EPAやTPP、日欧EPAや、TPP11などの言葉があります。様々な名称があり、何だか混乱しそうです。「メガFTA」なる言葉もあります。一体、貿易でいう「メガFTA」の意味は何でしょうか?
この記事では、メガFTAの定義、特徴、メリットなどをご紹介していきます。
メガFTAの定義
メガFTAの定義は、アメリカ、日本、中国、EUなど、経済規模が大きな国が2つ以上加わる経済協定とされています。
例えば、日本を含む11か国で形成されているTPP、RCEP、日欧EPAなどがあります。日本、中国、EUの国々など、二か国以上が一つのグループに属している協定です。
メガFTAの特徴とメリット
メガFTAの特徴は、経済力の大きな国と小さな国が一つのグループに入ることにあります。なぜ、経済力の小さな国々と加盟するのでしょうか? その答えは、各国の役割にあります。
例えば、TPP11を考えてみましょう。TPP11は、日本を含めて11か国で構成される経済協定です。日本、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、チリ、メキシコ、ペルー、カナダです。そして、これらの国々は、次の4つに分類できます。
- 経済力がある国(消費市場)
- 物価、労働力が安い国(生産市場)
- 資源強国
- 成長国
例えば、消費市場なら、日本、シンガポールなどが当てはまります。生産市場なら、マレーシア、チリ、メキシコ。成長国であればベトナム。資源強国であるならブルネイです。経済力の観点からみると、一見、不釣り合いに感じる場合でも、そこには必ず意味があります。また、特徴以外にも次の2つのメリットがあります。
- 累積原産性
- 原産地規則の統一
1.累積原産性
累積原産性とは、同じグループ(協定)に所属する国で作られた物であれば、それを「原産品」として累積できる仕組みです。
例えば、最終完成品のYを作るために、いくつかの作業があるとします。作業工程は、全部で8つ。その内、1~3を日本。4~6の工程をマレーシア。最後の7と8の工程をオーストラリアで行ったとしても、日本、マレーシア、オーストラリアのすべての作業を合計して「原産品」として扱えます。そして、域内の原産品であるため、例えば、これをオーストラリアからカナダに輸出しても関税ゼロで貿易ができます。
2.原産地規則の統一
原産地規則とは「どのような加工をしたものを原産品にするのか?」を決めるルールのことです。もし、このルールが決まっていなければ、どんな物でも原産品として輸出ができてしまいます。
例えば、中国から日本に海苔を輸入したとします。当然、TPP11には、中国は入っていないため、中国で作られた海苔は、PP11上の原産品にはなりません。
しかし、これを日本に輸入した人が「日本産」として再輸出をすれば、日本の原産品、つまり、TPP11上の原産品として扱われるのか?ということです。もちろん、この場合は、原産品としては扱われません。ただし、原産品であるかどうかを判断するには、必ず「基準」が必要ですね。この基準が「原産地規則」です。
一般的に、原産地規則は、協定ごとにバラバラです。
例えば、日タイEPAであれば、日本とタイだけで通じる原産地規則。日マレーシアEPAであれば、日本とマレーシアで通じる原産地規則。日アセアンEPAであれば、日本とアセアン諸国だで通じる原産地規則になっています。協定ごとに原産地規則が違うため、協定を活用する人は、協定ごとに決めらている原産地規則を把握する手間が発生します。
一方、メガFTAは、一つの原産地規則を覚えるだけで、それに加盟するすべての国で原産地規則が通じます。TPP11であれば、11か国。日欧EPAであれば、28か国の間で統一した原産地規則を適用できます。これは、少しでも業務負担を軽減したい人にとっては、非常に大きなメリットです。
メガFTAのメリット
1.原産部分を積み増せる。←作業工程を細かく分けられる。
2.一つの原産性条件を覚えるだけで、数十か国に通じる
メガFTAとWTOの関係
世界の貿易ルールを決めているのが世界貿易機関(WTO)です。WTOは、世界各国の貿易がなるべく障害がない、自由な環境の中で行えるようにすることを使命としています。具体的には、関税の撤廃、不公正な貿易条件の是正、一部の国にだけ有利な条件を付けることの禁止。これらの使命を果たすため、時には、加盟国に制裁金を科すこともあります。
できるだけ自由な貿易環境を創る。これがWTOの使命です。
ただし、すでに矛盾に気づかれている方も多いかと思いますが、WTOの「一部の国にだけ有利な条件を付けることの禁止」と、いわゆるメガFTAは、どう考えても、矛盾した制度です。この点についてWTOでは、次のように考えているそうです。
たしかにFTAは、一部の国にだけメリットを与える制度。ただし、現在、WTOがかかえている「決められない状況」を踏まえると、先行して一部地域がFTAを結び、少しずつ拡大していけば、それが世界全体の自由貿易の実現に近づいていく。
少し強引な解釈ではありますが、ある一定の部分で理解ができますね。
メガTAの比較表
2022年現在、日本には、3つのメガFTAがあります。
現在、TPP11は、日本の批准が完了。日欧EPAは、署名済み。RCEPは、交渉中です。この内、TPP11と日欧EPAは、実際に発効される可能性が極めて高いです。
RCEPについては、この中に中国が含まれているため、知的財産権や技術移転の問題などもあり、なかなかスムーズに事は運ばないと思います。ただし、下の表をご覧になればわかる通り、TPP11は、RCEPに前段階にある協定です。そのため、中国などとの交渉を終えた時点で、いきなり署名に向けて動き出す可能性があります。
もし、これら3つのメガFTAがすべて結ばれたとすると、日本は、アメリカ大陸~アジア、そしてヨーロッパまでの地域で巨大な自由貿易圏を形成することになります。おそらく、今後は、TPP11、RCEP、日欧EPAが3メガFTAとして浸透していくことになるはずです。
そういえば、今時、関税をかけて自国を保護しようするどっかの国がありましたね。もちろん、世界最大の経済大国であることは間違いないですが、それは、世界を国単位の物差しでみた場合の結果でしかありません。むしろこれからは「自由貿易圏単位」で考えていくことが常識です。なぜなら、自由貿易圏単位で考えると、あの世界最大の経済大国であっても「並みの国」になってしまうからです。
したがって、日本は「日米自由貿易協定」などは一切考えなくていいです。ジャイアンの言うことは完全に無視。結びたければ「TPP11」に入るように進言するだけで十分です。なぜなら、アメリカの産業界は、自国だけどんどんと「自由貿易の蚊帳の外」にされていき、焦っているからです。いずれアメリカ国内から、ジャイアンの引きおろしが始まるはずです。
2018年7月現在、対日本だけを考えたとしても、アメリカのライバル国であるオーストラリア産の物がアメリカ産の物より、関税上、有利なメリットを受けています。さらにこれからは、カナダやニュージーランドなども優位に立つ見通しであるため、アメリカ産業界は、嫌でも関税上の取り扱い差に不満を感じているはずです。だからこそ、日米自由貿易協定は無視。TPP11への加入を促せばいいのです。
TPP11 | RCEP | 日欧EPA | |
日本 | 日本 | アイルランド | ハンガリー |
オーストラリア | オーストラリア | ルクセンブルク | フィンランド |
ニュージーランド | ニュージーランド | イタリア | フランス |
ベトナム | ベトナム | エストニア | ブルガリア |
ブルネイ | ブルネイ | オーストリア | ベルギー |
シンガポール | シンガポール | オランダ | ポーランド |
マレーシア | マレーシア | キプロス | ポルトガル |
チリ | フィリピン | ギリシャ | マルタ |
メキシコ | インドネシア | クロアチア | ラトビア |
ペルー | カンボジア | スウェーデン | リトアニア |
カナダ | タイ | スペイン | ルーマニア |
ミャンマー | スロバキア | ||
ラオス | スロベニア | ||
インド | チェコ | ||
中国 | デンマーク | ||
韓国 | ドイツ |
メガFTA早見表
メガFTA | 加盟国 | GDP(兆ドル) | 域内人口 |
日欧EPA | 日本とヨーロッパ加盟国 | 10 | 5 |
TPP11 | 日本、シンガポール、ニュージーランド、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、メキシコ、ペルー、チリ、オーストラリア、カナダ | 21 | 6.4 |
RCEP | 日本、アセアン、オーストラリア、ニュージーランド、インド、中国、韓国 | 24 | 35 |
日中韓FTA | 日本、中国、韓国 | 18 | 16 |
ソース:ソース:IMF World Economic Outlook
まとめ
- メガFTAとは、日本、アメリカ、中国、EUのいずれかの国のうち、2つ以上が加盟する協定です。
- 2018年現在、日本はTPP11、RCEP、日欧EPAの3メガFTAを結ぼうとしています。
- 仮にすべてのEPAが結ばれると、日本は、黒船以降で最大の「開国」に向かっていきます。
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