2025年上半期|貿易実務者が注意すべき5つのリスク
2025年上半期(令和7年1月〜6月)に財務省が発表した統計によると、全国の税関で摘発された関税法違反事件は深刻な状況を示しています。不正薬物の押収量は初めて2トンを超え、大●については前年同期の約8倍にあたる1,332kgが摘発されました。
これらの数字は一見すると「犯罪組織や密輸業者だけの問題」のように思えますが、実は輸入業務に携わる企業にとって身近なリスクを表しています。輸入業者やフォワーダーは、気づかないうちに「不正物品の混入」という問題に巻き込まれる危険性があるのです。
この記事では、2025年上半期の摘発データをもとに、貿易実務者が特に注意すべき5つのリスクを整理し、具体的な対策について説明します。この記事の根拠書類は、税関サイト、令和7年上半期の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況で公開されているPDFです。
現在の状況と注意点
最近の密輸手口はますます巧妙になっており、一般的な輸送貨物に不正物品が混ぜ込まれるケースが増えています。特に大型家具や建材など「隠し場所を作りやすい商品」は、密輸業者にとって格好の標的となりやすいです。

大型家具などに埋め込み密輸する人がいます。
もし輸入後に薬物が発見された場合、「知らなかった」という理由では済まされず、輸入業者自身が法的責任を問われる可能性があります。
知的財産権侵害品
偽ブランド品などの知的財産権を侵害する商品の摘発も続いています。安易なOEM生産や仕入れが、輸入差止めや刑事告発につながる事例も珍しくありません。

OEM生産も知的財産が関係してくる可能性があります。
模倣品は毎日95件差し止め|中小輸入者が取るべき知財リスク対策 20250905税関発表
密輸ルートも多様化
密輸ルートは航空機の乗客、郵便、海上貨物など多岐にわたっており、従来のチェック体制だけでは対応しきれない現状があります。加えて、契約を結ぶ段階で「不正物品が混入した場合の責任の所在」があいまいなケースが多く、予期しない損失を被るリスクも存在しています。
避けるべき5つのリスクと対策
不正薬物混入リスク
- 大型家具・建材など“隠せる商材”は特にリスクが高い。
- コンテナ封印番号の記録、積込時の動画撮影、輸送前後の重量差を確認
- 荷主責任としてこれらを標準業務に組み込むことで、冤罪リスクを最小化できる。
知財侵害リスク
- 税関は小規模輸入でも摘発対象にする(偽ブランド衣類102点摘発事例
- 実務ノウハウ:OEM契約前に特許庁DBで商標検索、輸入前に税関知財相談室へ問い合わせる。
- 契約に「商標クリアランス完了を前提条件」と明記するとリスクをさらに減らせる。
密輸ルートの変化リスク
- 航空旅客由来の摘発が742kg(前年同期比233%増)と急増
- 航空貨物・郵便・海上コンテナのいずれも手口が巧妙化。
- チェックリスト例:書類と貨物の重量・サイズの一致確認、不自然な仕向地・経路の洗い出しをする。
契約・責任分担リスク
- 不正物品混入時の損害はフォワーダー任せにできない。
- 契約条項サンプル:「輸送中に不正物品が混入した場合、輸出者・フォワーダーが責任を負う」旨を追加。
- 保険適用外となるケースを想定し、追加条項で補強することが必須。
油断・認識不足リスク
- 「自社は関係ない」という油断こそ最大の危険。
- 実務ノウハウ:社内研修で最新の税関統計を共有し、輸入担当者の感度を高める。
- 財務省公表データを基にした「国別リスクマップ」を作成すると、社内全体の危機意識が高まる。
根拠
- 不正薬物の摘発件数は531件(前年同期比6%増)、押収量は約2,073kgで統計開始以来の最高水準
- 大●は約1,332kgで前年同期の約8倍に急増
- 航空旅客経由での摘発は177件・742kgと大幅に増加(233%増)
- 偽ブランド衣類102点の密輸事件も摘発され、知財リスクの継続性が明確
実務対応案
今すぐできる実務対応として以下があります。
- コンテナ封印・積込時の写真保存
- 家具・建材など「隠せる商材」を扱う場合の検査プロセス強化
- OEM調達前の商標検索・税関相談のルーチン化
- フォワーダー契約書への責任条項追記
- 社内研修で最新摘発データを共有し、リスク意識を高める
輸入実務者のためのリスクチェックリスト
輸入実務者は、以下の点をチェックしましょう!
1. 不正薬物混入対策
- コンテナ封印番号を記録して保存しているか
- 積込時の写真・動画を撮影しているか
- 出荷前後の重量差を確認しているか
- 家具・建材など“隠しやすい商材”には追加検査を行っているか
2. 知財侵害対策
- OEM発注前に商標クリアランスを実施しているか
- 税関知財相談室に事前照会をしているか
- 契約に「知財クリアランス完了」を明記しているか
3. 密輸ルートの変化対応
- 通関書類と貨物の重量・サイズが一致しているかを確認しているか
- 不自然な仕向地・経路がないか精査しているか
- 航空便・郵便・海上便それぞれにチェックフローを用意しているか
4. 契約・責任分担の明確化
- フォワーダー契約に「密輸混入時の責任条項」があるか
- 保険でカバーされない損害を想定して補完契約を結んでいるか
5. 社内教育・認識向上
- 財務省摘発データを社内で共有しているか
- 国別・品目別のリスクマップを社内で作成しているか
- 新任担当者にリスク教育を行っているか
要点まとめ
- 税関摘発は「犯罪者の話」ではなく輸入実務者に直結する警告
- 不正薬物は家具や建材輸入者にも関係する可能性大
- 知財侵害、密輸ルート変化、契約責任不明、認識不足も重大リスク
- 公的データを基に、自社の管理体制や契約を強化することが最善策
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