乾燥ハーブ輸入の現状と特徴
- 乾燥ハーブの輸入量は2024年に約8,000トン、主要輸入国はインド・エジプト・中国・トルコで全体の6割以上を占める。
- 主なリスクは農薬残留(有機リン系・ピレスロイド系)、EO殺菌由来の2-CE、PA、微生物汚染、異物混入。
- 過去事例ではインド産で2-CE 0.05g/kg検出、PAや農薬基準超過、サルモネラ、金属片混入などが摘発。
- 対策は契約書にEO不使用・PA混入防止を明記し、ロット単位で多成分分析、温湿度管理、水分活性0.6以下維持。
- EUはPA残留基準を設定、日本は2025年度以降の法制化検討中、米国FDAはEO使用可だが2-CE残留管理を義務化。
バジル、オレガノ、タイム、ローズマリーなどの乾燥ハーブは、近年、日本の食品市場で需要が拡大しています。特に健康志向の高まりや料理の多様化を背景に、欧州産オーガニック品や中東・アフリカ原産の香りの強い品種が増加しています。
農林水産省貿易統計によれば、2024年の輸入量は約8,000トンとここ10年で約1.3倍に増加。主要輸入国はインド、エジプト、中国、トルコなどで、この4か国で全体の6割以上を占めます。
乾燥ハーブは、スパイスや香辛料に比べ低温乾燥で加工されることが多く、その結果、農薬残留、工程由来物質(エチレンオキシド=EO、2-クロロエタノール=2-CE)、自然由来毒(ピロリジジンアルカロイド=PA)、微生物汚染といった複合的なリスクに晒されやすい原料です。さらに、ブレンドや粉砕工程が多いため、ロットごとの一貫性確保とトレーサビリティの管理が品質保証の軸となります。
主なリスクと違反傾向
残留農薬
- 複数種類の殺虫剤・殺菌剤・除草剤が併用されることが多く、乾燥過程で成分が濃縮されやすい。
- 近年の検査事例では、有機リン系やピレスロイド系が日本の基準値を超過した例が報告されています。
工程由来物質(EO・2-CE)
- 特定の輸出国では微生物対策としてEO殺菌を使用。これにより2-CEが残留するケースがあり、日本国内で輸入時に摘発されています。
- 2023年の事例では、インド産乾燥バジルから0.05g/kgの2-CEが検出され、輸入停止措置が取られました。
ピロリジジンアルカロイド(PA)
- 畑に混入したボリジ科雑草やキク科雑草が原因で発生。
- 欧州食品安全機関(EFSA)やドイツBfRの報告では、PAの一日耐容摂取量は明確に設定されていませんが、BfRは0.1µg/kg体重/日以下であれば非がん性影響のリスクは低いとしています。遺伝毒性・発がん性の可能性があるため、MOE(暴露マージン)を用いた慎重な評価が推奨されています。
微生物汚染・異物混入
- 低温乾燥や粉砕工程での衛生不備により、サルモネラ、大腸菌群、一般生菌の汚染が発生。
- 金属片、昆虫片、植物片などの異物混入も輸入検査でしばしば確認されています。
品質管理とリスク対策
残留農薬対策
- 産地ごとの農薬使用マップを入手し、日本および輸出国・EUの基準値を比較。
- GC/MS・LC/MSによる多成分一斉分析をロット単位で定期実施。
- 規格書に使用部位(葉・茎比率)や粉末粒度を明示し、濃縮リスクを最小化。
工程由来物質管理
- 契約書で殺菌方法を明確化し、「EO不使用」を必須条件とする。
- 出荷前に2-CE不検出証明書を取得。
- スチーム殺菌設備の温度・時間管理を記録し、精油成分や色調変化の有無を事前試験で確認。
PA混入防止
- 収穫前監査で畑の雑草管理状況を確認し、ボリジ科やヒメムカシヨモギ等の混入を予防。
- 受入時に形態選別とLC/MSによるPAスクリーニングを実施。
- ハーブティー原料は社内基準を法令よりも厳しく設定。
微生物・異物管理
- 金属探知機、X線検査機、風選、ふるいを粉砕前後に組み合わせて使用。
- 一般生菌・大腸菌群・サルモネラの定期モニタリング。
- サンプリングは複数点合成でロットを代表化。
表示・規格管理
- ブレンド比率、原産国、香料添加有無を明確化。
- 有機表示は認証書とトレサビ資料をセットで管理。
- アレルゲン交差(同工場でナッツ・ごまを扱う場合)に注意。
検査効率化
- 定期輸入は年次検査計画を策定し、EO・PA・農薬を重点項目に設定。
- コンテナ同梱時は最リスク品を先行検査し通関停滞を回避。
市場動向
欧州と北米では有機JASやEUオーガニック認証品の需要が拡大しており、日本市場でも輸入量の約15%がオーガニック認証品となっています。
規制動向
- EUでは2022年にPA(ピロリジジンアルカロイド)の暫定最大残留基準を設定。
- 日本でも2025年度以降の法制化が検討中。
- 米国FDAはEO(エチレンオキシド)による殺菌を認めつつ、2-CE(2-クロロエタノール)の残留管理を義務化。
実務TIPS
- 契約書に「EO不使用・2-CE非検出」「PA混入防止(雑草管理・清掃SOP)」を明記。
- スチーム殺菌設備の温度・時間・含水率のSOP記録を提出させる。
- 水分活性は0.6以下、保管温度は15〜20℃、湿度50%以下で精油劣化を防止。
- HSコードは葉・粉・混合で異なるため、商品設計段階で確定する。
- 契約にPA混入防止策を明記し、監査項目には畑から殺菌、粉砕工程までを含める。
過去の違反事例(代表例)
国・地域 | 違反内容 | 備考 |
---|---|---|
インド | 2-CE検出、農薬基準超過(有機リン・ピレスロイド) | EO殺菌由来 |
エジプト | PA混入、異物(植物片) | 雑草管理不備 |
中国 | 農薬基準超過、金属片混入 | 乾燥・選別不良 |
トルコ | PA、サルモネラ | 粉砕工程衛生不良 |
アルバニア・バルカン地域 | PA混入、異物 | 天日乾燥・選別不良 |
実行ポイントまとめ
乾燥ハーブは、農薬、EO由来残留、PA、微生物といった多層的なリスクを抱え、市場拡大に伴って安全管理の重要性が一層高まっています。輸入事業者は、国際基準と日本の法規制を踏まえた契約・検査・保存の三位一体運用で品質を担保し、サプライチェーン全体での透明性とトレーサビリティ確保が不可欠です。