
完成品と部品の通関の違い
関税対策とHSコードの正しい理解
輸入通関における「完成品」と「部品」の区分は、単なる分類作業ではありません。輸入者のコスト構造やサプライチェーン全体の効率性、コンプライアンス遵守に直結する重要な判断です。誤った区分は、追加コストや通関の遅延につながり、最悪の場合は裁判に発展して事業リスクが拡大する可能性があります。
このガイドでは、通関上の完成品と部品の定義や分類基準、関税面での違い、HSコードの運用、実務上の注意点、判例、チェックリストなどを詳しく解説します。
このガイドで説明する内容
海外から商品を輸入するときの通関手続きでは、「完成した製品(完成品)」と「まだ部品の状態で輸入されるもの(部品)」をどのように区別するかが大きな問題になります。
例えば、自動車を丸ごと輸入する場合とその自動車を組み立てるためのパーツとしてバラバラに輸入する場合では、税金のかかり方や手続きに違いが生じます。
輸入実務者がこの違いを理解していないと、余計な税金を払ったり通関に時間がかかったりすることになるため、基本をしっかり押さえることが重要です。
完成品と部品の定義と分類基準
ここで完成品と部品の定義を確認しましょう!
完成品とは、そのまま使用できる最終形態の商品です。直接利用される形で輸入される物を指します。
一方、部品(parts)は完成品を構成する要素であり、単体では商品としての機能や価値がない、または限定的である商品です。
国際的な分類では、HS条約の解釈通則2(a)が重要な役割を果たします。この規定によると、未完成品でも完成品の本質的特徴を備えている場合は、「完成品」とみなされることがあります。
例えば、バラバラの状態で輸入されるノックダウン家具や機械装置も、組み立てれば完成品として機能するため、完成品扱いになります。
実務では、材質による分類(ガラス瓶、プラスチック容器など)と機能による分類(電子機器部品、制御モジュールなど)の優先順位が重要です。材質と機能が複合する商品が増えているため、分類を誤ると追加調査や罰則につながりかねません。
関税面での違い
完成品と部品では、課税の扱いに大きな差があります。
自動車を例に取ると、完成車には20%を超える高い関税が課されることが多い一方、部品は数%にとどまる場合があります。電気機器や情報端末においても同様で、完成品と部品の関税率の差は輸入戦略を大きく左右します。
予備部品の取り扱い
予備部品(spare parts)の課税取扱いが問題となることがあります。合理的な範囲で同梱された予備部品は完成品の一部として認められますが、数量が過剰だと部品として独立して課税されます。
例えば、自動車に搭載されるスペアタイヤ1本や電気機器の予備ヒューズ数個などは、合理的な範囲とみなされます。しかし、完成品の数量を超える予備部品や数倍の数量は「合理的な範囲」を超えており、独立した課税対象になります。
税関は「予備部品が完成品の通常使用に付随するものかどうか」を基準に判断します。
米国の通商拡大法232条
米国の通商拡大法232条による追加関税措置では、自動車や鉄鋼製品の部品が対象となり、完成品とは異なる税率が課される例が見られました。日本においてもEPAを活用する場合、部品の分類と原産地規則が一致しないと特恵関税を受けられず、コストに直結します。
HSコードの違い
HSコードの割り当てにおいても、完成品と部品の違いは重要です。通則2(a)や2(b)の適用により、部分的にしか完成していない製品や複数の部品の集合体(CKD、SKD方式)であっても、完成品とみなされるケースがあります。
具体的には、自動車の完成車はHSコード8703、主要部品は8708に分類されます。このように、完成品と部品ではコード体系が明確に異なり、関税率にも大きな違いが生じます。
家具や家電なども同様で、インボイス上の記載内容が「parts」か「complete」かで判断に影響するため、誤記は大きなリスクです。特に電子機器のように多様なモジュールが存在する商品では、細分化されたHSコードと完成品コードの区分が曖昧になりやすく、トラブルの原因となります。

インボイスの表記に注意しましょう。完成品かパーツかの判断が難しい場合は、そのまま税関検査になりやすいです。
実務上の注意点とトラブル防止策
書類作成の正確性
インボイスやパッキングリストに「完成品」か「部品」かを正確に記載します。曖昧な表現は避けましょう。
誤区分のリスク
- 完成品を部品扱いすれば追徴課税の対象になります
- 逆に部品を完成品扱いすれば過少申告として処罰対象になります
複合材質製品
- 主要機能を基準に分類するのが原則です。
- 材質のみに依拠すると誤区分の可能性が高まります。
原産地表示との整合性
EPAやFTAの適用を受けるためには、HS分類と原産地規則を照合することが重要
加工貿易時の留意点
組立や加工を国内外で行う場合、完成品認定と部品認定のどちらになるかを確認します。
EPA/FTA原産地証明の実務
原産地証明書は商工会議所や認定機関の発行書式を利用し、インボイス・パッキングリストとあわせて提示する必要があります。自己申告制度を利用する場合は、サプライヤー宣誓書や製造工程証明を添付し、規則に合致することを立証することが重要です。誤記や不備があるとEPA適用が取り消され、通常の関税率が課されます。
判例・実例
この区分により実際に裁判になった事例があります。
日本の事例:「多関節搬送装置」事件(知財管理誌 2008年)
特許第2580489号に関連する事件では、被告企業が未完成の装置を一時的に組み立てて動作検査を行い、その後分解して輸出しました。この行為が完成品に該当するか否かが争われました。
判決は、たとえ一時的に完成形態を取っていても、最終的に海外で組立・利用されるのであれば未完成品として扱われ、特許法上の間接侵害が成立するとしました。この判断は、形式的な状態ではなく「実質的な完成度」を基準にすべきことを示しています。

詳しく知りたい方は【日本知的財産協会が発行の「知財管理」誌Vol.58 No.2(2008年)】をご確認ください。
海外の事例
EU裁判所
ノックダウン家具の分類訴訟において、組み立てればすぐ使用可能であることを理由に完成品と判定しました。これにより関税率が上昇し、輸入者に大きな負担が生じました。
米国CIT(国際貿易裁判所)
自動車関連部品を輸入した企業が「部品」として申告しましたが、米国税関は主要構成要素をすべて含んでいることを理由に完成車扱いと判定し、10%以上の関税差が生じました。
判例から得られる教訓
これらの判例から明らかなのは、税関当局が形式や名称よりも「実際にその製品が何を目的にどの程度完成しているか」を重視するという点です。
税関は、いつ、誰が、どこから、どんな貨物を、いくらで輸入しているのかなどの情報を一元管理しています。何らかの不正があれば、コンピューターが警告を発し、あなたの貨物に対して疑いの目を向けるでしょう。
実務者への重要な留意点
- 書類上の表現や取引形態に依存せず、実質を重視する税関の姿勢を理解しましょう
- CKDやSKD輸入の際は、過去の判例を踏まえ、完成品認定される可能性を事前に検討してください
- 予備部品の数量は常に「合理的」と認められる範囲内にとどめます。自動車であれば完成車1台につきスペアタイヤ1本、電化製品であれば交換可能な小部品数個が目安です
- EPAやFTAの活用時には、原産地証明とHSコード分類を照合し、整合性を確保してください
- 提出時にはインボイスや原産地証明書の様式、記載ルールに誤りがないか再確認しましょう
- トラブル防止のため、可能であれば通関士に事前相談し、分類根拠を明文化することをお勧めします
実務向けチェックリスト
貨物の実態と書類の記載内容を誤魔化す行為は重大な犯罪です。貨物の実物、インボイスやパッキングリストの記載内容に寸分の狂いがないよう、適正な申告に努めましょう。
以下は、上から順番にチェックする実務上のチェックリストです。
確認項目 | 実務ポイント |
---|---|
HS通則2(a)適用有無 | 未完成でも主要特徴を備えれば完成品扱い |
インボイス記載 | “parts”か“complete”かを必ず明記 |
CKD/キット輸入 | 完成品扱いされる可能性を常に想定 |
予備部品の数量 | 合理的数量を超えれば部品課税の対象 |
原産地規則との整合 | FTA/EPA適用を受けるため必ず整合性確認 |
原産地証明の提出方法 | 商工会議所発行証明書、自己申告書式、付随書類の整合確認 |
判例の把握 | 国内外判例を参考にリスクを想定 |
まとめ
完成品と部品の区分は、単なる税率の差を超え、通関上の信頼性、EPA適用の可否、さらには国際取引全体の安定性に関わる重要な論点です。誤った申告は追徴課税や遅延、信用失墜を招き、訴訟に発展するリスクもあります。
実務担当者は、通則や判例を理解し、根拠資料を整え、常に「実質を見抜く」視点を持つことが不可欠です。さらに、グローバルな視点で各国の通関傾向を把握し、自社の輸入戦略に反映させることで、安定的かつ効率的な国際取引を実現できます。


おすすめのサービス
基幹記事
貿易学習コースの一覧
分野別記事
関連記事
◆スポンサード広告