付する。
日本語表示ラベルの注意点
- 名称:加工状態(乾燥、シロップ漬け等)を明確に。魚介は「冷凍〜」等の状態を表記
- 原材料名:配合比順、添加物は用途名+物質名。SO₂は表示義務対象
- 原産国名:最終加工国基準。フィリピン国内包装→日本小分け時は固有記号可否確認
- アレルゲン:魚介、ココナッツ等。共通ライン使用時はコンタミ注意喚起
- 栄養成分表示:乾燥品は水分補正後数値を表示根拠とする
- 有機表示:有機JAS認証必須、海外認証のみ不可
品目別比較表
品目 | 主リスク | 推奨LOQの考え方 | サンプリング実務 | 国別実務メモ |
---|---|---|---|---|
バナナ | 残留農薬 | MQL 0.01 mg/kg級 | 房別・層別採取 | 農薬記録+エチレン処理有無添付 |
ドライマンゴー | SO₂、着色料 | SO₂は10 mg/kg単位測定 | ロットごと採取 | 加工条件と残留量紐付け管理 |
パイナップル加工 | 農薬、金属溶出 | 農薬MQL 0.01 mg/kg級、金属規格値1/2 | 缶詰/濃縮品別採取 | 濃縮倍率・固形分%算定表添付 |
魚介類 | ヒスタミン、微生物 | 迅速キット閾値<公定法LOQ | 時間層別採取 | 温度記録添付 |
ココナッツ製品 | 酸化、微生物 | POV、AV基準1/2で管理 | 製品・保管サンプル採取 | 有機表示はJAS証明必須 |
- 推奨LOQは国内基準の1/5〜1/10目安、試験法バリデーションで確定
サンプリング設計(現場テンプレ)
- ロットの定義を明確にする(例:農園、加工日、製造ライン)
- 複数地点・層別で採取する
- 混合試料と留置サンプルの方法を統一する
- 開封時は動画を撮影し、封緘状態は写真で記録する
- 試験書にはロットID、製造指図番号、船名を記載する
現場実務メモ(フィリピン)
1. 農薬管理
- 農園ごとに「農薬使用記録フォーマット」を統一し、栽培担当者や輸出関係者で情報を共有する。
- これにより、使用履歴の確認や安全性の証明がしやすくなる。
2. SO₂(二酸化硫黄)処理
乾燥果物などの保存に使われる処理。アレルギーや基準値超過のリスクがあるため、処理の有無や条件(濃度・時間など)をロットごとに明記する。
3. 港湾混雑リスク対策
- 港での長時間待機は品質劣化の原因になるため、輸出前の冷却状況や輸送条件を写真で記録する。
- 冷蔵車を事前に手配し、港での滞留時間をできるだけ短くする。
4. ココナッツ製品の品質管理
- 出荷直前に、油の酸化状態(POV/AV)やカビ毒(マイコトキシン)を再検査する。
- これにより、輸送中や保管中の品質トラブルを未然に防げる。
添付すべき書類チェックリスト
- 農薬使用記録
- SO₂処理記録
- CoA(残留農薬、SO₂、金属、ヒスタミン、POV/AV、カビ毒)
- 濃縮倍率・固形分算定表
- 温度記録(魚介類)
- 有機JAS証明書
- 日本語表示案(配合比、原産国、アレルゲン、添加物、栄養成分根拠)
【日本国外】食品の輸入通関違反事例を確認
ここでは、米国向けの食品(米国通関違反事例)と欧州向けの食品(欧州通関輸入違反事例)をご紹介します。これらの情報を知ることで、より俯瞰した形で食品の完全性を検討できます。
出典:添付CSV REFUSAL_ENTRY_2024–Jul2025.csv(ISO_CNTRY_CODE=PH 抽出)/ 食品キーワードで抽出後に品目分類。
- フィリピンの拒否件数(全品目):933件
- うち食品該当:761件(安全性関連コードを含むもの:715件)
米国通関違反例 フィリピン食品の安全性
詳細表(品目別)
品目(例) | 件数 | 主な安全性リスク・違反内容 |
---|---|---|
ソース類(例:SAUCES, N.E.C. / TOMATO SAUCE (WITH OTHER INGREDIENTS) / BANANA SAUCE) | 700 | 腐敗・劣化・有害・有毒物質・誤表示 |
ナッツ類(例:PALM NUT (PALM FRUIT, SUGAR PALM) (SUBTROPICAL AND TROPICAL FRUIT) / PALM NUT PRODUCT, PULP) | 14 | 誤表示・有害・有毒物質・ラベル規則違反 |
魚類(例:MILKFISH / FISH PASTE, FISHERY PRODUCTS, N.E.C.) | 8 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
米(例:RICE STICKS / RICE FLOUR, N.E.C. / RICE VERMICELLI) | 6 | 不衛生条件(微生物汚染) |
茶類(例:HERBALS & BOTANICAL TEAS, N.E.C.) | 5 | ラベル規則違反 |
野菜(例:TARO LEAVES (LEAF & STEM VEGETABLE) / LEAF & STEM VEGETABLES, DRIED OR PASTE / ROOT & TUBER VEGETABLES, DRIED OR PASTE) | 5 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
果物(例:MIXED FRUIT, N.E.C. / PINEAPPLE GUAVA , SUBTROPICAL AND TROPICAL FRUIT / CUSTARD APPLE, SUBTROPICAL AND TROPICAL FRUIT) | 4 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
乳製品(例:COCONUT, SUBTROPICAL AND TROPICAL FRUIT, JUICES, MILK & CREAM, DRINKS AND NECTARS) | 3 | 必要証明未提出(安全性確認不備)・不衛生条件(微生物汚染) |
香辛料(例:MIXED SPICES AND SEASONING WITH SALT, N.E.C. / SAFFRON, WHOLE (SPICE)) | 3 | 誤表示・腐敗・劣化・有害・有毒物質 |
実務者向けメモ
- 事前準備:FDAの拒否事例をリスク情報として活用し、輸入前の自主検査計画やサプライヤー監査に反映する。
- 品目別の基本方針:
- 調味ソース類:pH管理、熱処理プロセス、密封の3点を徹底。
- 乾燥穀類:環境衛生の確保。
- ナッツ:カビ毒対策。
- 魚介類:冷鎖の維持と迅速検査。
- 違反傾向:ソース類(バナナソース、トマト/チリソース、フィッシュソース等)が大半。主な違反は品質劣化(酸化・変敗)、有害物質、次いで表示不備。
- ソース類対策:
- pH管理と熱プロセス妥当性の検証(充填温度・保持時間の記録、封緘後の真空度・密封性確認)。
- 保存安定性試験(加速/実時間)で賞味期限の根拠を確保。
- 防腐剤や酸味料使用時は基準適合とバッチ内の均一性を管理。
- 米製品の注意点:不衛生条件が散見され、乾燥品でも製粉・充填工程で微生物汚染の恐れあり。対策はゾーニング、異物混入防止、環境拭取り・空中落下菌の定期モニタリング。
- その他品目:
- 乳製品:証明書未提出や衛生不備の事例あり。冷蔵・冷凍物流の温度ログ管理と輸出国当局の証明書整備が重要。
- 香辛料:サルモネラリスクが高いため、事前微生物スクリーニングを実施。
- 果物・野菜:特定リスクの偏りは弱く表示不備が中心。ただし、残留農薬や一般生菌は輸入計画に応じて監視。
欧州におけるフィリピン食品の輸入違反事例
件数概要
- 総違反件数:11件
- 食品カテゴリー該当:10件
- 期間:2024/7/14~2025/7/14
主なカテゴリーと件数
- スープ・ソース・調味料:2件
- 穀類・ベーカリー製品:2件
- 油脂類:2件
- その他混合食品:1件
- 特殊用途食品(ダイエット食品・サプリ等):1件
主な違反理由(上位)
- サルモネラ(Salmonella)
- 3-MCPD(3-モノクロロ-1,2-プロパンジオール)
- 未承認の植物部位混入(Plant parts unauthorised)
- マラカイトグリーン/ロイコマラカイトグリーン(禁止着色料)
- ミネラルオイル混入
解説と注意点
フィリピン産食品では、細菌汚染(サルモネラ)、化学汚染(3-MCPDやミネラルオイル)、未承認成分や禁止薬剤(マラカイトグリーンなど)の違反事例が欧州で報告されています。特に油脂やソース類では、加熱不足や原料の汚染が原因になることが多く、日本向け輸入でも同じ注意が必要です。
日本向け輸入での管理ポイント
- 微生物管理:サルモネラ対策として、加熱殺菌の有効性確認(バリデーション)とロットごとの検査を行う。
- 化学汚染物質管理:3-MCPDは加工油脂や醤油で発生しやすいため、製造条件(温度・pH)を管理し、事前に分析試験を実施する。
- 未承認成分排除:植物部位や着色料は、日本の食品添加物公定書で適法かを確認する。
- 包装・輸送の見直し:ミネラルオイル混入防止のため、食品適合の包装材を使い、輸送条件を記録する。
まとめ
- フィリピン産は果実(残留農薬、SO₂)と魚介(ヒスタミン)が主要リスク
- 推奨LOQは基準の1/5〜1/10目安で設定
- 表示は名称・原産国・アレルゲン整合を最初に確認
- 有機表示はJAS証明必須
- 書類は農薬記録、加工条件、温度記録をロットごとに整理し即応体制を構築