ミャンマーからの輸入食品とページの目的
- ミャンマー産は豆類(アフラトキシンB1 10μg/kg以下・総15μg/kg以下)、水産物(抗菌剤不検出)、香辛料(サルモネラ・農薬0.01mg/kg級)が重点管理対象。
- 豆類は色彩+目視選別、水分aw0.70以下、B1と総アフラをLC–MS/MSまたはHPLC–FLDで同時分析。
- 水産物は養殖日誌・飼料・水質管理記録を添付し、サブppb級でマルチクラス分析。
- 香辛料は多点混合でサルモネラ検査、農薬は0.01mg/kgで広域スクリーニング、設備CIP記録を添付。
- 書類は生産〜輸送全段階で記録化し、輸出前検査と輸入時検査の違いを共有、命令検査時にも即応できる体制を構築。
ミャンマーからの輸入食品は、農産物と水産物にリスクが集中します。特に豆類のアフラトキシン、水産物の抗菌剤、香辛料のサルモネラや残留農薬が注目ポイントです。近年は一部で 重⾦属(ヒ素、カドミウム)や農薬クロルピリホス、エチレンオキシド の残留が問題になっています。本ページでは、輸出前〜輸入後までの実務者向け管理方法を体系的にまとめます。
ミャンマー固有のポイント(2025年版)
豆類(ひよこ豆、緑豆、レンズ豆等)
主なリスク
アフラトキシン(B1は10 μg/kg以下、総量は15 μg/kg以下が基準) ※この基準は落花生、とうもろこし、ナッツ類にも適用されます。
管理のポイント
収穫後の乾燥や保管条件によってロットごとの差が大きくなります。B1と総アフラの両方を測定して、基準を守る管理と予防的な管理を行います。色彩選別+目視の二重選別を行い、水分量を低く(aw 0.70以下)保ちます。受け入れ時にはLC–MS/MSまたはHPLC–FLDで同時分析します。
水産物(エビ、魚類)
主なリスク
抗菌剤(ニトロフラン、クロラムフェニコールなどは不検出が基準)、微生物、大型魚種ではカドミウムや総水銀にも注意。
管理のポイント
養殖日誌(薬の使用記録や休薬期間)、飼料記録、水質管理記録を添付し、内容の信頼性を確認します。輸出前には、サブppbレベルの検出限界で主要な抗菌剤をすべて調べるマルチクラス分析を行うことを推奨します。
香辛料(とうがらし、ターメリック等)
主なリスク
サルモネラ菌、残留農薬(クロルピリホスなど)、エチレンオキシド、重金属(鉛)
管理のポイント
原料ロットを細かく分け、複数箇所から混ぜてサルモネラ検査をします。農薬は検出限界0.01 mg/kgで広くスクリーニングします。乾燥や粉砕の設備はロットごとにCIP(洗浄)を徹底し、その記録を残します。
実務TIPS(輸出前〜輸入後まで)
豆類のカビ毒(アフラトキシン)対策
豆類は、色彩選別機と人の目による二重チェックで異物やカビのある粒を取り除きます。その後、水分を低く(aw 0.7以下)保った状態で保存します。
入荷時には「総アフラトキシン」と「B1型」を同時に検査(LC–MS/MSやHPLC–FLDを使用)し、収穫年・産地の区画・保管条件をきちんと記録します。
水産物の抗菌剤対策
養殖された魚介類では、投薬や休薬期間、使用した飼料や水質管理の記録をロットごとに添付します。これらの情報は正確で一貫していることを確認します。輸出前には、非常に低い濃度(サブppbレベル)まで検出できる分析を行います。
香辛料のサルモネラ・農薬管理
原料ロットを細かく分け、複数の場所から試料を集めてサルモネラ検査を行います。農薬については、0.01 mg/kgレベルまで確認できる広域スクリーニングを実施します。乾燥や粉砕に使う設備は、ロットごとにしっかり洗浄(CIP)します。
輸送中の温度・湿度管理
港や内陸輸送の際、高温多湿になるとカビや微生物のリスクが上がります。そのため、脱湿剤や断熱コンテナの使用が推奨されます。
LOQ(定量下限)の考え方
国内基準の1/5〜1/10という設定は、安全性に余裕を持たせるための推奨値であり、法律で決められている義務ではありません。社内での運用目的をはっきり示すことが重要です。
輸出国検査と日本の輸入検査の違い
輸出国での検査は予防として有効ですが、日本での輸入検査は、あくまで「輸入されたロット」が対象です。この違いを関係者で共有しておく必要があります。
輸入時の検査制度についての補足
もしミャンマー産の特定品目で、違反が一定の件数を超えると、その品目は「検査命令対象」や「モニタリング強化品目」に指定されます。そうなると、輸入のたびに公的な分析検査が必要になります。
特に「命令検査」に指定された場合、輸出国で民間検査をしても、それだけでは通関できません。必ず日本での検査結果が出るまで待つ必要があります。
日本語表示ラベルの注意点
- 名称:豆類は必ず品目ごとに記載(例:ひよこ豆)。香辛料は単品かブレンドかをはっきり示します。
- 原材料名:配合量が多い順に書き、添加物は「用途名+物質名」で区別します。
- 原産国名:最終的に加工された国を記載します。例えば、ミャンマーで包装し、日本で小分けした場合は固有記号の使用可否を確認します。
- アレルゲン:製造や輸送中にえび・かに・落花生などが混入する可能性がある場合は、任意でも表示するのが望ましいです。
- 栄養成分表示:豆類や香辛料は100gあたりで統一し、その根拠となる資料を保管します。
- 有機表示:有機JASマークを付けて販売する場合、認証事業者の格付け証明と認証番号の記載が必須です。
- 固有記号表示:包装国と異なる最終加工国を記載する場合は、業界団体の認定と消費者庁への届出が必要で、自由には使えません。
品目別比較表
品目 | 主リスク | 推奨LOQの考え方 | サンプリング実務 | 国別実務メモ |
---|---|---|---|---|
豆類 | アフラ(総/B1) | 総0.5–1 μg/kg、B1 0.1–0.2 μg/kg | 荷姿・層別抽出+混合 | 収穫年・地区・保管条件添付 |
えび | 抗菌剤、微生物 | サブppb級LOQ | 養殖ロット×部位混合 | 投薬・休薬・飼料記録添付し内容検証 |
魚類 | 抗菌剤、微生物 | サブppb級LOQ | 時間層別採取 | 水質管理記録添付し内容検証 |
香辛料 | サルモネラ、農薬 | MQL 0.01 mg/kg級 | 多点混合試料 | 乾燥・粉砕CIP記録添付 |
サンプリング方法(現場で使える基本ルール)
- ロットの定義を明確に(例:産地、収穫日、加工ラインごと)
- 複数の場所から層別してサンプルを採取
- 試料は混ぜて標準化し、留置サンプルも用意
- 開封時の動画や封印の写真を保存
- 試験書にはロットID、製造指図番号、船名を記載
ミャンマー現場での実務例
- 豆類の保管倉庫に温湿度計を設置し、記録を輸出書類と紐付けて管理。
- 養殖場監査では、投薬・水質管理の手順書(SOP)を確認し、記録が実際のものであるか信頼性をチェック。
- 香辛料の乾燥場や粉砕設備の衛生状態を写真や動画で記録し、証拠として保存。
- 高温多湿での輸送が予想される場合は、吸湿対策を強化。
添付必須の書類チェックリスト
- CoA(分析証明書):アフラトキシン、抗菌剤、農薬、微生物の検査証明。
- 養殖日誌、飼料記録、水質管理記録。
- 倉庫の温湿度ログ。
- 乾燥・粉砕設備の洗浄(CIP)記録。
- 日本語表示案(配合比、原産国判定、アレルゲン、栄養成分の根拠)。
【日本国外】食品の輸入通関違反事例を確認
ここでは、米国向けの食品(米国通関違反事例)と欧州向けの食品(欧州通関輸入違反事例)をご紹介します。これらの情報を知ることで、より俯瞰した形で食品の安全性を検討できます。
米国通関違反例 ミャンマー食品の安全性
出典:添付CSV REFUSAL_ENTRY_2024–Jul2025.csv(ISO_CNTRY_CODE=MM 抽出)/ 食品キーワードで抽出後に品目分類。
- ミャンマーの拒否件数(全品目):45件
- うち食品該当:29件(安全性関連コードを含むもの:5件)
- 期間:2024年7月〜2025年7月
詳細表(品目別)
品目(例) | 件数 | 主な安全性リスク・違反内容 |
---|---|---|
魚類(例:FISH, N.E.C. / FISH PASTE, FISHERY PRODUCTS, N.E.C.) | 22 | 不衛生条件(微生物汚染)・ラベル規則違反 |
ナッツ類(例:BETEL NUT, IN SHELL / BETEL NUT, TOPPING / BETEL NUT, SHELLED) | 3 | (データ上の偏りなし/表示関連中心) |
スープ(例:SOUP, N.E.C.) | 1 | 不衛生条件(微生物汚染)・ラベル規則違反 |
ソース類(例:FISH SAUCE, FISHERY PRODUCTS, N.E.C.) | 1 | ラベル規則違反 |
果物(例:FRUITS USED AS VEGETABLES, N.E.C.) | 1 | サルモネラ等の病原菌 |
野菜(例:BEANS, CORN, AND PEA, N.E.C. (VEGETABLE)) | 1 | 不衛生条件(微生物汚染)・ラベル規則違反 |
実務者向けコメント
魚介・魚ペースト等(主要カテゴリ)
- 主なリスク:微生物汚染(一般生菌・大腸菌群・ビブリオ菌など)、衛生管理不備。
- 発酵・乾燥・ペースト品は低水分でも環境由来の汚染が残りやすい。
- 対策:
- 原料受入から加工、充填までの温度管理を徹底。
- 器具や作業環境の拭取り検査(ATP検査、一般生菌検査)を実施。
- 発酵・乾燥品は水分活性・塩分・pHを規格化し、サルモネラなどのスクリーニングをロットごとに行う。
- 水産品は低温連鎖を途絶させず、温度ロガーを使用。
- ヒスタミン迅速検査+確認試験を組み込む。
果物・野菜(少数発生だが病原菌事例あり)
- 指摘例:サルモネラなど。
- 主因:洗浄水や原料衛生の不備。
- 対策:
- 洗浄水の残留塩素濃度・微生物のモニタリング。
- ゾーニング(原材料区と加熱後区を分ける)。
- 低温管理、金属や異物の混入対策。
- 出荷前微生物試験(例:n=5/25g基準)。
スープ・調味料(魚醤など)
- 主な指摘:不衛生条件、表示不備。
- 低酸性スープはボツリヌス菌に耐えるため、熱殺菌の妥当性が必須。
- 対策:
- pH管理。
- レトルトやホットフィルのF0値、保持時間の根拠を明確化。
- 密封検査(真空度・リーク検査)。
- 高塩分や発酵調味料は熟成条件と最終pH、水分活性の記録を確保。
日本輸入への実装ポイント
- ミャンマー産輸入品では:
- 魚介=冷鎖維持、微生物管理、ヒスタミン対策を最優先。
- 野菜・果物=洗浄水と環境衛生の管理。
- スープ・調味料=pH・熱プロセス・密封管理の3点セット。
- ロット単位で温度ログ、微生物試験、工程記録を添付し、FDA拒否傾向を事前リスクとして監査計画に反映。
欧州・ミャンマー食品の輸入違反事例
件数概要・品目カテゴリ・主な違反理由・通報国
- 総違反件数:3件
- 食品カテゴリー該当:3件
- 果物・野菜:3
- 農薬:チアメトキサム(thiamethoxam) 2件
- スペイン、オーストリア、キプロス
- 期間:2024/7/14~2025/7/14
実務者向けコメント(日本向け輸入に活かす)
1) 農薬(チアメトキサム)
- ネオニコチノイド系殺虫剤で、日本の残留基準(MRL)とEU基準に差異がある可能性がある。
- 使用履歴を事前に確認し、基準超過の恐れがある場合は使用禁止を徹底。
- 輸出前にLC-MS/MSで残留検査を行い、基準適合証明を添付。
2) 果物・野菜の残留農薬管理
- 複数農薬の同時分析を実施し、基準値に近い場合は予防的に改善策を実施。
- 産地別・収穫日別にロットを分け、混載による汚染拡大を防止。
3) 輸送・保管
- 高温多湿による農薬分解生成物やカビ毒の発生リスクを評価。
- 温湿度記録をロット単位で保持し、異常時の是正・予防措置(CAPA)手順を明確化。
まとめ
- ミャンマー産輸入の重点管理対象:
- 豆類=アフラトキシン
- 水産物=抗菌剤
- 香辛料=サルモネラ・農薬
- 推奨LOQ(検出下限)は基準の1/5〜1/10を目安(法的義務ではない)。
- 表示は名称、原産国、アレルゲンの整合を確認。有機表示はJAS証明が必須。
- 書類は生産から輸送まで全段階で記録化し、輸出前検査と輸入時検査の関係を理解した上で即時対応できる体制を構築。