航空貨物の安全性を確保することは、フォワーダーにとって避けては通れない課題です。近年、輸送中の貨物盗難やサイバー攻撃のリスクが高まり、各国の規制も強化されています。その結果、フォワーダーは貨物の透明性と安全性を維持しながら、スムーズな輸送を実現するための実践的な対策を求められています。
この記事では、現場で役立つ具体的なセキュリティ対策について解説します。
航空フォワーダーのための貨物セキュリティ対策
航空貨物セキュリティの現状と課題
貨物のセキュリティ対策は、荷主の信頼を維持するためにも重要です。最近では、貨物などの物的な盗難だけではなく、サイバー攻撃を通じて貨物情報がハッキングされ、貨物の所在や出荷スケジュールが漏洩するケースが増えています。
例えば、2023年に報告された某航空貨物会社の事例では、サイバー攻撃により貨物管理システムが乗っ取られ、一時的に業務が停止する事態が発生しました。このような事態を防ぐためには、単なる物理的なセキュリティ強化ではなく、情報管理の安全性を向上させることが重要です。
ICS2(輸入管理システム2)とは?
2021年3月15日より適用が開始されたICS2(Import Control System 2)は、EU向け貨物の輸送前リスク評価を強化するシステムです。EUに到着するすべての航空貨物について、より詳細なデータを事前に申告することが求められます。ICS2の導入により、従来よりも厳格なデータ管理を求められることになります。
ICS2に関する具体的な要件
- HSコードの記載:貨物ごとの詳細な分類コード(HSコード)を事前申告
- EORI番号の取得:EU向け貨物を取り扱う際には、輸出者および輸送事業者がEORI(Economic Operators Registration and Identification)番号を取得し、申告データと紐付ける
- 詳細な貨物情報の提供:貨物の内容、包装仕様、発送元と受取人の情報を正確に報告
- 輸送前リスク評価の実施:EU税関当局は申告データを分析し、セキュリティリスクのある貨物を特定
この制度に対応するため、フォワーダーは貨物情報の管理体制を強化し、データの正確性を確保することが重要です。
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ICS2への対応を怠ると、貨物の通関遅延や罰則の対象となる可能性があります。
特定荷主・特定フォワーダー制度
RA/KS制度は、航空輸送の安全性を強化する仕組みです。この規制に対応することで(RA認定を受けること)、貨物の取り扱いが容易になり、爆発物検査の対象になる確率を下げられます。つまり、フォワーダーがRA/KSの要件を満たしていれば、荷主にとって「信頼できる輸送パートナー」として評価され認められています
自社の顧客に対する特定荷主の認定(KS)は、単に「この荷主は問題ない」と判断するのではなく、書類チェックや出荷履歴の分析などが必要です。
例えば、以下のポイントを確認することで、あらゆるリスクを排除できます。
- 荷主の過去の出荷履歴を照合し、不審な取引がないかを確認する。
- 貨物のマーキングが適切であるか、過去の書類と比較して整合性があるか?
- 定期的に荷主とミーティングを行い、最新のセキュリティ対策について意見交換をする
最新のセキュリティ技術と対策
技術の進化により、貨物の安全性を向上させる新しいシステムが導入されています。X線検査装置は従来のものよりも精度が向上し、AIを活用した画像解析技術によって、危険物の判別がより迅速に行えるようになっています。
例えば、最近導入されたAI対応X線スキャナーは、従来の機器と比較して検査時間を40%短縮できると報告されています。
一方、ブロックチェーン技術を利用した貨物管理も注目されています。ブロックチェーンを活用すれば、貨物の輸送履歴が改ざん不可能な形で記録され、誰がいつ貨物を扱ったのかが明確になります。これにより、不正アクセスを防止し、貨物の真正性を証明することが可能になります。実際に、大手物流企業のMaerskは、ブロックチェーンを活用した「TradeLens」プラットフォームを開発し、貨物管理の透明性向上を図っています。
サイバーセキュリティ対策
貨物の物理的な安全性の確保だけではなく、サイバー空間でのセキュリティ対策も必要です。特に、フォワーダーが使用するデータ管理システムがランサムウェアに感染すると、貨物情報が不正に暗号化され、業務が停止するリスクがあります。
対策としては…….
- 定期的なバックアップの実施(物理サーバーとクラウドの二重管理)
- 最新のセキュリティソフトの導入と従業員のセキュリティ教育
- 取引先のITセキュリティ基準を厳格にチェックし、不正アクセスリスクを低減 などが挙げられます。
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積込前貨物情報(PLACI)は、新たなセキュリティ対策として重要です
業界標準のリスク対策を取り入れよう!
日々、時代や技術の変化に伴い、様々な脅威が発生しています。こうしたリスクに適切に対処できるよう、常にフォワーダー業界標準のリスク対策をすることをお勧めします。その為には、次の2点を意識しましょう!
1.従業員向けの定期的なセキュリティ研修
社内で貨物検査のポイントやサイバー攻撃の兆候について学ぶ機会を設けセキュリティ意識を高めるようにしましょう!
2.セキュリティインシデント発生時の対応計画
貨物盗難や情報漏洩が発生した際に、どのように対応し、関係機関へ報告するのかを事前に決めておくと良いでしょう。
発展情報:その他の規制情報
米国TSA規制とその影響
米国の航空貨物は、TSA(運輸保安庁)の厳格な規制のもと管理されています。特に9.11テロ以降、貨物のスクリーニングが強化され、フォワーダーにも高いコンプライアンスが求められています。
TSA規制の主なポイントは….
- すべての貨物が事前にスクリーニングされる(100%スクリーニング要件)
- CCSF(Certified Cargo Screening Facility)を通じた検査の義務化
- 航空貨物のサプライチェーンに関与する事業者は、TSAのセキュリティプログラムに準拠する必要がある
TSAの規制を満たさない場合、貨物が遅延するだけでなく、重大な制裁を受ける可能性があります。そのため、フォワーダーは適切なスクリーニング施設の選定や、Known Shipper(既知荷主)制度の利用を徹底する必要があります。
EUの輸入規制(通関・税制)のポイント
EUでは、統一関税制度(Common Customs Tariff)に基づき、関税や付加価値税(VAT)が課されます。特にICS2(輸入管理システム2)の導入により、貨物の事前申告が必須となり、フォワーダーの業務にも影響を与えています。
主な変更点は….
- すべての航空貨物に対してHSコードの事前申告が義務化
- EORI番号(Economic Operators Registration and Identification)の取得
- 税関リスク分析の強化によるスクリーニングプロセスの厳格化
これに対応するため、フォワーダーは電子通関システムの活用や通関業者との連携強化を図る必要があります。
中国・アジア圏の貨物輸送規制の最新動向
中国では、危険物輸送や環境規制の強化が進んでいます。
- 2025年3月1日から施行される新たな危険物輸送規定:リチウムイオン電池や化学品の輸送要件が変更され、より厳格な申告・梱包基準が適用される。
- 環境対応の強化:炭素排出規制により、持続可能な包装材の使用を推奨
- デジタル通関の推進:中国はシングルウィンドウ通関システムを導入
まとめ
航空フォワーダーにとって、貨物のセキュリティ対策は「規制対応」という枠を超え、ビジネス競争力を強化する要素のひとつとなっています。最新の技術や実務ノウハウを活用し、安全な貨物輸送を実現しましょう。
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