自分でできる!商標権・輸入差止の事前チェック方法
海外商品を日本に輸入したいと考えるとき、「この商品は輸入しても大丈夫だろうか?」という疑問がついて回ります。たとえ本物の商品でも、日本で商標権が登録されている場合は、無断で輸入すると違法になることがあります。
この記事では、輸入前に自分でできる商標や差止リスクのチェック方法について解説します。
商標の有無を確認するには?J-PlatPatの使い方
輸入前に最初に行うべきは、商標が日本国内で登録されているかどうかの確認です。これには、特許庁が提供する無料検索サービス「J-PlatPat(ジェイ・プラットパット)」を使います。
J-PlatPatの検索手順
- J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にアクセスします。
- 「商標検索」を選択します。
- ブランド名やロゴ名をキーワードとして入力します。
- 検索結果から該当の商標をクリックし、登録番号・権利者・指定商品などを確認します。
検索結果が多い場合は、「出願人名」「区分(商品分類)」などで絞り込むことができます。これにより、対象ブランドに関係ない無関係な出願を除外し、効率的に調査が可能です。
※J-PlatPatは初学者には少し分かりづらい構成です。必要に応じて、弁理士や専門家に相談することも検討するとよいでしょう。
検索のコツ
- 商標が多すぎる場合は「出願人名」でフィルター(正式な会社名で検索)
- 「区分」は対象製品(例:25類=衣類、9類=スマホ関連)に絞ると効率的
判別が難しい場合はどうする?専門家・税関への相談窓口
J-PlatPatや税関の知的財産リストに情報があっても、「記載名義が複雑」「ロゴの表記が違う」「類似商標でヒットしてしまう」など、判断に迷うケースもあります。
この場合の対応策としては、以下の相談先があります。
- 弁理士(特許・商標の専門家)に相談:商標の同一性や対象商品との関係を的確に判断してくれます。
- 最寄りの税関に直接照会:知財担当官に「商標登録されているか」「差止対象になるか」を写真・インボイスとともに提出して相談可能です。
- 日本弁理士会の無料相談窓口:中小事業者向けに定期的な商標相談会が開かれています。

「調べたけどよくわからない」は放置せず、早めの相談がリスク回避の第一歩です。
税関の「知的財産権情報リスト」の確認方法
商標権者が税関に申し立てを行っていると、その情報は「税関の知的財産権情報リスト」に登録されます。これもオンラインで閲覧が可能です。
リストの確認手順
- 税関の知的財産差止申立情報
- ブランド名や会社名で検索
見方のポイント
- 「申立人」=商標権者
- 「対象商標」欄にブランド名の記載あり
- 「識別ポイント」=税関で差止判断する基準
- 「対象商品分類」=差止対象となる輸入品のHSコード分類(参考用)
このリストに記載されていれば、輸入時に高確率で差止対象となります。
このリストに掲載されている場合、税関はそのブランドを重点的に検査します。差止対象として登録されていれば、ほぼ確実に貨物は止められると考えておいた方がよいでしょう。
差止対象かどうかの見極め方
商標侵害になるかどうかは、以下のポイントで判断されます。
- ブランド名・ロゴが日本国内で商標登録されている?
- 税関の差止リストに登録されている?
- 輸入商品が商標の「指定商品」に該当している?
- 商標権者の管理外の流通ルートか?
また、税関による審査では、商品パッケージ・ラベル・カタログなどの表示内容が特に重視されます。ブランドロゴが確認できるものは、必ずチェックしましょう。

これらが日本国内の商標権と一致していた場合、侵害と判断されるリスクが高まります。
並行輸入の可否を判断する3つの条件
日本では、条件を満たせば並行輸入(正規代理店以外の輸入)も合法とされます。ただし、以下の3要件をすべて満たす必要があります(「パテック・フィリップ事件」判例より)。
- 商標が外国で商標権者またはその関係者により付されたものであること
- 商標権者が実質的に商品を品質管理していること
- 日本国内の商標権者と外国の商標権者が同一または法律的・経済的に同一と認められること
このうち、3つ目の「権利者の同一性」が最も問題になりやすいポイントです。
例えば「ダンロップ事件」では、海外と日本で商標権の所有者が異なっており、並行輸入が不適法と判断されました。権利者間の法的・経済的な関係が希薄であると、並行輸入としては成立しないという実例です。

仕入れ先からの資料や証明書、商標の所有関係図などが用意できるかどうか?が、判断の分かれ目になります。
海外の商標制度との違いは?
日本では、商標権は「国別に管理される」ため、海外で合法に販売されている商品でも、日本では商標権侵害になる可能性があります。
一方、アメリカやEUなどでは「並行輸入の自由」を認める傾向が強く、一定の条件を満たせば自由に輸入・販売ができる国もあります。こうした制度の違いにより、他国の感覚で輸入を行うと、日本国内でトラブルになることもあるため、注意が必要です。
NACCSでの税関事前相談制度(実例付き)
輸入予定の商品が商標権に抵触しないか不安な場合は、事前に税関に相談することが可能です。
相談の流れ
- 写真・ラベル・契約書・インボイスなどを準備
- 「知的財産権調査申出書」を提出(NACCSまたは税関HP)
- 担当官が判断し、差止対象かどうかについて意見をくれる
実例(架空)
- 商品:スマホケース
- ブランド:X社(日本で登録済)
→ 事前相談の結果、「指定商品に該当せず差止対象外」との見解が出され、安心して輸入できた。
相談窓口
- 最寄り税関の知財担当官(各地の税関HPに掲載)
- NACCS(通関業務電子システム)
- 日本弁理士会の無料相談窓口
差止リスクを減らすための事前対策
差止リスクを下げるためには、以下の対策をしておきましょう!
- 仕入先が正規代理店または商標権者の許諾を受けていることを確認
- 契約書・インボイスにブランド名や使用許諾の記載があるかチェック
- 輸入数量や反復性を抑えて「商用」と誤解されないよう注意
- ブランドロゴが梱包や製品に明記されている場合は、特に注意が必要
税関が確認するラベル・カタログなどにおける商標使用状況は、判断材料として非常に重要です。できるだけブランド名の使用を抑えるか、許諾の証拠とともに提示できる準備をしておくことが賢明です。
税関への事前相談・資料提出の方法(NACCS)
もし不安がある場合、輸入前に税関へ相談することも可能です。税関では、知的財産権侵害の疑いがあるかどうかを事前に確認してくれる制度もあります。
手続きの流れ
- 税関に対し、「知的財産権侵害の恐れがある貨物」であることを自己申告
- 写真、インボイス、契約書、ブランド許諾書などを添付
- 税関知財担当部門が判断し、輸入可否についてアドバイス
最寄りの税関知的財産調査官(税関HPで一覧あり)に相談しましょう!
まとめ
この記事では、輸入前に商標リスクを確認するための実務的なチェック方法をご紹介しました。事前に情報を集めておけば、不要なトラブルを大きく減らすことができます。次回は、正規輸入を行うための書類と契約関係の整備について解説します。
要点まとめ
- 商標の登録はJ-PlatPatで無料確認できる(出願人名や区分での絞り込みが有効)
- 税関の差止リストに登録されているかも重要
- 並行輸入は3つの条件を満たせば合法だが、判例に注意が必要
- 差止リスクを避けるには、商標表示物の内容確認も必須
- 税関や弁理士などへの相談は早めに行うと安心