分科会で学ぶ関税・貿易制度の政策決定プロセスと実務活用法

分科会は、行政決定を支える機関

関税率や通関制度を含む貿易系の法規制は、外部からは「政府方針」の一語で済まされることが多いですが、実はその背後には「分科会」と呼ばれる専門的な議論の場があります。

分科会は、所管省の官僚、学識経験者、産業界、業界団体、利害関係者などで構成され、それぞれが実務や政策の視点から意見を出し合います。資料の提示や質疑応答を通じて幅広い観点から議論が行われ、最終的に「答申」という形で大臣へ報告されます。

この答申は、政策を直接決定するものではありませんが、実際には法案策定や施策の方向性を左右します。分科会は実質的な“入口”とも言えるでしょう。

分科会の構成と選任方法

分科会の委員は、財務省や経済産業省が定める選任基準に基づき、産業界の代表、学術分野の専門家、実務家(弁護士・通関士・会計士など)、行政関係者から構成されます。

これにより、制度設計に多角的な視点が取り込まれる仕組みとなっており、偏った議論を避ける仕組みが整えられています。なお、選任された委員の名簿は財務省・経済産業省の公式サイトで公開されており、どのような専門性を持つ人々が議論に加わっているのかを確認できます。

分科会の開催頻度と年間スケジュール

分科会は通常、年に数回(2〜4回程度)開催されます。制度改正が集中する年や特別課題が発生した場合は、臨時開催されることもあります。分科会の開催は公表され、事前に議題が予告されることも多いため、実務者が議題に先立って準備することもできます。

おおよその年間スケジュールは以下のとおりです。

時期主な動き
春(4月〜6月)各業界団体・企業からの関税改正要望の受付
夏〜秋(7月〜10月)分科会での要望審査・政策検討
年末(11月〜12月)答申取りまとめ・税制改正大綱策定
翌年初(1月〜3月)関連法案の国会提出・審議

年間のサイクルを把握しておくことで、実務者は要望提出や制度変更への対応を戦略的に計画できます。

分科会の議事録・資料の入手方法

分科会の開催情報・議事録・配布資料は、財務省や経済産業省の公式サイトで誰でも無料で閲覧・入手できます。検索の際には、以下のキーワードを用いると効率的です。

  • 「関税分科会 議事録 PDF」
  • 「EPA分科会 令和◯年」
  • 「外国為替審議会 資料」

議事録のPDFは、開催から通常数日から数週間以内に公開されます。掲載される文書には、会議の日時、出席者、議題、配布資料(スライドや意見書など)が含まれています。

PDF内では、冒頭の議題名や意見要旨、最後の議事概要・今後の予定に注目することで、効率的に全体像を把握できます。

分科会から政策への影響と過去事例

分科会での議論は、必ずしもそのまま政策に反映されるわけではありません。しかし、実質的な方向性を決める重要な材料となるのが特徴です。過去には、以下のような事例があります。

  • 2018年:インバウンド需要増に伴う酒類持ち込み枠の拡大 → 分科会での需給状況分析や制度評価をもとに税制改正に反映
  • 2020年:EPA協定適用における「自己申告制度」の導入 → 分科会段階から輸出者提出書類の簡略化が議論され、現行制度に反映

このように、分科会での議論は「未決定だが高確率で制度化される情報」として、実務者にとって非常に価値の高い情報源となっています。

分科会の答申は、高確率で制度化される情報としてとらえましょう!

国際情勢と分科会の関連性

2025年現在、米国を中心とした保護貿易措置(例:特定国に対する追加関税や原産地規制強化)が国際通商に大きな影響を与えています。これに対応するため、日本でも貿易措置の見直しや原産地証明ルールの強化が議論されています。

こうした議題の多くが分科会での議論対象となります。

たとえば、「関税の品目分類見直し」「原産地基準の再定義」「EPAの利便性向上策」などが挙げられ、実際の制度変更に結びついています。つまり、分科会は日本の対外通商政策の「リアルタイムな反応装置」としても機能しているといえ、国際ビジネス環境の変化を事前に察知するうえで非常に有効な情報源です。

関税改正の決定フロー

  1. 業界団体・企業からの要望提出(春頃)
  2. 財務省・経産省によるヒアリングと内部評価(5〜6月)
  3. 分科会での検討・答申(夏〜秋)
  4. 答申に基づく法案案の作成(秋〜年末)
  5. 閣議決定 → 国会提出 → 成立 → 施行(翌年4月または10月)

一連の流れは、制度がどのように形成され、どの段階で実務者が影響を受けるのかを明確に把握するのに役立ちます。また、各段階で「どのような根拠資料が必要か」「意見提出の締切はいつか」を逆算できるため、より具体的な対応が可能です。

関税決定プロセス

小規模事業者の活用方法

分科会の情報は、大企業のためのものと思われがちです。しかし、実際には小規模事業者こそ活用価値が高いと言えます。なぜなら、大企業に比べて制度変更の影響を受けやすく、かつ事前準備のリソースも限られているからです。

以下のような使い方が実務に直結します。

  • HSコードや原産地要件の改正予定を早めにキャッチ → 認証書類や輸出仕様の再確認・見直しを進める
  • EPAルールの変更や書式改定が議論されている → 原産地証明書の新様式に対応した管理体制を事前に構築
  • 議事録に「通関業務の電子化」や「簡素化」などの話題がある → 社内業務のデジタル対応を計画する契機に

また、要望提出の機会も積極的に活用できます。小規模事業者単独では難しい場合も、業界団体を通じて意見を集約・提出することで、政策形成プロセスに間接的に参加することが可能です。

まとめ

  • 分科会は、関税・EPA・通関制度の変更を支える政策形成の中核的な議論の場です。
  • 委員構成や議事録は公式サイトで公開され、誰でもアクセス可能な情報源となっています。
  • 年間スケジュールや答申の流れを把握することで、戦略的に準備を進められます。
  • 小規模事業者でも分科会情報を読み解き、要望提出や制度の先読みを通じて競争力強化に活用できます。
  • 分科会情報は、財務省・経済産業省の審議会ページで定期的に確認することが重要です。

政策決定の裏側にある「分科会」という存在を意識することが、これからの貿易実務における重要な力となります。

分科会の答申書から学べること

制度改正情報を先読みする!貿易実務者が使える3つの情報源と調査スキル

公的制度情報の信頼度と使いどころ

貿易実務においては、制度改正の事前情報をいち早くつかむことが重要です。その為には「信頼性が高く、更新頻度も安定している情報源」に絞って効率的に情報を取得すると良いでしょう。

様々な公的情報

ここでは、その情報源をいくつかご紹介します。

【官報】

  • 法律や政令、告示の最終公示。施行日と制度確定内容を確認する場。
  • 速報性は低いが公式性は最も高い。

【財務省】

分科会の議事録、答申、税制改正の動向に関する情報が豊富。分野別に資料が整理されているため、輸入関係者は「関税分科会」などのチェックが有効。

【税関】

実務寄りの情報(HSコード変更・NACCS仕様変更・通関Q&A)に特化。地方税関の「お知らせ欄」も要チェック。

【経済産業省】

EPA/FTA交渉の進捗、原産地証明制度改正の最新情報、企業向けガイドライン資料が豊富。

【WTO・JETRO・業界団体・民間ニュースサイト】

WTOの制度変更速報、各国の関税率改正、RCEP加盟国の動向なども実務者にとって有用。JETROや通関士会、貿易専門紙などの定期発信も信頼できる補助情報源として活用可能。

財務省・経産省の分科会情報の探し方

実務者にとって重要な資料は、財務省・経産省の公式サイト上で無料公開されています。ただし、どこに掲載されているか、どのように検索するかにはコツがあります。

財務省:関税分科会・通関制度分科会の探し方

  1. 財務省トップページから「政策・業務」→「審議会・分科会」へ進む
  2. 「関税・外国為替等審議会」→「関税分科会」または「通関制度分科会」を選択
  3. 開催日ごとのPDF議事録が掲載されている(会合名と日付で検索も可)

経済産業省:EPA・原産地関係会合の探し方

  1. 経産省サイトの検索バーに「原産地 分科会」などと入力
  2. 会合資料や報告書(PDF形式)が表示されるので、直近のものを優先的に確認

議事録には「品目名」「協定名」「適用案」などの重要情報が記載されています。とくにページ後半にある「意見」「答申内容」部分を読み込むといいでしょう。

税制改正大綱・政令の読み解き方

制度変更が具体化する段階で重要なのが、「税制改正大綱」や「政令案」の読み解きです。これらは法的拘束力を持つ実施案の概要です。

  • 【施行時期】:「2026年4月1日より施行」などの文言を見落とさない
  • 【対象品目】:HSコードや品名が具体的に記載されるので、自社商品との関連を照合する
  • 【注意すべき用語】:「特例措置」「経過措置」「例外規定」などの語句が出たら詳細を確認

具体的には、「財務省 税制改正の概要」「官報」「内閣官房の政策実施情報」などがチェック対象です。可能であれば複数年分を比較して「傾向」をつかむことも有効です。

情報の受け取り方法(公式RSS・メール・SNSのリンクと登録方法)

毎回サイトを見に行かなくても、登録しておけば新着情報を自動で受け取れる手段もあります。WWWCというソフトを使うと更新しているかどうかが分かりやすいです。

速報性の高い情報を見抜く目安と更新タイミング

情報には「更新頻度」と「速報性」の差があります。以下の情報は、特に注目すべきです。

  • 官報に掲載される前段階で、財務省の「最新のお知らせ」欄にPDF資料が出ることが多い
  • 毎年9月〜12月にかけては、税制改正・関税見直しの提案ラッシュ
  • PDFタイトルに「◯◯年度関税制度見直しに関する意見聴取」などとあれば、制度変更の可能性が高い
  • 情報が出た直後は、複数の情報源でクロスチェックを行うことで、誤報や誤解のリスクを回避可能

また、「ChatGPT」や「Perplexity AI」などのツールを使って情報要約・翻訳を行い、複数の情報源を統合的に比較する姿勢も、これからの貿易実務者には求められます。特に英語ベースのEPA交渉資料や海外の関税率改正情報を扱う際には、AI翻訳と合わせて一次資料の出典確認も必須です。

実務への活かし方(調査スキル)

制度改正の一次情報を得た後、具体的にどのように実務へ落とし込むべきでしょうか。

HSコードの確認方法

「税関タリフ検索システム」で現行のコードと改正案を比較。必要があれば税関相談窓口に確認を取る。

影響を受ける可能性がある商品との照合

  • 自社仕入れリストと照らし合わせて、関税率変更の有無を検証。
  • 仕入先に原産地証明の更新有無を確認する。

輸出側の対応

  • EPAの原産地証明要件が変わる場合、サプライヤーに証明書の再取得を依頼。
  • 発給機関の混雑リスクも想定しておく。

会計・経理部門との連携

帳簿記載ルールの変更や仕入原価の変動が予想される場合は、事前に情報共有し、会計処理を準備する。

社内周知と体制整備

得た情報を単独で終わらせず、社内の物流・財務・営業チームにも展開しておくことでリスクヘッジにななります。

情報を収集するだけでなく、「具体的に何をするか」まで掘り下げることで、先読み調査がビジネスリスクの回避に直結します。

分科会の答申書から学べること

中国製「黒鉛電極」に不当廉売関税を課税へ|令和7年 関税分科会の答申と影響まとめ

中国製「黒鉛電極」に不当廉売関税を課税

関税分科会の答申とは?

2025年6月20日、関税・外国為替等審議会(関税分科会)は、財務省からの諮問に対し、中国(香港・マカオを除く)を原産地とする「黒鉛電極」に対して不当廉売関税(アンチダンピング関税)を課すことが適当であるという内容の答申を提出しました。

この答申は、関税定率法第8条の規定に基づき、輸入価格が国内販売価格に比べ著しく安価であることが原因で、日本国内産業に深刻な損害が発生していると判断されたケースに適用されるものです。

黒鉛電極とは?その用途と市場の重要性

黒鉛電極は、電気炉による製鋼製造に必要な消耗品です。高温の耐熱性と高い導電性を併せ持つ炭素製品。製鉄・非鉄金属業界のほか、電子部品や高精度工作機械の分野でも広く使用されています。

ここ数年、中国製の黒鉛電極が安価で大量に日本へ流入し、市場価格の下落が続いた結果、国内メーカーは価格競争力で苦戦を強いられ、業績悪化が懸念されていました。

黒鉛電極を使用する主な業界と商品例

主な使用業界

  • 鉄鋼業
    電気炉(EAF)による製鋼が最大用途で、黒鉛電極の全消費量の70~80%を占めます。
  • アルミニウム製造業
    アルミの精錬工程でも黒鉛電極が利用されます。
  • 非鉄金属業界
    シリコン、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの製造に使用されます。
  • 再生可能エネルギー分野
    リチウムイオン電池などの一部工程で黒鉛電極が使われています。
  • 電子部品・精密機械分野
    特殊な加工や高温環境下での部品製造にも利用されています。

商品・用途例

  • 鉄鋼業 建築用鋼材、自動車用鋼板、鉄道レール、橋梁部材など
  • アルミニウム製造 アルミ缶、アルミサッシ、航空機部品など
  • 非鉄金属・化学工業 シリコンウエハー、マグネシウム合金、ナトリウム化合物
  • 再生可能エネルギー リチウムイオン電池、蓄電システム
  • 電子部品・精密機械 半導体製造装置部品、放電加工用電極など

国内産業・下流産業への具体的影響

国内メーカーへの保護効果と競争力回復

この関税措置が正式に実施されれば、SECカーボン、東海カーボン、日本カーボンなどの日本国内の黒鉛電極メーカーにとっては、長年続いた価格下落傾向からの脱却が期待されます。

安値品の流入が抑制されることで、市場全体の価格帯が安定し、利益率の改善につながります。さらに、営業利益の増加により、設備投資や研究開発に再投資する余力が生まれ、競争力の強化や技術力の向上にも波及するでしょう。

下流産業への価格影響と調達戦略の見直し

しかし、電気炉を使用する製鋼業や、黒鉛電極を使用する電子部品メーカー、機械メーカーにとっては、仕入価格の上昇という負の影響が発生します。

製造コストの上昇は製品価格への転嫁、または利益圧縮に直結するため、調達先の多様化や在庫戦略の再構築、サプライヤーとの価格交渉などの対策が求められます。代替品の選定や、非中国系製品への切り替えを検討する企業も出てくるでしょう。

国際的な影響と今後のリスク

他方、この施策により中国側の報復措置がなされる可能性もあります。

中国側の報復リスクや外交的摩擦

アンチダンピング関税の発動は、中国側から見れば「貿易制限措置」です。中国政府がWTOへの提訴や、対象国への関税引き上げ、手続きの遅延などで対抗することもあります。

WTOルールとの関係と日本のスタンス

アンチダンピング関税はWTOルールの枠内で認められた正当な措置です。ですが、調査の過程や情報の開示、措置の妥当性が国際的に問われることもあり得ます。日本としては制度の透明性を担保しつつ、国際協調の枠組みを維持することが求められます。

また、他国(米国、EUなど)でも中国製品への対抗措置は広がっており、日本の対応が国際的な潮流に沿ったものであるかどうかにも注目が集まっています。

今後の制度化スケジュールと実施タイミング

分科会の答申はあくまで「専門家の意見」です。今後、以下のステップで進められていきます。

  1. 財務省によるパブリックコメントの募集(おおむね30日間)
  2. 意見を踏まえた政令案の作成・閣議決定
  3. 官報による公布(公布日から施行日までに猶予あり)
  4. 施行(最短で2025年秋〜冬が見込まれる)

したがって、関税が実際に発動されるまでには一定の時間的猶予があり、その間に輸入事業者・メーカー・流通業者は対策が必要です。

実務者が今やるべき準備

  • 黒鉛電極を取り扱う輸入業務の見直し(仕入れ先の分散)
  • 中国製に代わる他国製品のサンプル入手と評価
  • 顧客との価格再交渉に備えたコスト試算とシミュレーション
  • 通関時の関税額増加に備えた予算組みと納期調整
  • 関税率の施行日を注視し、輸入タイミングを調整

関連資料・リンク

分科会の答申書から学べること

国際郵便の関税で誤課税?抱っこ紐カバーが税率10%から5%へ取り消された理由【答申第118号】

国際郵便の関税で誤課税?

国際郵便を利用して小口輸入を行っている方にとって、関税の取り扱いは非常に重要です。今回、国際郵便物に適用された関税率の誤りが不服審査で取り消された事例が公表されました。

事例の資料:関税等不服審査会関税答申118号

争点となったのは、抱っこ紐に取り付ける布製の付属品「cotton bib set」が、衣類とみなされ10%の関税率が課されたことでした。

しかし、審査請求人の主張や過去の取り扱い実績から、この判断が誤りであるとして、最終的に5%の簡易税率が適用されるべきであったと結論付けられました。今回は、この事例について学ぶべき点を解説していきます。

事案の背景と経緯

この事例は、輸入実務者にとって、関税分類の重要性、誤課税への対応策を再確認するきっかけとなるでしょう。以下、事案の経緯とポイントを実務的観点から解説します。

誤課税への対応策=行政側判断の誤りがある場合の対応方法

審査請求人は10年以上にわたり、海外から「cotton bib set」や「cotton pad set」といった製品を国際郵便で輸入していました。これらは主に、抱っこ紐に装着するための繊維製品です。

しかし、令和5年3月以降の輸入分について、税関は「cotton bib set」を乳児用のよだれかけ、すなわち衣類附属品と判断し、関税率を10%に設定しました。

これに対し請求人は、同商品は「抱っこ紐の付属品」であり衣類ではないと主張。過去の輸入実績でも常に5%の簡易税率(繊維製のその他製品扱い)が適用されていたことを指摘し、税率誤適用の取り消しと還付を求めました。

商品を単体と見るのか? 付属品として取り扱のか?により、税率が異なる点がポイント

分類誤りが発生した背景

分類の誤りは、品名が「bib set(よだれかけセット)」という言葉だけで判断された点にあります。担当職員はそれを乳児用衣類と認定し、62.09項に分類しましたが、製品の形状や使用方法(抱っこ紐への装着)を考慮すると、それが衣類ではないことは明らかでした。

実際に5月19日に税関が検査した同様の商品では、ボタンの構造や形状などから、これは抱っこ紐に装着して使うものであることが認定され、63.07項(繊維製のその他製品)として5%の簡易税率が適用されました。

審査会の判断と結論

審査会は、輸入者が提出した過去のインボイスや取引先情報、本件商品と同一の構造を持つ写真等から、本件郵便物も63.07項に該当する製品であると認定しました。税関側が「衣類である」とする確たる証拠もなかったことから、10%を適用した課税通知処分のうち超過分の関税については取り消すと答申しました。

また、審査会は、税関が請求人からの合理的な説明や提案(メーカーによる証明など)を十分に検討しなかった点についても不適切であると指摘しています。

税関の分類調査は、より柔軟かつ実態を反映したものであるべきという姿勢が示されたといえるでしょう。

実務者が学ぶべきポイント

今回の事例から、輸入実務者が得るべき学びは多くあります。

まず、商品分類は見た目や名前だけでなく、実際の使用方法や形状に基づいて判断されるべきであるという点です。次に、たとえ税関が一方的に判断を下しても、それに対して異議申し立てが可能であるという制度的保障があること。そして何より、インボイスや写真、過去の輸入記録といった証拠資料の整備が極めて重要です。

誤課税に気づいたときには、まずは税関に問い合わせ、それでも対応が不十分な場合には「審査請求」や「異議申立て」という正規の手続を検討することが重要です。さらに、正式な還付手続として「更正の請求」という制度があり、これは「輸入許可日から5年以内」に限り行うことができます。関税の更正請求は、「関税更正請求書(税関様式C-1030)」を提出し、税関が内容を審査のうえ、妥当と認めた場合に還付が行われます。

また、誤課税の是正に注力する一方で、輸入者としては「事後調査」や「申告漏れ」にも注意が必要です。税関は過去5年まで遡って調査を行うことができ、不備が見つかった場合には追徴課税や加算税が課されることがあります。とくに継続的な輸入取引を行っている場合には、申告内容の正確性を常に意識し、帳簿や証憑の整備・保存を徹底する必要があります。

5%分の取り過ぎ分の取り扱いはどうなる?

税関による誤課税が判明し、正しい関税率が5%であった場合、輸入者は「更正の請求」という手続きを通じて、過払いとなった関税分だけでなく、それに対応する消費税および還付加算金(利息)も返還を受けることができます。

例えば、誤って10%の関税が課された後、審査や更正請求によって本来は5%が正しいと認められた場合、5%分の過払い関税が返還されます。さらに、その関税に連動して支払った消費税についても、過大に納付した分が還付されます。また、還付までの期間に応じて、還付加算金(利息相当分)も合わせて支払われます。

この返還金は、指定した銀行口座などに直接振り込まれ、輸入者は正しい税額との差額分だけでなく、資金拘束期間に対する利息も受け取ることができます。これにより、誤って多く納めた税金がすべて返還される仕組みとなっています。

還付加算金は、人の資金を法的根拠もなく拘束したことによる発生する利息に相当する物です。

分科会の答申書から学べること

まとめ

本件は国際郵便の少額貨物に関するものでしたが、一般の輸入申告においても、「輸入申告等事項の訂正」が必要な場合があります。NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)を通じて、申告前であれば再申告、申告後であれば税関への訂正申請を行うことで、輸入内容を修正することが可能です。

関税逃れが招いた代償とは?実例に学ぶインボイス管理と税関調査のリスク【答申第116号】

関税逃れが招いた代償とは?

はじめに

輸入ビジネスを営むうえで、インボイスの作成や通関手続きは「いつもの業務」として見過ごされがちです。しかし、ちょっとした記載ミスや事実と異なる申告が、事業にとって致命的なダメージにつながることがあります。

今回ご紹介するのは、実際に税関が摘発し、重加算税と差押処分が行われた事例です。この実例から、どのような違反が問題視され、どのように対応すべきかを学びましょう。

答申書の要約

本答申書は、ある輸入事業者がヨーロッパからバッグや衣類を仕入れる際、実際の取引価格よりも低い金額を記載したインボイスを用いて税関に申告し、関税等を過少に納付していた事案について、税関による調査・更正処分・重加算税の賦課、さらに銀行口座の差押えに至った一連の経緯をまとめたものです。

税関の事後調査により、事業者が正規のインボイスを意図的に改ざんし、虚偽の申告をしていた事実が明らかとなり、法令に基づき追徴課税と重加算税が課されました。事業者は調査手続きの違法性や説明不足を主張して審査請求を行いましたが、審査会はこれを認めず、税関の処分はいずれも適法と判断されました。

この事例は、輸入取引におけるインボイス管理と法令遵守の重要性、違反時の重大なリスクを示すものです。

事件の経緯と概要

ある輸入業者は、ヨーロッパからバッグや衣類を仕入れて国内で販売していました。ところが、正規インボイスの価格を不当に低く書き換えた「低価インボイス」を作成し、それを基に通関手続きを行っていました。輸出者との実際の取引価格とは異なる金額を申告することで、支払う関税を少なくしようとした行為が「虚偽申告」として摘発されました。

詳細解説:「脱税行為」アンダーバリュー レンジアウトの恐怖

この事実は税関の事後調査によって発覚し、納税のやり直し(更正処分)だけでなく、過少申告に対するペナルティとして重加算税が課され、最終的には銀行口座の差押まで行われました。なお、審査請求人は通関業者に対して正規インボイスではなく、自己作成した低価インボイスで申告を依頼していたことが判明しています。

低価インボイスとは、本来のインボイスよりも意図的に低い価格を表示する物です。例えば、実際は、一つ100円で購入しているのに、50円として申告するなどです。

関税法と通関実務の基本ルール

関税の計算では、輸入者が売手に対して実際に支払った金額が課税の基準になります。これは「課税価格」と呼ばれ、商品の価格に運賃などを加えた総額です。また、輸入者はこの課税価格をもとに税関に対して「納税申告」を行う義務があります。もし金額に誤りがある場合には、税関の調査を受ける前に、自主的に修正申告をすることが認められています。

これを原則的な課税価格の決定原則とも言います。

なお、重加算税の適用要件については「納税義務者が、課税の基礎となる事実を隠蔽または仮装し、それを認識していた場合」とされています。つまり、単なる記載ミスではなく、故意に価格を偽った上で申告したと税関に認定されれば、重加算税が課されます。

違反行為の詳細とその結果

この事案では、輸出者が発行した正規のインボイスに記載された価格ではなく、根拠のない安価な価格に書き換えた低価インボイスを使用していました。輸入許可自体は得られていたものの、後に税関の調査で虚偽が発覚しました。結果として、関税と消費税を再計算され、さらには35%相当の重加算税も追加されました。

通関業者の責任は?

ここで特筆すべきは、通関業者の責任についてです。答申書によれば、通関業者は審査請求人から送付された低価インボイスの事情を知らず、そのまま申告業務を行っていたとされ、悪意の存在は否定されています。つまり、責任の所在はあくまで偽装を依頼した輸入者側にあると判断されたのです。

また、修正申告についても注意が必要です。税関調査が開始される前であれば、自主的な修正申告により重加算税が免除される可能性がありますが、本件では、調査前に申告がなされなかったうえに、仮装・隠蔽行為が認定されたため、重加算税の対象となりました。

税関調査対応の注意点

税関から事後調査の通知が来た際、通知書の内容を正確に把握し、指示された書類をしっかり準備することが重要です。事実に基づいた説明と誠実な対応が、調査を円滑に進め、ペナルティの回避につながることもあります。実際、本件では調査の初期段階において、調査官から説明を受け、聴取書への署名も行っていましたが、その後、審査請求人は説明を忌避するような態度をとるようになりました。

取引に関する書類――特にインボイスや送金記録、契約書などは、日頃から整理して保管しておくことが求められます。調査時にこれらを迅速に提示できれば、税関の信頼も得らます。

法令違反のリスクとペナルティ

関税法に違反した場合、単なる追徴課税にとどまりません。今回のように、重加算税が課されれば、元の税額に35%上乗せされるほか、納税の遅延により延滞税もかかります。さらに、支払いがなされない場合は財産の差押も実施されます。実際に本件では、預金債権が差し押さえられ、約300万円のうち220万円以上が滞納税に充当されました。

また、審査請求人は差押処分の取消を求めましたが、答申書では「差押処分はすでに履行済みであり、取消しても回復すべき法的利益が存在しない」として不適法と判断されています。このように、法的な手続の正確性や、審査請求における利益の要否なども、貿易実務者として理解しておくべき重要なポイントです。

低価インボイスは完全なる脱税行為です。その上で、取り消しを求めるとは言語道断です。

事業者が学ぶべき教訓

この事例は「ちょっとぐらい」「バレなければ」という甘い認識が、結果的に数百万円規模の損失や信用の失墜を招くことを示しています。小規模事業者でも甘い認識はお捨てになり、関係法令に準拠した申告及び納税に努めるべきです。

  • 正しい価格を記載したインボイスの管理
  • 通関業者との密な連携と情報共有
  • 税関からの連絡には誠実かつ迅速に対応
  • 調査が入る前に修正申告を行う判断力と準備体制
  • 法令違反が発覚した場合の対応方法(主張・反論)の整理と準備

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • インボイスの記載は「事実に基づく」ことが大前提です
  • 通関業者任せにせず、自社でも記録管理の体制を整えましょう
  • 修正申告のチャンスを逃すと、重加算税や差押に発展するリスクがあります
  • 調査対応は信頼確保の場でもあり、丁寧な姿勢が将来のリスク回避につながります
  • 法令遵守は、事業の信用と継続を支える基盤です

靴の原産性判定をめぐる関税審査:コスト分析表「仕入地」欄が運命を分けた事例【答申第115号】

靴の原産性判定をめぐる関税審査

背景(サマリー)

株式会社Aは、E国など東南アジア諸国に婦人靴の製造を委託し、日本へ輸入する際、EPA(経済連携協定)やGSP(特別特恵関税制度)による関税の優遇措置を受けていました。

しかし、税関による事後調査の結果、輸入された靴の一部にG国で生産されたヒールや中底などの部品が含まれていることが判明。これにより、たとえ原産地証明書が提出されていても、原産性に疑問が生じたため、税関は優遇税率の適用を認めず、通常税率での更正処分と過少申告加算税の賦課を決定しました。

まずは、関税等不服審査会(答申115号)の要約です。

申立人(株式会社A)の主張

「正規の原産地証明書を提出しているため、優遇税率の適用は正当である。」

  • コスト分析表の「仕入地」欄はサンプル作成時の情報であり、量産品の仕入地とは異なるため、その記載は原産性判断の根拠にはならない。
  • サンプル用部材はG国から調達したが、量産品についてはE国で仕入れている。
  • 送金記録や現地企業からの証明書も提出し、量産品がE国原産であることを主張した。

審査会の判断

  • コスト分析表に記載された「仕入地」情報は量産品にも適用されていると認められ、その信憑性は高いと評価された。
  • 原産地証明書が提出されていたとしても、実際にG国産の部品が使われていれば原産性は認められず、優遇税率の対象外となる。
  • EPA税率またはGSP税率の適用を受けた貨物のうち、ヒールを使用したものについては、優遇税率の要件を満たさないと判断され、税関の更正処分および加算税の賦課は妥当

一方で、ヒールを使用していないGSP税率適用貨物は、原産性を否定する明確な証拠がないことから、優遇税率の適用が妥当とされ、税関の更正処分等は取り消すべきと結論づけられた。

はじめに

国際物流や貿易の現場では、EPA(経済連携協定)やGSP(特別特恵関税制度)などを活用して、関税の優遇を受けて輸入を行う事業者が数多く存在します。中でも、小規模な輸出入事業者にとって、これらの税率優遇制度の活用は、仕入価格や販売価格の競争力を左右します。

しかし、原産地証明書を提出しても、それだけで必ず優遇措置が適用されるわけではありません。税関は、書類上の情報と実際の取引実態が一致しているかを厳格に審査しています。とくに、靴のように多様な部材から構成される商品においては、どの国からどの部品を調達しているのかという「仕入地」の情報が重要な判断材料です。

本記事では、コスト分析表に記載された「仕入地」の情報がきっかけとなり、原産性が否認された事例を通じて、国際取引における注意点と実務的なリスク管理の重要性を解説します。

問題の背景と経緯

本件は、日本の企業が婦人用靴をE国から輸入し、GSPやEPA税率の適用を受けていた事例です。企業は適正に原産地証明書を提出しており、当初は問題なく通関が行われていました。

しかし、後日行われた税関の事後調査で、コスト分析表に「G国」から仕入れたとされるヒールや中底といった靴の部分品の記載があったことが発覚します。企業側は「その記載はサンプル用であり、量産品はE国から調達した」と説明しましたが、税関はこの記載を量産品の実態を反映したものと判断し、原産性を否認しました。

さらに重要なのは、ヒールを使用した靴は原産性が否認された一方で、ヒールや中底などG国製の部品を使っていない靴は、原産性を否定する根拠がないとして、関税の優遇措置が認められた点です。このように、関税審査においては「製品ごとの個別判断」がなされることがある点も実務者としては押さえておきたいポイントです。

重要なポイント:製品ごとに個別判断される余地がある

税関が重視した判断ポイント

税関は、原産性の確認にあたって複数の資料を総合的に審査します。本件では、特に次の3点が重要視されました。

1.書類とコスト分析表に記載された仕入地情報との一致

コスト分析表に記載された仕入地情報とインボイスや注文書に記載されたオーダー番号、スタイル番号が一致していたことです。この一致は、税関にとってその表が量産品に関する実際の情報であると判断するに十分な要素となりました。

2.企業側の説明に一貫性の不足

企業側の説明に一貫性がなかった点です。単価は更新しているが仕入地は更新していないと主張したにもかかわらず、実際には「仕入地も随時更新されている実態」が見られ、記載運用の整合性に欠けていたとされました。

3.E国当局からの情報提供

E国当局から提供された情報です。これには、G国からE国に対してヒールや中底の輸出が確認される資料が含まれており、企業の主張を否定する要素として働きました。さらに、当初は原産地証明書の適格性を認めていたE国当局も、最終的には日本税関の判断を追認する形で「原産性否認」に同意する意向を明確に表明しました。

加えて、企業が提出した送金資料や現地メーカーからの証明書、サンプル用の領収書などは「量産品の原産性証明としての証明力が低い」と評価され、税関によって十分な証拠とは認められませんでした。

原産地証明書だけでは不十分な理由

多くの事業者が誤解しがちなのが、「原産地証明書さえあれば大丈夫」という認識です。確かに、税関での優遇税率適用にあたっては証明書の提出が要件となりますが、それだけで関税優遇が保証されるわけではありません。

原産地証明書はあくまで証憑の一つであり、それが示す内容と、実際の製造・調達・物流の流れが一致しているかが問われるのです。とくにサンプル品と量産品で調達元が異なるような場合には、それぞれのプロセスを明確に分けて管理し、誤認や混同を防ぐことが求められます。

今回のケースでは、原産地証明書そのものの正当性に疑義はなかったものの、コスト分析表などの実務資料により「実態と異なる」疑いが生じ、優遇措置が取り消されました。つまり、書類と実態の整合性が保たれていなければ、たとえ正規の証明書があっても税関は適用を否認するということです。

実務者が注意すべきポイント

この事例から学べる最大の教訓は、内部資料や参考資料として使用しているつもりの書類であっても、税関の審査対象になることです。とりわけ、コスト分析表のように「誰が、いつ、何を、いくらで、どこから仕入れたか」が明記されている資料は、非常に高い証明力を持ちます。

企業としては、サンプル用と量産用の記録を明確に分け、仕入地や原材料に関する記載は常に最新で正確な情報に保つことが必要です。また、社内で「記載は重要視していない」としていても、税関の視点ではそのような主観は関係なく、客観的な記録に基づいて判断されるという点を忘れてはなりません。

加えて、仕入地や原材料の変更がある場合には、製品の原産性に影響があるかどうかを事前に確認し、必要であれば原産地証明書の再取得や取引先への説明などを行うべきです。誤った申告を防ぐためには、輸入・通関の現場と、仕入・生産管理部門との連携も欠かせません。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • コスト分析表は単なる社内資料ではなく、税関にとっては「量産品の実態」を判断する重要な証拠資料である
  • 原産地証明書の提出だけでは優遇税率が保障されるわけではなく、実態と一致しているかどうかが常に問われる
  • サンプルと量産品の記録は明確に分け、仕入地や部品構成などの記録は都度更新し、整合性を保つ
  • 原産性に影響する可能性のある材料変更や記載の更新漏れには細心の注意を払い、部門間で情報を共有する体制づくりが重要
  • ヒールを使用した靴は原産性が否認され、使用していない靴は優遇が認められたという個別判断が下されたことも押さえておくべき実務ポイントである

輸入価格の申告ミスが命取りに?差額関税と審査会答申から学ぶリスク管理【答申第114号】

差額関税と審査会答申から学ぶリスク管理

はじめに

輸入申告において「申告価格の正確性」は、税関との信頼関係を築くうえで最も重要です。しかしながら、価格の根拠が曖昧なまま申告を続けると、後の調査で大きなトラブルを招く可能性があります。今回は、豚肉の輸入取引を巡る関税不服審査の事例をもとに、行政手続や制度論争のポイント、貿易事業者が実務で注意すべき点を解説します。

答申第114号サマリー

関税等不服審査会関税・知的財産分科会 答申3(PDF:179KB)(令和2年12月10日)

事案概要

食肉輸入会社が豚肉の輸入申告価格を偽って申告し、関税脱税で刑事告発された事案。同社は関税当局の追加関税・加算税処分に不服を申し立てた。

主な争点と判断

輸入会社の主張
  • 申告は正当で不正はない
  • 納税義務は別法人にある
  • 差額関税制度は違憲・違法
審査会の判断
  • 刑事・行政訴訟の有罪・適法判決を重視
  • 審査請求人が実際の輸入者で納税義務者
  • 差額関税制度の合憲性を確認

結論

審査会は追加関税・加算税処分を適法と判断し、不服申し立てを棄却。差額関税制度の合憲性と適正な価格申告の重要性が確認された。

豚肉輸入を巡る事案の全体像

事案の中心は、ある食肉輸入会社が自社とは別法人の名義を使って冷凍豚肉を輸入し、その申告価格を本来より高く設定していたという点にあります。後の税関調査によって、これが意図的な価格操作(高額偽装)であり、約59億円分の関税が過少申告されていたと判明しました。税関はこれに対して更正処分と過少申告加算税の決定処分を行い、さらに刑事告発に至る重大な案件となりました。

申告業務を実際に担っていたのは別会社(G社)でしたが、実態として輸入指示や資金決済、利益の帰属がすべて申請法人側にあったため、実質的な輸入者とみなされ、責任を問われたのです。

関税法上の更正処分と加算税のしくみ

関税法では、誤った申告に対して税関が本来の金額に修正する「更正処分」があります。これは税関調査の結果、インボイス価格などが不適切だった場合に発動され、追徴課税とともに加算税が課されることもあります。加算税は過少申告に対するペナルティであり、納税義務者の故意や過失の有無が重視されます。

今回のように意図的な価格偽装があった場合、加算税率も重くなり、企業にとって大きな損失となりかねません。

審査請求の主張と論点

企業側は、G社は独立した法人であり、輸入価格は取引実態に基づく正当なものであったと主張しました。また、自社は関税法に定める納税義務者に該当しないとも訴えました。さらに、豚肉の差額関税制度自体が不合理で違憲・違法であるとの制度批判も展開し、処分の取消しを求めたのです。

この中で注目すべきは、「立法不作為」という主張です。企業は、差額関税制度が長年見直されておらず、制度の継続自体が違法だとしました。

しかし、審査会は、制度が合憲である限り、改正がなされていないことだけで違法とは言えないという立場を取りました。これは、制度そのものへの不満や批判だけでは行政救済の根拠にならないことを示しています。

行政不服審査制度の基本と制限

行政不服審査は、処分を受けた者が納得できない場合に、その是正を申し立てる手続です。申立ては原則として「処分を知った日から3か月以内」に行う必要があり、形式・内容ともに厳格な基準が課されます。

今回のように、制度批判に終始する場合や、申請者が納税義務者でないと主張しても、実態として影響を受ける者であれば「法律上の利益がある」とされ、請求自体は認められる可能性があります。

ただし、審査請求は新たな事実認定の場ではありません。特に、過去に刑事・行政訴訟で判決が確定している事案は、それらの判決内容が審査会においても拘束力を持ち、判断の基礎となります。今回も、有罪判決と行政訴訟の棄却判決が前提とされ、処分の適法性が認められました。

実務で注意すべき管理と体制構築

この事案から得られる教訓は、「申告の形式ではなく実態で判断される」ことです。名義人や通関手続の委託先が誰であれ、実質的に輸入を主導していれば、納税義務者としての責任は免れません。

実務対応としては、インボイス、契約書、送金記録など、価格の妥当性を証明できる資料をきちんと保存しておくことが第一です。さらに、社内においても価格決定の経緯を記録し、関係部門間で透明性のある意思決定フローを整備することが必要です。

また、調査や処分を受けた場合に備えて、税関対応マニュアルや顧問弁護士との連携体制を構築しておくこともリスク管理上有効です。特に小規模な貿易業者ほど、こうした体制が手薄になりがちですが、事後対応ではなく予防的な仕組みこそが最大の防御になります。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • 申告価格の妥当性は、インボイスや送金実績など客観的資料で裏付けることが重要
  • 通関名義と異なっても、実質的に取引を主導していれば責任を問われる可能性がある。
  • 差額関税制度などの制度批判は、審査請求の根拠にはなりにくく、実態の証明が不可欠
  • 審査請求には期限があり、また確定判決がある場合にはその影響が大きくなります。
  • 事前の価格検証体制と、万一のための税関対応フローを整備しておくことが、トラブル回避の鍵となります。

知らずに輸入すると没収も?商標権侵害リスクと税関差止手続きの実態【答申第113号】

商標権侵害リスクと税関差止手続きの実態

答申第113号(令和2年12月10日)サマリー

税関が商標権侵害物品として輸入貨物を没収した処分について、輸入業者が取消しを求めた事案。

輸入業者は「商標権の有効性が無効審判や訴訟で争われているため、没収処分は違法」と主張したが、審査会は「処分時点で商標権は有効であり、争訟中でも効力は失われない。没収処分は関税法に基づき適法」として審査請求を棄却した。この答申により、商標権の有効性が後から争われても、処分時点で有効な商標権に基づく没収処分は適法であることが明確化された。

商標権侵害物品の具体例と輸入禁止の根拠

商標権を侵害する物品とは、正規の商標権者の許可なく、類似または同一のロゴや図案などを使っている模倣品を指します。具体的には、ブランドロゴを模倣した衣類やバッグ、キャラクター付きのおもちゃ、さらにはパッケージやデザインが酷似している電化製品などが含まれます。

これらは関税法第69条の11により「輸入してはならない貨物」に該当し、輸入通関時に発見されれば、税関が差止や没収の手続きを行うことができます。しかも、たとえ商標権の侵害を意図していなかったとしても、その認定によって処分される点に注意が必要です。

「業として」の輸入と個人輸入の違い

また、商標権侵害と判断されるかどうかは、輸入の目的や数量、職業、反復性といった「業として」の要素も関係します。個人使用目的の単発輸入と異なり、営利目的での継続的な輸入であれば、「業として」の要件を満たすとされる可能性が高くなります。

税関への差止申立てと認定手続きの流れ

正規の商標権者は、自社ブランドを守るために、あらかじめ税関に「輸入差止申立て」を行うことができます。この申立てが受理されると、税関はその商標に関して監視対象とし、貨物検査時に一致する製品がないかをチェックします。

仮に、対象に該当する可能性のある貨物が見つかると、税関は「認定手続き」に進みます。この段階では、輸入者と権利者の双方に対して、証拠資料の提出や意見陳述の機会が与えられます。

認定手続きは行政手続きの一環として行われ、輸入者側が適切な証拠を出さなければ、商標権侵害の認定が下される可能性が高くなります。

逆に、正当な仕入れであることや、ロゴが非類似であることなどを主張できれば、輸入が認められることもあります。判断の基準は、登録商標との類似性や、使用されている商品のジャンルの一致などであり、実務的な見解に基づく判断が下されます。

認定手続き開始時の輸入者対応ポイント

税関から「認定手続開始通知」が届いた場合、まず最初にするべきことは、期限を確認することです。多くの場合、数日から数週間のうちに証拠や意見書を提出する必要があります。提出が間に合わなければ、それだけで不利益な判断が下される恐れがあります。そのため、通知を受けたら、すぐに社内で情報を共有し、対応の体制を整える事が重要です。

専門家の活用と自発的処理の選択肢

また、証拠の準備や説明文書の作成にあたっては、弁理士や通関士など専門家の協力を仰ぐのが望ましいです。認定手続きの結果、商標権侵害と判断された場合、輸入者には自発的処理(貨物放棄、積戻し、保税地域での廃棄)という選択肢もあります。これらの処理は、通関業者や保税地域の施設との調整が必要となるため、実務的には一定の手間がかかります。

没収通知後の不服申立てと貨物の取扱い

なお、認定後に税関から正式に「没収通知」が届いた場合でも、輸入者には不服申立てや行政訴訟の手続きが可能です。その間、貨物は廃棄されず保税地域で保管されるため、即時に損失が確定するわけではありません。これは、輸入者の権利保護の観点から、実務上重要な運用です。

差止回避の違法行為と刑事責任

さらに、差止を回避しようとしてロゴを一部削ったり、分解して別の貨物として申告するような行為は、明確な違法行為とされ、刑事責任の対象にもなります。実際に過去の事例では、このような手法で輸入された貨物が摘発され、罰則を受けたケースもあります。こうした違法な手段は、企業の信頼を損なうだけでなく、再発防止措置を含む厳しい対応を受けることになります。

リスク回避のための事前チェックと仕入先管理

商標侵害リスクを防ぐには、事前の情報収集がカギとなります。J-PlatPatなどの公的データベースを使えば、登録済みの商標を簡単に検索できます。仕入れようとする製品に使われているロゴやデザインが、すでに商標登録されていないかを調べておくことが、輸入者としての最低限のリスク管理です。

また、仕入先との契約や信用状況も重要な判断材料です。安価な仕入先が見つかったとしても、商標権の処理状況が曖昧なまま取引を進めると、後に輸入差止の対象となる可能性があります。とくに中国やベトナム、タイなど、模倣品の流通が多い地域から仕入れる場合は、信頼できる仲介業者やメーカーを選ぶことが不可欠です。

社内体制の整備と知財教育の重要性

社内的には、輸入担当者に対する知財教育や、チェック体制の確立も必要です。仕入れ段階で気づける体制を整えておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。また、商標権の有効性について争いがある場合でも、無効審判や裁判で正式に無効と確定しない限りは、商標権は法的に有効であり、税関による処分も適法となります。こうした制度の仕組みを正しく理解しておくことが、実務上の誤解を防ぎます。

商標権侵害品の差止・摘発の現状と統計

税関による商標侵害品の差止や摘発は、実際に多く発生しています。中でも、ファッション関連商品、キャラクター雑貨、電子機器の模倣品が多く、毎年数百件規模で没収・差止事案が報告されています。これらの統計や実例も参考にすることで、どのような商品がリスクが高いかの目安になります。

商標権侵害リスク管理の実務ポイントまとめ

  • 商標権を侵害する貨物は、意図せず輸入しても処分の対象となる可能性があります。
  • 税関は、商標権者からの申立てを受けて貨物を差止める権限を持っています。
  • 認定手続きでは、意見書や証拠の提出が必須であり、対応の遅れは不利になります。
  • 商標権の有効性が争われていても、確定するまでは法的に有効であり、処分は適法とされます。
  • 没収通知後も不服申立てや訴訟が可能で、その間は貨物は保管されます。
  • 「業として」の輸入と判断されると、個人輸入でも処分対象になることがあります。
  • 自発的処理には放棄・積戻し・保税地域での廃棄などの実務手続きが必要です。
  • 輸入前の商標チェックと、信頼できる仕入先の確保は実務上の必須事項です。
  • 社内での知財教育や、対応マニュアルの整備がトラブルの予防につながります。
  • 模倣品の摘発は特に衣類・雑貨・電子製品で多く、統計を活用したリスク評価が有効

分科会の答申書から学べること

まとめ:商標リスクへの備えと実務対策

商標トラブルは、輸入ビジネスにおいて想定以上の損失を生む可能性があります。小規模な事業者であっても、最低限のチェック体制と専門家の活用によって、被害を回避することが可能です。安全・安心な貿易のために、商標リスクの理解と備えを進めましょう。

チーズ vs 酸性化ミルク:関税分類ミスが招く高額課税と実務リスクとは?【答申第112号】

チーズ vs 酸性化ミルク

チーズか酸性化ミルクか?分類の違いが生む関税差と実務リスク

輸入ビジネスを行う上で重要なのは、仕入れた商品の品質や価格だけではありません。それと同じ、あるいはそれ以上に重要なのが「税関における分類の正確性」です。関税率は商品分類(HSコード)に基づいて決定されるため、分類の違いによって納税額が数倍に膨らむことも珍しくありません。とくに乳製品などの加工食品は、成分や製造工程、用途などによって分類が細かく分かれており、輸入者と税関の見解が食い違うケースが後を絶ちません。

今回紹介するのは、ある冷凍乳製品をめぐって「これはチーズなのか、それとも酸性化ミルクなのか」という分類が争点となった事例です。

この審査請求は関税等不服審査会で取り扱われ、最終的には輸入者側の主張が退けられましたが、その過程には多くの学びがあります。

この記事では、この答申書(令和2年・第112号)をもとに、関税分類に関する実務的な知識と注意点、そして小規模輸入事業者としてとるべき対応について詳しく解説していきます。

答申書の要約

事案の概要

この事件は、ある事業者が輸入した乳製品について、関税分類をめぐって争われたものです。問題となったのは、その商品が「酸性化したミルク」なのか「フレッシュチーズ(ナチュラルチーズ)」なのかという点でした。

事業者は最初に「酸性化したミルク」として申告して関税を納めていましたが、後になって「実際にはフレッシュチーズに該当する」と主張を変更し、関税の更正を求めました。

審査会の検討と判断

審査会は、この商品の正しい分類を判断するために、以下の観点から詳しく検討しました。

  • 製造工程の詳細
  • 商品の成分構成
  • 国際規格(CODEX)の基準
  • 国内の関連規則

検討の結果、審査会は次のような結論に至りました。この商品は、チーズの製造に必要不可欠なホエイ(乳清)の除去が十分に行われておらず、また成分の変化も一般的なチーズの基準に達していないことが判明しました。つまり、一般的に考えられるチーズの特性を十分に備えていないと判断されたのです。

商品の分類変更が争点となった事案

この事案で対象となったのは、J国から輸入された冷凍状態の乳製品でした。輸入者は当初、この商品を「酸性化ミルク(HSコード:0403.90)」として輸入申告しました。

しかし、後になって「これはチーズ(HSコード:0406.10)に該当する」として、更正請求を行いました。これは、チーズの方が関税率が大幅に低いため、納税額の減額を狙った動きと見られます。

税関はこの請求を認めず、商品は「酸性化ミルク」に該当すると判断しました。輸入者はこの判断に不服を申し立て、更正請求から審査請求へと手続きを進めましたが、最終的にその主張は関税等不服審査会によって退けられています。

このように、一見すると「乳製品」というくくりでまとめられそうな商品でも、分類がわずかに異なるだけで課税額が大きく変わってしまいます。とくに乳製品は、発酵・非発酵、ホエイ除去の有無、脂肪・たんぱく質の濃度などの違いによって分類されるため、輸入者は成分や製法を細かく把握しておく必要があります。

争点は「ホエイの除去」と成分変化

本件で税関が「酸性化ミルク」と判断した最大の根拠は、チーズとして認められる条件が満たされていなかった点にあります。チーズは、乳からホエイ(乳清)を十分に除去し、固形分を凝縮させた食品であることが前提です。

しかし、この商品ではホエイの除去が十分とは言えず、たんぱく質や脂肪分もチーズと比較して希薄で、脱脂乳に近い状態だったとされています。

審査会では、官能検査、つまり食感や風味などの官能的特性だけでなく、成分分析や製造工程の違いといった化学的・物理的な特性も踏まえて総合的な判断がなされました。輸入者は「冷凍状態での輸入であったため、正確な試験はできなかった」と主張しましたが、審査会は「輸入時の現物の状態に基づいて分類を判断すべき」としてこの主張を退けました。

さらに、分類判断にあたっては、国際食品規格であるCODEXと日本国内の分類例規との整合性も重要な要素となりました。CODEX規格では、チーズと認定するためには明確な成分変化とホエイの除去が必要であり、国内規定もこれに沿って定められています。本件の商品は、これらの基準のいずれにも適合しなかったことから、チーズとは認められなかったのです。

事前教示とその限界

この事案では、輸入者が商品について税関に事前教示を求めていました。事前教示制度とは、輸入予定商品の分類や関税率について、税関に対してあらかじめ照会ができる制度であり、誤った申告を避けるための重要な手段です。

しかし、今回の教示結果は「酸性化ミルクに該当する」というものであり、輸入者にとっては望ましい内容ではありませんでした。輸入者はこの結果を覆すべく、更正請求を行ったわけですが、審査会では「事前教示の有効性は、その照会時に提供された商品情報と、実際に輸入された商品の実態が一致していることが前提である」との判断が下されました。

つまり、事前教示を得たとしても、その後に輸入する商品が照会時の内容と一致しなければ、教示結果は無効とされる可能性があるということです。さらに今回は、輸入者が教示結果の変更を求めることなく、更正請求という形で直接争いを起こした点も評価に影響を与えたと考えられます。

商品仕様の証明責任は輸入者にある

審査請求の場では、輸入者が「当該商品はチーズである」ということを自ら証明しなければなりません。今回のケースでは、輸入者が用意した証拠資料、たとえば成分分析結果、試験報告書、製造工程の説明資料などが不十分であったため、審査会の評価は厳しいものとなりました。

また、申告内容を裏付けるためには、化学的データだけでなく、写真、現物、製造地の情報、原料の出所など、多角的な資料が求められます。こうした情報は、輸入時点で速やかに提出できるよう、日頃から社内で体系的に管理しておくことが大切です。

さらに、担当者が変更になった場合にも分類の一貫性を保てるよう、製品ごとの分類根拠を社内で明文化しておくことが、将来的なトラブル回避につながります。

分科会の答申書から学べること

まとめ

商品が「どの分類に該当するか」によって、適用される関税率は大きく異なり、結果として納税額や利益率にも重大な影響を及ぼします。特に乳製品や食品関連商品は、成分、製造工程、物理的・官能的性質といった多様な要素によって分類が決まるため、輸入者は商品を正確に理解し、分類に必要なエビデンスをそろえておく必要があります。

今回紹介した答申書は、当初「酸性化ミルク」として申告しながら、後に「チーズ」であると主張した輸入者の更正請求が退けられた事例でした。この事案から学べるのは、分類の正確性と証明責任が輸入者側にあるという基本原則、そして事前教示の活用には限界があるという現実です。小規模な輸入事業者にとっても、関税分類は他人事ではなく、十分な備えと社内体制の構築が求められます。

ポイントまとめ

  • 商品分類の違いは関税額に大きな差を生むため、慎重な判断が必要
  • チーズとされるためには、ホエイ除去や成分変化、官能・物理的特性の明確な違いが求められる
  • 事前教示は有効な制度だが、商品実態と一致していなければ無効になる可能性がある
  • 分類根拠を裏付ける証拠書類は輸入者の責任で用意し、整備しておく必要がある
  • CODEXと分類例規との整合性は分類判断において非常に重要な要素となる

関税率3.9%と3.1%の差は大きい!除草剤原料の分類ミスに学ぶ輸入申告の落とし穴【答申第111号】

関税審査の答申書から学ぶ、貿易事業者の実務ポイント

はじめに

本記事では、農薬原料をめぐる関税分類争いに関する不服審査答申書答申第111号)をもとに、貿易事業者が実務上で注意すべき点を解説します。

関税分類や更正請求、証拠資料の扱い、事前教示の活用法など、貿易実務者が直面する可能性のあるリスクと対応策を具体的に整理します。

事案の概要

農薬の原料にかかる関税について、納税者が「化学的に単一の有機化合物」として、より安い税率を適用してもらおうとした件です。

しかし、添加物がどのような目的で使われているのか、どのくらいの量が含まれているのかについて、十分な証拠が示されなかったため、申請は認められませんでした。

審査会は、これまで通りの分類と税率を適用するという判断を下しました。

この結果から….

  • 関税分類は厳格に運用されること
  • 申告した内容を証明する責任は納税者にあること

などがよりはっきり示されたと言えるでしょう。

対象貨物と申告内容

審査請求人は、除草剤・殺菌剤の原料を輸入し、関税率表第38.08項の「除草剤」や「殺菌剤」として協定税率3.9%で申告していました。

しかし、同原料は本来「化学的に単一の有機化合物」であり、関税率表第29類に分類されれば3.1%の税率となるため、申告後に更正請求を行いました。

更正請求と審査会判断

申告後、添加物の性質や量に基づき、29類に該当すると主張して更正請求。しかし、審査会は「添加量や目的が関税率表第29類に定める要件(”必要最小限の添加”)を満たさない」として、請求を棄却しました。

貿易者が学ぶべきポイント

1.関税分類を正しく把握すること

関税率表の解釈は、項・号・注の文言および通則に従って厳密に行われます。特に「化学的に単一の有機化合物」として29類に分類するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 安定剤の添加は輸送・保存の目的に限られること
  • 添加量は”目的を達成するための必要最小限”
  • 添加により製品の性質や用途が変わってはならない

本件では、添加物が粉砕助剤としての機能を持つこと、またその量が必要最小限と認められなかったため、29類の適用が否定されました。

2.証拠の提出と立証責任は輸入者が負う点

申告納税制度では、納税者が自己責任で申告し、後に更正請求をする場合は、主張を裏付ける証拠を提出する義務があります。

このことから、審査会は次のような証拠提出を求めました。

  • 添加物の性質・目的を示す技術資料や製造仕様書
  • 添加量が必要最小限であることを証明する試験結果や文献
  • 製造工程や使用環境を示す客観資料

しかし、本件では、添加量の正当性や添加物の役割を裏付ける明確な証拠が示されなかった為、立証不十分とされました。

3.事前教示制度の限界を知る。

事前教示とは、申告前に貨物の関税分類を税関に確認できる制度です。

しかし、本件では以下の理由から事前教示の効力が否定されました。最も重大な理由は、事前教示と実際の貨物の相違が認められた点です。

  • 教示対象と実際の貨物との相違(成分構成、用途など)
  • 教示時の説明内容と実態の不一致
  • 教示は原則として将来の申告に適用されるもので、過去申告には適用されない。

教示時に提出した書類と現物に相違がある点が否決原因です。

4.申告納税制度と自己責任論

関税制度は申告納税方式であるため、輸入者自身が分類・税率の妥当性を判断し、責任を負います。仮に更正請求をする場合も、自ら誤りを立証しなければならず、「事前教示があるから正しいはずだ」という主張だけでは何の反論にもならないです。

5.手続き・期限管理の重要性

再調査請求や審査請求には、申告後の所定期限が存在します。本件では、ある通知に対する審査請求が3か月以内に行われなかったため、「却下」されました。

期限を一日でも過ぎれば不適法となるため、日付管理は徹底する必要があります。

実務へのアドバイス

本件を通して今後、同様の事案を防ぐには、以下の点に留意した方が良いでしょう。

しっかりと社内体制を構築する

  • 商品分類の知識を共有する社内マニュアルの整備
  • HSコードの根拠を文書化し、輸入時に確認

専門家と連携すること

全てを社内で済ませようとする所に無理があります。必ず外部の専門家の知見を入れましょう。

  • 税関OBや通関士など外部の専門家と連携
  • 曖昧な商品については事前教示を取得

証拠資料の管理

立証責任は輸入者側にあります。立証するための資料管理を徹底しましょう!

  • 製造工程、添加物の性質・用途などを記録・保存
  • 将来の更正請求や調査対応の備え

分科会の答申書から学べること

まとめ

本件答申書からは、以下の教訓が得られます。

  • 関税分類は通則や注の厳格な読み込みが不可欠
  • 添加物の性質や量も分類に大きな影響を与える
  • 立証責任は輸入者にあり、十分な証拠が求められる
  • 事前教示は有効な手段だが、適用限界に留意
  • 更正請求や審査請求は、期限管理が命

これらを踏まえ、輸入申告時のチェック体制と証拠管理を徹底することで、後のリスクを大幅に低減できます。貿易実務の現場で、確実な対応を行うための参考としていただければ幸いです。

商標権侵害で輸入差止?個人輸入と”業として”の境界線を明確にする最新事例【答申第110号】

商標権侵害で輸入差止?個人輸入と”業として”の境界線

答申書の概要

この記事のテーマ:関税等不服審査会・答申110号

この審査会の答申書は、税関が「商標権を侵害している疑いがある」として差し止めた国際郵便物について、輸入者が「個人で使うために買った」と主張した事案を扱ったものです。

審査会では、なぜ輸入したのか、どのくらいの量だったのか、輸入者はどんな仕事をしているのか、どのような取引だったのかなどを総合的に調べました。その結果、輸入者が商売として商品を売る人には当たらないと判断しました。そのため、今回の荷物は商標権を侵害する物品ではなく、税関が差し止めた処分は取り消すべきだという結論に至りました。

この判断は、個人が自分で使うために海外から商品を取り寄せる場合、たとえ偽物でも「商売として」行っていない限り、商標権侵害には当たらないという、これまでの法律の解釈に基づいています。

ただし、2022年10月からは法律が改正され、海外の業者から送られてくる偽物は、個人が使う目的であっても原則として輸入できなくなりました。そのため、今後はより厳しい審査が行われることになります。

この事案では、個人使用と商売目的の輸入の境界線をどう引くか、証拠があるかどうか、輸入者の説明に納得できるかどうかなどが、重要な判断のポイントになったことがわかります。

すべて個人使用目的であり、業としての輸入ではない

認定手続に対し、輸入者は「すべて個人使用目的であり、業としての輸入ではない」と主張しました。主張の中では、購入した商品がすべて自らまたは家族による使用を前提としており、商業的な目的ではないこと、商品が新品であるのは個人の保管習慣によるものであること、また数量が多いのは長年にわたって買い集めたものをまとめて発送したためであるなどの説明がなされました。

税関は事業性を疑う

税関側は、「新品状態が維持されている」「明細書やレシートなどの購入証明書類が提出されていない」「数量が43点と比較的多い」などの点を根拠に、個人使用とは言い難いとして、業性が疑われる(商売をしている)との判断を下しました。このため、関税法に基づく認定手続が開始され、関係者への意見提出機会などが与えられた上で、最終的に認定通知が行われました。

これに対し、輸入者は行政不服審査制度を活用して不服申立てを行い、自身のライフスタイルや物品の保管・取得経緯などについて詳細に説明しました。その結果、関税等不服審査会においては、主張の信ぴょう性や合理性が一定程度認められ、最終的に税関の認定通知は取り消されるという結論に至りました。

商標の使用に該当するのか?

商標法においては、「商標を付した商品を輸入する行為」は“商標の使用”に該当します(第2条、第3項)。したがって、商標権者の許可を得ずに、同一または類似の標章が付された商品を輸入する場合、それは商標権の侵害とされる可能性があります。特に、商標法第25条は登録商標の専用権について、また第37条では侵害とみなされる行為を明記しています。

ポイント:業(商売)としての側面はある?

ただし、実際の輸入行為がすべて自動的に侵害とみなされるわけではありません。「業として」の輸入であるかどうかが、非常に重要な判断基準となります。

税関および審査機関は、以下の要素を総合的に検討します。

  • 輸入品の数量(多ければ業性が疑われやすい)
  • 輸入者の職業(商売に関係する人物であるか)
  • 輸入の頻度や方法(まとめて送る、または定期的に繰り返しているか)
  • 購入経路や証拠資料の有無(レシート、請求書など)
  • 品目の性質(個人で使うには不自然な種類や量)

この事例では、輸入者は「主婦」であり、商品の購入も自分や両親が過去にD国で行ったと説明しましたが、それを裏付ける書類がほとんど提出されていなかったことから、税関側は業性が疑われるとして手続きを進めました。

審査会は個別具体的に判断

審査会は特に以下の点を個別に評価しました。

たとえば「数量が多い=業性」とは限らないこと、品目構成の多様性や保管状況も重要な要素となること。また「主婦である」こと自体は業性を否定する決定的要因とは見なさず、職業にかかわらず証拠の有無や主張内容を総合的に検討しました。

さらに、購入時期の不明確さやレシートの非保管についても、「個人によって対応に差がある」とし、信ぴょう性を一律に否定することはできないと判断されました。

これらを総合的に判断した結果、審査会は「業として譲渡等する者に当たると認めることは困難」として、結果的に商標権侵害物品に該当しないと判断しました。

なお、審査請求人は、半年以上かけて争ったことに対する時間的・金銭的補償を求めましたが、審査会は「本件処分の適否とは関係がない」として判断の対象外としました。

この件から学べること

自らの使用目的を説明するための「証拠資料」を用意しましょう。購入時の領収書、使用履歴がわかる写真やメモ、品目の入手経路などがあれば、審査段階での説得力が格段に増します。

また、「数量」についても注意が必要です。たとえ同一品を複数保有していたとしても、それが自家用であるという一貫した説明ができなければ、業性を疑われるリスクは高まります。

万一、税関から差止手続きの通知が届いた場合は、期限内(10日以内)に争う意思を明確に示し、合理的かつ具体的な主張と証拠提出により、自己の立場を正当に主張が求められます。

通関時の注意点

通関実務においては、輸入者が輸入目的や商品実態を明確に把握していないと、結果的にトラブルに巻き込まれる可能性もあります。仕入担当者、通関担当者が連携し、事前に輸入物品の商標権状況をチェックする体制を整えておくことが、今後ますます重要になります。

分科会の答申書から学べること

直線開刃ナイフは輸入NG?「刀剣類」認定の実例から学ぶ通関リスクと対応策【答申第107号】

直線開刃ナイフは輸入NG?

海外から輸入したナイフが税関で差し止められた。しかもその理由が、「直線的に刃が出るナイフは飛出しナイフ=刀剣類に該当する可能性がある」というものだったとしたら、あなたならどう対応しますか?

本記事では、銃刀法と関税法が関係する答申書(答申第107号)をもとに、貿易事業者が輸入時に注意すべきリスクや対応方法を詳しく解説します。形状や仕様が微妙な製品を扱う場合、輸入前にどこまで確認すべきか、実務的な判断基準を共有します。

税関で止められたナイフは「刀剣類」だった?

この事案では、日本の事業者が海外からナイフを輸入しようとしたところ、税関で差し止めを受けました。その理由は、ナイフの構造が銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)における「飛出しナイフ」に該当すると判断されたからです。ナイフはボタンやスライドで刃が直線的に飛び出す構造で、刃渡りは5.5センチメートルを超えていました。

事業者は、直線的に開刃するナイフは、法文中の「45度以上に開刃」という表現に当たらないとして、処分の取り消しを求めました。

しかし、審査会はこれを退け、ナイフは社会通念上、飛出しナイフの形態・実質を備えていると判断。最終的に「刀剣類」に該当すると認定されました。

飛出しナイフの判断基準とは?

銃刀法でいう「飛出しナイフ」とは、刃渡りが一定以上で、刃が自動で飛び出し、かつ固定される仕組みを持つナイフです。今回の事例では、回転して刃が飛び出すのではなく、直線的に押し出す形式でした。

審査会では、回転か直線かは重要ではなく、「危険性が同等である以上、直線式でも規制対象に含まれるべき」という判断が下されました。さらに、立法当時の国会議論の記録も示され、「45度以上に自動的に開刃する」という要件は、回転を必須とする趣旨ではないことも明確にされています。

具体的に、以下の要素が「刀剣類」に該当するか否かの判断材料とされました。

  • 刃体の材質(炭素含有量が0.03〜1.7%の鋼であるか)
  • 刃渡り(5.5cm以上)
  • 自動で刃が開く機構の有無(ボタン・スライドスイッチ)
  • 開刃後に固定する装置があるかどうか
  • 鋼質性・切断能力などの実質的な「刃物性」

所持許可と美術品登録の違い

この事案では、審査請求人が「飛出しナイフは日本刀のような美術品ではないため、そもそも所持許可制度の対象外である」と主張していました。たしかに、教育委員会による「美術品登録制度」では、玉鋼を使用し、伝統的な製法による日本刀などが対象です。

一方、公安委員会の「所持許可制度」は、銃刀法に基づき、現代製の実用品や危険性を持つ刃物(飛出しナイフなど)も含めた広範な刀剣類を対象としています。審査会では、教育委員会の登録制度はこの事案と関係がなく、公安委員会の許可が必要であることが明確に示されました。

判例が支える行政解釈の一貫性

この答申書では、過去の最高裁判決や東京高裁判決なども引用されています。

例えば、「刀剣類に該当するには、形態と実質の両方を備える必要がある」とした判例や、「鋼質性の材料で切断能力があることが重要」とした下級審の判断などが挙げられています。

これらの積み重ねによって、行政解釈は一貫性を持って形成されており、税関や警察庁の運用もそれに基づいています。このため、単に法文を読んで「回転していないから該当しない」などと判断するのは危険です。

行政手続の流れを把握しよう

今回のケースでは、以下のような手続きの流れがありました。

  1. 税関での開披検査 → 刀剣類の疑い
  2. 所持許可の有無を名宛人に照会
  3. 税関から警察庁へ認定依頼
  4. 警察庁が「飛出しナイフ」と認定
  5. 税関が輸入者へ処分通知(差止め)
  6. 輸入者が審査請求を提出
  7. 審査会が審査し、処分妥当と判断

このように、税関対応だけでなく、関係省庁との連携や不服申立ても含めた流れを理解しておくことで、実務上の備えがしやすくなります。

不服申立ての限界と実務的対応

今回の事例では、輸入者が税関の処分に対して不服を申し立てましたが、結果として審査会は税関の判断を支持しました。つまり、審査請求制度があるとはいえ、法解釈の枠を超えて認定を覆すのは難しいという現実があるということです。

審査請求人の主張には一理ある点もありましたが、「刃が直線的に出る場合は45度以上とは言えない」という主張に対しては、法令の趣旨・判例・所管官庁の見解を踏まえ、広く飛出しナイフに該当するとされました。これにより、行政庁の判断は一貫性と実務運用の妥当性が優先された形です。

したがって、グレーゾーンの製品について「法文上書いてないから大丈夫」という認識は非常に危険であり、実務では所管省庁と税関の解釈・運用の一貫性も考慮した行動が求められます。

分科会の答申書から学べること

まとめ:貿易事業者が学ぶべき5つの教訓

  • 輸入品の構造や性能が他法令に該当しないか事前に確認すること
  • 所持許可制度が存在しない製品は輸入そのものが不可能な場合がある
  • 「輸入承認書=通関OK」とは限らない。他法令の適用があることを忘れない
  • 関係法令の文言だけでなく、立法趣旨や判例、行政解釈を踏まえた理解が必要
  • グレーゾーンの製品は、事前に所管官庁・税関への照会・確認を行うことがリスク回避につながる

インボイスだけでは不十分?婦人服の輸入で問われた課税価格と税関対応の実務【答申第106号】

婦人服の輸入で問われた課税価格と税関対応

はじめに

この記事では、婦人服などの繊維製品を輸入する企業が関税の申告に関して税関と争い、審査請求を行った事例(答申第106号)をもとに、貿易事業者が注意すべき申告の実務、調査対応、社内体制づくりについて解説します。

インボイス記載額を鵜呑みにすることのリスク実際の支払い実績との整合性をどう取るべきか、事例から読み解いていきます。

事案の概要と争点

本件は、婦人服の輸入に関して、申告に用いたインボイスに記載された価格と実際の請求書記載の金額(および支払額)に差異があったことが発端です。税関はインボイス額が実態を反映していないとして、より高額な請求書ベースで課税価格を再計算。その結果、輸入者に対して更正処分と過少申告加算税の賦課を行いました。

主な争点は、次の3点です。

  1. 課税価格の算定方法としてインボイスか請求書かどちらが適切か。
  2. 税関による調査の選定や手続きが適法かどうか。
  3. 加算税の賦課について「正当な理由」があったか否かです。

課税価格の算定に関する実務上の注意点

課税価格の原則は「現実支払価格」に基づくことです。これは、関税定率法第4条で明確に定められており、「輸入取引に関し売手に対して支払った総額」が基本です。単にインボイス記載額を申告に使っても、それが実際に支払った額より低い場合は、否認されるリスクがあります。

本件では、インボイスの金額が請求書や送金記録の額より低く、しかも請求書に含まれていた運賃も申告価格に含まれていませんでした。税関はこれらを根拠に、実際の支払額と一致しないインボイス価格を否認し、請求書に基づく価格+運賃を課税価格と認定しました。

重要なのは、インボイス、請求書、送金記録の3点セットが整合しているかどうかです。支払いが複数回に分かれていたり、他の費用をまとめて送金していた場合は、どの費用がどの貨物に関係しているか明確にしておかなければなりません。

また、答申書では「差額が本件輸入貨物に使用されていない生地の代金であることを客観的に証明する資料が提出されていない」と明記されています。合理的な説明には、主観的な説明ではなく、契約書や仕様書、検品報告などの客観的証拠資料の提示が必要です。

主観的な説明は無意味です。必ず客観的、合理的な立証資料が必要です。何らかの主張をするのであれば、その主張を裏付ける客観的な資料が必要です。

税関調査・更正処分への対応

税関から指摘を受けた場合、資料を精査し、合理的な説明ができるよう準備します。税関は、申告内容に疑義があった場合、調査結果に基づいて修正申告を促すことがあります。本件でも最初は修正申告の勧奨がなされましたが、輸入者が応じなかったため更正処分に至っています。

税関調査の対象企業選定は、「平等でなければ違法」というわけではありません。答申書でも、調査対象の選定は税関職員の裁量に基づき行われ、特段の違法性がなければ問題なしとされています。ただし、調査手続そのものに違法があった場合、処分自体が無効になるかどうかは別問題です。答申書では「調査手続が重大な違法を帯びる場合に限り、処分に取消原因がある」とされており、単なる手続上の瑕疵では処分自体が違法とまではされません。

過少申告加算税のリスクと回避策

加算税の賦課は、原則として「納税義務違反」があれば自動的に行われます。「正当な理由」があれば免除される可能性もありますが、その範囲は非常に限定的です。

本件では、インボイス記載額と実際の請求書・送金記録との間にズレがあることを、輸入者が確認しなかったことが問題視されました。つまり、注意すれば防げたミスであり、「正当な理由」はないとされました。

正当な理由が認められるのは、たとえば関税分類に関する判断が専門的に分かれるケース、関税定率法の解釈に争いがある場合、または税関からの事前教示に従っていた場合など、納税者の責めに帰さない客観的事情があるときに限られます。こうした判例・通達例を踏まえて、輸入者側に落ち度がないことを立証できるかが重要です。

そのため、実務的には申告価格の妥当性を社内で二重チェックし、価格決定のプロセスや値引き・減額の理由を記録として残すことが加算税を回避する上で重要です。

例えば、そんなのは知らなかったなどは、一ミリ足りとも考慮されないです。気を付けましょう。

事前教示制度の活用

申告価格や課税標準について不明な点がある場合、「事前教示」を積極的に活用しましょう。これは関税法第7条第3項に定められており、税関は適切な教示に努める義務があります。

今回の事案でも、輸入者は事前に税関に教示を求めていませんでした。もし事前に申告価格の妥当性について教示を受けていれば、結果が異なっていた可能性もあります。

日頃から制度を活用する姿勢を持ち、不明点は申告前に解消することが、税務リスクの低減につながります。

事前教示は、事後的に税関の公式見解を証明するための仕組みです。つまり、これは、万が一、分類ミス等が事後的に発見されても、税関側にも一定の責任を負わせる仕組みでもあります。=弁解する余地を残す制度

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • インボイス価格が実際の支払いと異なる場合は、現実支払価格が優先される
  • インボイス・請求書・送金記録の整合性が課税価格判断のカギとなる
  • 合理的な説明には、客観的証拠資料の提出が不可欠
  • 税関調査に違法があっても、処分が違法になるのは重大な瑕疵がある場合に限られる
  • 正当な理由が認められるのは、税関教示に従った場合や法解釈に合理的争点がある場合のみ
  • 社内で申告価格決定の根拠や取引状況の管理体制を整えることが重要
  • 迷ったら事前教示制度を活用し、リスクを未然に防ぐことが望ましい

輸入価格は税関に疑われる?冷凍豚肉の通関トラブルから学ぶ実務対策【答申第105号】

冷凍豚肉の通関トラブル

本記事では、冷凍豚肉の輸入価格に対する税関からの指摘と、それに対する審査請求が棄却された不服審査答申(答申第105号)を題材に、輸入実務における価格設定と証拠資料の重要性について解説します。特に、小規模事業者の方が陥りがちな「価格の説明ができない状態」をどう避けるべきか、具体的な改善策を提示していきます。

答申書の概要と実務上の意義

今回取り上げるのは、冷凍豚肉を輸入していた事業者が「1キログラムあたり524円」として申告した価格について、税関が疑義を持ち、課税価格を再計算して更正処分を行い、過少申告加算税も賦課したという事案です。

輸入者はこれに不服を申し立てましたが、審査請求は最終的に棄却されました。このケースは、インボイス価格と実際の支払い実績との関係、国内販売価格との整合性、税関調査に対する対応の重要性を端的に示しています。

価格をめぐるトラブルの経緯

輸入者は冷凍豚肉をすべてE社という国内企業に販売しており、その再販売先も判明していました。税関は調査により、E社の再販売価格が1キログラムあたり200円台から400円台であるにもかかわらず、輸入者がE社に請求した金額が564円であった点に着目します。この価格は申告価格の524円よりも高く、しかもE社からの実際の支払額は564円を下回っていました。帳簿上の処理も曖昧で、送金の実態や契約の裏付けも不十分だったため、税関はインボイス価格に真実性がないと判断しました。

さらに、すべての部位に同一の申告価格(524円)を適用していた点も不自然とされ、輸入価格の妥当性への疑義が深まりました。そのため、税関はE社の再販売先価格から必要な経費を差し引いて課税価格を再計算し、加算税を含めて更正処分を行ったのです。

輸入価格よりも国内販売価格の方が安いので不自然。通常なら、輸入価格国内販売価格になるはずとの見解です。税関は、この国内販売価格と輸入価格との関係から疑義を持ったということです。

インボイス価格の真実性をどう証明するか

輸入申告における「課税価格」は、原則として実際に支払った、あるいは支払うべき価格に基づきます。しかし、この価格に疑義が生じた場合、その合理性を説明する責任は輸入者にあります。具体的には、契約書、送金記録、買掛帳、会計帳簿などを整備し、申告価格が実際の商取引に基づいたものであると税関に説明できなければなりません。

今回のケースでは、送金の時期・金額・対象貨物との対応関係が不明確で、どの送金がどの輸入契約に基づくものかを特定できなかったため、インボイス価格の信憑性が否定されました。税関は「説明可能な根拠がない限り、インボイス価格を採用できない」と明確に述べています。

インボイス価格が認められない場合、税関は関税定率法に基づき、同種・類似貨物の取引価格、国内販売価格、製造原価などの順に課税価格を決定しますが、これらも確認できない場合は、実際の再販売価格等から推計課税が行われます。

根拠:税関の課税価格の決定原則を参照

国内販売価格との乖離リスク

もう一つの焦点は、国内販売価格との整合性です。輸入価格と国内での販売価格に大きな乖離がある場合、税関は「価格操作」の可能性を疑います。今回は、輸入者がE社に対して高額で請求し、E社がさらに安価で再販売していたため、「帳簿上の請求価格」が商取引実態と合致していないと判断されました。

また、取引開始から短期間で多額の売掛金が発生していた点も不自然とされ、帳簿処理の信頼性に疑問が持たれました。こうした事実の積み重ねが、税関による推計課税を招いたのです。

一律価格設定の落とし穴

すべての豚肉部位を「1キログラムあたり524円」と一律で申告していた点も、税関の疑念を強めました。本来、部位や取引条件によって価格は変動するのが自然であり、それを無視した画一的な申告は「意図的な価格調整」と見なされるおそれがあります。市場価格や調達コストに即した価格設定が不可欠です。

税関が価格操作を疑う典型例には、今回のような一律価格設定、帳簿価格と実際の取引実態との乖離、資金の流れが不自然なケースなどがあります。

調査対応で信頼を損なわないために

税関調査の際、資料の提示や説明を拒否したり、曖昧な回答をしたりすると、信頼性が大きく損なわれます。今回のケースでも、資料の未提出や説明不足が決定的なマイナス要因となりました。調査時には、どのような書類が求められるかを事前に想定し、準備しておくことが非常に重要です。輸入者としての説明責任を果たす姿勢が求められます。

また、税関が「疑義が解明されない貨物」と判断する場合、申告価格の否認が行われます。この状態に陥らないためには、帳簿・送金記録・契約などの整合性を常に保つ必要があります。特に実際の銀行の出金記録と輸入書類をペアで保管することが非常に重要です。

加算税を避けるための管理体制

過少申告加算税は、故意でなくても「申告ミス」によって課されます。税関に指摘された価格差について、合理的な説明や証拠が提示できなければ、「正当な理由がない」とされ、加算税がそのまま賦課されます。今回の審査請求人は、「事情を理解していなかった」「価格の根拠はあった」と主張しましたが、それを裏付ける書類がなかったため認められませんでした。

過少申告加算税の「正当な理由」とは、最高裁判例によれば「納税者の責めに帰することのできない客観的事情がある場合」のみに限定されます。単なる勘違いや記録の不備では正当な理由と認められません。

実務で取り組むべき対策

インボイスや契約書、送金記録の整備はもちろんのこと、価格決定の透明性を高めるための体制づくりが重要です。税関からの調査が入っても問題がないように、定期的に帳簿や証拠資料の点検を行い、申告価格の根拠がすぐに説明できるようにしておきましょう。

また、輸入した商品の国内での販売価格や取引先の動向も把握し、申告価格との整合性が取れているかを見直す習慣が必要です。

販売先との資本関係や契約条件の明確化も重要な視点です。たとえ独立した法人同士でも、取引の透明性が担保されていなければ、税関から疑義を持たれる可能性があります。

分科会の答申書から学べること

まとめ(箇条書き)

  • インボイス価格の真実性を証明するには、契約書・送金記録・帳簿の整備が不可欠です
  • 一律価格や販売価格との乖離は税関からの疑念を招くリスクがあります
  • 税関調査には誠実・迅速に対応し、説明責任を果たす姿勢を持つことが重要です
  • 加算税を回避するには、日頃から「根拠ある申告」を徹底する体制が必要です
  • 定期的な価格設定の見直しと帳簿管理を行うことでリスクを低減できます
  • 課税価格は法的手順に従って決定され、インボイス価格が否認された場合の備えも重要
  • 正当な理由の範囲は狭く、客観的事情がなければ認められません

関税評価の見落としで重加算税に?輸入キャンセル料に潜む落とし穴と対策【答申第104号】

関税評価の見落としで重加算税に

輸入取引の現場では、契約変更やキャンセル、再契約といった事態は珍しくありません。ところが、こうした一連の取引に伴う金銭の扱いを誤ると、思いがけず重加算税をかされることがあります。

この記事では、関税等不服審査会の答申第104号をもとに、輸入キャンセル料の扱いを巡って争われた実例から、貿易実務者が学ぶべきリスクと対応を整理していきます。

答申の背景と事案の概要

本件は、日本の輸入事業者が外国の輸出者との間で締結した売買契約を一部キャンセルし、その際に支払ったキャンセル料(違約金)を関税の課税価格に含めず申告していたことが問題となりました。税関の調査によりこの事実が判明し、申告価格の過少を理由に重加算税の賦課処分が行われました。

輸入者は、税関調査後に修正申告を行いましたが、調査後の申告であったため、加算税の免除要件は満たされず、異議申立ても棄却されています。

この審査請求は、課税処分の妥当性、修正申告の適法性、異議申立ての手続きなど、さまざまな論点を含んでいましたが、結果的に税関の処分の大部分が適法と認められました。

課税価格とは?基本と加算要素の確認

関税評価の基本は「CIF価格」、すなわち貨物の価格(本体価格)に加え、輸送費(運賃)および保険料を含めた価格をもとに関税が計算されます。さらに、関税法第4条・第8条では、以下のような項目が課税価格に加算される可能性があるとされています。

  • 貨物の売買に関して支払われるロイヤリティやライセンス料
  • 輸出者に直接支払われる別払い金(例:契約違反によるキャンセル料)
  • 輸入者が無償で供与した金型、設計図、原材料等

形式的に「本体価格」だけで評価するのではなく、取引実態に応じて関連するすべての費用を精査し、必要に応じて加算する必要があります。

キャンセル料は課税価格に含めるべきか?

関税評価において、輸入価格に加算されるべき費用には、売買契約に基づいて実際に支払われた代金の他、貨物に関連する別払い金も含まれます。本件では、輸入契約を一度キャンセルし、再契約を結んだ際に支払われたキャンセル料が、実質的に新契約の価格調整に関与していたと判断されました。

つまり、形式的には一度の契約キャンセルと再契約のように見えても、実態としては価格調整の一環とみなされたため、キャンセル料も課税価格に含まれるべきと結論付けられたのです。

このような「別払い金」は見落とされやすいポイントであり、関税評価に精通していないと申告価格の過少と見なされるリスクが高まります。

税関調査後の修正申告は原則加算税の対象

税関調査が始まってからの修正申告は、税務調査が進行し、更正処分が避けられないと納税者が認識していた場合、たとえ修正申告をしても加算税が免除されることはありません。これは関税法第12条に規定されており、「更正があるべきことを予知してされた修正申告」は、加算税免除の対象にはならないとされています。

今回のケースでも、調査段階で税関職員に取引関連のメールや会計書類を開示したこと、税関からの指摘に基づいて修正申告を行ったことから、「更正があるべきことを予知してされた」申告と判断され、過少申告加算税が適法に課されました。

自発的な修正申告によってリスクを回避したいと考える場合、税関からの調査が入るに申告を行うことが重要です。

異議申立てと審査請求の対象範囲

本件では、輸入者は異議申立てや審査請求において、「税関の解釈は一面的であり、節税意図はあっても仮装や隠蔽に該当するものではない」と反論しました。

しかし、審査会は明確に「すでに取消された処分」や「異議申立ての決定」については審査請求の対象にならないと判断しています。これは、行政不服審査法において「審査請求できる処分」が限定されているためです。

すでに存在しない処分や単なる手続結果(異議却下など)は、「不服申立ての対象とならない」とされるため、仮に違法・不当と感じても争うことができない点には注意が必要です。

実務上の教訓と社内対策のポイント

本件から得られる教訓は、「形式ではなく実態」で関税評価は判断されることです。契約のキャンセルや再締結、追加費用の支払いといった事象について、書面や会計処理上の整理だけでは不十分で、実質的な取引関係を基に税関が評価することを念頭に置く必要があります。

また、税関調査が入ったの修正申告では加算税が免除されない点、異議申立て・審査請求における訴訟戦略と法的利益の理解など、事後対応よりも事前のリスク予防が何よりも重要です。

社内体制整備においては、以下に留意しましょう。

  • 売買契約書、変更契約書
  • インボイス、支払明細、送金記録
  • メールの送受信履歴、特に価格や契約条件変更に関するやりとり
  • キャンセル料や補填金の支払い記録とその説明資料

これらを取引ごとに保存・管理し、必要に応じて税関に開示できる体制を構築しておきます。

判例や法令の理解も実務力の一部

答申書では、最高裁昭和58年10月27日判決(民集37巻8号1196頁)が引用され、重加算税と過少申告加算税の一体的処理に関する法的解釈が紹介されています。

また、関税法第8条(課税価格の構成)、第12条の2(過少申告加算税)、第12条の4(重加算税)、および国税通則法第65条(修正申告と加算税の関係)など、実務上押さえておくべき法令が多数存在します。

関税評価は単なる価格計算ではなく、法的根拠と実務判断のバランスが求められる分野であることを理解しておく必要があります。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • 課税価格とは「CIF価格+加算要素」であり、キャンセル料なども含まれる可能性がある
  • 税関調査後の修正申告では、加算税の免除が認められないのが原則(関税法第12条の2第4項)
  • 異議申立てや審査請求には、対象となる処分の範囲に制限がある
  • 書類・メール記録などの証拠保全が調査対応のカギとなる
  • 判例や条文の理解が、適切な関税評価とリスク回避につながる

完成品にも波及?部品商標が招く商標権侵害と税関対応の実務【答申第103号】

部品商標が招く商標権侵害

本記事では、関税等不服審査会が平成26年6月26日付で公表した答申第103号をもとに、貿易実務者が直面しうる輸入差止制度に関する手続きと実務上の注意点について解説します。

]対象となった事案は、意匠権を巡る輸入差止申立てに対し、輸入者がその受理の取消しを求めて審査請求を行ったものです。最終的に審査請求は棄却され、税関長の差止申立て受理は適法と判断されました。

この事例は、証拠の示し方や手続きの透明性、公正性がいかに重要であるかを示す好例です。

知的財産侵害が疑われる貨物の輸入時には、税関による差止申立ての受理や不受理の判断が大きな影響を及ぼします。特に、完成品ではなく、構成部品の意匠や商標が争点となる場合には、輸入業者が意図せずに違反とされるリスクもあります。

この記事では、具体的な審査の流れと、実務上の教訓について掘り下げていきます。

輸入差止申立ての法的根拠と流れ

関税法第69条の13では、意匠権や商標権などの知的財産権を有する者が、侵害のおそれがある貨物に対して税関長へ差止申立てを行うことができると規定されています。この申立てを行うには、登録証や侵害疎明資料など、根拠となる十分な書類を提出する必要があります。

本件では、申立人が輸入品が自社意匠権を侵害していると主張し、証拠として鑑定書や識別資料を税関に提出しました。税関はこれを受け、輸入者に対して意見聴取の機会を設け、さらに専門委員を招集して意見照会を実施しました。最終的に、証拠が侵害の事実を疎明するに足りると判断され、差止申立ては受理されました。

手続きの透明性と専門委員制度の運用

本件では、3名の専門委員(弁護士2名、弁理士1名)が任命され、それぞれが申立人・輸入者の意見書、鑑定書、陳述要領書等を精査した上で意見書を提出しました。税関はこれらの意見を踏まえて最終判断を下しています。

申立てや反論の場では、通達により定められた運営ルールが厳格に適用されます。新たな証拠は原則持ち込めず、意見陳述も既提出の資料の範囲内で行うことが義務付けられています。今回の事案では、申立人による不適切な発言があったと指摘されましたが、専門委員や税関がそれを審理対象外とし、冷静な判断を保った点も注目すべきポイントです。

実務上の重要なポイント

輸入差止の審査では、提出資料の内容と論理構成が極めて重要です。単に登録された知的財産権を示すだけでは不十分であり、侵害とされる貨物との識別点を明確に示すことが求められます。

今回の事例では、写真と現物との違いに基づく争点がありました。専門委員の判断では、写真資料に加えて現物を比較・確認していることから、証拠の提出方法や内容においても慎重な準備が必要であるとわかります。また、輸入者側は現物提示を求められた際に迅速に対応し、反論の機会も活用しましたが、最終的に申立人の提出資料がより説得力を持つとされました。

さらに、申立人と輸入者間での過去の関係や、利害関係の有無についても事前に確認され、公正性が担保されています。専門委員の意見が一致していたことに対しても、「コピーではないか」との主張がありましたが、これは合議の結果として認められ、問題とされませんでした。

答申書から得られる実務的教訓

この答申から得られる最大の教訓は、証拠資料の整備と提出タイミングの重要性です。通達に則った手続きが取られていないと、仮に実体面で主張に合理性があっても、形式不備で却下されるおそれがあります。

また、意見聴取の場では相手方を不当に貶めるような発言主張の枠を逸脱する証拠提出はかえって信用を失う結果となりかねません。今回の輸入者は、申立人の発言に異議を唱えたものの、専門委員の見解ではそれが審査に影響を与えていないと結論づけられました。冷静な反論と補足意見書によるフォローができていた点は評価されます。

加えて、専門家(弁理士・弁護士など)の活用は、書類の精度向上だけでなく、税関や専門委員との意思疎通にも役立ちます。知的財産権に関する争いは、抽象的な主張では不十分であり、論理と証拠に基づいた構成が問われます。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • 差止申立ての手続きには、事前準備と証拠資料の正確性が鍵となる
  • 意見聴取では通達遵守の姿勢と冷静な対応が評価される
  • 専門家の助言を活用し、主張の論理性と証明力を高めることが重要

委託加工貿易と加工再輸入減税制度の書類不備リスクとは?【答申第100号】

委託加工貿易と加工再輸入減税制度の書類不備リスク

はじめに

海外の安価な人件費を活用して商品を製造し、日本に再輸入する――これは、特に繊維や衣料品業界でよく活用される「委託加工貿易」の典型です。この仕組みは、日本企業が高品質な原材料や生地を海外に送り、現地で加工・縫製などを経た後、製品として再び日本に輸入するという流れをとります。コスト削減と品質維持を両立できることから、多くの中小企業もこのスキームを積極的に取り入れています。

加工再輸入減税制度

そして、この取引で重要な税制上の仕組みが「加工再輸入減税制度」です。この制度は、同一の原材料が日本から輸出され、加工されて戻ってくることを前提に、再輸入時に二重の関税がかからないよう、再輸入品に対する関税を軽減または免除するものです。具体的には、輸出時に課税されなかった原材料に再度課税しないようにすることで、貿易コストの増加を防ぎます。

ただし、この制度を利用するには、厳格な要件と手続きの順守が必要です。制度適用の前提となる書類の整備や、税関への適正な申告がなされていない場合、制度の利用は認められず、輸入時に通常の関税が課されるばかりか、過少申告加算税や更正処分といったペナルティの対象となるリスクもあります。実際に、制度の趣旨には合致していても、書類の形式不備や署名権限の曖昧さなどから、税関に制度の適用を否認される事例が後を絶ちません。

本記事では、関税等不服審査会が出した「答申第100号」をもとに、委託加工貿易における加工再輸入減税制度の運用で、どのような実務上の問題が発生しうるかを解説します。特に、署名の形式、書類整備の要件、税関調査時の対応方法など、実際に現場で直面する課題を事例から読み解き、小規模な貿易事業者が実務で失敗しないために備えておくべきポイントを紹介します。

税関対応の実務力や書類管理体制の強化は、単なる制度適用の可否を超えて、企業の信用・取引先との信頼関係・コスト競争力にも直結します。事後対応で苦慮しないためにも、制度の「適正な活用」と「リスク回避」の両輪を理解しておくことが重要です。

制度要件の整理

加工再輸入減税制度の適用には、以下の具体的な要件をすべて満たす必要があります。

  • 輸出された原材料が特定の品目であること(暫定法施行令第20条に基づく)
  • 輸出日から原則1年以内に再輸入されること(特別な事情がある場合は延長可)
  • 輸出原材料が加工された製品であることが確認できること
  • 特恵関税や他の減免制度と重複適用されないこと

また、税関に提出すべき書類には、以下のものが求められます。

  • 加工又は組立て契約書(署名付き)
  • 注文書や仕様書など、加工内容が明記された文書
  • 原材料と製品の対応関係が分かる契約実績表
  • 輸出入申告書、許可書
  • 加工先との往復文書(メール、FAX含む)

書類手続に潜むリスクと形式要件

書類の整備において特に注意すべきなのが「署名」の扱いです。契約書や証明書類は、加工を行う現地企業(委託先)が署名するのが原則です。代理署名を行う場合は、以下の要件を満たす必要があります。

  • 書面で明示された委任状が存在すること
  • 委任の範囲(署名権限)が具体的に記載されていること
  • 過去の文書との整合性があること
  • 税関調査時に提示できるよう保存されていること

今回の事例では、署名が形式上A社の従業員のものだった点が問題視されました。しかし、委託先のC社らから包括的な同意を得ていたこと、かつその実態を裏付ける文書が提出されたことで、審査会は署名の形式要件を柔軟に解釈しました。

審査会判断の例外性とそのリスク

審査会は今回、実態重視の判断を下しましたが、これはあくまで例外的な対応です。原則として、形式的な書類の不備があれば減税制度の適用は否認されることが多く、同様のケースで常に認められる保証はありません。

したがって、「実態があれば大丈夫」という誤解は危険です。事前に書類の形式要件を満たし、委任状ややり取りの記録をきちんと残すことが重要です。

税関調査と是正措置の具体策

税関から書類不備の指摘を受けた場合、以下の対応が現実的かつ有効です。

  • 不備の内容を確認し、当該書類の原本・補足資料を提出する
  • 委任状や過去の契約書など、権限の根拠を示す証拠を添付する
  • 対象となる取引の流れ(輸出→加工→輸入)を時系列で整理して説明する
  • 書類作成プロセスを見直し、今後の是正策を税関に報告する

さらに、事前に以下の体制を整えておくと、同様のトラブルを未然に防げます。

  • 署名権限の明確化と委任状の取得・保管
  • 税関提出書類の社内チェック体制の構築
  • 加工契約や製品仕様などのデジタル保存と時系列管理
  • 税関調査に備えた想定QAと実務フローの整備

貿易事業者として学ぶべきこと

この事例を通じて、貿易事業者が実務で注意すべき点は多岐にわたります。

1.証拠力のある書類

制度の趣旨や条文だけでなく、実際の運用に即した「証拠力のある書類」の整備が必要です。加工契約書や委任状は単なる形式書類ではなく、後に税関が確認・検証する実質的証拠として扱われるため、署名の真正性や記録の保存期間にも注意を払う必要があります。

2.例外事例を拡大解釈しない

税関とのやり取りにおいては、形式的な不備が「制度の趣旨に反しない」として認められることは例外であると認識することです。審査会の判断は柔軟なものでしたが、今後の類似ケースで同じような判断がなされる保証はありません。したがって、「例外事例」として受け止め、通常は書類の厳密な整備を前提とすべきです。

3.トラブル発生時の対応力

トラブル発生時の対応力も重要です。不備を指摘された場合に、迅速かつ論理的に実態を説明できるか、関係書類を揃えて提出できるかが、税関の評価を左右します。万一のために、加工先とのやり取りを時系列で記録し、必要に応じて第三者(例:現地法務顧問)による確認体制を整備することも有効です。

4.社内体制を構築

最後に、社内体制の構築こそがリスク対策の要です。現場担当者に制度の知識が不足していたり、書類作成が属人化していたりすると、制度の適正活用が難しくなります。社内での教育・引き継ぎ・定期的な監査を含む仕組み作りが、持続的な制度活用につながります。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • 加工再輸入減税制度は、実態だけでなく「形式的書類の正確さ」が求められます
  • 制度の適用要件は多岐にわたり、書類の整備が極めて重要です
  • 代理署名は厳格な条件付きでのみ認められ、委任状の明示が不可欠です
  • 審査会の判断は例外であり、通常は不備があれば否認されるリスクが高いです
  • 書類整備、社内体制、税関との対応力を強化することがリスク管理の鍵です

グループ企業取引で注意!買付代理人が”売手”と判断された理由とは?【答申第99号】

買付代理人が”売手”と判断された理由

はじめに

この記事では、平成25年10月16日付の「関税等不服審査会 答申第99号」を題材に、関税評価および申告において貿易事業者が押さえるべき実務ポイントを解説します。特に、形式的には買付代理人とされていた企業が、関税評価上は「売手」と判断された事案を通じて、形式と実態の乖離がもたらすリスクや、ロイヤルティ・手数料の課税価格への影響について学べます。

この答申は、グループ企業間で行われる輸入取引における関税申告の実務に対して、税関がいかに厳密な視点で実態を分析しているかを示した貴重な事例です。読者の皆様にとって、自社取引スキームの見直しや申告書類の整備に役立つ内容となっています。

事案の概要と争点整理

この事案では、衣料品を扱うグループ企業の一員である輸入者が、関税の更正処分と過少申告加算税の賦課決定を受け、これを不服として審査請求を行いました。主な取引構造としては、輸入者がグループ企業の一社(C社)と買付代理人契約を締結し、別会社(F社)にはロイヤルティを支払っていたというものです。

しかし、税関はこのスキームに疑義を持ち、C社を実態的な「売手」と判断。F社へのロイヤルティについても輸入取引の条件に該当すると認定し、課税価格への加算を決定しました。

審査請求人の主張と税関判断の対比

輸入者側は、「C社は買付代理人として行動しており、取引の売手は製造者である」と主張しました。買付手数料であることを強調し、C社はリスクも所有権も負っていないと主張。また、F社に支払うロイヤルティについても「輸入取引とは無関係なブランド使用料」であり、「輸入取引の条件ではない」との立場でした。

これに対し、税関と審査会は、書類上の表示よりも実態を重視。C社が製造者との価格交渉や発注、貨物の支払を実質的に担っており、注文書やインボイスの発行元である点を踏まえ「C社は売手」と認定しました。ロイヤルティについても、F社とC社の特殊関係やライセンス契約上の調達制限から、「輸入取引の条件に該当する」と判断されています。

判例・通達に基づいた判断基準

審査会の判断は、関税定率法、関税評価協定、そして関税定率法基本通達の解釈に基づいています。特に以下の点が根拠となりました。

  • 定率法第4条:課税価格の定義と加算項目の明記
  • 基本通達4-1および4-2:買手・売手の認定基準として、「計算と危険負担」「品質や数量の決定主体」等を重視すること
  • 東京地裁平成23年判決および東京高裁平成24年判決:形式的な契約ではなく、実態に基づき売手を判断すべきとする先例

また、関税評価協定第17条の「文書の真実性を税関が確認する権限」を根拠に、書類形式にとらわれない実態評価が正当化されています。

実務で学ぶべき主要ポイント

「売手」「買手」認定に関する実務上の注意点

税関は、契約書上の記載や名称だけで売手・買手を判断しません。本件では、輸入者とC社が形式上「買付代理人契約」を締結していたにもかかわらず、C社の行動実態から「売手」と認定されました。決定的だったのは、次のような取引実態です。

輸入者が発注した後、C社が製造者に別注文を行い、製造者がC社宛にインボイスを発行していた点、貨物代金も一度C社が立て替えていた点、さらにC社が発行した注文書やインボイスが事実上の売買契約の流れを構成していた点が挙げられます。

税関は、注文・決済・瑕疵処理・所有権移転といった要素をすべて実態として分析し、「売手」との認定に至ったのです。

買付手数料の扱いとその除外要件

関税定率法では、輸入取引に関連して支払う手数料のうち、一定条件を満たす「買付手数料」は課税価格に含めないことが認められています。しかし、その除外が認められるには以下の要件が必要です。

  • 買手の管理下で業務が行われていること
  • 買手の計算と危険負担の下にあること

本件では、C社が製造者への発注・代金支払い・価格交渉を独自に行っていたことが確認されており、税関はこれを「買付手数料ではない」と認定しました。結果的に、5%相当の手数料が課税価格に含まれるべきとされました。

ロイヤルティの課税価格算入基準

輸入貨物に関して支払うロイヤルティが課税価格に含まれるかどうかは、次の2点が判断基準です。

  1. 輸入取引の条件として支払われているかどうか
  2. 支払先が売手と特殊関係にあるかどうか

本件では、F社はC社と取締役を共有しており、かつライセンス契約上、輸入者はF社が指定する供給元(C社)以外からの調達ができない仕組みとなっていました。この制限が「輸入取引の条件」に該当すると判断され、ロイヤルティの全額が課税価格に加算されることとなりました。

書類・契約管理と申告実務への教訓

税関は、関税評価において「形式的な契約や表現」ではなく、「実質的な取引の流れ」を重視します。したがって、以下のような実務対応が必要です。

  • 注文書には実際の製造者名を明記し、流通経路が可視化できるようにする
  • インボイスに「買手の計算と危険負担である」旨が反映されているか確認する
  • C社等の中間業者が自己資金で先払いしていないか確認し、資金フローを文書化しておく
  • ライセンス契約に調達制限があれば、申告への影響を評価しておく

特に、税関調査後に契約を遡及して締結・修正したような対応は極めてリスクが高く、コンプライアンス体制の不備としてみなされる可能性があります。

答申書から導かれるコンプライアンス上の教訓

この答申書から明らかになったのは、形式的な「買付代理人契約」や「独立関係」の主張では通用せず、税関はあくまで実態に即して課税評価を行うという厳しい姿勢です。特にグループ企業間の取引では、以下の点に注意が必要です。

  • 関係会社間での取引スキームは、第三者基準で合理的に説明できる内容であるか
  • ライセンス契約が仕入先や供給ルートを事実上制限していないか
  • 輸入者側が真の意思決定権を持っているかどうか

さらに、関税評価に関する通達や過去の判例・答申も、社内で定期的に情報収集し、実務に反映する体制が求められます。

分科会の答申書から学べること

まとめ

今回の答申事例は、書類上「代理人」として記載されていても、実態が「売手」であれば、課税価格の計算にも大きく影響することを示しています。形式と実態が一致していない申告は、税関によって否認され、結果として追徴課税や加算税のリスクを招くことになります。

今後、グループ会社間での取引を含め、輸入スキームの構築や申告の整合性を高めるためにも、以下の点を意識した実務対応が重要です。

  • 申告の形式と実態が一致しているかを常に点検する
  • 「買付手数料」「ロイヤルティ」の定義を正しく理解し、資料を整備する
  • 契約書だけでなく、決済や貨物移動の流れも申告内容と整合させる
  • 実態判断に基づいた通達・判例を社内で共有し、教育体制を強化する

輸入通関の失敗事例 問屋契約で加算税!? 見逃しがちな課税価格の落とし穴と対策【答申第95号・97号・101号】

輸入通関の失敗事例 問屋契約で加算税!?

はじめに

輸入ビジネスにおいて、「課税価格の申告」は単なる数字ではありません。特に問屋契約などの複雑な契約形態を伴う取引では、その背後にある商流や所有権の構造、販売形態を税関がどのように評価するかによって、申告価格の妥当性が大きく問われます。もし、税関の評価と食い違った場合、輸入者は後から追徴課税や過少申告加算税の対象となるおそれがあります。

本記事では、関税等不服審査会の答申(第95号第97号第101号)をもとに、複数の実例を通じて課税価格申告にまつわるリスクと、その回避策を実務目線で詳しく解説します。

事案に共通する背景と失敗のポイント

各答申で共通して見られたのは、輸入者が「製造者インボイス」に基づいて申告価格を設定していたことです。通常、この価格が輸入取引における支払価格であれば、関税定率法上の「現実支払価格方式」が適用されます。

しかし、問屋契約においては、輸入者と実際の製造者との間に売買契約がなく、商品と代金の直接的なやり取りが存在しない場合が多くあります。このような取引では、「現実支払価格」とは認められず、税関は別の課税方式を採用する必要があると判断します。その結果、製造者の価格よりも高く評価された「国内販売価格方式」が適用され、その差額に対して過少申告加算税が課されました。

現実支払価格が使えない場合の課税方式

関税定率法では、課税価格を決定するためにいくつかの方式が定められており、その適用には優先順位があります。

  1. 「現実支払価格方式」で、売手と買手の間に成立した輸入取引に基づく価格を用います
  2. 「同種又は類似の貨物の価格方式」
  3. 「製造原価方式」
  4. 「国内販売価格方式」が適用されます。

これらは順番に検討され、適用ができないと判断された場合に次の方式へと進みます。輸入者が希望する方式を任意に選べるわけではなく、実際の取引の性質や入手可能な資料に基づき、税関が客観的に判断します。

問屋契約は「輸入取引」ではない可能性

問屋契約は、通関評価の観点から見ると注意が必要です。問屋契約では、名義上は輸入者が通関手続きを行うものの、実際の売買契約は海外の問屋企業と他の小売先との間で成立しており、輸入者自身が対価を支払っていない場合があります。

このような契約では、商品に対する所有権が輸入者に移転しておらず、売手と買手の実質的な関係がないため、税関は「輸入取引が存在しない」と判断します。したがって、現実支払価格方式は否定され、より下位の方式へと移行していきます。

また、こうした取引においては、契約書の提示だけでなく、実際の取引実態(利益の帰属先、代金の支払先、リスク負担の所在など)を裏付ける資料が求められます。これらが揃っていないと、輸入者側の主張は認められない可能性が高くなります。

製造原価方式にも高いハードルがある

次の候補となる「製造原価方式」は、輸出国の製造者が作成した帳簿や会計資料をもとに、製造原価に利潤や一般経費を加えて算出する方法です。

しかし、この方式の適用には極めて厳格な要件があり、原価計算書、損益計算書、監査済み帳簿など、第三者が確認可能な資料の提出が求められます。答申事例では、いずれも製造者インボイスだけでは情報が不十分であり、製造者の内部資料を十分に収集できていなかったことから、この方式の適用は否定されました。

輸入者がこの方式を選択するには、製造者との信頼関係や情報開示契約などをあらかじめ整備しておくことが望ましく、現実的には中小企業にとって大きな負担となるケースもあります。

国内販売価格方式で求められる資料とは

製造原価方式が使えない場合、最後の手段として「国内販売価格方式」が適用されます。この方式では、輸入品が日本国内で実際に販売された価格(特に販売数量が最も多かった価格)をもとに課税価格を計算します。そこから、控除可能な費用(関税、消費税、国内輸送費、流通マージン、利潤・一般管理費など)を差し引くことで、理論上の課税価格を算定する仕組みです。

控除に必要な資料としては、損益計算書、販売台帳、インボイス、納品書、物流費の請求書などが求められます。これらの資料がなければ、正確な控除ができず、結果として課税価格が高くなり、税額も増えることになります。

「正当な理由」は簡単には認められない

過少申告加算税が課される場面では、輸入者側が「正当な理由があった」と主張することがあります。しかし、関税法や国税通則法では、「真に納税者の責めに帰すことができない客観的事情」がある場合に限り、加算税の賦課を免除できるとされています。これは非常に限定的な判断であり、たとえば社内手続きの遅れや帳簿の不備といった理由として認められません。

実際の答申事例では、税関が申告前に国内販売価格方式の使用を明確に指示していたにもかかわらず、輸入者が別の方式で申告し続けたことで、「調査を予知してされた申告」と見なされ、加算税の対象となりました。また、過去の販売実績資料や損益データを保有していたのに、それを活用せずに誤った方法で申告した点も問題視されました。

実務上の対応と体制整備

このようなリスクを未然に防ぐためには、輸入前の段階から実務体制を整えることが不可欠です。具体的には、自社が締結している契約の構造を見直し、それが「売買契約」なのか「問屋契約」なのかを明確に把握する必要があります。また、どの課税価格方式が適用される可能性があるかを事前に検討し、それぞれの方式に対応できる資料を用意しておくことが求められます。

税関からの文書指導や口頭説明はすべて記録に残し、社内で共有・確認する体制を整えましょう。判断が難しい場合には、税関との事前協議制度や事前教示制度を活用することで、申告時の不確実性を減らすことが可能です。

さらに、申告後に修正を行う場合でも、税関の調査開始前であれば「自主的な修正申告」として加算税を免れる可能性があります。したがって、課税価格に疑義がある場合には、早期の判断と行動がカギになります。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • 問屋契約では「現実支払価格方式」が使えない可能性がある
  • 国内販売価格方式は販売データと控除費用の証明が必須
  • 製造原価方式を主張するには詳細な帳簿と会計資料が必要
  • 税関の指摘を無視すると「正当な理由」が認められず加算税の対象になる
  • 曖昧な契約形態ではなく、取引実態を可視化し、事前準備を徹底することが重要
  • 事前教示制度を積極的に活用し、申告ミスの予防を図ることが実務上有効

輸入取引と課税価格の落とし穴:問屋契約に潜む税関リスクとは?【答申第94号】

問屋契約に潜む税関リスク

はじめに

本記事では、関税等不服審査会による第94号答申書をもとに、輸入者が実務上どのようなリスクに直面するのかを明らかにします。特に「輸入取引」の該当性や課税価格の決定方法が争点となった今回の事案は、小規模な貿易事業者にとっても他人事ではありません。答申の経緯を追いながら、契約形態や申告資料の不備がどのような課税リスクを生むのかを解説します。

事案の概要と争点整理

本件は、問屋契約に基づいて貨物を輸入した事業者が、製造原価ベースの課税価格を主張したところ、税関はこれを認めず、最終的に国内販売価格方式に基づいて課税価格を更正したというものです。

審査請求人は、ベンダーと審査請求人2(米国法人)との取引を「輸入取引」と見なし、その価格を課税価格とすべきと主張しましたが、税関と審査会はこれを否定。「輸入取引」の該当性が本件の最大の争点となりました。さらに、積算価格方式や国内販売価格方式の適用可能性をめぐる主張もありましたが、いずれも審査会は認めませんでした。

また、審査請求人2については、そもそも納税義務者でないため審査請求の適格性がないとして、却下されています。

貿易事業者が学ぶべきポイント

「輸入取引」の定義と実務上の注意点

「輸入取引」とは、単に貨物を輸出国から日本へ運ぶ取引を指すのではなく、売買契約に基づいて現実に輸入された取引を指します。本件では、ベンダーと審査請求人2との間の売買契約ではなく、日本側の問屋契約に基づき輸入が実行されたことから、「輸入取引」とは認定されませんでした。したがって、どの取引が現実に輸入をもたらしたのか、その契約関係や物流責任、所有権移転のタイミングを明確にしておくことが重要です。

課税価格の決定方法とその根拠資料

税関において課税価格を決定するには、明確な裏付け資料が必要です。本件では製造原価方式による申告が主張されましたが、生産者の商業帳簿や販売経費、利潤などの資料が不十分であり、認められませんでした。結果的に、国内販売価格方式が採用され、1年間の損益計算書を基に国内経費率が算定されました。積算価格方式を用いたい場合は、あらかじめ必要な帳簿資料の整備が不可欠です。

申告内容の正確性と事後調査への備え

課税価格を正しく申告できなかった場合には、加算税の対象となる可能性があります。本件では、過少申告加算税が賦課されました。税関は「正当な理由」があるかどうかを厳しく判断しており、通達や制度の理解不足による誤申告は、理由として認められませんでした。税務上の責任回避には、日頃の法令理解と記録保存が不可欠です。

審査請求の適格性

審査請求は誰でも行えるわけではありません。今回は、審査請求人2が輸入者でなく、納税義務者でもなかったため、そもそも審査請求の資格を欠くとして却下されました。実務上は、誰がどの処分に対して不服申し立てができるのか、処分の主体と対象を明確にしておく必要があります。

実務への示唆と教訓

本件から得られる実務上の教訓は多岐にわたります。まず、契約書・インボイス等には、取引当事者の役割や責任範囲を明確に記載することが重要です。所有権や危険負担の所在、販売経路の設定は、輸入取引の判断に直結します。また、税関からの疑義が生じた際は、速やかに資料を提出し、誠実に説明責任を果たす姿勢が求められます。

さらに、関税評価協定や関税定率法の制度を理解し、法令や通達の改正情報に常に目を光らせておくことが、トラブル回避の最善策となります。

分科会の答申書から学べること

まとめ

  • 輸入取引の該当性は、契約内容や物流責任、所有権移転に基づき厳格に判断される
  • 製造原価方式など特例的な評価方法を使うには、十分な資料の整備が必要
  • 申告誤りには加算税が課され、「正当な理由」も限定的に解釈される
  • 審査請求の適格性には、納税義務者であることが不可欠
  • 契約書やインボイスの記載、取引実態の整理が実務トラブルを回避する鍵
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