輸入や輸出取引をするときは、税関に申告をします。申告の結果、税関検査が行われることがあります。税関検査とは、申告内容と実物が同じであることを確認する法定行為(関税法67条に規定)税関検査の指定を受けた輸入者は、検査日等の打ち合わせをした後、検査を受けます。
税関検査の結果、申告内容と実物に違いがない場合は、輸出又は、輸入の許可を出します。逆に言うと、この税関検査を受けない限り、輸出又は輸入は許可されず貨物は留め置かれます。
そこで、この記事では、税関検査の目的、基本的な知識、実際の流れ、費用等を交えてご紹介していきます。
税関検査とは?
税関検査とは、外国から輸入される商品について、税関職員がその中身を確認することです。税関検査は、関税法67条に規定されている法定行為であるため、輸入者(輸出者)の意向で検査の拒否はできません。また、税関検査にかかる費用は、すべて「輸入者」が負担します。
また、税関検査には、輸出と輸入の2つがあります。どちらも書類と実物との整合性を確認する意味で同じです。しかし、厳しさは、輸入検査の方が上です。この理由は、税関検査の目的にあります。
税関検査の目的
税関検査の目的は、次の4つです。
- 輸入禁止物品の確認
- 関税分類→納税の適正度
- 知的財産権の侵害
- 他法令の確認
1.輸入禁止物品の確認
日本には、輸入禁制品として輸入できない貨物又は、輸入につき制限する物があります。犯罪行為に該当する物、人に危害を与える物、社会の秩序を乱す物等が輸入禁止物品として定められています。税関検査の一つ目の目的は、この禁制品の流入を防ぐことにあります。
確認:輸入禁止の物を持ち込んでいないのか?
2.関税分類の確認(関税と消費税の適切な徴収)
次に貨物ごとに定められている適切な関税と消費税が納付されているかを確認することです。これは、どのようなことなのでしょうか? この答えは、関税が決まる仕組みにあります。
私たちが輸入するときに支払う関税や消費税は、すべて関税分類表(実行関税率表)に基づきます。実行関税率表は、およそ10000にも及ぶ品目と関税率を一対にしている表のことです。
例えば…
- 桃は、4%
- みかんは、5%
- 電気ケトルは1%
この中から輸入品目や輸入原産国に応じた適切な関税率を自らが特定し、納税額を算出します。これを申告納税方式と言います。関税率の選定や関税額の計算は、税関がするのではなく(一部:賦課課税方式があり)、輸入者がおこないます。つまり、良心にゆだねられる仕組みです。
そのため、輸入者によっては「安い関税率で計算をして、納税額を少なくしてやろう」と考える人もでてきますね!そこで、税関は、申告した内容と貨物の内容があっているのか抜き打ちの税関検査で確認します。検査の結果、書類との不一致が発生すると、様々なペナルティが課せられます。
- 無申告加算税
- 過少申告加算税
- 重加算税
確認:申告内容と貨物は一致するか? 税金を偽っていなのか?
3.知的財産権の侵害
これは、一番の輸入禁止品の確認と同じです。輸入する商品の中に商標権、意匠権など、知的財産権を侵害する貨物が含まれていないのか?を確認しています。知的財産権を侵害する貨物が含まれている場合は、ブランド所有者と輸入者の間で「認定手続きが開始されて、双方の言い分を聞きます。
その結果、侵害貨物だと認定された場合、税関は、輸入者に対して、貨物の輸入を不許可とし、日本に到着している貨物を積戻し又は、滅却するように命じます。もし、税関の決定に不服がある場合は、税関に「再審査の請求」等を行い、さらに争うこともできます。また、最後の最後は、提訴して法廷闘争に発展する可能性もございます。
確認:知的財産権を侵害する貨物が含まれていないか?
4.他法令の確認行為
基本的に日本に商品を輸入することは、誰でも自由にできます。ただし、この自由とは「税関の許可」を受けることが前提です。規模や金額の大小に関わらず、税関の許可を受けない輸入行為は、関税法違反で逮捕されることもあるため注意が必要です。
そして、この輸入許可を受けるときに、いくつかの品目は、他の行政機関の確認が必要です。この確認のことを「他法令」といいます。代表的な他法令は、次の物があります。
- 食品衛生法
- 家畜伝染病予防法
- 植物防疫法
食品衛生法は、商売目的で食品を輸入するときに、食品検疫所から確認を受けることです。家畜伝染病予防法は、食品の確認に加えて、家畜類の伝染病を防止する観点で審査を受けます。最後の植物防疫法は、外国の病害虫の侵入を防ぐことが目的です。
輸入する品目や目的によっては、このような「他法令」の確認が必要となります。税関検査の四つめの目的は、この「他法令の確認」です。
例えば、食器類を輸入する場合は….
- 個人使用目的=他法令不要
- 商売目的=他法令必要
と、同じ物を輸入する場合であっても目的によって、他法令の適用が変わります。税関は、この辺りの目的を含めて、貨物と申告内容に応じた適切な他法令の確認がされているのかを審査します。
確認:他法令の確認が必要な貨物?
参考情報:税関検査の問題になること(税関検査事件)
過去、税関検査は、憲法に定められている「表現の自由」「閲覧禁止」「輸入禁制品」との兼ね合いから争わた事例もあります。特に「あっち系の画像、絵、写真」などは「表現の自由」との兼ね合いから、すぐに没収とはならず、必ず輸入者側の意見を聞く仕組みを整えています。
- 輸入者は、海外から「そっち系の商品」を輸入しようとした。
- 税関は、この商品は「輸入禁制品にあたるから輸入は認めない」と判断。
- なぜ、輸入禁制品とわかったのか?→税関が閲覧したからではないのか?
- それって憲法は禁止ている「表現の自由」や「閲覧禁止」を侵害していない?
という理屈から争われた事件です。結局、税関の行為は「適法」と判断されて決着した物です
税関検査の種類と方法
税関検査の種類は、次の5つです。最も一般的な物は、4番の検査場での検査です。その他は、貨物が巨大であったり、多かったりと、何か特別な輸送形態にあるときに行われる物です。
- 現物検査
- 本船検査
- ふ中検査
- 検査場
- 委任検査
また、上記5つの検査には、さらに次の3つがあります。
- 見本確認
- 一部検査
- 全部検査
検査内容
一般的な税関検査は「大型Xのみの検査」又は「大型X線+開披検査」が多いです。申告内容と実物検査との大幅なズレがあると、コンテナの中身をすべて取り出した後、全量を検査するよう指示することもあります。
ちなみに、下の写真は、大型X線の様子です。このようにコンテナごと大型のX線装置でチェックされます。非常に高精度な仕様であり「傘一本でも見つかる精度があるかも!?」と考えた方が良いです。
- 大型X線検査、開披検査(中身をあけること)
- 見本検査、抜き取り検査
- 全量検査
税関検査になりやすい人
税関検査は、すべてのチェックを職員がするのではなく「ナックス」による自動判定→税関職員による確認などを経て決定します。税関検査の確率や頻度などは、輸入者本人の「輸入実績(後述)」の他、税関自体の強化策、申告件数の数などにより左右されます。ただし、平均的に、次の3つの内、いずれかにあてはまる方は、税関検査にあたる可能性が高いです。
- 輸入実績がない人
- 輸入原産国、輸出国の違反が多い貨物
- 書類内容に疑義を感じるとき
1.輸入実績がない人
輸入実績とは、輸入の経験を指します。税関は、この輸入実績を「輸出入者符号」により管理しています。輸入実績がない人は、税関検査にあたる可能性は極めて高いです。(ほぼ100%)輸入の実績を積み重ねることで少しずつ緩くなっていきます。
2.違反事例が多い貨物
- 「その国から輸入される○○は、輸入違反をしている例が多い。」
- 「その国へ輸出される○○は、輸出違反をしている例が多い。」
実は、税関が使っているナックス(コンピューター)には、日本全国各地の申告データが次々と記録されています。常に輸出入申告のデータが記録されているため、違反事例が高い貨物や国などの傾向をつかめます。税関の検査は、「違反率が高い国」や「貨物」を集中的にチェックしています。
3.書類内容に疑義を感じるとき
税関が輸入書類を確認して「疑義=怪しい」と感じる場合も検査をします。
例えば、輸入国、輸入品目などを考えて、申告内容と全国の平均値との差を確認します。全国的な貨物の平均的な申告価格と著しく違う価格を申告していると「レンジアウト扱い」となり、税関職員から確認が入ります。
税関検査代金の負担者、消費税はかかるの?
税関検査自体は、すべて無料です。しかし、税関検査に立ち会うための人件費(通関業者)や、検査場所に貨物を移動する移動費などは有料扱いとなり、通関業者からは「税関検査立ち合い料」の名目で請求されます。
税関検査立会料の名目で請求される費用
- 通関業者が税関検査に立ち会う人件費
- 指定検査場へ貨物を移動させる費用
- 貨物の搬出費用
- 上屋への下払い費用
税関検査例
- コンテナ単位の税関検査費用の例:大型X線検査費用=各通関業者による(数万円)
- CFS(混載単位)の税関検査代の例:=各通関業者による(数万円)
なお、この税関検査は、輸入許可前の「外国貨物」に対して行われるため、消費税は非課税です。
税関検査が決定と、決定後からの流れ
以上が税関検査に関する基本的な仕組みです。最後に一般商業輸入における税関検査の流れを確認していきましょう! 一般商業輸入における実際の税関検査の流れは次の通りです。
- 輸入申告
- 審査区分3又は区分2から区分3への判定
- 検査方法の確定と通知
- 日時、場所、時間の調整
- 検査指定票を発行
- 検査場へ貨物を移動
- 通関業者等が立ち合いをし、税関職員の質問に答える。
- 疑義が強まれば、さらに追加の検査
- 合格すれば輸入許可
- 貨物の搬出
輸入申告から区分3
実際の税関検査は、輸入申告からスタートします。輸入者は、自身の貨物の内容を通関業者経由で税関に申告をします。申告の結果、税関が持つコンピューター(ナックス)が自動判定をして、輸入者の申告内容について自動判定をします。
自動判定の結果、区分3(区分2が出現した後、区分落ちで3になることもあり!)が表示されたら、税関職員との間で、検査の日程調整にはいります。税関検査の日程は、税関の込み具合、貨物を移動するためのドレー等の込み具合に強く影響されます。
例えば、中国貨物が増える旧正月の前は、税関検査場自体が激込み、さらにヤードやドレー(配送の車等)も混雑するため、中々、検査等をすることが難しくなります。これらをうまく調整して、やっと税関検査の日程が決まります。
検査日の調整と検査指定票の発行
税関検査が決定すると、検査指定票が発行されます。ドレー会社などの配送会社は、この指定票をもって貨物を搬出し、税関検査が行われる検査場まで貨物を移動します。ちなみに指定票がなければ、貨物は一切搬出できず、出せば一発で無許可輸入です。
税関検査をするために、超限定的、必要最小限だけ移動させることができる特別な許可書だと考えれ良いです。
検査場のやり取り例
貨物が検査場に到着をすると、輸入者の代理人である通関業者が立会をして、税関からの質問等に応じます。ちなみに、この税関検査の立会は、輸入者本人でも可能です。検査に立ち会う場合は、すべての動作、行動は税関職員の指示の下、行います。
税関職員が貨物に触れて良いといったら、触れる。ダンボールを開けても良いといったら、開けるなどです。輸入者は、税関職員の指示に絶対的に従う必要があり、勝手に輸入貨物に触れることは禁止です。
この厳格さは、輸入時の貨物の状態のままを検査することが目的だからです。税関職員の目を盗み、勝手に貨物の中身を取り出す可能性もあります。そういうことを徹底的に排除しています。詳しくは「自社通関で税関検査に臨んだ全過程」をご覧下さい。
税関検査は、最初に大型X線検査をします。ここで特に問題がなければ、そのまま検査終了です。もし、X線に気になる物が写っている場合は「開披検査(かいひけんさ)」をします。開披検査とは、コンテナや段ボールなどを実際に開けて中身を確認する作業です。
X線検査場と開披検査場は別の所にある場合もあり、その分だけ追加の検査代金が発生します。
1.大型X線で検査をする。
とある税関検査
「なんかコンテナの中に怪しい物がある」
「X線検査だけではだめだ!コンテナの中もあけるぞ!」
2.開披検査場に移動
とある税関職員A、上屋B(税関お抱えの作業部隊)、通関業者の立会人C、通関業者の営業D
- A「Bさん、コンテナの中に○○の影があるから取り出して。」Cは様子を見ている。
- A「Cさん、この貨物は何ですか? 輸入者に確認してください。」
- C→D「あの..今、○○輸入者さんのコンテナから申告外に貨物がでてきました。荷主さんに聞いてください。」
- D→輸入者「今、検査をした所、○○がでてきたそうです。心当たりはありますか?」
- D→C「もしもし、荷主さんは○○って言っています」
- C→A「●●は○○とのことです。」
上記の回答の結果、次の結果にいたります。
- A「なるほど、今回は○○だから厳重注意な」→輸入許可
- A「まったく理由にならない。全数検査しろ!」→すべての貨物を取り出してカウントする。
- A「今回の申告外貨物は金額的にも大きい。よって過少申告加算税をかす」
税関検査は、書類の内容と貨物の「ズレ」を確認することです。このズレが大きいほど、様々なペナルティが発生します。輸入申告した内容は、輸入者の全責任であり、そこから発生するすべての処分は甘んじて受ける必要があります。
よって、輸入者は、輸入申告の重要性を認識して、貨物の内容と書類の内容が同じであることを確認する必要があります。「コンテナに入れたらばれない!」などという迷信を信じることは、まさに愚の骨頂です。必ず適切な申告内容に努めていきましょう!
よくある疑問
税関検査を拒否できる?
税関検査を拒否できません(拒否をしても輸入許可を出す裁量は税関職員にあります)輸入許可を受けない貨物の引き取り=不正輸入
税関検査と立ち合いとは?
税関検査は、税関職員が行います。ただし、税関職員「だけ」が検査場にいるのではなく、検査には「立ち合い」が必要です。立ち合いの要件は、その貨物を輸入する人又は、その輸入者の代理人である通関業者です。
審査区分と輸入実績の関係は?
税関の審査は、すべての輸入者に平等にしていません。輸入実績がある荷主は、より簡易に行い、輸入実績が少ない荷主を集中的に確認します。この審査レベルが数字になっているのが「審査区分」です。もし、輸入許可を持っている場合は、許可書の中にある申告区分を確認してください。申告区分をあえて砕けて説明をすると…..
- 区分1:簡易審査扱い=税関審査なし。搬入と同時に輸入許可
- 区分2:通常審査=書類をチェック。問題がなければ許可。怪しいと思ったら区分3に落とす。
- 区分3:税関検査扱い=実際に税関による検査を行う。
例えば、ある人が「私は○○国から××を○○個輸入します。関税額と消費税は○○円で納付完了しています。輸入許可をお願いします!」と税関に申告したとします。もし、あなたが十分な輸入実績がある場合、「区分1」となり、搬入が上がり次第、輸入許可に至ります。他方、輸入実績がなかったり、過去に違反をしていたりすると「区分2」または「区分3」と表示されて、必要に応じて税関検査を受けます。
関連記事:輸出入者符号(税関発給コード)輸出や輸入をするなら取得!
税関検査は何日かかる?
税関検査は一日で終了することが多いです。但し、検査内容によっては、長引くことがあります。
例えば「コンテナの中身を全て取り出した上で数量をチェックしなさい!」と指示された場合は、言うまでもなく多くの時間がかかります。また、税関検査は、検査場とトラックの込み具合にも大きく影響されます。特に昨今は、人度不足によるトラック不足が深刻であり、海外の工場で生産している時点から、日本国内側のドレーを抑える程です。したがって、税関検査になったとしても、すぐにトラックを手配できないなどの理由から多くの日数がかかる場合があります。
許可書の中で税関検査をしたかを判断するには?
輸入許可書の上部の区分に「3K」と表示されています。
税関検査でふき取りをしているのはなぜ?
いわゆる違法な薬物の検査をしています。特に大型家具などを輸入するときは、重点的にチェックされます。
税関検査を回避するには?
税関検査は、職員が疑義を感じるときです。また、一般的な輸入であれば、ナックスのシステムが輸入実績や申告に応じて簡易的な判定をしています。したがって、あえて回避する方法をお伝えするなら「正しく申告をして実績をつくること」です。
税関検査の立ち合いは自分がするのですか?
をする場合を除き、通関業者が代行します。最近は、立ち合い専門の業者もいます。
上屋(うわや)とは?
税関検査は、様々な観点から総合的に判断されて決定します。しかし、中には、あまり表ざたにしたくない理由から「税関検査の頻度」を上げているとも言われています。
先ほども説明しましたが、税関検査は、税関職員と上屋さんと呼ばれる会社が行っています。実際、上屋さんが作業したときの費用は、後ほど、請求されます。貿易業界では、この上屋費用が非常に不透明であることで有名です。上屋さんは、税関検査をするほど、儲かります。
仮のお話として、税関のOBが上屋にいるとすると…いかがでしょうか?
国際郵便の検査はどうするの?
国際郵便の場合、各空港近くにある「税関外郵出張所」が貨物の検査等を担当します。郵便の場合は、直接、税関職員が目視やX線装置などで検査をし関税等を「決定」しています。この決定方法のことを「賦課課税方式」と言います。対して一般商業輸入などは、自ら税関に申告をする「申告納税方式」と言います。
2019年9月現在、税関は、これまで目視で行っていた検査(一部X線検査)を「全量X線検査」に切り替える予定です。(現在は、成田空港のみ)今後は、ますますインボイスと内容物の整合性を厳しくチェックされることになりそうです。
税関検査のため税関へ提示」の意味
小包であっても「輸入してはならない貨物であるのか?」「問題がある貨物ではいのか?」などの観点から審査が行われます。もし、あなたがアメリカ向けの小包でこのような表示になっているときは、アメリカ税関による「荷物の確認」が行われています。この部分を少しでも早くしたいときは、貨物の中身がわかるように、インボイスや税関告知書を付けることです。
まとめ
- 税関検査は輸入実績が乏しい人に集中的に行われる
- 税関検査は、通関業者を通じて受ける。(自分で立ち会うことも可能)
- 税関検査の費用は輸入者が負担する。
- 申告した内容と実物に相違がないようにしよう。
- あなたの税関からの信用は申告区分でわかる。
- 税関検査費用は、税関からの請求ではない。
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