ベトナム(2025年)輸入食品監視データベース|実務強化版
- ベトナム産主要輸出品は養殖えび、香辛料、ナッツ、コーヒー、乾燥果実で、残留農薬・カビ毒・動物用医薬品が監視重点。
- 高リスク品目はISO/IEC 17025認定ラボで事前検査を行い、検査証明書に方法・LOQ・日付を明記。
- 過去違反歴や高湿度保管、雨期出荷ロットは命令検査化リスクが高く、追加検査条件を契約書に明記。
- 品目別に推奨LOQ・サンプリング方法を設定し、到着後は外観・ラベル・虫害等を確認。
- 日本語表示ラベルは原材料・添加物・アレルゲン・原産国等を正確に記載し、必要に応じて非照射表示を活用。
ベトナムは日本向けに養殖えび、香辛料、ナッツ、コーヒー、乾燥果実など多彩な食品を輸出しています。
2025年度の厚生労働省「輸入食品等監視指導計画」では、これらの品目に対し以下の項目が重点的に監視されます。
- 残留農薬(アセタミプリド、トリシクラゾール等の追加監視含む)
- カビ毒(アフラトキシンB1/Total、オクラトキシンA)
- 動物用医薬品(AOZ、AMOZ、SEM、AHD、クロラムフェニコール、テトラサイクリン類など)
- 微生物汚染(サルモネラ属菌、大腸菌群)
- 表示・添加物規制適合性
リスク履歴がある場合、モニタリング検査から強化検査・命令検査へ移行しやすく、通関遅延や費用負担増加の要因となります。
輸出前の準備と最新留意事項
必要書類
- 原材料仕様書と添加物一覧表を準備します。
- 香辛料については非照射証明を任意で取得することで、取引先からの信頼性が向上します。
- 検査証明書には、残留農薬・カビ毒・動物用医薬品の結果を記載し、検出下限値(LOQ)を必ず明示します。
事前検査の推奨
- 高リスク品目は、ISO/IEC 17025認定ラボで出荷前検査を実施します。
- 検査証明には方法名、LOQ、検査日を明記します。
- 過去に違反歴がある項目は必ず再検査を行います。
契約条件の明文化
- 追加検査や不合格時の対応を輸出契約書に記載します。
- 過去違反リストや監視強化の情報を現地業者と共有します。
監視事項の把握(2025年動向)
- ベトナム産リュウガンにトリシクラゾール検査が追加されました。
- 一部果実(例:バナナ)では農薬項目が見直されています。
- 養殖水産物では新たに抗菌剤検査が拡充されています。
到着後の対応
検査種別
- モニタリング:国費負担で通関可能(3〜5営業日)
- 強化・命令検査:輸入者負担、結果判明まで通関不可
分析期間目安
- 化学分析:3〜10営業日
- カビ毒検査:2〜5営業日
- 微生物検査:2〜4営業日
現物確認
- 水濡れ、変色、異臭、虫害の有無
- ラベルとロット番号の一致
品目別 実務ポイント
冷凍養殖えび
- 養殖場での薬剤使用記録を確認します。
- 原料ロットの混合を避け、AOZ、クロラムフェニコール、テトラサイクリン類の事前検査を推奨します。
黒こしょう・唐辛子
- 残留農薬、アフラトキシン、異物除去(ふるい・磁選・金属探知機)を実施します。
- 非照射宣言を取得して信頼性を高めます。
カシューナッツ・落花生
- 収穫後は乾燥と保管湿度の管理が重要です。
- アフラトキシンとサルモネラの検査をロットごとに実施します。
コーヒー生豆
- 雨期に収穫されたロットはオクラトキシンAのリスクが高いです。
- 到着時に袋の破損や虫害の有無を確認します。
乾燥果実
- 残留農薬、SO₂、微生物検査を行います。
- 表示内容が法規に適合しているかを確認します。
品目別 比較表(実務用)
品目 | 主な監視ハザード | 推奨LOQ(例) | 推奨サンプリング | 実務メモ |
---|---|---|---|---|
冷凍養殖えび(HS 0306/1605) | 動物用医薬品(AOZ/AMOZ/SEM/AHD、クロラム)、テトラサイクリン、サルファ剤、重金属、微生物 | AOZ等 1.0 μg/kg/クロラム 0.3 μg/kg/テトラサイクリン 10 μg/kg | ロットあたり3袋以上(加工段階ごと) | 原料ロット混合回避、薬剤使用記録取得 |
黒こしょう/唐辛子(乾燥) | 残留農薬、アフラトキシン、異物、微生物 | 農薬:各基準値の1/2以下/AF-B1 1.0 μg/kg/Total 4.0 μg/kg | 20kgごとに1サンプル(混合) | ふるい・磁選・金検、非照射宣言 |
カシューナッツ(生/焙煎) | アフラトキシン、サルモネラ、異物 | AF-B1 1.0 μg/kg/Total 4.0 μg/kg | コンテナ単位で5点以上(部位混合) | 乾燥・保管湿度管理、殻付き/むき別ロット |
落花生(生/焙煎) | アフラトキシン、サルモネラ、異物 | AF-B1 1.0 μg/kg/Total 4.0 μg/kg | コンテナ単位で5点以上 | 到着後の湿度管理、違反歴で命令検査化リスク |
コーヒー生豆 | オクラトキシンA、異物(品質:水分) | OTA 5.0 μg/kg/水分 12%以下 | ロットあたり1サンプル/30袋 | 雨期ロット注意、袋破損・虫害確認 |
乾燥果実(マンゴー等) | 残留農薬、SO₂、微生物 | SO₂ 50–100 mg/kg(品目差)/農薬は基準値の1/2以下 | 荷口ごとに2–3サンプル | 甘味料・漂白剤の表示適合確認 |
最近の違反事例(2023〜2025年)
- 冷凍養殖えび:AOZおよびクロラムフェニコール検出で命令検査化。
- 黒こしょう:アフラトキシンB1基準超過(最大15 μg/kg)。
- カシューナッツ:サルモネラ陽性で全量廃棄。
- 乾燥マンゴー:二酸化硫黄(SO₂)基準超過。
実務アドバイス
違反が出やすいロットの特徴
- 雨期(5〜10月)に出荷された水産物
- 高湿度で保管された香辛料
- 乾燥不足のナッツ類 これらは特に違反リスクが高いため注意が必要です。
検査依頼書の記載例
- 項目名、LOQ(検出下限値)、単位を明確に記載します。
- 例:「AOZ(ニトロフラン代謝物)1.0 μg/kg以下」など具体的に書きます。
命令検査化の回避策
- 過去の違反リストを現地業者と共有します。
- 契約書に追加検査条件を明記します。
ラボ選定の基準
- ISO/IEC 17025認定を受けていること
- GC-MS/MSやLC-MS/MSに対応していること
- 報告書に方法、LOQ、日付が記載されていること
到着後のチェックポイント
- 荷口の水濡れの有無
- 異臭の有無
- 虫害の有無
- ラベルとロット番号の一致確認
日本語表示ラベルの注意点
- 原材料名・添加物を全て表示(添加物は用途名+物質名)。
- アレルゲン表示(えび、落花生、カシューナッツ等)。
- 原産国名、内容量、保存方法、輸入者名・住所。
- 賞味期限(西暦表記推奨)、加工者情報(必要に応じて)。
- 香辛料は非照射である場合、その旨の表示は任意だが信頼性向上に有効。
【日本国外】食品の輸入通関違反事例を確認
ここでは、米国向けの食品(米国通関違反事例)と欧州向けの食品(欧州通関輸入違反事例)をご紹介します。これらの情報を知ることで、より俯瞰した形で食品の完全性を検討できます。
米国通関違反例 ベトナム食品の安全性
出典:添付CSV REFUSAL_ENTRY_2024–Jul2025.csv(ISO_CNTRY_CODE=VN 抽出)/ 食品キーワードで抽出後に品目分類。
- ベトナムの拒否件数(全品目):520件
- うち食品該当:206件(安全性関連コードを含むもの:45件)
- 期間:2024年7月〜2025年7月
詳細表(品目別)
品目(例) | 件数 | 主な安全性リスク・違反内容 |
---|---|---|
魚類(例:SHRIMP AND PRAWNS, AQUACULTURE HARVESTED FISHERY/SEAFOOD / FISH SAUCE, FISHERY PRODUCTS / FISHERY PRODUCTS, N.E.C.) | 67 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
野菜(例:LEAF & STEM VEGETABLES, N.E.C. / CHIVES (ROOT & TUBER VEGETABLE) / CASSAVA (ROOT AND TUBER VEGETABLE)) | 29 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
ナッツ類(例:BETEL NUT, IN SHELL / HARD CANDY WITHOUT NUTS AND FRUITS / BETEL NUT CHOCOLATE / BETEL NUT, SHELLED) | 21 | 誤表示・有害・有毒物質・ラベル規則違反 |
香辛料(例:CINNAMON, CASSIA, GROUND(SPICE) / LESSER CARDAMOM, GROUND(SPICE) / MIXED SPICES, GROUND, N.E.C.) | 19 | 誤表示・腐敗・劣化・有害・有毒物質 |
果物(例:CITRUS FLAVORED IMITATION FRUIT, JAM/JELLY/PRESERVES / SUGAR APPLE(SUBTROPICAL/TROPICAL FRUIT) / BREADFRUIT) | 17 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
米(例:RICE(GLUTINOUS, PACKAGED) / RICE FLOUR / PEANUT IN SNACK(FRIED/OIL COOKED)) | 13 | 不衛生条件(微生物汚染) |
ソース類(例:SHRIMP SAUCE(FISHERY PRODUCTS, N.E.C.) / TARO, DASHEEN, WITH SAUCE / SAUCES, N.E.C.) | 12 | 腐敗・劣化・有害・有毒物質・誤表示 |
乳製品(例:MIXED DRY COOKIE MIX WITH MILK OR EGG / … JUICES, MILK & CREAM, DRINKS AND NECTARS) | 11 | 必要証明未提出(安全性確認不備)・不衛生条件(微生物汚染) |
実務者向けメモ
魚介・フィッシュソース
- 今回の拒否理由は表示関連が中心。
- 実務上の注意点:Vibrio(ビブリオ菌)、一般生菌、発酵による品質劣化(アミン類上昇など)。
- 対策:原料魚の温度管理、塩分・pH管理、熟成工程のモニタリング、最終pH・水分活性の記録、密封性試験。
香辛料
- 国際的にサルモネラ汚染リスクが高いカテゴリー。
- 今回のデータでは表示不備や品質劣化もあり。
- 対策:出荷前に微生物スクリーニング(サルモネラ、Bacillus属芽胞など)、必要に応じて蒸気殺菌や照射を検討、低水分食品の環境衛生管理を徹底。
米・穀類
- 指摘内容:不衛生条件。
- 対策:精米・製粉・包装時のゾーニング、異物や害虫対策、環境拭取り、篩・磁選・金属検出機の履歴管理、倉庫湿度管理、定期的な微生物検査。
ナッツ類(ビンロウ等含む)
- 主な違反:誤表示、有害物質。
- ナッツは一般的にアフラトキシン汚染リスクが高い。
- 対策:ISO17025認定のアフラトキシン試験、水分活性・温湿度管理、長期保管ロットの入替基準設定。ビンロウ(Betel nut)は食品か嗜好品か用途区分を確認。
野菜・果物
- データでは表示関連が中心。
- 実務上のリスク:残留農薬、冷凍品の温度逸脱。
- 対策:輸出前の残留農薬試験、急速冷凍やコールドチェーンの温度ログ添付。
ソース類・調味品
- 主な指摘:腐敗・劣化、有害物質、誤表示。
- 対策:pH管理、熱プロセスの妥当性検証、保存安定性試験(加速・実時間)、密封検査(真空度・リーク)。
乳製品を含む乾燥ミックス等
- 指摘内容:証明書未提出、衛生不備。
- 対策:輸出国当局の証明書式を事前確定、原料(乳・卵)由来のアレルゲン管理、環境衛生モニタリング。
日本輸入への実装ポイント
- ベトナム産食品輸入時の基本方針:
- 魚介(発酵調味料含む):pH・塩分・温度管理
- 香辛料:サルモネラ対策
- 米:環境衛生
- ナッツ:アフラトキシン対策
- FDA拒否データを活用し、輸入前の自主検査計画、サプライヤー監査、ロットトレーサビリティに反映する。
欧州におけるベトナム食品の輸入違反事例
件数概要
- 総違反件数:78件
- 食品カテゴリー該当:76件
- 期間:2024/7/14~2025/7/14
主なカテゴリー(件数)
- ハーブ・香辛料:15
- 果物・野菜:14
- 魚類:11
- 甲殻類:9
- スープ・ソース・調味料:4
- 肉類(鶏肉以外):4
- ナッツ・種子類:4
- ノンアルコール飲料:3
- 二枚貝:3
- 穀類・ベーカリー製品:2
主な違反理由(例)
- 農薬残留:プロピコナゾール(propiconazole)、クロロタロニル(chlorothalonil)、ジチオカーバメート類(dithiocarbamates)
- アレルゲン非表示:卵(egg undeclared)
- 重金属:鉛(lead、lead high content)
- 動物用医薬品:ニトロフラン(AOZ代謝物)
- 有機フッ素化合物:PFOA(perfluorooctanoic acid)
- 禁止着色料:ロイコマラカイトグリーン
通報国(一例)
ドイツ、フランス、オランダ、イタリア、スロベニア、デンマークなど
日本向け輸入に活かすための実務メモ
1) 農薬残留(ハーブ・香辛料・果物・野菜)
- 日本の残留基準(MRL)とEU基準を照合。
- 超過リスクのある農薬は使用禁止リストに登録。
- LC-MS/MSやGC-MSによる多成分同時分析でサブppb級まで確認。
- 産地・収穫日・加工ロットを分けて管理し、混載を防ぐ。
2) アレルゲン表示(卵)
- 共通製造ラインを使う場合は、コンタミ防止と洗浄バリデーションを記録。
- 日本語表示に必須アレルゲンを正確に反映。
3) 重金属(鉛)
- 原料の産地土壌や乾燥工程による鉛汚染を評価。
- 特に香辛料やナッツ類は分析頻度を高める。
4) 動物用医薬品(ニトロフラン)
- 養殖水産物は休薬期間を守り、投薬記録を提出。
- AOZ代謝物はサブppb級のLC-MS分析で確認。
5) 有機フッ素化合物(PFOA)
- 製造工程や原材料の包装材由来の汚染を調査。
- 食品接触材の適合証明を取得。
6) 禁止着色料(ロイコマラカイトグリーン)
- 使用の有無を事前確認。
- 輸出前に陰性証明を取得。
7) 包装・輸送管理
- 温湿度記録をロットと紐付け。
- 汚染や変質のリスクを最小化する。
要点まとめ
- ベトナム産食品は水産物、香辛料、ナッツ、コーヒーが主力。
- 残留農薬、カビ毒、動物用医薬品が監視の中心項目。
- 輸出前事前検査と証明書取得で命令検査化リスクを軽減。
- 品目ごとの検査基準を明確化し、依頼書に反映。
- 輸入前・到着後の管理を徹底し、違反と通関遅延を防止。