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中国の反訴訟禁止命令(ASI)とは?WTO提訴DS611と中小企業の知財リスク管理

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中国の反訴訟禁止命令事件

  • 中国の裁判所が反訴訟禁止命令(ASI)を出し、外国での特許訴訟を妨げた事件が国際的に注目。
  • EUはこれをTRIPS協定違反としてWTOに提訴(DS611)。
  • 中小企業にとっても契約条項や知財登録が権利行使を左右する重要な教訓となる。

事件の概要

中国の裁判所が「反訴訟禁止命令(Anti-Suit Injunction, ASI)」を出したことが国際的に注目されました。これは「海外で同じ件について訴訟をしてはいけない」と相手に命じるものです。実際には、欧州の企業が中国企業を特許侵害で訴えた際、中国の裁判所が「海外で訴訟を進めるな」と命じました。

これに対しEUは不当だと主張し、2022年にWTOへ提訴しました(事件番号DS611)。争点は、このASIがTRIPS協定(知的財産権の貿易関連の側面に関する協定)やWTOのルールに違反するかどうか、という点でした[F1, F2]。

この事件は「各国の裁判所の権限」と「国際ルールの範囲」がぶつかる事例です。知財紛争に関わる中小企業にとっても、国際的なルールの解釈が事業に影響することを示す裁定といえます。

事件の背景と争点

反訴訟禁止命令(ASI)は、複数の国で同じ訴訟が同時に進むのを防ぐ制度です。英米法圏の裁判所でも、訴訟の重複や矛盾を避けるために限定的に使われてきました。

ところが、中国の裁判所はこれを自国企業を守る手段として積極的に利用しました。

例えば、欧州企業が中国企業をドイツで特許侵害として訴えたとき、中国の裁判所はASIを出し「欧州での訴訟を続けるな」と命じました。

EUはこれを不当とし、「TRIPS協定で保障される知財権の執行を妨げている」と主張しました。具体的には、TRIPS協定第41条「知的財産権の有効な執行を確保する」規定に違反すると訴えました[F2]。

一方で中国は「ASIは各国裁判所が判断できる司法措置であり、国際ルール違反ではない」と反論しました。

この事件の核心は、ASIが「各国の裁量に委ねられる司法判断なのか」それとも「国際ルールによって制限を受けるべきものなのか」という点です。[F3, F4]。

中小企業にとっての課題

一見すると大企業同士の特許争いに見えますが、中小企業にとっても大きな影響があります。主なリスクは次の通りです。

  • 権利行使の制約:中国市場で特許や商標を侵害されても、海外で訴訟を起こそうとした際にASIで止められる可能性があります。
  • 裁判管轄の不利:契約書に準拠法や裁判地を明記していないと、中国の裁判所が自動的に管轄を主張し、企業が望む戦略を取れなくなります。
  • 訴訟の長期化とコスト増:海外での裁判が進まない間に侵害が続き、損害額が増えるだけでなく、訴訟費用も膨らみます。

貿易実務者の学びポイント

この事件から得られる教訓は、次の通りです。

1.契約段階で「管轄」と「準拠法」を明記する

ASIは裁判管轄が中国に偏ると発動リスクが高まります。契約で「紛争はシンガポール国際仲裁センター(SIAC)で解決する」などと明記しておけば、中国の裁判所の影響を小さくできます

2.知財権の現地登録を必ず行う

ASIによって外国での訴訟が封じられる場合、中国国内で特許や商標を登録していなければ防御が難しいです。実際、欧州企業の訴えが進まない間に、中国企業が国内市場で模倣品を流通させるケースが生じました。「中国市場での事前登録」が唯一の防御策です。

3.仲裁条項を活用する

この事件は「仲裁条項を欠いた契約」が欧州企業の弱点になりました。国際仲裁を契約に盛り込めば、中国裁判所のASIが直接効力を及ぼす可能性を低くできます。ICCやSIACといった中立的な仲裁機関の利用が実務的に有効です。

判例の根拠と意義

  • WTO事件番号DS611:EUが中国を提訴。ASIがTRIPS協定違反に当たると主張[F1]。
  • EU提出文書:TRIPS協定第41条「権利の有効な執行」に違反すると指摘[F2]。
  • 学術研究・法律事務所レポート:ASIは国際知財紛争において外国企業の権利を不当に制限するとの指摘が多数[F3, F4]。

この事件は訴訟戦術ではなく、国家司法権限が国際取引に直接影響を与えることを示しました。特に中小企業にとっては、契約の一文や事前の知財登録の有無が致命的な差になることを明確にしています。

中小企業が今すぐ実践できる行動

  1. 主要取引契約に準拠法・裁判管轄を必ず明記する。
  2. 中国市場に進出予定がある場合は、特許・商標を早めに現地登録する。
  3. 契約に国際仲裁条項を追加し、紛争時の影響を分散する。
  4. ASIの判例を理解し、自社が関わる可能性を定期的に点検する。

まとめ

  • 中国の裁判所は反訴訟禁止命令(ASI)を用いて外国での知財訴訟を封じた。
  • EUはこれをTRIPS協定違反としてWTOに提訴(DS611)。
  • 中小企業にとっても「権利行使が制限されるリスク」は深刻である。
  • 契約条項、知財の現地登録、仲裁制度の活用が事件固有の教訓として浮かび上がる。

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