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日本で検討進む「不当廉売関税の迂回防止制度」(令和7年9月10日開催)

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日本で検討進む「不当廉売関税の迂回防止制度」とは?

アンチダンピング(AD)関税は、日本の輸入業務に携わる方なら馴染み深い制度です。この制度は、外国企業が不当に安い価格で商品を輸出することを防ぐために設けられています。

ところが最近、この関税を形式的に回避する動きが目立つようになり、日本の産業を守る効果が薄れてしまう心配が生じています。この状況を受けて、経済産業省と財務省は2027年度の関税制度改正要望として「迂回防止制度」という新しい仕組みの創設を検討しています。ただし、これはあくまで検討段階であり、制度導入が正式に決まったわけではありません。

第1回不当廉売関税の迂回防止に関するワーキンググループ(令和7年9月10日開催)配付資料

WTOルールとの整合性について

WTOのアンチダンピング協定では、「迂回防止措置」について具体的な規定が定められていません。このため、各国は自国の法制度に基づいて対応を行っており、日本も同様の状況にあります。

日本が新たな制度を検討する際には、WTO協定との整合性を保ちながら、制度の透明性を確保し、悪用を防ぐための仕組みをどう構築するかが重要な課題です。

制度導入までの政策決定プロセス

新しい制度が実際に導入されるまでには、以下のような段階的な手続きが必要です。まず、経済産業省と財務省が関税制度の改正を要望します。次に、関税・外国為替等審議会の関税分科会において専門的な審議が行われ、その後、政府税制調査会での議論を経て税制改正大綱に盛り込まれます。

最終的には国会での審議を経て、法律の改正と施行に至ります。現在はあくまで「導入に向けた検討段階」であり、制度が実現するためには最終的に国会での承認を得ることが必要不可欠です。

  1. 経産省・財務省による関税改正要望
  2. 関税・外国為替等審議会関税分科会での審議
  3. 政府税制調査会での議論 → 税制改正大綱に反映
  4. 国会審議
  5. 法改正・施行

このように、現段階は「導入に向けた検討」であり、最終的には国会での承認が必要です。

なぜ迂回防止制度が必要?

AD関税は「輸出国の販売価格が不当に低い場合、その差額を関税で補填する」仕組みです。しかし、一部の貿易実務者は、課税を免れるために以下の行為をしています。

  • 第三国迂回:対象国から半製品を別国へ送り、そこで最終加工して輸入する。
  • 軽微変更迂回:仕様をわずかに変更してHSコードを外し輸入する。
  • 輸入国迂回:半製品を輸入し、日本国内で仕上げて完成品化する。

具体的な事例

  • 日本鉄鋼業界が指出している「中国からの輸出品が第三国を経由・最小限の加工で日本のAD関税を回避している可能性」 参考記事
  • グラファイト電極の調査事例(中国からの輸入品)参考記事
  • 米国での “minor alteration” を巡る判例(折りたたみテーブル脚のクロスバー構造など)参考記事

実際に黒鉛電極や鉄線製品でその疑いが確認され、産業界は「課税効果が骨抜きになる」と強い危機感を抱いています。

世界的な動向と各国制度の比較

世界の主要国では、すでに迂回防止制度が整備され、関税をかける対象範囲を広げる動きが活発になっています。アメリカでは2019年から2023年の間に約60件、EU(欧州連合)でも約20件の調査が実施されており、日本とインドネシアがこの制度を導入していない状況です。

各国の制度を見ると、それぞれ異なるアプローチを採用しています。

EUの方式では、原材料の比重が60%以上で加工による付加価値が25%以下といった具体的な数値基準を明示しながらも、個別の状況に応じて柔軟に適用する仕組みです。

一方、アメリカの方式では明確な数値基準は設けず、商務省が「軽微な変更テスト」や「後発製品テスト」などの詳細なルールを運用しています。この方式は柔軟性が高い反面、判断の幅が広いという特徴があります。

日本が検討している制度案は、EUの方式を参考としながらも、「数値は目安」として位置付け、様々な要素を総合的に判断できる仕組みを目指しています。

企業が直面する実務上の5つのリスク

新しい制度が導入されることになれば、貿易実務を行う企業にとって様々な影響が生じることが予想されます。

1.HSコードの変更リスク

軽微な加工処理によってHSコードを変更したとしても、迂回行為として認定される恐れがあります。

2.第三国の利用には”正当性”が必要

また、東南アジア諸国を経由するような国際分業の仕組みを利用している企業は、特に注意が必要です。第三国を経由した取引については、「品質や技術上の必然性」を明確に説明できなければ、迂回行為とみなされる可能性があります。

3.遡及的な追徴課税リスク

迂回行為として認定された場合、過去に輸入した商品についても追加で関税が課される可能性があります。このような遡及的な追徴課税は、企業の財務に大きな影響を与えかねません。

4.継続的な適用リスク

迂回防止関税が適用された場合、その期間は通常のアンチダンピング関税と同じく最長で5年間継続する可能性があります。これは企業の長期的な事業計画にも大きく影響するものです。

5.事前教示制度の限界リスク

税関に対する事前教示制度についても、従来ほど頼りにできなくなるかもしれません。事前教示の回答は参考情報としての性格が強く、必ずしも法的な拘束力を持つものではないためです。企業としては、このような不確実性を前提として、リスク管理体制を見直すことが求められるでしょう。

中小企業が直面する課題と対応策

この制度導入は、特に中小零細企業の貿易実務担当者にとって、コストやリスク管理の面で深刻な影響をもたらす可能性があります。大企業と違って、充実したコンプライアンス体制や法務部門を持たない中小企業には、より慎重な対応が求められます。

最も懸念されるのは、追徴課税による資金繰りへの打撃です。遡及的に関税が課されることになれば、経営に直接響く可能性があります。輸入価格を見積もる段階から、「追徴の可能性」を含めたシミュレーションを行っておくことが必須となるでしょう。

また、仕入れ先との契約内容についても見直しが必要です。追加関税が発生した場合の負担割合を契約書に明記しておくことで、突然のコスト転嫁を避ける仕組みを整えておくことが大切です。

中小企業にとって現実的な対応策は、業界団体や商工会議所を通じた情報収集の強化です。単独では難しい制度対応も、同業他社と連携することで効率的に進めることができます。

さらに、通関士や貿易コンサルタントといった外部の専門家との連携も重要です。早めに相談を行い、現在の輸入スキームにどのようなリスクがあるのかを事前に確認しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

実務担当者が心がけるべきポイント

  • サプライチェーン設計段階から迂回認定リスクを織り込む
  • 第三国加工や分業の「合理性」を示せる証拠を準備
  • HSコードだけに依存せず、実態に基づく判断を行う
  • 税関との事前相談を活用し、追徴リスクを最小化
  • 対象は鉄鋼・化学から始まる可能性が高く、他分野への波及を常に意識
  • 特に中小零細企業は資金繰り・契約・外部連携の三点を早期に整える

貿易実務に携わる方々が今後気を付けるべき点をまとめると、まずサプライチェーンを設計する段階から、迂回認定のリスクを考慮に入れることが重要です。第三国での加工や分業を行う場合は、その「合理性」を明確に説明できる証拠を準備しておく必要があります。

これまでのように、HSコードの変更だけに頼るのではなく、実際の取引の実態に基づいて判断を行うことが求められます。また、税関との事前相談を積極的に活用し、追徴課税のリスクを可能な限り小さくする努力も欠かせません。

制度が導入される場合、まず鉄鋼や化学分野から始まる可能性が高いとされていますが、他の分野への波及も常に意識しておく必要があります。特に中小零細企業においては、資金繰り対策、契約条項の見直し、外部専門家との連携という三つの点を早期に整えることが、制度導入後の混乱を避けるカギとなるでしょう。

まとめ

日本は「不当廉売関税の迂回防止制度」導入に向けて検討を進めています。これは国内産業保護を強化する一方で、輸入者にとっては新たなコンプライアンスリスクを意味します。

特に迂回認定は遡及的な課税や長期継続につながるため、透明性と説明責任を備えた調達・生産体制が求められます。

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