米国・スルーB/LとCarmack不適用
- 海外発スルーB/Lでは米国内陸区間にCarmackは原則不適用で、B/L条項が優先される。
- フォーラム条項やCOGSA拡張、Himalaya条項が内陸区間にも及び得る。
- 契約文言の設計と二重B/Lの整合が回収成否を左右する。
事件の概要
本件「Kawasaki Kisen Kaisha Ltd. v. Regal‑Beloit Corp.」(2010年)は、日本の荷主が中国発貨物の一貫輸送を依頼し、海上区間を“K”Lineが、米国内の陸上区間をUnion Pacific鉄道が担う予定でした。B/Lには東京地裁を専属管轄とする条項や、COGSA条項を内陸区間まで拡張する内容が含まれていました。米国内で事故が発生し、荷主は米国で提訴しましたが、争点は「Carmack Amendmentの適用可否」と「東京フォーラム条項の効力」でした。
理解の前提として、先行判例「Norfolk Southern Railway Co. v. Kirby」(2004年)が重要です。Kirby事件では、オーストラリア荷主が依頼した一貫輸送中にNorfolk Southern鉄道が脱線事故を起こしました。最高裁は、Himalaya条項によって内陸運送人にもB/Lの責任制限が及ぶこと、さらにCOGSA条項を契約で内陸区間に拡張できることを認めました。本件Regal‑Beloitでも、このKirby判例の考え方が参照されています。
結論(要旨)
海外からの一貫輸送で、海上船荷証券(Bill of Lading, B/L)が港から内陸までを一枚でカバーするスルーB/L(through bill of lading)の場合、米国内の陸上区間にはCarmack Amendment(Carmack改正)は原則として適用されません。そのため、B/Lに記載された準拠法やフォーラム条項(forum-selection clause)、責任制限(liability limitation)が、内陸区間にもそのまま契約として及ぶ可能性があります[F1]。

判決要旨(25字):海外発スルーB/LにCarmack不適用。
事案の流れ
第一審(連邦地裁)は、B/Lの東京フォーラム条項を有効と認め、訴えを却下しました。
しかし、第九巡回控訴裁判所はこれを覆し、内陸区間にはCarmack(49 U.S.C. §11706など)が適用され、フォーラム条項は無効と判断しました。ところが米国最高裁は2010年6月21日、判例番号561 U.S. 89、Docket 08-1553/08-1554でこの判断を破棄・差し戻しました。その骨子は以下の通りです。
スルーB/Lによる海外発の一貫輸送は「海事契約(maritime contract)」であり、地域固有の問題でない限り連邦海事法で統一的に解釈されます。またCarmackは「米国内で受入鉄道事業者(receiving rail carrier)が出発点で貨物を受け取る場合」に限り適用されるため、海外発の輸送に含まれる米国内内陸区間には適用されないと判断しました[F1, F2]。
なぜ、つまずいた?
現場の誤りは、「内陸区間には自動的にCarmackが適用される」と思い込んでいた点にあります。Carmackは、米国内で受入鉄道事業者が最初に貨物を受け取る場合を前提とした制度で、単一のCarmack B/Lのもと、受入事業者と引渡し事業者にほぼ無過失責任に近い広い責任を課し、管轄も州・連邦裁判所を選べる仕組みになっています。
これに対し、本件のように海外で貨物が受け取られ、スルーB/Lによって内陸まで一貫管理されるケースでは、最高裁はCOGSAの契約拡張と統一的解釈(uniformity)を優先し、内陸区間へのCarmackの適用を否定しました。つまり、B/Lの条項設計(Himalaya条項、Clause Paramount、forum-selection)が、内陸区間の勝敗を左右することにななります[F1]。
貿易実務者の学ぶべき点
フォーラム条項の射程を明記
B/Lに「本契約は内陸輸送区間を含む全行程に適用(applies to the entire carriage, including inland legs)」と記載し、裁判地や準拠法を内陸区間まで及ぶようにします[F1]。
COGSA契約拡張の明示
Clause Paramountで「本B/Lの条項は倉庫渡しまで含む陸上区間にも適用(extend by contract)」と明記し、鉄道やトラック会社をHimalaya条項で受益者(beneficiary)として列挙します[F1]。
二重B/Lの整合性
フォワーダーB/L(NVOCC)と船社B/Lで、責任限度、フォーラム、準拠法が矛盾しないかを発注前にチェックします。
委任と代理の設計
フォワーダーが下流キャリアと合意したフォーラムや責任限度が荷主に及ぶよう、委任条項(Power of Attorney)や売買契約の物流条項に盛り込みます[F1]。
クレーム方針
内陸区間で事故が起きたら、まずB/Lの適用範囲、フォーラム条項、COGSA拡張の有無を確認します。Carmack前提の社内テンプレートは、状況に応じて使い分けが必要です。
今日から行動チェックリスト
- 見積・受注前に、フォワーダーB/Lと船社B/Lの両方で、フォーラム条項・準拠法・COGSA拡張・Himalaya条項の有無を突合して確認する。
- 条項には必ず「including inland carriers」や「applies throughout the entire carriage」といった文言を挿入する。
- 米国内で事故が発生しても、安易にCarmack適用を前提とせず、B/L文言 → 契約適用範囲 → 実際の輸送実態、という順で事実を確認する。
- PO(Purchase Order)やSC(Sales Contract)に、代理権限(intermediary binds cargo owner)を明示して盛り込む。
- 保険者と事前に協議し、低限度責任や遠隔地フォーラムを前提とした費用や自己負担の設計を決めておく。
インサイト(中小企業への学び)
「陸上事故=Carmackが自動適用される」という思い込みは、請求先や回収額を誤らせます。Regal-Beloit判例が示したのは、国際一貫輸送ではB/Lの文言がすべてを左右するという現実です。B/Lに「including inland carriers」「entire carriage」といった一文を入れ、さらにCOGSA拡張やフォーラム条項との整合を事前に整えておくことで、内陸事故でも交渉の主導権を握ることができます。
また、The Starsin(B/L表面で誰がキャリアかを確定)やKirby(Himalaya条項の射程)と組み合わせて理解すれば、中小企業の契約設計力は飛躍的に強化されます[F1]。
要点まとめ
- 海外発スルーB/Lでは米内陸区間にCarmackは原則不適用[F1]
- B/Lのフォーラム・COGSA拡張・Himalayaが内陸区間にも及び得る[F1]
- 第九巡回の判断を最高裁が破棄—Carmack不適用を明示し、東京フォーラム条項の効力を妨げないとの立場を示した[F1]
- 契約文言と二重B/Lの整合がSMEの回収成否を左右[F1, F2]
Factリスト
- [F1]Supreme Court of the United States(Slip Opinion, Syllabus & Opinion):Kawasaki Kisen Kaisha Ltd. v. Regal‑Beloit Corp., 561 U.S. 89(Decided June 21, 2010; Nos. 08‑1553/08‑1554)。https://supreme.justia.com/cases/federal/us/561/08-1553/index.pdf
- [F2]Supreme Court of the United States(Questions Presented & Docket 08‑1553):Kawasaki Kisen Kaisha Ltd. v. Regal‑Beloit Corp.(cert. granted 2009/10/20)。https://www.supremecourt.gov/qp/08-01553qp.pdf
- [F3]Supreme Court of the United States(U.S. Reports Bound Volume 561, Oct. Term 2009—official)https://www.supremecourt.gov/opinions/boundvolumes/561bv.pdf
※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。
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