インド産食品と本ページの目的
- インド産輸入ではスパイス(EtO/サルモネラ)、ナッツ(アフラ)、えび(抗菌剤)が重点管理対象。
- 推奨LOQは基準の1/5〜1/10を目安に設定し、EtOと2-CEは同時分析、アフラは総量とB1を報告。
- サンプルは多点・層化採取後に混合し代表性を確保、開封動画・封印写真を記録。
- ラベルは名称・原産国・アレルゲンの整合確認、有機・無添加等は根拠資料を準備。
- 命令検査や強化監視の対象は変動するため、厚労省HPで最新情報を毎週確認。
インド産の違反が起こりやすい箇所を予測して事前対策を講じること。現場で使える検査設計(推奨LOQ、サンプル採取方法)、日本語表示の落とし穴回避策を具体的に示します。
国別・固有の注視ポイント(2025)
スパイス類
エチレンオキシド(EtO)という殺菌に使う薬の問題は、世界的に注目されています。日本でも、海外でリコールがあったことをきっかけに監視が強化されやすい品目です。製造では殺菌方法を決めたら変更せず、もし変える場合は必ず安全性確認(検証)と行政への届出を行います。
ナッツ・落花生
「アフラトキシン」というカビ毒のリスクがあります。防ぐためには温度と湿度の管理が重要です。収穫後の乾燥条件や保管施設の温度・湿度を定期的に記録し、検査の際に根拠として示せるようにしておきます。
甲殻類(えびなど)
抗菌剤の残留リスクは、輸出国での養殖記録があるかどうかで大きく変わります。輸入前に薬の使用記録と休薬期間の証明をそろえておき、命令検査になってもすぐ対応できる体制を作ります。
実務TIPS(輸出前〜輸入後まで)
- 原料や製造工程はできるだけ固定し、変える場合は必ず記録を残します。変更が輸入届出に関係する場合は、事前に内容を更新します。
- EtO(エチレンオキシド)を使っていないことを証明するには、誓約書だけでなく分析結果やSOP(作業手順書)も添付します。害虫管理、乾燥、殺菌条件については、現場の写真や動画を残すと説得力が高まります。
- サルモネラ対策では、ロット内で菌が偏っていることを考え、多くの場所から少しずつ試料を取り混ぜる方法が基本です。殺菌条件と検査結果はセットで保存します。
- アフラトキシン対策では、二重選別と低温保管で欠けた粒(DK粒)を取り除きます。受け入れ検査では総アフラトキシンとB1の両方を調べます。
- えびについては、出荷前に複数の薬剤を一度に調べるマルチクラス分析を行い、規制でゼロとされている物質も含めて確認します。検査対象の薬剤リストは常に最新のものを見て使います。
日本語表示ラベルの注意
- 商品名は、まず一般的な名前を使い、その後に固有の名前を補足として書きます。
- 原材料は多く入っている順に並べ、添加物は種類ごとに区分して明記します。香料や着色料は日本のルールに沿って記載します。
- 原産国は、最後に加工を行った国を基準にします。小分け販売をする場合は、製造所固有記号を使えるかどうか確認します。
- アレルゲンは、実際に含まれていなくても混入の可能性がある場合は注意書きを検討します。
- 栄養成分表示は、必ず根拠となる資料と一致させます。
- 保存方法や賞味期限は、湿気や香りの飛びを防ぐための条件を具体的に書きます。
- 商品の特長や品質をアピールする表示(クレーム)は、証明できる資料を用意します。有機JASの基準に合っているかどうかも明記します。
比較表(品目別・推奨LOQ・サンプリング・国別実務メモ)
品目 | 主リスク | 推奨LOQの考え方 | サンプリング実務 | 国別実務メモ |
---|---|---|---|---|
混合香辛料/単味スパイス | EtO/2-CE、サルモネラ | 基準値の1/5〜1/10を目安(0.01–0.05 mg/kgレンジ) | 多点合成試料で代表性確保 | 他国の強化措置と整合する試験書式を共通化 |
落花生・ナッツ | アフラ(総量/B1) | 総量0.5–1 μg/kg、B1 0.1–0.2 μg/kg程度 | 層別抽出+選別前後比較 | 乾燥・保管条件を記録化し提出可に |
えび類 | 抗菌剤 | サブppb〜低ppb検出 | 時間連続性を考慮して採取 | 出荷前CoA+投薬台帳を必須化 |
ごま・ハーブ等 | 農薬・微生物 | MQL 0.01 mg/kg級 | 産地・農家・乾燥法で層化採取 | 工程動画提示で説得力向上 |
サンプリング設計(現場テンプレ)
- まず「ロット」の範囲や条件をはっきり決めます。
- サンプルは1か所だけでなく、いろいろな場所や層から採ります(多点・層化採取)。
- 採ったサンプルは混ぜて試験用に使い、同時に保存用(留置サンプル)も残します。
- サンプルを開封する様子を動画で記録し、封をした状態の写真も撮っておきます。
- 試験成績書には、ロットID、製造指図番号、船名を必ず記載します。
近年の違反事例
- 2023年:混合香辛料からのEtO検出事例
日本向け輸出ロットの一部から基準値超過のEtOが検出され、輸出許可が一時停止。原因は輸出直前の再殺菌工程でのガス滞留。即応策として、殺菌後の強制換気時間を倍増し、ガス残留検査をロットごとに追加。 - 2024年:落花生輸入時の総アフラトキシン超過
保管倉庫での湿度上昇によりカビ発生、総アフラが基準値を超過。即応策として、港湾到着後48時間以内の低温倉庫移送と、湿度70%超での自動警報・搬出を義務化。 - 2024年:冷凍エビからのニトロフラン代謝物検出
養殖場での給餌時混入が原因。即応策として、養殖日誌の第三者監査と、出荷前マルチクラス検査でゼロ規制物質を網羅するプロトコルを追加。 - 2025年:ハーブ類からの残留農薬(クロルピリホス)検出
小規模農家の混入が原因で、出荷元の統一SOPが未整備だった。即応策として、契約農家ごとの農薬使用記録提出と、乾燥・粉砕工程前の残留農薬スクリーニングを義務付け。
国別・実務メモ(インド)
- Spice Boardや農務省の窓口と連携して、EtO(エチレンオキシド)の代わりになる殺菌方法の手順書(SOP)と検査証明を、出荷書類にまとめて添付します。
- 検査を行うラボでは、EtOと2-CE(2-クロロエタノール)を同時に分析し、回収率の補正を必ず行います。アフラトキシンは総量とB1の両方を報告します。
- 海上輸送では湿気対策を強化します。特に梅雨から夏にかけては注意が必要です。
- 違反や命令検査の内容は状況によって変わるため、厚生労働省のホームページで最新情報を毎週確認します。
ひな形(添付すべき書類チェック)
- 規格書(変更管理履歴付き)
- CoA(試験法・LOQ・回収率・不確かさ明記)
- 殺菌工程SOP
- 養殖台帳、水質管理記録
- 倉庫温湿度ログ、防虫防鼠記録
- 日本語表示案(根拠票・配合比・原産国判定票・アレルゲン根拠)
【日本国外】食品の輸入通関違反事例を確認
ここでは、米国向けの食品(米国通関違反事例)と欧州向けの食品(欧州通関輸入違反事例)をご紹介します。これらの情報を知ることで、より俯瞰した形で食品の完全性を検討できます。
米国通関違反例・インド食品の安全性
出典:添付CSV REFUSAL_ENTRY_2024–Jul2025.csv(ISO_CNTRY_CODE=IN 抽出)/ 食品キーワードで抽出後に品目分類。
- インドの拒否件数(全品目):7,498件
- うち食品該当:2,743件(安全性関連コードを含むもの:497件)
- 期間:2024年7月〜2025年7月
詳細表(品目別)
品目(例) | 件数 | 主な安全性リスク・違反内容 |
---|---|---|
香辛料(例:CINNAMON, CASSIA, GROUND, CRACKED (SPICE) / PEPPER (BLACK), GROUND, CRACKED (SPICE) / CAPSICUMS (CAYENNE CHILI, HOT PEPPERS), GROUND, CRACKED (SPICE)) | 360 | 有害・有毒物質・誤表示・ラベル規則違反 |
米(例:RICE FLOUR / RICE, BASMATI, PROCESSED (PACKAGED) / DENTIFRICE WITH SODIUM FLUORIDE (ORAL HYGIENE PRODUCTS)) | 336 | 禁止・規制物質・ラベル規則違反・虚偽・誤解表示 |
ナッツ類(例:BETEL NUT, SHELLED / COCONUT OIL, REFINED, SINGLE INGREDIENT / FRUIT AND NUT CANDY, COATED FRUIT (WITHOUT CHOCOLATE)) | 276 | 腐敗・劣化・禁止添加物・残留物質・有害・有毒物質 |
茶類(例:HERBALS & BOTANICALS (NOT TEAS), N.E.C. / HERBALS & BOTANICALS, N.E.C. / HERBALS & BOTANICALS (HERBAL & BOTANICAL TEAS)) | 238 | ラベル規則違反・禁止・規制物質・禁止添加物・残留物質 |
果物(例:MANGO (SUBTROPICAL AND TROPICAL FRUIT) / TAMARIND (SUBTROPICAL AND TROPICAL FRUIT) / SOFT DRINK, FRUIT FLAVOR, CARBONATED) | 142 | ラベル規則違反・有害・有毒物質・不衛生条件(微生物汚染) |
野菜(例:BEAN, CORN, PEA, DRIED OR PASTE, N.E.C. (VEGETABLE) / ROOT & TUBER VEGETABLES, DRIED OR PASTE / BEAN, CORN AND PEA, N.E.C. (VEGETABLE)) | 125 | 腐敗・劣化・禁止添加物・残留物質・ラベル規則違反 |
魚類(例:SHRIMP AND PRAWNS, AQUACULTURE HARVESTED FISHERY/SEAFOOD PRODUCTS) | 91 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
食用油(例:MUSTARD OIL, REFINED, SINGLE INGREDIENT, SEE 28O FOR ORAL HYGIENE (DENTIFRICES)/ COCONUT OIL AS A FLAVORING) | 63 | 腐敗・劣化・栄養成分表示違反(※安全性への波及あり得る)・ラベル規則違反 |
実務者向けコメント
香辛料(黒胡椒・唐辛子・シナモン等)
- 主な指摘:有害・有毒物質や誤表示。
- 国際的にサルモネラリスクが高いカテゴリー。
- 対策:
- 出荷前のサルモネラ・一般生菌スクリーニング。
- 必要に応じて蒸気殺菌や照射を実施。
- 低水分食品向けのゾーニングと異物対策を導入。
米・米粉(バスマティ等含む)
- 主な指摘:禁止・規制物質、表示不整合。
- 懸念:保管・輸送中の吸湿による品質劣化や微生物増殖。
- 対策:
- 倉庫の温湿度管理。
- 金属検出機・磁選機の履歴管理。
- 水分活性の監視。
- 輸出前の残留農薬試験。
ナッツ類(ビンロウ、ココナッツ等含む)
- 主な指摘:腐敗・劣化、禁止添加物・残留物質。
- リスク:アフラトキシンなどのカビ毒汚染が高い。
- 対策:
- ISO17025認定機関でのアフラトキシン試験。
- 保管の温湿度管理。
- 長期保管ロットの入替基準設定。
茶・ハーブ(ハーブティー含む)
- 主な指摘:表示不備、禁止物質。
- 留意点:原料段階での残留農薬。
- 対策:
- 茶葉やハーブの残留農薬試験。
- ブレンド比率のトレーサビリティ確保。
- カフェイン表示の整合確認。
果物・野菜(乾燥・加工含む)
- 主な指摘:有害物質、不衛生条件、添加物不備。
- 懸念:乾燥品でも環境由来の汚染が発生する可能性。
- 対策:
- 洗浄水の衛生管理。
- 異物・害虫対策。
- 微生物スクリーニング。
- 輸出前の残留農薬確認。
食用油(マスタード・ココナッツ等)
- 主な指摘:酸化・劣化、表示不整合。
- 対策:
- 出荷前のPOV(過酸化物価)・酸価測定。
- 遮光容器や窒素置換の利用。
- 長距離輸送時の温度履歴管理。
欧州におけるインド食品の輸入違反事例
件数概要
- 総違反件数:298件
- 食品カテゴリー該当:280件
- 期間:2024/7-14~2025/7/14
主なカテゴリー(件数)
- ハーブ・香辛料:77
- 穀類・ベーカリー製品:55
- ナッツ・種子類:50
- 果物・野菜:36
- 特殊用途食品(サプリ等):22
- 甲殻類:13
- その他混合食品:13
- スープ・ソース・調味料:3
- ココア・コーヒー・茶:2
- 魚介類:2
主な違反理由(例)
- エチレンオキシド(ethylene oxide)
- サルモネラ(Salmonella spp.)
- カビ毒:アフラトキシンB1・総アフラトキシン
- 農薬:クロルピリホス、チアメトキサム、トリシクロゾール
- カビ毒:オクラトキシンA
- ミネラルオイル(MOSH/MOAH)
- ピロリジジンアルカロイド(PA)
通報国(一例)
オランダ、フランス、ドイツ、イタリア、ラトビア、ポーランド、スイス、デンマーク、ベルギー、スウェーデン
実務者向けコメント(日本向け輸入に活かす)
1) エチレンオキシド(ハーブ・香辛料)
- 包装殺菌や害虫防除に使われる可能性があるが、日本では残留基準値超過で輸入不可。
- 原料・包装工程での不使用証明を取得し、輸出前にGC-MS分析で確認。
2) サルモネラ(ナッツ類・穀類・香辛料)
- 原料受入時の検査と製造環境の衛生ゾーニングを徹底。
- 出荷前にロット別の陰性証明を添付。
3) カビ毒(アフラトキシン、オクラトキシンA)
- ナッツ類、穀類、乾燥果実で発生頻度が高い。
- 収穫後の乾燥・保管条件を最適化し、ISO17025認定試験所でB1・総アフラ・オクラを同時分析。
4) 農薬(クロルピリホス、チアメトキサム、トリシクロゾール)
- 使用履歴を事前に確認し、基準超過リスクがあれば使用禁止。
- 輸出前にLC-MS/MS等で残留検査を実施。
5) ミネラルオイル(MOSH/MOAH)
- 包装材、印刷インキ、潤滑油は食品適合品を使用。
- 保管時はバリア性のある中間包装を使い、移行を防止。
6) ピロリジジンアルカロイド(PA)
- ハーブや茶葉に混入リスクがあるため、原料選別と分析を徹底。
7) 共通管理ポイント
- 日本とEUで基準値が異なる物質が多いため、輸入前に両方の規格を照合。
- 温湿度記録やロットトレーサビリティを保持し、異常時はCAPA対応を迅速化。
まとめ(要点)
- 重点管理対象:インド産輸入では、特にスパイス、ナッツ、えびを重点的に管理。
- 推奨LOQ(検出下限):基準値の1/5〜1/10を目安に設定。
- サンプリング方法:多点・層化で採取し、混合して代表性を確保。
- ラベル管理:名称・原産国・アレルゲン表示の整合を必ず確認。有機・無添加などの表示は根拠資料を準備。
- 規制の最新情報確認:命令検査や強化監視の内容は変動するため、最新情報を定期的に確認することを必須化。