為替変動と企業への影響
2025年8月22日、FRBのパウエル議長がジャクソンホール会議で利下げの可能性を示しました。これを受け、円相場は148.50円台から146.58円付近へ円高に動きました。さらに日銀が利上げを行えば、円高が進む可能性があります。野村證券は、2025年後半に130円台前半まで進む可能性を指摘しています。
円高・円安の影響
為替の変動は企業に大きな影響を与えます。
円高になった場合(輸出企業に不利)
- 日本製品の価格が海外で割高になり、売れにくくなる
- 結果として輸出企業の利益が減少する
円安になった場合(輸入企業に不利)
- 海外からの仕入れコストが上がる
- 必要な商品を従来通り仕入れるのが難しくなる
このような転換期には、企業は「どうやってリスクを抑え、安定して取引を続けるか」という課題に直面します。海外事例を含めて、いくつかの対策をご紹介します。[F1,F2]。
為替変動に関する誤解と現実
多くの人は「政府が為替介入をすれば相場は安定する」と思いがちですが、これは誤解です。実際に財務省が2025年7月に介入しましたが、その効果は一時的でした[F1]。
また、2024年の調査では、日本の輸出企業のうち為替先物を利用して対策しているのは約30%だけでした[F2]。残りの70%は、為替リスクに無防備なまま取引をしているのが現状です。

中小企業を含めて為替変動対策は有効です。
為替リスク対策の実務3ステップ
では、日本の中小企業の場合、為替変動によるリスクを最小限に抑えるために何ができるのでしょうか?大きく分けて次の3つがあります。
1.為替レートを調べる
日々のレートを確認し、契約のタイミングを見極めます。銀行や政府のデータを参考に、相場の流れを把握する習慣を持ちましょう。
2.契約条件を見直す
支払い通貨や為替確定の時期を契約で明確にし、過度なリスクを避けます。円建てや調整条項を取り入れるのも有効です。
3.ヘッジを使う
先物予約やオプションなどの金融商品で、将来の為替を固定します。円高・円安どちらの変動にも備えられ、少額から利用可能です。
大企業の為替管理ノウハウ
大企業がどのように為替変動を読み、管理しているのか?をご紹介しています。中小企業、スタートアップの方にも参考にしてください。
1.指標のチェック
- 政策金利(FOMC・ECB・日銀)や国際商品価格(原油・穀物など)を定点観測
- 金利差拡大=円安傾向、縮小=円高傾向
2.通貨比率の管理
- 契約通貨の比率(USD・EUR・JPYなど)を定期的に確認
- 偏りがあれば通貨分散やフォワード契約で調整
3.シナリオ分析
- 過去の相場変動(例:115円→150円)を基に、金利や商品価格との関係をシミュレーション
- 将来の円高・円安シナリオを想定して備える
中小企業への応用
- ドル円レート、金利差、原油価格を確認
- 契約で売上と支払通貨をできるだけ一致させる
- 銀行に小口の為替予約を依頼する
参考情報:海外企業の為替対策
- アメリカ:ドル高時に「通貨オプション」を利用[F3]
- ヨーロッパ:契約時に複数通貨を使い分け[F4]
- ASEAN:信用状(LC)に為替調整条項を追加[F5]
為替リスク対策|難易度が低い順ランキング
ここでは、比較的取り組みやすい順にランキング形式で紹介します
第1位:円建てで取引する
- 一番わかりやすいのは「円建て決済」です。
- 契約の時点から「日本円」で支払うことを決める。
- 為替が動いても支払額は変わりません。
- 相手がリスクを負うので、商品代金が少し高めに設定される

独自製品、唯一の技術を使って作る製品などは、日本円で取引をすることも多いです。そもそも、一切、為替リスクを負わない。嫌なら取引をしなくても良いとするスタンスです。
第2位:銀行で為替予約をする
- 銀行と約束をして将来の支払いに使う為替レートを先に決める方法
- 利益やコストを確定できる
- 銀行との契約だけで始められる。
- 最近はネットで簡単に予約できるサービスもあり
第3位:支払いのタイミングを工夫する(リーズ・アンド・ラグズ)
- 支払いのタイミングを少し変えることでリスクを減らす。
- 例:円安になりそうなら早めに支払い、円高になりそうなら少し待って支払う。
- 為替の動きを常に見て判断する必要があります
第4位:為替の変動リスクを分け合う契約をする
- 取引先と「もし為替が大きく動いたら、このくらいの範囲はお互いに負担しよう」と決める方法
- メーカーや商社との間で「メーカーが負担する」「半分ずつにする」などで取り決める
- 信頼関係のある相手と長く取引する場合に向いている。
第5位:輸出と輸入をまとめる(マリー)
- 輸出と輸入を同時にしている会社が、それぞれの支払いや受取りを相殺
- 銀行の手数料や為替手数料を減らせる。
- 輸出入のバランスが取れていないと使いにくい。

このランキングは北陸銀行の資料を基にして作成しています。ランキングは、HUNADEの独自見解を反映するものであるため、参考情報としてお読み下さい。
💡 より実践的なアドバイス:輸出企業向け
円高のプレッシャーがある時は先物契約を強化しよう!
対策例:
- 具体的な対策:為替先物の比率を、契約総額の30〜50%まで増やす[F1,F2]
- どんな効果があるの?:収益の振れ幅を小さくできる
- 何が必要?:銀行での取引枠が必要
- リスク:ヘッジ(リスク回避)コストが増える、契約の残高調整ができなくなる
- 成果の測り方:為替による損益を前年と比較する
💡 実践的なアドバイス:輸入企業向け
円安の時は契約条項を変更しよう!
対策例:
LC(信用状:貿易取引の支払いを保証する仕組み)に為替調整条項を追加する[F5]
- どんな効果があるの?:仕入れコストが上がった分を、販売価格に転嫁しやすくなる
- 何が必要?:取引先の同意が必要
- 注意すべきリスク:交渉力が足りないと、取引先に拒否される可能性がある
- 成果の測り方:仕入れ原価の変動率を確認する
過去の事例から学ぶ
成功事例1:日本の製造業(2012–2015年)
- 状況: 円高で輸出が厳しい時期
- 対策:海外に生産拠点を移転、為替予約(将来の為替レートを事前に決める)を実施
- 結果:輸出総額の90%を維持することに成功
- 学べること:円高の時は、生産コストを下げる工夫と為替リスクを事前に固定する対策
成功事例2:韓国の造船業(2015–2017年)
- 状況: ウォン安で輸出に有利な時期
- 対策:商品価格を引き下げて競争力を強化、ヨーロッパ市場への輸出を拡大
- 結果:輸出額を15%増加させることに成功[cases_and_stats]
- 学べること:自国通貨安の時は、価格競争力を活かして新しい市場に積極的に進出する
相場変動はスタートアップのチャンス
- 差別化:輸出企業の70%は先物未活用。小規模企業でも導入すれば競争優位に[F2]
- 柔軟性:ASEANのLC条項を応用し、契約力を示す[F5]
- 低コスト対策:米国・EU事例を参考。銀行やフィンテックの小口ヘッジを利用[F3,F4]
- 信頼獲得:政府や統計データを活用し、顧客に根拠を示すことで信用度アップ[F1,F2]
要点まとめ
- 為替変動は輸出入双方に影響を及ぼす[F1,F2,F3,F4,F5]
- 輸出者は先物契約、輸入者は契約条項変更でリスク低減
- 法的根拠を理解し、罰則リスクを回避することが必要
- スタートアップはFACTに基づく実務対応を応用し、差別化と信頼構築を実現できる
FACTリスト(出典付き)
- F1: 財務省は2025年7月に為替介入を実施。出典:Ministry of Finance Japan
- F2: 2024年の日本輸出企業の約30%が為替先物を利用。出典:JETRO調査報告
- F3: 米国農産物輸出企業がドル高局面で通貨オプションを利用。出典:U.S. Department of Agriculture
- F4: 欧州企業は複数通貨建て契約を採用。出典:Destatis (DE)
- F5: ASEAN地域の輸入業者は信用状LCに通貨調整条項を導入。出典:ASEAN+3 Macroeconomic Research Office