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モントリオール条約は陸送に適用される?|複合一貫輸送とAWB責任を分ける判例解説(Expeditors事件)

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複合一貫でどこまでモントリオール条約が及ぶ?

  • 空港外の陸上区間で発生した損害はモントリオール条約の対象外となり、AWB条項で処理される。
  • 代替運送条項に一般同意がある場合は条約に戻せず、事前の反対指示が不可欠。
  • 部分損の重量算定や空港外運用制限をAWBで明確化し、補償額を守る準備が重要。

空+陸が混在すると責任はどこで切れるのか

国際航空貨物の実務では、契約上は「空港—空港」となっていても、実際には航空輸送に陸上輸送が組み合わさることがよくあります。この場合、モントリオール条約1999(Montreal Convention)が適用される範囲、つまり「carriage by air=航空運送中」とされる部分と、適用されない空港外での陸上輸送の部分をどのように線引きするかが、損害賠償の回収額に大きな影響を与えます。

米国第11巡回の判例 Underwriters at Lloyds v Expeditors Korea(882 F.3d 1033, 11th Cir. 2018, No. 16‑10985) では、損害が空港外の倉庫またはトラック走行中に発生したと認定されました。そのため、モントリオール条約は適用されず、ウェイビル(AWB)契約に基づく処理へと回帰するとの判断が下されています[F1]。

判決の要旨(25字以内):空陸混在で陸上損害は条約不適用。

事案の背景

本件は、韓国・仁川から米国・オーランドにシリコンウエハ装置(10梱包)を輸送したケースです。AWB上の契約は空港—空港(Incheon→Orlando)でしたが、実際はIncheon→Miami(航空)→Miami倉庫→Orlando(陸送)に変更されました。

到着後、ロボットアームを含む梱包が破損し、装置が稼働不能になりました。その後、保険者(Lloyds)が補償し、争点はモントリオール条約の限度額が適用されるのか、AWBの責任条項に従うのかという点でした[F1]。

原告の主張

原告(保険者)は、条約Art.18(貨物損害)とArt.22(責任限度)に基づき、当時の上限19SDR/kgの適用を求めました。損害の発生場所が特定できないため、Art.18(4)の推定で条約が適用されるべきだと主張しました。

被告の主張

被告(Expeditors/Forward Air)は、損害は空港外の陸送中に発生したものであり、Art.18(3)(4)の範囲外なので条約は適用されないと反論しました。代わりに、AWB記載の責任制限条項が適用されると主張しました。

地裁は条約の適用を認めましたが、第11巡回裁判所はこれを否定し、AWBに基づく判断に戻しました。ただし、「部分的損害」の場合に責任限度を算定する重量を「壊れた梱包だけ」とするのか「機能上一体の他梱包も含める」のかについて、AWBの文言が曖昧(ambiguous)だとして審理を差し戻し、地裁での再検討を命じました[F1]。

判決の核心(条文の読み方と当てはめ)

carriage by air=航空運送中(Art.18(3))とは「貨物が運送人の管理下にある期間」を指します。ただし、“any carriage by land … performed outside an airport”(空港外での陸上運送)は除外されます[F2]。本件では、損害がマイアミ倉庫やトラック走行中に発生したと認定され、航空運送中には当たらないと判断されました[F1]。

不明時の推定(Art.18(4))

損害の発生時点が不明でも、輸送に航空区間があれば「航空運送中」と推定されます。ただし、今回のように陸上区間と特定された場合は、この推定は覆されます[F1]。

代替運送の扱い(Art.18(4)後段:substitution)

送り主の同意なしに航空の代わりに陸上輸送が行われた場合は「航空運送とみなす」と規定されています。しかし、本件AWBには“ALL GOODS MAY BE CARRIED BY ANY OTHER MEANS INCLUDING ROAD … UNLESS SPECIFIC CONTRARY INSTRUCTIONS ARE GIVEN BY THE SHIPPER”(荷主が反対しない限り道路輸送も可能)と明記されていたため、代替運送の規定は適用されませんでした[F1]。

AWBに基づく上限額の算定

AWBでも19SDR/kgの上限が定められていましたが、「部分的損害」の場合にどの重量を基準にするかが問題となりました。壊れた梱包だけか、機能上一体の他梱包も含めるのかが文言上曖昧であったため、審理を差し戻す判断となりました[F1]。

中小企業が陥りやすい“区間混在”の落とし穴

契約書上は「空港から空港まで」となっていても、実際の輸送では経由地での陸送や倉庫での一時保管が入り込むことが少なくありません。このとき、もし損害が空港外での陸送中に発生すると、条約で定められた限度額や抗弁の枠組みから外れてしまいます。その結果、適用されるのはAWBや国内法となり、損害の回収可能額や立証の基盤が大きく変わってしまいます[F1]。

また、AWBにある「代替運送を認める」という一般的な同意文言も非常に強い効力を持ちます。一度同意してしまえば、後から「substitution(代替輸送)」を擬制して条約の適用に引き戻すことはできません[F1]。

条約の“適用範囲”を設計する契約・運用

AWB(航空運送状)の段階で同意内容をきちんとコントロールすることが重要です。例えば、代替輸送に関しては「反対指示」を明記します(例:“No road substitution between [airport] and [airport] without prior written consent of shipper.”)。また、中継都市を固定し、空港外での保管禁止や保管時間の上限をHandling Informationに記載しておきます。

区間と責任範囲を明確にするために、案件ごとに「責任区分図」を作成します。そこには空港内と空港外の区別、倉庫が空港内か外か、誰が引渡し主体なのか(GHA/フォワーダ/下請)をはっきりと書き込みます。

証拠を押さえる初動も大切です。貨物に破損を発見したら、その時点が「倉庫入庫時」「積込時」「走行中」のどこなのかを特定し、担当者の名前と一緒にすぐにメモします。同時にCCTV映像の保全請求をトリガーとして動かします。また、Art.31(通知)は貨物の場合14日以内に書面通知が必要です。これは条約かAWBかに関係なく、期限管理として常に有効です[F2]。

さらに、上限額に関する準備もしておくと安心です。条約が適用されなくても、AWBにSDRによる上限規定がそのまま書き写されているケースは少なくありません。部分的な損害の場合は「壊れた梱包の重量」だけか、それとも「機能上一体となる他の梱包も含めるのか」という重量算定の扱いを、AWBの文言であらかじめ調整しておくのが実務的です。

今日からできるチェックリスト

契約前

  • AWBの代替運送条項に反対指示を必ず記入(具体都市名・輸送手段)。
  • 空港外倉庫の使用禁止/制限を明文化。使用時は冷蔵/緩衝/監視条件も付す。

出荷時

  • ルーティング承認フロー(発地→仕向地までの経由・倉庫)を回覧し、変更には書面同意を義務化。
  • CCTV・ハンドリングログの保全依頼テンプレを用意。

到着後

  • 破損時は時点特定メモ+担当者名+写真を初動で確保。
  • Art.31通知(14日)を自動送信。AWB/条約どちらに傾いても権利保全。

インサイト:中小企業への学び

条約の保護は“区間”で決まる——これが本件の肝です。空港外の陸上区間で損害が起きると条約は外れ、AWB勝負になります。ゆえに、代替運送に対する明示の反対指示、空港外運用の制限、部分損の重量算定の事前合意までをAWBドラフト時点で仕込むことが、回収可能額を最大化する最短ルートです[F1, F2]。

要点まとめ

  • 損害地点が空港外陸送なら条約不適用。AWB条項で勝負[F1]。
  • 同意なき代替運送のみ“みなし航空”。AWBに一般同意があると条約に戻せない[F1, F2]。
  • 部分損の重量算定はAWB文言で曖昧になりがち。事前に定義しておく。
  • Art.31通知(14日)の運用はいずれの場合も有効[F2]。

末尾注:※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。

Factリスト

  • [F1]U.S. Court of Appeals for the Eleventh Circuit:Underwriters at Lloyds Subscribing to Cover Note B0753PC1308275000 v. Expeditors Korea Ltd., 882 F.3d 1033(11th Cir. Feb. 16, 2018、No. 16‑10985)— 公開判決PDF(条約不適用→AWB回帰、代替運送同意条項の判断、部分損の重量算定は差戻し)。https://media.ca11.uscourts.gov/opinions/pub/files/201610985.pdf
  • [F2]Montreal Convention 1999(Official Journal L 194, 18/07/2001, p.39–49)— Art.18(3)(4)(carriage by airの定義/空港外陸送の除外・推定・代替運送の擬制)、Art.22(3)(4)(限度と部分損の重量)、Art.31(通知)。一次資料:EUR‑Lex https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:22001A0718(01):EN:HTML
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