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非署名当事者に仲裁は強制できる?米国最高裁GE Energy判例とニューヨーク条約の実務影響

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非署名当事者に仲裁を強制できる?

  • 米国最高裁はNYCが非署名者の仲裁強制を禁止していないと判示し、国内法理論で補充可能とした。
  • 定義条項や準拠法の設計により、下請・保険者など非署名でも仲裁当事者化し得る。
  • 契約群の鏡像化と適用法の指定が、中小企業の仲裁リスク管理の核心になる。

事件の概要

関係者と国

  • 買主:Outokumpu Stainless USA, LLC(米国・アラバマ)
  • 元請(設備一式):F.L. Industries/Fives(フランス)
  • 下請(モーター):GE Energy Power Conversion France SAS(フランス)

米国子会社の買主は、フランス企業の元請と仲裁条項付き契約を締結。モーターはフランスのGE Energyが下請として供給しました。故障が起き、買主は米国の裁判所でGEを提訴しました。

GEは「自分は契約に署名していない(非署名)ものの、米国の国内法を使えば仲裁に移せる」と主張。地裁はGEの主張を認めましたが、第11巡回区は「ニューヨーク条約(NYC)は署名者のみ」として逆転しました。

米国最高裁(2020年6月1日)は、NYCは“非署名理論”を禁止していないと判断。どの国内法で判断するかは下級審で検討するよう差し戻しました[F1, F2]。

結果として、下請や関連会社、保険者など「契約に署名していない当事者」も、条件次第で仲裁に連れていける可能性が開かれました。

事件の背景と争点

NYC第II条は「裁判所は当事者を仲裁に付す」と定めていますが、非署名者については明記していません。最高裁はこの沈黙を“禁止ではない”と解釈し、米国法上の以下の理論を利用できると認めました[F1]。

  • equitable estoppel(衡平法上の禁反言)
  • third‑party beneficiary(第三者受益)
  • incorporation by reference(引用組込み)

背景として、UNCITRALの2006年勧告が第II条の柔軟な解釈を後押ししてきたこともあります[F3]。

争点は2つ:

  1. 条約は非署名理論を許すか? → 許す(最高裁の結論)。
  2. どの国内法で判断するか? (州法、連邦普通法、契約の選択法か)→ 差戻しで検討[F2, F4]。

さらにFAA第2章(9 U.S.C. §§201–208)は、条約事件にFAA第1章を残余適用できる仕組み(§208)を設け、国内法による補充を支えています[F4]。

中小企業にとっての課題

  • 当事者の範囲が拡大する可能性:定義条項や契約構成によって、下請・関連会社・保険者も仲裁の当事者になり得ます。署名の有無だけでは安全とは言えません[F1, F2]。
  • 準拠法の不確定性:どの法で非署名理論を判断するかは事件ごとに異なり、除去(removal)・差戻し・仮処分など初動戦略に直結します[F2, F4]。
  • 契約群の不一致:元請・下請・仕入契約で仲裁条項の文言が揃っていないと、仲裁に連れていける者/いけない者が分かれ、フォーラムが分裂する恐れがあります。

中小企業への実務提案

「当事者」の定義を明確化

最高裁ではSotomayor判事の同意意見が、Sellerの定義に“subcontractors”を含めていた点を重視しました。定義条項に誰を含めるかで、非署名者でも仲裁当事者になり得ます。定義条項は仲裁の入口です[F1]。

非署名理論の「準拠法」を固定

最高裁は「どの国内法で判断するか」を決めず差戻ししました。そのため、仲裁条項に“Non‑signatory enforcement shall be determined under [選択法]”のように適用法を明示するのが有効です。条約の沈黙を国内法で補う以上、適用法の指定が設計の要になります[F1, F2, F4]。

引用組込み・第三者受益・代位を明文化

最高裁は incorporation by reference(引用組込み)、third‑party beneficiary(第三者受益)など国内法の理論を活用できると示しました。元請⇄下請の契約を鏡像化し、引用組込み条項や保険者・代位取得者の拘束を明記することが実務的な帰結です[F1, F4]。

中小企業が今すぐ実践できる行動

  1. 当事者定義の点検:Seller/Buyerにaffiliates, subcontractors, suppliers, insurers, assigns等を入れる/入れないを意図に沿って設定(入れれば非署名でも拘束され得る)[F1]。
  2. 準拠法の指定:仲裁条項や準拠法条項に、non‑signatory enforcementの判断法を明記(例:New York law など)[F2, F4]。
  3. バックツーバック化:元請⇄下請、販売⇄仕入の仲裁文言を鏡像にし、引用組込みと第三者受益を条項で指定。保険者・代位の拘束も明記[F1]。

まとめ

  • 結論:NYC自体は非署名者の仲裁強制を否定しない。国内法の理論を使える。
  • 実務:定義条項と適用法の指定で、誰が仲裁に来る/連れて行けるかが変わる。署名の有無だけで設計しない。
  • 国際取引の文脈:本件は米国の買主とフランスの元請・下請が関わるサプライチェーン紛争。国をまたぐ契約群では、文言と適用法の設計が特に重要です。

※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。

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