「TPP」ISDS条項は本当に危険なの?誤解をわかりやすく解説

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TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、日欧EPAなどの自由貿易圏が大きな注目を集めています。複数の国が自由貿易圏に入れば、圏内にある物品や投資が活発になるとの見通しです。一方、自由貿易により、海外企業との競争が促進されたり、日本の公共福祉が食い物にされたりするとの反対意見があるのも事実です。

TPPを語るときによく登場するのが「ISDS条項」です。日本のメディアやインターネット上では「ISDS条項は、食の安全、環境、医療などの制度が外資によって変えられてしまう可能性がある」との懸念事項を伝えていることが多いです。果たしてISDS条項とは、本当に危険な物な物なのでしょうか?

そこで、この記事では、ISDS条項の概要をよくある誤解と交えて解説していきます。

ISDS条項とは?

ISDS条項をシンプルに考えると、投資家と国家の紛争を解決する制度です。インターネット上では、この「投資家×国家」の部分だけが拡大解釈されてしまい、あたかも投資家が国家に対して自由に何かを要求できると勘違いすることも多いです。しかし、実際は、投資家が国家に要求するのではなく、国家の急激な政策による投資被害を救済するための制度です。

例えば、ある国で発電事業を行うために、外国企業のA社が様々な準備をしているとします。この準備の中には、建設会社との契約や、発電所を建設するための国からの許可取得などがあります。当然、準備には、それなりの費用と時間がかかることは誰でもわかります。ようやく準備も終わり、いよいよ建設です。

さて、そんなとき、建設予定の国の政府から、突然、建設中止が言い渡されたとしたらいかがでしょうか?

外国企業であるA社は、すでに発電所を建設する予定の国の政府から建設許可をもらっていました。しかし、外国政府は、すでに許可を出しているにも関わらず、法制の変更などによって、建設中止を言い渡してしまったのです。もちろん、すでに時間やお金を投資している外国企業は、大きな損害を被りますね。これを補償するための仕組みが「ISDS条項」です。

ISDS条項は、既存の社会システムを崩壊される仕組みであると語られることが多いです。しかし、実際は、東南アジア、中南米などの法制度が未整備で、政府の影響力が強く、突然の法変更などをしやすい国でも、安心して投資ができる環境を実現するために整えられているものです。つまり、立場が弱い投資家が外国政府からの意向により、一方的に損をしないようにするための救済制度です。

外国政府と投資家が争うパターン

外国企業「その国への投資を決めた。現地政府の許可も得ている。さぁ、いよいよ建設開始だ~!」というタイミングで、

現地政府「突然だけど、こんな法律を作ったので、建設許可は出したけど、中止させる」

外国企業「いやいや、あなたが建設許可を出したよね? それを前提に様々な準備をしているわけですから、突然、作られた法律に従えなんて無理です。これまでの準備にかけてきたお金と、投資で得られるはずだった収益の補償をお願いします!」

ISDS条項は「投資家による国の法制度を変えるもの」と誤解されることが多いです。しかし、実際は、一度、約束したこと(その国へ投資をする企業と政府の間)を必ず守ってほしい。もし、突然の制度変更などによる約束が守れないのであれば、投資に関連する損害を補償を求める制度なのです。

誤解→ISDSは、既存の法制度を変える力がある。

では、仮に、このISDS条項がなかったとすると、どのようなことになるのでしょうか?

例えば、先の例に挙げた発電所の建設プロジェクトにより、すでに100億円の投資をしているとします。それが外国政府の突然の制度変更により、すべてが水の泡になってしまうとしたらいかがですか? もちろん、そのまま受け入れるわけにはいかず、何らかの補償を求めなければいけませんね。

では、どこに補償を求めればいいのでしょうか? 普通に考えれば、現地の裁判所に訴えることになりますね。「○○国の政府からの不当な扱いによる○○円損害を受けた。この損失に対する補償を求める」と提訴するわけです。

しかし、よく考えてみると、訴える先の裁判所も広く考えれば、現地政府の機関であることがわかります。そのため、現地政府の不当性を訴えたとしても、どこまで「中立的に裁判をしてくれるのか?」が疑問ですね。そこでISDS条項があります。

ISDS条項は、投資家とその国家が公平な判断が受けられるように、当事国以外の国際機関によって、判断を仰ぐことができるように規定されています。具体的には、投資家が現地政府による理不尽な扱いにより、何らかの被害を被った場合は、現地政府の裁判所ではなく、以下、3つの内、いずれかの方法を選べるようにしています。

これらは、紛争当事国の政府の意向が反映されにくい仕組みになっているため、より中立的な判断がされやすいとされています。

  1. 投資紛争解決国際センター(ICSID)の仲裁規則
  2. 国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)の仲裁規則
  3. 紛争当事者の合意による仲裁規則

なお、ここでは、1~3の説明は、省略させていただきます。ISDE条項とは、現地政府と紛争するときに、国際機関の紛争解決の枠組みを使える制度と覚えておきましょう!

ISDS条項のメリット

突然、政府機関の法規制や条例の変更などによって、事業が継続できない、投資したお金が無駄になる場合、投資家が現地の政府を訴えて被害の補償を求めることができます。訴える先は、現地政府の裁判所ではなく、国際機関に託せるのがポイントです。これにより、現地政府の意向が反映されない、公平な判断が下される可能性が高くなります。もちろん、これは、日本企業の海外での投資被害にも適用されます。

ISDS条項の問題点?

ISDS条項は、投資家が国家の政策や条例などの制度変更により、被害を受けたときに利用できるものです。TPPについて反対の立場である方は、この部分を拡大解釈して「食の安全」「環境」など、公共の福祉が外資によって食い物にされる可能性があると主張されることが多いです。

しかし、実際の所、ISDS条項は、どのような場合でも使えるわけではありません。そこには、必ず「公共の福祉」との整合性を保つことが求められています。現地政府の規制が、その国民生活の公益性の低下につながる可能性がある案件であれば、即時却下することも認められています。いわゆるISDS条項の乱発禁止がいくつかのルールによって決められているのです。

とはいえ、投資家の意向によって、外国政府の公共の福祉が食い物にされるとの不安があることもわかります。食の安全などが外国企業の都合が良いように変えられるのは嫌ですね。そんな方に、今一つ、知っておきたい事実があります。それは「日本はすでにISDS条項を結んでいる」ということですIS。

すでに日本はISDS条項を結んでいます。

ISDS条項は、TPPでクローズアップされていますが、実は、2018年現在、日本はすでに多くのISDS条項を結んでいます。いわゆる「EPA(経済連携協定)」の関係です。

EPAは、世界的にはFTAなどと呼ばれることが多いです。2018年現在、日本はすでに15のEPAを結んでおり、この協定の中でISDS条項がしっかりと記述されています。具体的には、2002年の日シンガポールEPAから盛り込めらえているため、すでに10年以上前からISDS条項は存在していることになります。

では、この10年間の間に、日本政府が外国企業に訴えられたのか?というと、ゼロです。

もう一度、申し上げます。ISDS条項とは、TPPで初めて結ばれる物ではありません。すでに10年以上も前から存在する制度です。そして、この10年間でISDSによって日本政府が訴えられた件数はゼロです。TPP反対派の人たちは、この事実を伝えず、ISDS条項の不安な部分だけをクローズアップしていることが多いです。

ISDS条項は、TPPを論じるとき、必ずセットで語られることが多いです。この主張の先には、必ず「日本崩壊論」があります。しかし、実際は、崩壊よりも、自由貿易圏の内の各国政府を統一したルールで縛ることにより、安心して投資できる環境を作り上げる役割の方が大きいです。

ISDS条項は、新しい制度ではない。すでに10年以上も前から結ばれています。したがって、ISDS条項を根拠にして、TPPに反対するのは、疑問が残ります。

まとめ

  • TPPでクローズアップされているISDS条項は投資家保護の仕組みです。
  • ISDSの主なターゲットは、法制度が未熟であり、突然の制度変更が行われやすい発展途上国
  • 投資家は、ISDSによって、投資した現地政府ではなく、国際機関から判断を得られる。
  • ISDSは、食の安全や環境などの公共の福祉が外国企業にコントロールされるとの誤解が多い
  • 実はすでに10年以上も前からISDS条項を結んでいるのに、反対派の方は、それを言わない人が多い。
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