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EU対中反ダンピング(ファスナー)判例|WTO DS397の個別税率とサンプリング実務を解説

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EU対中・ファスナー反ダンピング(AD)事後審査(DS397)

  • EUのNME個別税率制度はWTOで不整合と認定。
  • 2016年に撤廃されたが運用は依然厳格。
  • 独立性資料やPCN対応が実務の要。

事件の概要

2009年、EUは中国製ファスナーに最終アンチダンピング課税を課しました(Regulation (EC) No 91/2009)。中国はこれをWTOに提訴し、2010年12月にパネル報告、2011年7月に上級委員会報告が出され、同年7月28日にDSBで採択されました[F2, F1]。

上級委員会は、NME企業への個別税率を「独立性テスト」と結びつけるEU規則9(5)条の仕組みが、ADA 6.10(各輸出者ごとのダンピング率算定)と9.2(個別課税)に「as such(制度自体)」でも「as applied(適用時)」でも整合しないと判断しました。また、製品タイプ情報の遅れた開示など手続面も、ADA 6.2、6.4、2.4に違反すると認定しました[F1]。

EUは2012年に改正規則(Implementing Regulation (EU) No 924/2012)を導入しましたが、中国は不十分だとしてDSU 21.5に基づき履行審査を申立てました。その結果、2015年8月にパネル報告、2016年1月に上級委員会報告が出され、2016年2月12日にDSBが採択。EUは同年2月26日に実施規則で当該措置を撤廃しました[F3, F4, F5]。

事件の結論

EUが中国産ファスナーに課した反ダンピング措置(Certain Iron or Steel Fasteners)をめぐるWTO紛争(DS397)は、非市場経済国(NME)に対する「個別税率」の付与条件とサンプリング手続きに大きな示唆を与えました。

上級委員会の判断(2011年)

EU基本AD規則第9条5項(Article 9(5) of the Basic AD Regulation)は、NME企業に「独立性の立証(individual treatment)」を条件として個別ダンピング率や個別税率を与える仕組みでした。しかし、この制度自体(as such)が、ADA(Anti-Dumping Agreement)6.10および9.2に不整合と判断されました[F1]。

その後の経緯

  • 21.5手続(コンプライアンス審理): 開示・調整・産業定義等の不備も指摘
  • 2016年2月: EUが当該措置を公式撤廃[F4, F5]
  • 現在: EUは新たな調査により同製品へのAD課税を再設定。サンプリング選定や個別審査の運用は現在も厳格[F6]

失敗の原因

非市場経済(NME)を理由に、個別税率を「独立性テスト」と結びつけた制度設計が過度とされ、ADA 6.10および9.2に違反すると判断されました[F1]。

また、輸出者や製品タイプが多い事件で、サンプリングの運用や情報開示が不十分でした。具体的にはPCN開示の遅れや、アナログ国データの調整根拠不足などがあり、利害関係者の防御権を侵害したと評価されました[F1, F3, F4]。

さらに履行段階(21.5)でも、国内産業の定義や開示方法に不備があると指摘され、最終的にEUは当該措置を撤廃しました[F5]。

貿易実務者の学び

サンプリング用アンケートへの即応体制

調査開始に備え、販売数量・価格・製品タイプ(PCN)・会社概要に加え、独立性を示す定款・株主構成・取締役会規程・銀行口座・輸出管理の意思決定記録を、英語原文併記で常備しておくことが効果的です[F1]。

個別審査(individual examination)の申請

サンプル外の輸出者でも個別審査を申請できます。申請期限と「unduly burdensome」による却下基準を把握し、多数申請による不付与を避けるために、早期かつ完全な申請が重要です。最新の実施規則前文で方針を確認しましょう[F6]。

新規輸出者取扱いの準備

新規輸出者取扱い(new exporting producer treatment)を活用できるよう、参入初期から要件を満たす体制を整え、個別税率の早期確立を目指します[F7]。

アナログ国データへの対応

税制差、原材料アクセス、電力自家発、効率・生産性などの特徴を把握し、比較調整の主張を定量的な資料で早期に提出できる体制を準備します[F4, F5]。

守秘処理と要約の整備

守秘主張(confidential treatment)と非秘要約(non-confidential summary)の書式を統一し、品質監査を定期的に実施します。開示遅延や要約不備で防御権を失わないよう注意します[F1, F4]。

今日からできるチェックリスト

  • 供給元ヒアリング表を標準化し、株主・役員・決裁・銀行・契約権限など「独立性」を示す資料を定期更新する(individual treatment争点への備え)[F1]。
  • サンプリング通知に即応できるよう、SKU別PCNマッピング、輸出数量・価格の週次エクスポート、アナログ国比較の論点メモ(税制・原材料・電力・生産性)をテンプレ化する[F4, F5]。
  • 個別審査申請の社内SLA(提出完了までの時間・責任者)を設定し、「多数申請=不付与」への対応力を高める。新規輸出者の制度要件もあわせて確認する[F6, F7]。
  • 守秘主張(confidential treatment)と非秘要約(non-confidential summary)の品質を監査し、開示遅延や不備で防御権を失わないよう書式を統一する[F1, F4]。

インサイト

「NMEだから個別税率は無理」と思い込むと余計なコストにつながります。実務では、独立性・データの完全性・応答速度の3点が勝負を分けます。調査開始から48〜72時間で「サンプリングに耐える資料パック」を提出できる企業は、個別税率の獲得や税率最適化のチャンスを最大化できます。逆に、遅延・不完全・裏付け不足は、サンプル外の高税率適用や開示違反主張の失敗に直結します[F1, F4, F6]。

要点まとめ

  • EU基本AD規則9(5)条のNME個別率条件付けはADA 6.10/9.2と不整合(as such/as applied)[F1]
  • 21.5報告でも開示・調整・産業定義の不備が指摘され、2016年にEUが当該措置を撤廃[F4, F5]
  • その後のEU新調査ではサンプリング・個別率の厳格運用が継続。多数申請時の個別審査不付与判断も明記[F6] ・実務は、独立性資料、PCNマッピング、個別審査申請、守秘要約の品質で差が出る[F1, F4, F6]

Factリスト

※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。

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