航空フォワーダー「各種チャージ談合」事件
- 航空貨物フォワーダーが各種チャージを横並び合意し、日米欧で制裁を受けた。
- 制度由来費用でも同額・同時導入の合意は違反とされた。
- 実務では独自決定の記録と請求透明性の確保が重要。
事件の概要
国際航空貨物を扱うフォワーダーが、燃油サーチャージ(fuel surcharge)、セキュリティ手数料(security fees)、事前通関関連費(Advanced Manifest System=AMS/New Export System=NES)、通貨調整(Currency Adjustment Factor=CAF)、繁忙期割増(Peak Season Surcharge=PSS)といった「各種チャージ」について、横並びで合意していたことが問題となりました。
これに対して、2009年には日本の公正取引委員会(JFTC)、2010〜2013年には米国司法省(DOJ)、2012年には欧州委員会(EC)が次々と処分を下し、有罪答弁を引き出しました[F1][F2][F3][F4][F5][F6]。
この事例は、「チャージを合意して設定すること」が独占禁止法や反トラスト法の対象となることを明確に示す、貿易実務に直結する典型例です。特に、日本系フォワーダーが関わった日本発米国向けの空輸(Japan→U.S.)案件は、中小の輸出入企業にとって、A/Nや見積書に含まれる“諸費用”の見直しを考える格好の教材となります。米国D.D.C.に提出された起訴や合意に基づく有罪答弁も存在しますが、判例番号は公開されている一次資料では不明(要確認)です[F2][F3][F4]。
事案の背景(タイムラインと地理)
2009/3/18(日本・行政):公正取引委員会(JFTC)
国際航空貨物のフォワーディング業務において燃油サーチャージ、AMS費用、セキュリティ料金、爆発物検査費を横並びで導入した合意を認定。14社(うち12社に課徴金*に対して排除措置命令と課徴金納付命令を出し、その合計額は約90.5億円となりました[F5]。
2010/9/30(米国・刑事):米司法省(DOJ)
6社(EGL、K+N、Geologistics、Panalpina、Schenker、BAX)に対して、AAMS/NES/CAF/PSSなど各種チャージ談合を理由に総額約5,027万ドルの罰金を科す有罪答弁(plea)を発表。対象期間は概ね2002〜2007年でした[F1]。
2011/9/28(米国・刑事):DOJ
日系の6社(近鉄、阪急阪神、日通、日新、西鉄、ヴァンテック)を、Japan→U.S.の空輸で燃油サーチャージやセキュリティ費用を横並びで拘束した(price fixing)として訴追。総額約4,680万ドルで有罪答弁に至りました[F2]。
2012/9/19(米国・刑事):DOJ
ヤマトグローバルロジスティクス(ヤマトGL)に対して、Japan→U.S.輸送における各種チャージ談合(2002年9月〜2007年11月)を認定し、約232.7万ドルの罰金で有罪答弁が成立しました[F3]。
2012/3/28(EU・行政):欧州委員会(EC)
Case COMP/39462において14グループに対し、NES/AMS/CAF/PSSの4つの独立したカルテルを理由に総額1億6900万ユーロの制裁金を科しました[F6]。判決要旨(25語以内引用):「four distinct cartels aimed at fixing prices and other trading conditions」[F6]。また、決定書(Decision C(2012)1959 final)では、各サーチャージを「別個の単一かつ継続的侵害」として法的に位置付けています[F7]。
2013/3/8(米国・刑事):DOJ
“K” Line Logisticsと郵船ロジスティクスに対し、Japan→U.S.の燃油サーチャージやセキュリティ費拘束を認定。総額約1,890万ドルの罰金で有罪答弁となりました[F4]。
主張(当局側の法的枠組み)
米国(Sherman Act §1)
米司法省(DOJ)は、フォワーダー各社が会合などを通じて特定の“チャージ”を協調して導入・改定し、その後もお互いに遵守状況を監視していたと指摘しました。これが価格拘束(price fixing)に当たるという主張です。
対象となったのは燃油サーチャージ、セキュリティ手数料、AAMS/NES関連費、CAF、PSSなどで、Japan→U.S.の航空フォワーディングに適用されました[F1][F2][F3][F4]。
EU(TFEU 101条)
欧州委員会(EC)は、NES/AMS/CAF/PSSの4つのサーチャージをそれぞれ独立したカルテルとして認定しました。AMSやNESが本来は法規制に対応するためのコスト(compliance)であっても、各社が横並びで導入・運用することを合意していた以上、正当化はできないと明言しています[F7]。
日本(独禁法3条)
公正取引委員会(JFTC)は、燃油サーチャージ、AMS費用、セキュリティ料金、爆発物検査費を「新設」し、横並びで徴収する合意を認定しました。また、業界団体の会合でこれらに関する情報を交換していた点も問題視しました
判決理由(・決定理由)の要点
まず、「チャージ」の扱いについてです。運賃そのものではなく、外側に付随する費用でも、合意して設定すれば独立した価格拘束とみなされます(米国・EU)。特にAMSやNESのように法令遵守(compliance)から発生する費用であっても、一律に導入し、同額で設定する合意は競争制限と評価されました[F1][F6][F7]。
さらに、複数のカルテルが同時期に並行して存在する可能性も認定されています。AMS、NES、CAF、PSSといったサーチャージごとにカルテルが成立し得るとされ、欧州委員会(EC)は、各サーチャージごとに「単一かつ継続的侵害」の枠組みを組み立てました。その上で、リニエンシー(Leniency=課徴金減免)の適用可否も費目ごとに判断しています[F7]。
また、会合や連絡、そして遵守状況の監視は、合意が実効性を持っていたことを示す要素として重視されやすい点も特徴です。DOJは、会合での導入や改定の合意、さらに遵守状況の監視について、起訴事実の中で“among other things”と表現し、具体的に列挙しています[F2][F3][F4]。
トラブルの背景
背景には、規制や情勢の変化によって新しいコストが次々と発生したことがあります。具体的には、AMSやNESの制度変更、人民元(RMB)の切り上げに伴うCAF(通貨調整)、繁忙期のPSS、そして9/11以降に導入されたセキュリティ費用などが、ほぼ同じ時期(2002〜2007年)に2002〜2007年の間に順次導入・改定が行われ、結果的に同時期に複数の新規チャージが存在する状態となりました。そのため各社のコスト構造が似通い、結果として業界内で協調が生まれやすい環境になっていました。
さらに、業界団体などでの意見交換が本来の情報共有の枠を超え、「新設する・いくらに設定する・いつから上げる」といった価格要素にまで踏み込んでしまいました。その結果、横並びでの実施や互いの監視にまで発展し、JFTC、DOJ、ECのいずれの当局からも問題ありと認定されました[F1][F5][F7]。
貿易実務者(フォワーダー)の学ぶべき5つのポイント
1.サーチャージは自社で独自に決定
サーチャージは「自社で独自に決定した」証拠を残すことが重要です。導入や改定時には、社内稟議に自社コストや原単位、発効日などを添付し、他社名や平均相場の記載は避けます。欧州委員会(EC)は「合意して導入した」こと自体を違反と見ています[F7]。
2.会合の禁止領域を明確に!
業界団体や取引先との会合では、価格・サーチャージ・実施日・徴収条件の情報交換は禁止と事前に明示します。もし違反があればその場で退席し、異議を記録することが必要です。JFTCは、会合を通じた横並び行為を問題視しています[F5]。
3.横並び合意は避けるべき。それが法制度対応であっても
横並び合意は制度対応でも違法 AMSやNESなど制度対応の費用も、自社で「理由→作業→原価→料率」の流れを整理し、顧客説明資料に反映します。制度に基づく費用でも、横並びで合意すれば違法とされるため、独自の計算プロセスを残すことが必要です[F6][F7]。
4.アライバルや見積書を明瞭化
A/Nや見積書には、各費目の定義・算定式・発効日・免除条件を別紙で明示します。「非開示の費目は請求不可」とする条項や、改定時の事前通知期限を設けることで、不透明な横並び導入を防げます[F2][F5]。
5.自主申告の制度化
リニエンシー(自主申告)を発動できる社内基準を作りましょう。同業者から横並び提案やセンシティブ情報の交換があれば、すぐに内部通報し、法務部門→外部弁護士→当局相談へと進めるフローを設けます。ECは、申請順や情報の価値で減免率を決めています[F7]。
今日からできるチェックポイント
- 費目管理:定義、根拠コスト(担当部署と原単位)、初回導入日、改定履歴、社内決裁IDを明確に記録します。
- 社外対応:業界団体や他社との会合で価格の話題が出たら、すぐに退席し、議事録に異議を残します。
- A/N・見積書:チャージ一覧に「非開示=請求不可」と明記し、改定時の事前通知や免除条件も必ず記載します。
- 法務トリガー:他社から導入時期や料率の共有を求められたら要注意。必ず記録し、速やかに法務へ相談します。
- 証憑管理:AMS、NES、セキュリティなどの作業票、ベンダー請求書、人員工数を案件別に整理し、証拠として残します。
💡特にここが重要!
たとえ“制度に基づくコスト”であっても、「いつ」「いくら」「どう徴収するか」を横並びで合意・同期すれば違反になる可能性があります。重要なのは、独自の計算、独自の決裁、独自のタイミングを守ること。そして会合で価格に関する要素に触れないことです。これが、A/Nに記載されたたった1行の費目を重大なリスクにしない最短の方法です。この原則は、燃油サーチャージ(fuel surcharge)のように広く知られている費目でも同じです[F2][F6]。
要点まとめ
- チャージは運賃外でも独立に価格拘束になり得る(米・EU)。
- 規制・情勢由来費でも横並び導入・同額設定の合意は違反。
- 会合での情報交換→遵守監視が違反の実効性と認定されやすい。
- 費目別タリフと独自決裁ログで“各社単独決定”を可視化。
Factリスト
- [F1] U.S. DOJ(Office of Public Affairs)Press Release, “Six International Freight Forwarding Companies Agree to Plead Guilty…”, Sep 30, 2010(U.S. District Court for the District of Columbia/事件番号:不明(要確認))
URL: https://www.justice.gov/archives/opa/pr/six-international-freight-forwarding-companies-agree-plead-guilty-criminal-price-fixing - [F2] U.S. DOJ(Office of Public Affairs)Press Release, “Six Japanese Freight Forwarding Companies Agree to Plead Guilty…”, Sep 28, 2011(D.D.C./事件番号:不明(要確認))
URL: https://www.justice.gov/archives/opa/pr/six-japanese-freight-forwarding-companies-agree-plead-guilty-criminal-price-fixing-charges - [F3] U.S. DOJ(Office of Public Affairs)Press Release, “Japanese Freight Forwarder Agrees to Plead Guilty…”, Sep 19, 2012(D.D.C./事件番号:不明(要確認))
URL: https://www.justice.gov/archives/opa/pr/japanese-freight-forwarder-agrees-plead-guilty-criminal-price-fixing-charges - [F4] U.S. DOJ(Office of Public Affairs)Press Release, “Two Japanese Freight Forwarding Companies Agree to Plead Guilty…”, Mar 8, 2013(D.D.C./事件番号:不明(要確認))
URL: https://www.justice.gov/archives/opa/pr/two-japanese-freight-forwarding-companies-agree-plead-guilty-criminal-price-fixing-charges - [F5] JFTC(Japan Fair Trade Commission), “Cease and Desist Order and Surcharge Payment Order Against Air Freight Forwarders”, Mar 18, 2009
URL: https://www.jftc.go.jp/en/pressreleases/yearly-2009/mar/individual-000056.html - [F6] European Commission, Press Release IP/12/314, “Antitrust: Commission imposes €169 million fine on freight forwarders for operating four price fixing cartels”, Mar 28, 2012 PDF:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/api/files/document/print/en/ip_12_314/IP_12_314_EN.pdf
- [F7] European Commission, Decision C(2012)1959 final, Case COMP/39462 – Freight Forwarding(NES/AMS/CAF/PSSの法理・認定)
https://ec.europa.eu/competition/antitrust/cases/dec_docs/39462/39462_6408_3.pdf
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