「保管だけ」か「自社広告まで」か?
- Coty事件は「倉庫保管だけ」では商標の使用者に当たらず、Amazonは責任を負わないと判断[F1]。
- Louboutin事件はAmazonロゴ一体の広告・物流なら「使用者」に当たり得るとし、Amazonも責任の射程に入ると判示[F2]。
- EU実務では“保管だけ”か“自社広告まで”かが差止請求の相手と戦略を分ける境界線となる。
事件の概要
Coty v Amazon(C‑567/18, 2020/4/2)
独化粧品会社Coty Germany(商標権者)対Amazon EUほか。AmazonのFBA倉庫に第三者セラーの商品が保管されていた事案。争点は「単なる保管が商標の“使用”になるか」。CJEUは「保管だけなら使用には当たらない」と判示しました[F1]。
Louboutin v Amazon(C‑148/21 & C‑184/21, 2022/12/22, 大法廷)
仏高級靴ブランドLouboutin(赤い靴底商標)対Amazon。Amazonサイト上で侵害品が自社ロゴと一体で表示・広告され、さらに“Fulfilled by Amazon”で物流も担う形態。CJEUは「表示・広告の仕方によってはAmazon自身が商標を使用していると消費者が理解する」とし、Amazonの侵害責任が問われ得ると判示しました[F2]。
事件の背景と主な争点
背景と争点
争点はEU商標規則(EUTMR)「(EU)2015/2436商標指令」Art.10が定める商標の「使用(Use of the sign)」の範囲です。ここには“販売申出・広告・在庫保有”が含まれますが、誰が「使用者」かは事実によって決まります[F3]。
Coty事件
Amazon倉庫は第三者のために物理的に保管していただけで、Amazon自身が販売や広告をしていない場合は「使用者」には当たりません。つまり“保管=使用”ではないという線引きです(ただし、知悉後の不作為や特別な関与があれば責任を問える余地は残りますが本件では対象外)[F1]。
Louboutin事件
Amazonは自社ロゴのある統一的UIで第三者商品を自社広告と並列に表示し、配送やアフターも一体化。一般消費者から“Amazon自身が販売・広告している”と見える場合、Amazonが「使用」していると評価される可能性があると示されました[F2]。
日本の実務者にとっての意味(EU向けAmazon販売で何が変わる?)
差止請求の相手が明確化
- Coty型(保管のみ):対象はセラー本人。Amazonに直接差止を求めるのは難しい[F1]。
- Louboutin型(広告・UI統一・FBA一体):Amazon自身も“使用者”と見なされる可能性。セラー+Amazon双方に差止・削除を請求できる戦略が可能[F2]。
“見せ方”が法的評価を左右
UI・ロゴ・広告が統合されているほど、プラットフォーム自身の責任が問われやすくなります。日本のセラーは出品がどの枠で表示されるかを確認し、ブランド側はスクリーンショットで証拠を残すことが重要です[F2]。
中小企業への貿易実務提案
1)差止の相手をどう証明するか Coty型
倉庫ラベルや在庫画面、契約が第三者セラー名義で、Amazonの広告や販売文言が無い画面を保存。これで相手はセラーだと整理できます[F1]。
Louboutin型
検索結果や商品ページにAmazonロゴや「お客様へのお知らせ」などが並び、第三者商品の表示と一体化している場面、“Fulfilled by Amazon”の表示を時刻入りで保存。これでAmazonも使用者だと主張できます[F2]。
2)日本セラーが巻き込まれないために
- 商品ページを確認し、他社商標をむやみに使わない。使う場合は比較表示の範囲に限定。
- Amazonの自動広告(Sponsored)の表示を確認し、誤解が起きないように調整[F2, F3]。
- FBA設定を確認し、“Sold by”に自社名が表示されているか定期的にチェック。出所の誤認を防ぎます[F2]。
3)ブランド権利者の対応 Coty型
セラーの特定とSKUの流通経路(在庫移管やラベル)を確認し、まず遮断。
Louboutin型
Amazonの広告やUIの一体性(ロゴ併記、推薦文言、配送動線)を証拠化。Amazonにも差止請求を送り、セラーと同時に通知することで削除を早めます[F2]。
4)社内での判断フロー チェックリスト
- 広告に自社ロゴ併記や一体的表示がある → Louboutin型(Amazonも対象)
- 倉庫保管のみで自社ロゴ関与なし → Coty型(セラーを対象)
結論と証拠は、URL・日時・端末を含めテンプレートに沿って保存しましょう。
中小企業が今すぐ実践できるチェック
- 表示確認:自社出品の表示枠(検索結果・商品ページ・広告)を毎月チェック。Amazonロゴとの位置関係や販売主体が明確かを確認[F2]。
- 広告の見直し:誤解を招く可能性のある広告テンプレ(商標の使い方)を修正。テスト配信を行い、そのスクリーンショットを保存[F2, F3]。
- 対応テンプレ整備:Coty型/Louboutin型の分岐表とキャプチャ保存の手順(URL・時刻・端末情報)をまとめたインシデント対応テンプレを社内Wikiに掲載。
- 契約・規約の改訂:出店規約や広告運用ルールに「誤認表示の禁止」と「違反時の停止・是正」を条文化。一般的な監視は禁止だが、個別の是正は可能[F2]。
まとめ
- Cotyは“保管だけでは使用に当たらない”、Louboutinは“自社広告・統一表示なら使用に当たり得る”という二枚看板を示しました。
- EU向けAmazon実務では、誰を相手に差止を求めるか、どこを直せば誤認を防げるかを、この線引きで判断します。
- 画面設計・広告運用・物流導線のスクリーンショットによる証拠化が、早期解決の鍵です。

※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。
FACTリスト
- [F1] CJEU Judgment, 2 Apr 2020, Case C‑567/18, Coty Germany GmbH v Amazon — EUR‑Lex(判決全文): https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62018CJ0567
- [F2] CJEU Judgment (Grand Chamber), 22 Dec 2022, Joined Cases C‑148/21 & C‑184/21, Louboutin v Amazon — EUR‑Lex(判決全文): https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62021CJ0148 (併せて C‑184/21: https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A62021CJ0184 )
- [F3] Regulation (EU) 2017/1001 (EUTMR), Art.9 — EUR‑Lex(条文): https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/1001/oj
- [F4] Directive 2000/31/EC (E‑Commerce), Arts.14–15 — EUR‑Lex(条文): https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX%3A32000L0031
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